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72. 強奪の勇者

これが当面最後の投稿となります。


次章へ向けた幕間。2章のボス強奪の勇者登場回です。

「おい」


 低い声が、

 石造りの部屋に響いた。


「アクアリスが攻略されたというのは本当か?」


 床に這いつくばる男が、

 びくりと肩を震わせる。


「は、はい……

 い、今確認して――」


「早く答えろ、雑魚」


 男の喉元に、

 刃が突きつけられた。


「スキルだけでなく、

 命まで奪われたいのか?」


「ひっ……!」


 震える手で、

 男は額を押さえる。


「い、今やってる!

 だから勘弁してくれ……!」


 男の瞳に、

 淡い紋様が浮かび上がる。


 虚空を見つめていた目が、

 遥か彼方を捉えた。


「――見えた」


 男が息を呑む。


「……晴れてる」


「アクアリスの雲が……

 無くなって見えるぞ……」


 玉座に腰掛けた男が、

 ゆっくりと口角を上げた。


(風剣の予感は、

 やはり事実だったか)


「おい、あたりに誰かいないのか!?」


「今探してる!」


 男が必死に視界を巡らせる。


「……湖畔に人がいる」


「ほう」


「男が一人と……

 女が一、二、三……」


「……なんだあれ」


「女が一人、

 浮いて――」


 次の瞬間。


 男の眼から蒼い光が走った。


「ぎゃあああああああああ!!」


 男が両目を押さえて転げ回る。


「目が!

 目がぁぁぁぁぁ!!」


「……ちっ」


 玉座の男――

 風剣の勇者が舌打ちした。


「気づかれたか」


 だがすぐに笑う。


「まあいい」


「水剣も、

 じきに俺のものだ」


 愉快そうに立ち上がる。


「また駒が必要だな」


「おい、ダイン」


「えー」


 部屋の隅で寝転がっていた少女が、

 気だるげに顔を上げた。


「呼び捨てにしないでよ、

 お兄ちゃん」


 眠たげな目を擦りながら、

 ゆっくりと立ち上がる。


「で?

 なに?」


「こいつはもういらん」


 床でもがく男を顎で示す。


「処分しておけ」


「えー……

 なんで私がー」


 露骨に嫌そうな顔。


「面倒くさいんだけど」


「こんなのでも転生者だ」


「お前の足しにはなる」


「それはそうだけどさぁ」


 ダインは男を見下ろす。


(……契約がなかったら、

 とっくに抜けてるんだけど)


「何か言ったか?」


「べっつにー?」


 ダインが肩を竦める。


「ほんっと、

 面倒なんだよねぇ」


 男が這いずって逃げようとする。


「ま、待て!

 やめろ!

 助け――」


「おっと」


 風剣の勇者が思い出したように口を開いた。


「先にスキルは貰っておくか」


 男の顔が絶望に染まる。


「や、やめ――」


 風剣の勇者がその頭を掴む。


「――《強奪》」


 瞬間。


 男の身体から、

 淡い光が引き剥がされる。


「ぎゃああああああああ!!」


 絶叫。


 光が、

 勇者の腕へ吸い込まれていく。


 その瞬間。


 勇者の身体に、

 異なる色の魔力が走った。


 炎。

 雷。

 風。


 ぶつかり合うように明滅し、

 皮膚の下で暴れ回る。


「……っ」


 勇者が一瞬だけ顔を歪めた。


 だがすぐに嗤う。


「千里眼、か」


「悪くない」


 男が床を掻きむしる。


「か、えせ……

 俺の……

 スキル……」


「うるさい」


 勇者が苛立ったように頭を押さえる。


「……黙れ」


 一瞬。


 誰もいないはずの空間から、

 いくつもの声が重なった気がした。


 ダインの目が、

 わずかに細くなる。


「……最近、

 ひどくなってない?」


「黙れ」


 勇者の声が低くなる。


「世界樹がどうなってもいいなら、

 別だがな」


 その瞬間だけ、

 ダインから笑みが消えた。


「……はいはい」


 風の刃が閃いた。


 男の首が飛ぶ。


「どうせ壊れるなら、

 さっさと終わらせた方が楽だし」


 ダインが血を払う。


「ほんと、

 面倒くさいなぁ」


 強奪の勇者は窓の外を見る。


 その視線の先には、

 遥か彼方のアクアリス。


「待っていろ」


「火剣の契約者」


「神剣も、

 スキルも、

 女も――」


 愉悦に歪んだ笑み。


「全部、

 俺が奪ってやる」


To be continued......

ここまでお読みいただきありがとうございました。


2章の予告編をお届けしました。



当面最後の投稿となりますが、反響いただけましたら2章も執筆していきたいと思っています。


続きが読みたい方は是非、ブックマーク・評価などで応援よろしくお願いします。


7年前に自分(今の自分から見ると他人)が書きかけていた小説を読んだら普通に面白くて、これなら投稿の価値があるなとGWを活用して一気に一部を完成させました。


自分的には割とよくできたかな、と思ってますが、皆さんはいかがでしたでしょうか?


楽しんでいただけていたら、嬉しいです!


では、本作の続き、または別のお話でお会いしましょう。

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