5-3 帝国視察
中心にあるはこの国を治める皇帝の威光を示すかのように天高く幅広く建築された城。そしてその威光にすがりつくかのように、貴族の家や貿易商の巨大倉庫など数多くの建物が寄り添うことで形成された巨大都市。それがプルーティア帝国である。
街では活発的に交易がおこなわれているのか、「MAZE」では様々な地方に散らばっているはずの品々がこの市場に集められており、更にそこに行き交う人々の人種の豊富さもこの国がいかに大規模な国なのかをうかがわせてくれる。
無論プルーティア帝国にそれだけの人口が集中するということは、他の地域よりも魔法や戦争技術が進歩していることも意味する。つまり本来であるならばこの世界において大きな権力を持つ有数の国であることは間違いないのであるが――
「……何と言おうか、低レベルだな」
「同意見だ、アリアス。だが下手に目立つ行動は慎め」
とはいってもすでに真っ赤なドレスに腰元の太刀が目立っている上、本人の可愛らしさと美貌を兼ね備えた風貌もさながらにあることから通行人の視線を集めていっている。
対してエニグマの方はというと、ぼろぼろになったローブを目深にかぶることで街を徘徊する貧しい者として、こちらもある意味視線を集めていた。
「どういうことだ? どこかのお姫様かな?」
「隣にいるのは従者の男か? それにしても汚い服装している」
「ッ……!」
「落ち着けアリアス。この方がいい。お前が目立つなら、俺に被害は来ないだろ?」
「確かにそうかもしれないが、わらわが主の上に立つなど……!」
「落ち着けって。こんな低レベル帯でもし暴れてみろ、それこそ収拾がつかなくなるぞ」
エニグマが使えるスキルの一つ、【練度解析】。これは相手のステータスやレベルを解析するスキルであり、相手が魔法耐性や事前に暗号化系のスキルや魔法を使っていない限り正確なステータスを知ることができる。
もちろん冒険者の情報を最大限得た上で常時自分にとって有利な状況を作りだして叩きのめすことも考えているエニグマのスキルレベルはMAX。つまり相手が暗号化のスキルをMAXで上げてようやく50%の確率で誤情報を流すことができるというほどに正確なステータスを割りだすことができる。
だがエニグマがこのスキルを周辺の冒険者らしきものやこの国を守る憲兵などに使用してみても、出てくるレベルは「MAZE」基準における10から良くて15レベル程度。確かにこれでは緑オークの群れですら十分に脅威となりえる事は簡単に推測できるだろう。エニグマは街の規模と反した一般的なレベル帯の低さに期待を潰されて当初は失望したが、最初に攻め落とすにしては逆に丁度いいのではと気持ちを切り替えることにした。
「現状アウランティウムを向かわせれば即刻陥落できそうに思えるが、今見ているのはあくまで一般的な冒険者のレベルだ。もしかしたら王室お抱えの80レベル越えの騎士団がいるという罠もあり得なくもない」
「しかし主よ、この程度ならばわらわとブランノワールでも九割方落とせると思うが」
「駄目だ。99%の確率で成功という言葉は、100%信頼してはならない」
エニグマにとって99%という言葉は信用できない、ある意味トラウマともなりえるものである。何故ならそのたった1%の確率を前にして、エニグマは一度大失敗をした事があるからだ。
「100%以外、俺は信用するつもりは無い」
「その割には主のスキルにはギャンブル性の高いものが――」
「き、気のせいだろ」
初期に面白半分で獲得していったスキルの中には確率に依存するものが多くあるものの、今となっては使わないスキルも多い。
エニグマは自身の育成の失敗ぶりに毎度のことながらため息がでるが、その分配下のモンスターの育成には厳密にしていることでバランスを取っているのだと毎回言い訳を並べているのである。
「ふーむ、街の外景はおおよそ把握した。後は冒険者ギルドにでも行って情報の一つでも得られれば上々の成果が得られるのだが」
「冒険者らしき者共ならさっきからあっちの方角から行ったり来たりが多いぞ」
そういってアリアスが指差す方角は、まだエニグマ達が足を踏み入れていない方向でもあった。アリアスの観察眼に感心したエニグマが功労者の頭を撫でると、主の寵愛を受けたと勘違いし舞い上がる者がいる。
「主から褒められた♪」
「待て待て、そうはしゃぐな」
エニグマがそう声をかけたのもつかの間――
「――ガッハァッ!? い、痛ぇじゃねぇか馬鹿野郎!!」
「何だ貴様は?」
早速のことながら道を歩いていた明らかにガラの悪い輩とぶつかる――というよりもレベル差があり過ぎるせいか単なる衝突事故がアリアスが一方的に突き飛ばしたように見えてしまっている。
「何だこのガキは! 道のど真ん中ではしゃぎまわりやがって――って、イイもん持ってんじゃねぇか、クククク」
「兄貴、この武器を頂きましょうよ」
「いやどうせならこのガキも――えっ?」
――エニグマが止めようにも既に遅かった。というよりそもそもアリアスの剣技は光速に近い技ばかりであり、それを止めようとする方が愚かだったのかもしれない。
「お、おお、俺の腕がぁああああああアアッ!?」
「ギャーギャーやかましいぞ虫けらが」
アリアスの手には既に妖刀『残刻』が握られており、切っ先からは明らかな鮮血がしたたり落ちている。
幸か不幸か、これがゲームであろうものなら『残刻』の一太刀を浴びた時点でレベル10の冒険者などオーバーキルのはずなのであるが、そこがゲームと違うのか、腕一本が吹き飛ぶ程度で済んでいる。
「次は首を刎ねようか」
「ちょっと待て! そこまでに――」
「そこまでにしてもらおうか」
その場にいる誰しもの耳に届けられたのは、芯が一本通ったようなはっきりとした女性の声。
「ここは帝国騎士団第十七師団所属のフィオナ=エンバースにこの場を預からせてもらおう」
エニグマが視線を向けた先には、まるで絵にかいたような金髪の女騎士がそこに立っていた。




