11-4 地獄と地獄
「――ッ!?」
同時刻、突然として六つの扉の扉のうち二つが勢いよく開かれる。
古井戸の底にある大扉を開いた先、そこには更に六つの扉が連なっていた。団長と副団長、二人だけしかいない現状で、どうやってこのダンジョンを攻略しようか考えを巡らせていた矢先の出来事であった。
「……罠かと、思われます」
そう、明らかに罠でしかない。しかし逆を言えば、対策の打ちようもあるということ。最初から罠と分かっていて進むか、あるいは途中から気が付くか。精神的にも崩されやすいか否か、比べるまでもない。
「では、先にあたしが」
「ええ。お願い」
そうして副団長――バシェが二つの扉のうちの左の扉へと足を踏み入れた瞬間――
「――何ッ!?」
既にここで犠牲となったエリオと同様に、開いていた扉は閉ざされ、その勢いでバシェは数歩前へとよろめいてしまう。
「うおっ!?」
そして眼前に広がる景色を前に、バシェは今度は後ずさりをしてしまう。
「なんだ、この……ダンジョンは……」
そこに広がっているのは地下にあるはずのない空とはるか遠くまで連なる連山、そしてうちすてられた古の戦場であった。
◆◆◆
一方、残された扉の前でベアトリスは立ちすくんでいた。副団長のバシェ=マリエッタが目の前で吸い込まれるかのように扉の向こうへと消えていった様を見て、自分の身に降りかかろうとしている困難の異常性を間近に垣間見てしまった。そして今、彼女の精神を支えているものも、この場においては頼りなく感じ得るだろう。
そんな彼女にとっての救いのように、とある人物がその場に姿を現す。
「おや? 奇遇ですねぇ。このダンジョンの探索をする方が、私以外にもいらっしゃるとは」
「えっ――」
ベアトリスが振り返った先、そこには先客がいることに驚きを示す神父の姿があった。
「神父様?」
「誰かと思えば、貴方でしたか。やはり、騎士団として領地近くのダンジョンは気がかりとなりますかな」
「はぁ……よかった」
この瞬間ベアトリスは自らが信仰する守り神に救われたのような、安堵の息を漏らした。対するアビゲイルは目の前の騎士の表情を見るなり、やはりこの程度かとほくそえんだ。
しかしそこで感情を露わにせず、アビゲイルは芝居でありながらもその話術スキルにより空いている扉に初めて興味を示した様子を演じる。
「ところでこの六つの扉、開いているのが一つだけのようですが」
「それがついさっきまで、二つ開いていたのですが……」
「空いていたのですが?」
あと数十秒でも時間が違えば――という悔やんでも悔やみきれない思いを押し殺しながら、ベアトリスはついさっきまでの事情を神父に懺悔するかのように喋り始める。
「実は、先ほどバシェが開いている扉に入った途端、閉まってしまって――」
「なるほど。それで貴方は立ち往生している、といった様子でしょうか」
「はい……そうなります」
閉じられた扉は他の四つと同様、何も語らずただ固く閉じられたまま。そして二度と開く様子もない。残された一つの扉を前にしてベアトリスは安堵を取り戻すと同時に、それを二度と離したくないという恐怖に駆られ始める。
「私も……行かなければなりません」
「そうですか。では行かれてはどうでしょう。あの扉は、貴方の為に開けられたのでしょうから」
「でも、独りでは……」
「……それはどういう意味、でしょうか」
答えを知っていながらも、アビゲイルは意地悪くも問いをぶつける。
「どういう意味って、私は……私は――」
それを口に出してしまえば、それを表に出してしまえば。騎士はもう、騎士ではなくなる。
だからこそ今ここで踏ん張り、第二騎士団団長としての誇りを取り戻さなければならない。ベアトリスはへたり込んでいた自分に鞭を振るい、再び団長として立ち上がろうとしていた。
「私は……第二騎士団団長です。このダンジョンも、私の手で攻略しきってみせます」
「その意気です。恐れは何よりも恐れるべきものですから」
適当な言葉でベアトリスを励ましながらも、アビゲイルは主であるエニグマがここからどうやって裏切りへと導くのかの方に興味があった。そして彼女がここからどうやって乗っ取りの為の駒となるのか、その手腕を早く見たいが為に次の段階へと作戦を進めていく。
「では、共にダンジョンの攻略へと参りましょう。一人では心細いものもあるでしょうし」
「……はい!」
こうしてベアトリスは、同じダンジョンを攻略するアビゲイルと歩調を合わせて、最強の吸血鬼が巣食う“緋の館”へと足を踏み入れていくこととなった。




