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宇宙海賊王の秘宝~何でも屋ジャックと仲間たち~

 カリブ宙域にある辺境惑星センテナリオの宇宙港サカパ。


 ここは場末のバー、新天地(ニューワールド)。辺境の宇宙港ではありきたりな名の酒場だ。大昔に流行った曲が大音量で流れているが、誰もそんなものは聞いていない。むろん俺もだ。




 カウンターに座る俺の横の壁には“武器の持ち込み禁止!”という古びたポスターが貼られているが、そんなもの守る奴はいやしない。ここに武器を持たずに来る奴は自殺志願者か、紛れ込んだ一般市民(ド素人)だけだ。


 第一、客の中には戦闘サイボーグが何人もいる。だから、武器の持込禁止も何もあったものじゃない。


 俺も愛用の熱線銃(ブラスター)を堂々と腰に下げている。




 俺がこんな酒場にいるのは酒が飲みたいからじゃない。第一、ここで出す酒は何が交じっているか分からない紛い物ばかりだ。


 ここで頼んでいいのは軍から横流しされた缶ビールだけだ。




 じゃあ何のためだと言われるかもしれないが、もちろん仕事(ビジネス)のためだ。




「ジャック、また仕事か?」と店同様にくすんだ感じのマスターが聞いてきた。




「まあな」とあいまいに答えておく。こんなところで正直に話す奴は間抜け(ターキー)か、新人(ルーキー)だけだ。




「お前さんに客が来ているぞ」とマスターが手の平を上にしてチップを要求する。




 五クレジット紙幣を握らせながら、「どこだ?」と聞く。




 マスターは顎でカウンターの端にいる一人の男を示した。


 ゆっくりと立ち上がり、その男の横の席に座った。男は三十絡みの特徴の少ない黄色人種モンゴロイド系で、ちらりと俺を見る。




「俺がジャックだ」というと、正面を向いたまま、話し始めた。




「仕事だ。いつ発てる……」




 口をほとんど動かさず、聞き取れる最小の声でそう囁いた。


 俺は久しぶりに大きなヤマだと直感した。




「港湾の役人が許可を出せば、いつでもOKだ。ブツは何なんだ?」




「人間が二人。途中で拾う……」




 久しぶりの乗客だ。恐らく犯罪組織に追われているか何かなのだろう。




「知っていると思うが、俺は非合法の客は乗せねぇぞ」




「ああ、分かっている。政府に目を付けられるようなブツじゃない」




 俺は“何でも屋(オール・トレーズ)”としてわりと有名だが、時々勘違いした奴がいて非合法な依頼を持ってくる。確かに金はいいが、そんなヤマばかりだと、長くは続かねぇ。俺は細く長く生きていきてぇんだ。




「ブツを拾ったらゲートのある星系に運ぶ。目的地は契約後に教える。そんなに遠いところじゃない……」




 奴の説明を聞く限りは二人の人間をハイパーゲートのある星系まで運ぶ、いわゆる“高飛び”だ。




「で、報酬は?」




「百万だ。手付けで三十万、目的地で残りを渡す」




 二人の人間を運ぶだけにしては破格の報酬だ。相当ヤバイ組織に目を付けられているのだろう。




「ドンパチの可能性はあるのか? あるなら安すぎる」




 一応、報酬を釣り上げる努力はするが、あまり期待していない。




「どんなことにもごく僅かな可能性はある。報酬が気に入らんなら別を当たる」




 やはり報酬の引き上げは無理だったようだ。




「分かったぜ。引き受けよう」




 俺がそう言うと、すぐに具体的な指示が出される。




「ここを出たらマイヤーズに向かえ。モルガンという男が待っている。後はそいつの指示に従え……」




 マイヤーズはこの星の首都だ。こんな辺境の星系でも比較的まともな場所で、帝国の出先機関、惑星開発公社の支社が置かれている。


 ここから五千キロほどの場所だが、宇宙船乗りにとっては目と鼻の先だ。




 バーを出ると、その足である場所に向かった。


 目的地はここより治安の悪いスラム街だ。


 この仕事はヤバイ。そんな仕事を受けてまっすぐ船に戻る奴は長生きできねぇ。




 俺は尾行されていないか確認しながら、スラム街に入っていく。俺の感知できる範囲に尾行している奴はいなかったが、この手のことに完璧はない。凄腕の追跡者はいくらでもいるからな。まあ、このスラム街に入れば、大抵の奴は撒けるんだが。




 スラム街に入るのは追跡者を撒く意味もあるが、別の目的もある。それは情報を得るということだ。


 こんなヤバイ仕事を事前情報なしに始めるわけにはいかない。少なくともマイヤーズの最新情報くらいは得ておかなければ、客クライアントに会うことすらできないだろう。




 スラム街はいつも通り饐えた臭いが充満し、非好意的な視線を絶えず向けられる。


 同じ場所を三度周った後、一軒のボロい倉庫に入っていく。




「チャン! チャンはいるか!」と叫ぶと、事務所から冴えない中年男が出てくる。チャンという名だが、中国(チャイニーズ)系ではない。見た目はアフリカ系だが、そんなことはどうでもいい。




「ジャックか。何の用だ?」




「お前に用があるのは情報がほしい時に決まっているだろう」




 俺はそういいながら十クレジット紙幣を二枚見せる。




「ほう、ヤバイ仕事のようだな。で、どこの情報がほしい……」




 チャンの目がきらりと光る。




「ああ、マイヤーズの情報がほしい。特に公社のトラブル関係の情報が」




 俺は百万クレジットという報酬とマイヤーズという土地から、公社が何らかのトラブルを抱えて関係者を脱出させるのだと当たりをつけた。マフィアとのトラブルは日常茶飯事で、通常の手段で脱出は難しいからだ。




「マイヤーズの公社絡みねぇ……」と言いながら左目を瞑る。別に奴は俺の気を引くためにウインクをしたわけじゃない。奴の左目には細工がしてあり、脳に仕込んである情報端末を使って様々な情報源にアクセスし、それを映し出しているのだ。




「いくつかあるな。こいつが臭いな。リコ・ファミリーとトラぶっているようだ……」




 公社はマイヤーズの裏を仕切っているマフィアとトラブルになっているらしい。具体的には公社の支社長ブキャナンがファミリーのボス、ロナルドに対して決別する旨の通知を行い、それに対する制裁が行われるらしい。




「そのブキャナンって奴は馬鹿か? まあいい。で、そいつの情報も頼む」




 辺境でマフィアを敵に回せば、帝国軍でも抑えることは難しい。公社の支社長では返り討ちにあうのが関の山だ。




「ロバート・ブキャナン、三十八歳。アスタルト星系出身で帝国騎士。妻と娘が一人いる……」




 帝都出身のエリートが現場の状況も知らずに正義感を振りかざしたといったところか。


 この情報から考えると、妻と娘を逃がすというのが妥当なところだろう。帝国騎士ならハイパーゲートがある星系に行けば、間違いなく軍に保護してもらえる。辺境の一都市のマフィアが遠く離れた星系の帝国軍に喧嘩は売れないからな。




「妻はブレンダ、三十七歳。娘はローズ、十三歳。どちらも別嬪だ。特に娘はヤバイな。幼女趣味(ロリコン)ロナルドがよだれを垂らしそうな美少女だぜ」




 チャンから俺の個人用情報端末(PDA)に画像が転送される。


「ヒュー」と思わず口笛を吹くほどの美女と美少女だ。


 他にも情報を確認したが、大した情報は得られなかった。






 俺は何度も回り道をしながら、宇宙港に駐機してある俺の船、ドランカード(酔っ払い)号に帰った。


 船に戻ると、名前の通り酔っ払いたちが出迎える。




「どうだった?」と金髪の美女シェリーが聞いてきた。彼女はまだ二十歳になったばかりの新米で、いつの間にかうちのクルーになっていた。碌に仕事はできないくせに、なぜか態度はでかい。でかいのは態度だけじゃなく、胸もだが。


 その手にはワイングラスが握られており、俺が仕事をしている間も飲み続けていたようだ。




「でかいヤマだ」と言ってキャビンに入っていく。




 そこには二人の中年男が酔っぱらって眠っていた。




「ジョニー、ヘネシー、二人とも起きろ! 仕事の話だ」




 ジョニーは身長二メートルを超える大男で、元宙兵隊員らしく短く刈った茶色い髪と太い眉毛の強面だ。こいつは一応砲手だが、宇宙そらでは役に立たない。逆に地上での荒事では役に立つ。帝国軍宙兵隊の戦闘サイボーグは通常の兵隊の一個小隊に匹敵する。




 もう一人の男はジョニーとは逆に三十五歳とは思えない童顔だ。宇宙船乗りとは思えないようなぼさぼさの髪にヨレヨレのスペーススーツを着崩している。


 こいつは機関士だが、見た目に反して優秀な技術者だ。軍の研究所でトラブルになった時、この船に転がり込んできたのだが、この船をいじり倒して、信じられないほどの性能にしてくれた。




 眠そうな顔のジョニーが「仕事だと? ほわぁぁ」とあくび交じりに言い、ヘネシーも「どうせ大した仕事じゃないんだろ」と言ってビールを呷る。




「百万クレジットの仕事だ」




 俺の言葉に二人の動きが止まった。




「百万だと……また、前みたいなガセじゃねぇんだろうな」




 ジョニーがそう言うとヘネシーも大きく頷く。




「前は完全に赤字だったからなぁ。連邦時代の遺跡を探すっていう依頼で、辺境を引きずり回された挙句に、予算が確保できていなかったと言われたんだから。まあ、お陰で新型の装備を分捕ることができたんだけど」




「今度は大丈夫だ。前金で三十万。成功時に残り七十万だ」




「で、そのお金はどこにあるの?」とシェリーが目を輝かせて聞いてきた。




「そいつを今から取りに行くのさ。目的地はマイヤーズ。というわけだ! さっさと酒を抜いて出港準備をしろ!」




 三人はそれぞれ準備のために走り出した。


 これがとんでもない仕事の始まりになるとは想像もしていなかった。

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