6-5 最初の手引き
「さあ皆さん、今日は基本的な護身の為の魔法をご教授いたしましょう!」
時を同じくして、深い森にあるエルフ族の隠れ里にて。一人の神父と一人の病的な少年が、大勢のエルフ族の女性を前にしてとある授業を開いていた。
「これさえ覚えておけば台所に湧いてきたゴキブリから外来種のゴミオークまで全て消し炭にすることが出来る便利な下級呪文だ。神父様の言う事を聞いて今日中に取得しろよ」
「早くダンジョンに戻りたいからといって自衛の訓練を怠らせるなど、後で主から失望されても知りませんよ」
「分かってるっての神父様!」
講師は神父、アビゲイル。その手には相変わらず分厚い聖書が握られており、表情としてはにこやかにしているが、あくまで外見のみであることを忘れてはいけない。本性としては主以外の全てはどうでもいいと、道端に転がる石以下としか見えていない狂信者であるということを常に頭に入れておかなければならない。
そんな神父の下で実演するのは、現在エルフ族の村の番人を任せられている“外科医”ことエボニーである。こちらもただ顔色の悪い少年――という訳ではなく、第四フロア“地下水路”を任されているれっきとした中ボスである。
「さて今回お教えするのは至って簡単な光属性の下位呪文です。ではお見せしましょうか」
下位呪文――しかしながらそれはあくまで「MAZE」側の者にとっての下位呪文だということを、彼等はまだ知らない。
「では行きますよ。――【雷光】!」
次の瞬間、神父アビゲイルの手のひらから放たれた雷が一閃、直線状に進んでは大木の一本に焦げた穴をつくりあげる。
「このように、回避する暇を与える事無くダメージを与えることが出来る簡単な魔法です」
「…………」
「……おや? まさかあまりにも初歩的過ぎて呆れかえりましたか?」
アビゲイルがそれならばと次なる呪文を指導するべく聖書をぱらぱらとめくり始めると、その手を制止させるための声がエルフ側から次々と挙がる。
「あ、あんなのできるワケないじゃない!」
「下位呪文!? 嘘でしょ!? 上位呪文の間違いでしょ! そうですよね大ババ様!」
「そ、そうね……流石の私も、詠唱破棄での上位魔法は初めて見ました……」
「……この程度が上位扱い……ですか」
アビゲイル達が元々いた「MAZE」では魔法の階級は簡素に分けられており、下位、中位、上位の三ランク程度に分けられており、【雷光】など下位の中でも低レベル帯で覚えられるような、プレイヤーからは初心者しか使わないとまで揶揄されるほどの初歩中の初歩の魔法である。
しかしこの世界ではその初歩中の初歩の魔法が上位扱いされるとなってしまっては、改めてこの世界のレベルの低さに辟易しなければならなくなる。
「では、何からお教えすればよろしいのでしょうかね……」
アビゲイルは頭を抱えたが、どうやらエルフ族の中でも魔法に長けている者がいるらしく、その者がアビゲイルとエボニーの前へと出てくる。
「……多分、できる」
「出来て当たり前だろ」
「少し口を慎みなさい、エボニー。では、見せていただきましょうか」
二人の前に現れたのは、薄い生地でできたベールで顔を隠すエルフ族の少女。彼女もまた、ゼルーダと同様に偶然外を出回っていたことで難を逃れた者の一人であった。少女は両手を前に突き出すと、その手の内側にバチバチと電気を帯電させ始める。
「ほう……」
「……違くないか? これって【放電】の方じゃ――」
「黙っていなさい。……貴方の名前は?」
少女はベールを脱ぐとともに、その下に隠していた無垢な表情をエボニーに向けてこう言った。
「……名前、ニムル」
「……まあ、中々マブいじゃねぇの」
「おやおや、とうとうペドフェリアになりましたか。エボニー」




