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Red Rim 黒緋の乙女と円環世界  作者: 32➡1
黒緋の乙女編
34/41

断章1‐2

※このお話は『Red Rim 黒緋の乙女と円環世界』本編においてあまり必要ない設定を無理矢理詰め込んだIFルートです。ただの裏設定を紹介するためだけのストーリーなので特に意識して今後へと繋がるようには作っておりません。

作者本人の趣味のページだと思って暇潰しに目を通すも良し、ネタバレ死ねならスル―するも良しでご自由にお使い下さい。



 万物は重なり合っている。私とあなたもまた、重なり合っている。無論、私と私も。そして同時にあなたとあなたも。あちらもこちらも、すべてが、重なり合っている。

 世界も同じだ。

 門とは概念である。並行する世界に板挟まれた空白の虚無、揺らぎの隙間、イベント・ホライゾン。

 名称が重要でないことは当然誰しもが理解している。既にそれはもう確かに疑う余地も皆無な程、そこに在るのだから。

 それでもあえて名を呼ぶとすれば、それは――


 KOTH(コス)OF(オブ)THE()FRAGMENT(フラグメント)、夢の断片。


 それこそが、彼の地へと続く門の名だ。



 データベース出力、『断章1-2』、再生を開始する。






 観測対象個体、アンゲルゼの『夢の断片コスオブザフラグメント化』から5秒後。

 当個体を爆心地とした周囲半径10kmのアストルム粒子が、異常値を示す上昇量を観測。これは階層都市アイオルビスを丸ごと呑込む規模である。

 高濃度のアストルム粒子下における奏銀(ハーモニーシルバー)石英輝(ラピスクォーツ)黄昏石(ミストロンド)等の感応反応を含む物質がそれぞれ機能を停止。


 DUX(デュクス) LO-GIA(ロ=ギア)、《門》の形而下を確認。異常事態レベル9を認定。円環防衛機構、BIRTHDAY(バースデイ)を発動。

 BIRTHDAY(バースデイ)、該当地域の外側より再創造リセットを実行。

 既に《門》の出現から7秒が経過。扉は放たれている。

 再創造により、階層都市アイオルビスは《門》と観測対象者1体を残し完全に消滅。リム・リンガルム、マリア・桜庭を含むその他観測対象者は再創造の際に蒸発した模様。

 防衛機構の措置による《門》への損傷は認められない。

 開かれた《門》の先から放出されるアストルムは忘却座標11,5,b、《最果て》のものと一致。


 当該座標の第六識境界が忘却座標に書き換えられていく。完了まで残り24600秒。

 17880秒後、《門》のもとに唯一生存体である観測対象者、キリンジ・ゴールドフィストが到達。

 彼のアミュラダルム神経機核にはアストルム粒子の影響が及んでいない。

 境界線の同期完了まで残り6720秒。

 キリンジ・ゴールドフィスト、形而化した《門》へと物理的接触。《*:キリンジ・ゴールドフィストの掌がかつてアンゲルゼだった頃の頭部、ヒトとすれば頬の位置を撫でるような行為》

 この処置により、《門》の表面部に亀裂が発生。アストルム粒子の減少を観測。


 アンゲルゼを構成していたオルガノ機関の崩壊を確認。開かれた《門》は再度閉じられた。

 崩れ落ちたアンゲルゼにもはや意識と呼べるものは無い。残ったのは奏対反応を喪失した奏銀を78%含む金属片である。

 アストルム粒子の観測数値が正常化するにつれて、円環中央動力構造体の機能が復活。2つの放射球体マルエが再び駆動を開始する。

 忘却座標同期の強制終了を確認。

 ヴァーポルム、インジェニー、アングィスの各円環パルログにおける汚染状況は絶望的である。

 唯一、ネクタリス=円環パルログは境界凍結のため同期処理の進行が遅れた模様。



「――ありがとう、もういいわレディオヘッド」


 私が告げると無骨なモニター頭をした彼は、頷きもせず抑揚のない電子音声を響かせた。


『命令を認証。以上を以って、当該座標記録の再生を終える』


 そして、まるで電源を落とした家電製品のように彼はうんともすんとも言わなくなった。

 レディオヘッドの映した物語はこの世界における現実である。

 しかし冒頭、最初に彼が断言したように、私達にとっては語り終えた物語だ。

 云わばこの物語は、『諦めた物語』だ。

 誰がというわけでもないが、この話において該当するのはおそらく私……なのだろう。

 世界には常に絶望がある。その絶望を振り撒く存在がある。例えそれが、意図されたものであろうとなかろうと。

 それと同時に、物事には必ず反対のものがくっついて回るのはよくある話だと思う。

 つまり、それが私だ。自らを希望と呼べるまでの自身は無い。だから遠回りにそう表現する。我ながら面倒臭い奴だと、今更それを自覚する。

 そもそもだって、実は私の方が絶望だったなんてオチも待っているかもしれない。レディオヘッドの語った物語こそが希望で、それを遮ろうとする私こそが異物だという可能性もあるだろう。

 少なくとも、これから私はおおよそ希望だとは呼べない選択をしなければならないのだから。


「クアンタムスコープ」


 私がその名を呼ぶとモニター頭のレディオヘッドとはまた別の……これもまた一種の反対なのだろうか……望遠鏡のような頭をした彼が顔を上げた。


「現時点をもってこの座標を放棄するわ、確定処理を」

肯定(イエス)


 当該座標の放棄。私はこの世界を見捨てる。


『提言。当該座標には已然、汚染を免れた地域が存在している。座標の放棄は、残された可能性もろとも消却することを意味している。これを理解した上での閲覧者による判断を私は乞う。尚、波動関数確定後の変更は波束収縮の原理により不可能である。……ちなみに至極個人的な意見を述べさせてもらうならば、当命令を下した閲覧者の思考は一般的に世紀末レベルに自己中心的であるとされる。さぁ、閲覧者による判断を。さぁ』


 ……このクアンタムスコープというレンズ野郎はいつも一言二言、三言以上余計に多い。そういうところもまた、必要最低限なことしか喋らないレディオヘッドの対な気がしてくる。


「だーっ! 分かってるってば、そんなこと!」


 荒野灰燼に帰した元・階層都市アイオルビスの佇んでいた大地を地団太する。私達は先ほどの物語から既に500年以上経過したかつての爆心地に立っているのだ。

 気が付いたら500年後の世界に居たわけではない。500年間、探し続けたのだ。この場所を。

 救えなかった世界の記憶を、記録し続けるために。


『否定。この世界にはまだ可能性が残されている』


 しつこくクアンタムスコープは私の下した決定に口を挟んでくる。

 確かにこのルチア・アクシスには未だ汚染を免れた大地が残っている。

 この500年間、まともに生きている人間には出逢わなかったが、それでも諦めず探せば世界のどっかに誰かしらは居るかもしれない。

 でも。


「この世界に、もうあいつは……パトリオットはいない」

肯定(イエス)


 クアンタムスコープは断言する。


『当該座標における特異点、MISTERPATRIOTパトリオットの存在は観測されない』


 パトリオット。絶望の対となるのが私なら、奴こそが私の対。災厄を呼ぶ者の名称。


「今回の記録で特異点であるパトリオットと接触したのはリムだったのね」

『肯定。観測対象者であるリム・リンガルムの行動により、結果的にジョニー・センデルスは死亡しアンゲルゼのオルガノ機関は夢の断片コスオブザフラグメント化した。彼女の選択が後4秒遅れていれば、当該座標の雑音(ノイズ)は安定していた可能性がある』


 4秒。絶対零度における2つの規定原子133Csが基底状態中に移り変わる際の放射周期36770527080倍に等しい時間。

 たったこれだけの時間差で、この世界は今後500年にも及ぶ現在までの間、選択を違え続けてきたのだ。


「忘却座標に完全に飲み込まれる112分前にキリンジが間に合ったのには、なにか理由があるの?」

『肯定。観測対象者であるキリンジ・ゴールドフィストはその性質からも、MISTERPATRIOTパトリオットとの関連性が強く、再創造たる破壊を齎すBIRTHDAY(バースデイ)の処理にも影響を及ぼされなかったとされる』

「本来の役割を与えられたのね、それも強制的に」

『肯定。問題は、リム・リンガルムもキリンジ・ゴールドフィストも時期尚早だった。この表現に尽きると私は自負する』


 ……単なる機械如きが自負するようになったらそれこそ、世も末だろうが。


『否定。私は私の与えられた役割に誇りを持っている。どこぞのテレビモニタ野郎とは格が違うのだと私は断言する』

『……』

「分かった分かった! もう何でも良いってば」

『理解されたものと断定。私は今、『喜び』という感情プログラムを観測中』


 本当に酷く余計な機能を持ち合わせた奴だった。

 だが、それでもこのお喋り望遠鏡の力を借りなけりゃ私は早々に諦めていたことだろう。

 それこそ500年かけてでも、この場所を探し抜いたことを考えれば。

 確かにこの世界は一度向こう側と繋がったにも関わらず、いまだ存在を許されている。かなりレアなケースだと言えるだろう。

 しかし一方で、こうとも言える。この世界は緩やかな死に包まれている。


 第一に人類滅亡の危機に陥っている現状で、ルチア・アクシスに仕組まれたカウンターシステムが発動していないこと。これは敵対する脅威が存在しないことを意味する。つまり、今この荒野と化した世界は既に現状をもって平和なのだ。


 第二に、未だ境界凍結されたままのネクタリス=円環パルログ。六識境界すべてから隔絶されたこの空間には、例え波動観測者と発信者……クアンタムスコープとレディオヘッド両者ふたつの力をもってしても干渉することが出来ない。


 本来のシステムなら、他のパルログ上に生存している人類が皆無になった時点で凍結は解除されるはずである。だというのに沈黙を貫く理由は限られてくる。残された汚染体がクロノラインを超えてやってくるのを防ぐためか……あるいはもう、凍結解除を行える者が存在しないかのどちらかだろう。

 絶望を撒き散らす存在が、その絶望を受け取る者がいない世界に留まる理由などありはしない。

 彼は旅立ったのだ。さらなる絶望をばら撒くため、次の世界へ。新たな座標へと。

 だから私は追わなければならない。絶望を。諦めないために。

 そのために、私はこの世界を捨てる。



「行こう、ふたりとも」


『肯定。座標消去の確定処理を実行』

『肯定。当該座標を忘却座標に認定』


 クアンタムスコープが観測して、レディオヘッドが記録する。

 これによって世界は確定する。罪の意識など、今さら持ち合わせるだけ無粋だ。

 あの時、たったひとつの弾丸で間違えた世界を。

 あの時、たった一度の差し伸べられた手で救われたはずの世界を。

 今、この瞬間に。


 ひとつの世界が、忘却した(わすれられた)のだ。




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