17 蜘蛛の糸とモールス信号
古城は、闇の中に沈んでいた。
風が、やけに静かだった。リクたちは木陰から様子を窺う。
「……見張りは正面に変わらず一人か……」
エトが小さく呟く。
「俺が先に侵入して、見張りを拘束する。その後、リク達は来てくれ」
「わかりました」
エトは近くの木へと駆ける。
選んだのは、森の中で最も高い一本。
するすると登り、枝の上へ。
そして――
サスケの糸を、夜の空へ放つ。
細く、張り詰めた一本の道。
エトはそれを踏む。
まるで地面のように。音もなく、空を渡る。
見張りの背後へ。
――一瞬。
喉元に糸が絡み、体が沈む。
声も出させず、そのまま拘束。
音は、何も残らない。
エトは周りを見渡す。
(……コウモリが、一匹もいない?)
エトの眉がわずかに動く。
本来なら、この古城には必ずいるはずの監視。
それが――いない。
(妙だな……)
だが、時間はない。
エトは糸を軽く弾く。
――『来い』
振動の合図。
(……来た)
リクが息を呑む。
「ダンさん!い、いくぞ……!」
ダンさんが小さく言う。
「なぁリク……この糸細すぎないか!?」
サスケの糸は、人一人が渡るにはあまりに細い。
「エトさんじゃなきゃ渡れないよ」
「だから……俺等は」
リクは糸を太い枝をかける。
「えっ……リク何してんの?」
ダンさんは胸ポケットの中でカタカタ震える。
「滑って降りるから、掴まってて」
「えっ!!」
リクは勢いをつけて滑車のように滑り降りる。
「ぎゃぁぁぁぁぁ!!」
ダンさんの情けない声が夜に溶ける。
「落ちる落ちる落ちる!!」
「落ちない!!多分!!」
リクも叫ぶ。
――シュッ!!
無事、着地。
二人とも、若干腰が引けている。
その様子を、少しだけ離れた場所でエトが見ていた。
(……緊張感がないな)
「こっちだ」
低く呼ぶ。
そのとき――
白い影が、ふわりと舞い降りた。
アベルは迷いなく、古城の裏手へと導く。
足元。
地面に埋め込まれた鉄柵。
「……ここか」
エトが膝をつき、覗き込む。
だが――
暗い。
深い。
中は、ほとんど見えない。
(……中に見張りがいたら厄介だな)
エトはサスケの糸を、静かに垂らす。
ゆっくり。
ゆっくりと。
闇の中へ。
数秒。
――ぴくり。
糸に、わずかな反応。
(……掴んだ?)
エトの目が鋭くなる。
(ダニエルさんか……?)
エトは、糸を通して指をトントンとモールス信号を送る。
『救出に来ました。見張りなし。こちらは?』
一瞬の間。
そして――
トントンと糸を通して振動が返ってくる。
『二人共に無事。見張りなし』
エトの口元が、ふっと緩む。
「……ダニエルさんっ!」
抑えきれず、小さく声が漏れる。
すると――
闇の底から、声が返る。
「エト! ありがとな!」
その一言で。
張り詰めていた空気が、わずかにほどけた。
続く




