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救出と自己犠牲

  新枝と炭田は自転車に乗り再び瑞浪市に向かった。

  新枝はトランシーバーでセナに逃げ込んだ家の特徴を聞いた。

「今いるのはどんな家だ?」

「2階建てで茶色の屋根にソーラーパネルがついてる。あと、表に車が2台ある。黒いバンに青の軽だ。」

「位置はわかるか?」

「パンクしたところから100mくらい進んだ所を左に曲がった辺りだと思う。悪いけどあんまり正確には覚えてない」

「そうか。周りはどんな状況だ?」

「感染者が何十体もうろついてる。出られそうにない」

「わかった。今からお前を助けるための作戦を言う。よく聞いてくれ。まず俺が感染者達を引きつける。その隙に炭田隊長が助けに行くから、彼について行って俺の自転車に乗って2人で逃げろ。俺は感染者達を撒いてから走って追いつく。そしたら隊長の自転車に2人乗りして脱出だ。わかったか?」

「わかった」

  セナに作戦を告げ、通話は終了した。

  再び瑞浪市の市街地に入った2人は、活発になった感染者を躱しつつ先程の場所へ向かった。

  しばらく走るとセナが乗っていたクロスバイクが放棄されているのを発見した。

「この辺りです」

  そう言って辺りの住宅街を見て回っていると1軒の家に大勢の感染者が群がっているのが見えた。その家は2階建てで茶色い屋根にソーラーパネルが載っていた。

「あの家だな」

「そうですね。じゃあ俺は大声を出して感染者を引きつけて、この住宅地でやつらを撒きます。その後で追いつくつもりですが、状況によっては俺を待たずに逃げてください」

「お前…」

「万一の話ですよ。必ず追いつくつもりです」

「気をつけろよ」

「はい」

  そう言って感染者の群がる家に向って走り出した。十分に近づいてから立ち止まり、

「おい! お前らこっちだ!!」

  そう叫ぶと感染者達が一斉に新枝の方を向いた。新枝が走り出すと奴らもそれを追いかける。

  感染者達が離れたところで炭田はナタを持って家に向かう。まだ何体か残っている。目測で数を数えると7体いる。

  通常、多数の感染者に対して単独で戦うことは無謀とされているが、炭田の能力を持ってすれば不可能では無い。

  1体が炭田に気付き襲いかかる。腕を伸ばして突進し掴みかかろうとするが、指先が触れる前にナタが振り下ろされ感染者は倒れた。

  次に3体が同時に迫るが、巧みな足さばきで掴みを躱す。1体に足をかけて倒しもう1体の首を掴んで地面に叩きつける。ナタでもう1体の首をハネ、地面に倒れた2体に止めを刺した。

  残るは3体。1体を蹴り飛ばし、倒れたところにナタで頭を叩き割る。もう2体はどこにいるのかと見回すと、玄関から出てきたセナが2体と戦っている。1体の首にバールを突き刺し倒したがもう1体に襲いかかるかかられ、地面に倒れ込んだ。上から感染者が噛みつこうとしたところ首にナタを突き立てた。

「大丈夫か?」

「はい、ありがとうございます」

「こっちだ。ついて来い」

  そう言って、セナと共に自転車のもとへ向かい走り出した。

  自転車に乗ってからは、新枝追いつけるようスピードをかなり落として元きた道を進むが一向に現れない。するとトランシーバーに連絡が入った。

「こちら新枝です。俺は無理です。2人で逃げてください」

「どういうことだ!」

「噛まれました。今はなんとか振り切りましたが見つかるのも時間の問題です。俺は行けません」

  そう言って通信は切断された。

  炭田とセナは無事に瑞浪市を脱出し、木曽川を超えて野営予定地に辿り着いた。

  テントはセナの自転車に積まれていたため、地面に直接マットを敷いて寝ることになった。

  不味い夕飯を食べながら、セナが言った。

「俺のせいで新枝が死んだんですね」

「いや、これは隊長である俺の責任だ。自分を攻めるな」

「でも…」

「俺はお前を見捨てようとした。だが新枝がどうして助けると言い張ったんだ」

「そうだったんですか。でもよく彼の言うことを聞きましたね。いつも隊長の命令は絶対だって言ってたのに」

「喧嘩をした」

「喧嘩? 口論のことですよね?」

「いや、殴り合いだ」

「どうなったんですか?」

「俺が勝ったに決まってるだろ」

「じゃあなんで助けに来たんですか?」

「それは…」




  時間は戻って新枝が感染者達を引きつけて逃げだしたところ。

  新枝は必死で走った。感染者の走力はヒトと殆ど変わらない。自転車ならともかく、足で逃げ切るのは容易では無い。住宅街の路地や塀を駆使すれば撒けるだろうという考えは甘かった。

  とにかく数が多いため、次から次へと現れる感染者から逃げ切るのは不可能だった。

  走りながら振り返ると、20体以上の感染者が10mの距離まで迫っていた。更に角を曲がると前方に30体程の感染者の群れが現れた。はさみ打ちになり、一瞬立ち止まったが横の塀を乗りこえたら、そこにも1体の感染者がいた。そいつに襲われ、腕を噛まれた。

  なんとか振り払い、逃げようとするが四方八方から感染者が押し寄せている。辺りを見渡すと鉄塔を見つけた。もうあれに登るしかない。鉄塔を囲うフェンスを乗りこえ、登りだす。

  とうとう頂点まで登ったが、やはり感染者達も鉄塔を登って来ている。

  トランシーバーを取り出し、自分の現状を伝えた。

  ここで死ぬのか。もっと生きたかったなあ。いや、でもセナを助けることはできたしイーブンてとこかな?そんなことを思いながら下を見下ろす。

  大勢の感染者が迫っている。こうなったら1体でも多く道連れにしてやる。そう思い、スコップを構えた。




  炭田とセナはついに美濃市に辿り着いた。手紙にあった牧谷という町に向かうと大きなバリケードが現れた。

  巨大なフェンスと有刺鉄線でできたバリケードは作手のそれよりも頼もしく見えた。

「そこで止まりなさい」

  バリケードの見張りに立っている者が拡声器で言った。指示に従い、自転車から降りる。

「俺たちは風船の手紙を見てここに来た。敵意はない」

  そう言ってナタと89式を地面に置く。セナもバールを置いた。すると見張りは手招きをした。それを見た炭田達はバリケードの中へと入った。

  中では数人の見張りが銃を持って立っていた。そのうちの一人が話しかける。

「どこから来たんだ?」

「愛知の新城の辺りからだ。」

  炭田が答える。

「ここまで来るのは大変だっただろ」

「ああ、2人死んだよ」

「そうか…済まない」

「いやいいんだ。ところでここはどんなとこなんだ?」

「ここは中国軍の生存者支援の拠点だ」

「中国軍?」

「ああ、中国軍は自国の一部を完全な安全地帯にすることに成功して、そこから日本や台湾に軍隊を送って支援をしてるんだよ」

「そうだったのか」

「そういえば、1人先にここに来てるぞ。あんたらの仲間が」

「なんだって?」

「新枝とかいう奴がヘリで救助されて運ばれて来てるんだ」

「本当か?どこにいるんだ?」

「救護テントに居るはずだ。案内するよ」

  案内された先には簡易ベットに横たわる新枝の姿があった。

「隊長、おはようございます…」

  新枝は気まずそうに言った。

「どうやってここに?」

「無線を傍受した中国軍のヘリが助けに来てくれたんです」

「噛まれたのは大丈夫なのか?」

「中国軍は既にワクチンの開発に成功したらしいんです」


  3人は再開を喜び合い、3日後作手村に不足していた物資を運ぶヘリで帰還した。

最後まで読んで頂きありがとうございました。

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