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ギフテッド一寸法師〜何者にもなれない私たちの寓話〜  作者: 地野千塩


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ギフテッド一寸法師の敵

 思えば努力が結果になったことはない。


「こんばんは。今日も福祉作業所の闇を語っていきます〜。是非質問やコメントを寄せてくださいねぇ」


 現在、生配信中だったが、全然コメントがつかない。見ている人も一桁。毎日動画も投稿しているが、一度もバズったこともないし、こんなもんか。やっぱり努力したって結果にならないんだ。


「コメントもないし、僕の過去でも話そうかな。僕はいわゆる氷河期世代で、大卒でもブラック企業しかなかった。営業やってた。うん、頑張った。鬱や適応障害になるまで頑張る必要はなかったのにね」


 こんな自分語りして、余計に視聴者が逃げていく。


「結局、鬱が治らなくて手帳とって福祉作業所でリハビリ中ー。聞きたい? B型作業所の話」


 ついに誰も見られなくなり、配信を打ち切った。ため息が出る。ブラック企業でも頑張っていたのに報われなかったし、動画も同様だ。他にも漫画、小説、音楽にも手を出してみたが、努力が実った試しはない。


「まあ、作業所行くしかないか……」


 今ではすっかり諦めてる。作業所ではクッキーの袋詰めもしているが、工賃は安い。一生懸命頑張ったからといって最低賃金レベルになるわけでもなく。


「一寸法師くん、なんかアイツ、最近頑張ってない?」


 同じ作業所の人、最近頑張っているのに気づいた。身体が小さく、感情的で落ち着きがない。あだ名は一寸法師。確かに作業所の中でもちょっと浮いているというか、実は天才という噂も聞いたが、やけに袋詰めの作業を頑張っていた。


「ええ。一寸法師くんは将来資格もとって自立したいんですって。頑張ってるわ」


 福祉士はニコニコ笑顔で応援していたが、僕は同意できない。「こんな場所で頑張ったところで何になるのか?」という声がどこからか聞こえてきそう。


 実際、僕だって手帳をとり、就労移行に通っていた時は頑張った。簿記や宅建の資格もとり、大手企業の障害者雇用にもありつけた。


 大手の企業の余裕、人の優しさ。ブラック企業にいた時と比べて天国みたいだった。配慮も十分にされ、病状も大幅に改善、減薬も成功し、通院回数も減った。


 実に喜ばしい話だ。ただ、福祉に関わっている以上、単純に喜べる話でもなかった。医者によると、病状が安定してきたので障害者手帳が更新できないかもしれないと言われた。実際、更新できず、結果的に会社からはこれ以上障害者雇用で雇えないと言われた。つまり、クビだった。


「なんだよ。健康になる努力したり、頑張った分だけ損じゃないか……」


 離職票を見つめながら、つくづくそう思った。かといって一般雇用の仕事はバイト以上は難しく、またブラック企業に引っかかってしまい、結局、手帳をとって福祉作業所の世話になって今に至る。 


 ただ、今度はネットの口コミを参考に、患者の希望通りに診断書を書いてくれる医者に変えた。おかげで障害者手帳も出たし、年金ももらえた。まあ、社労士に手続きの代行をして貰ったので「成功報酬」として六ヶ月分の障害年金が社労士の懐に収まったわけだが。


「あーあ。一生懸命、頑張るとか無駄だわー。福祉では頑張らないでぬくぬくしている方がお得だからな」


 そんなことを思い出していたら、気分が悪くなってきた。福祉士に具合が悪いと嘘をつき、施設の裏庭でタバコを吸う。別にタバコは好きじゃないが、頑張って努力するより全然いい。


 もう作業所でもやる気がない。工賃と障害年金、あとは動画配信で微々たる小遣いが貰えればいいや。どうせここでは一番できない人に基準が合わせられているし。頑張っても損。努力が結果にならない。


「佐藤さん、何やっているんですか? サボりですか?」


 せっかくタバコを吸ってまったりしていたのに、一寸法師くんが登場。しかも余計な正義感から、俺がサボっていると福祉たちに告げ口。なんだよ、正義マンかよ。


「お前さぁ、こんな作業所で頑張っても仕方ないだろうよ。別にお金が貰えるわけでもなく、結果になるわけでもないじゃんか」


 ついつい一寸法師に文句を言ってしまった。菓子の袋づめ、一寸法師には向いていたらしい。もう何箱も終わらせていたが、舌打ちしたくなった。一寸法師くんが一人頑張ると、その基準で僕に仕事を割り当てられるかも知れない。そうなったら本当に迷惑。ここでは一番出来ない人に基準を合わせて欲しい。


「そもそも、なんで頑張ってるのさ。障害者雇用でも上手くいかなかったんだろ? 高望みだよ、高望み」

「実は僕、簿記一級とかとって正社員になりたいんです」

「バカだなぁ……。障害者雇用でも高級な武器もっていても宝の持ち腐れだ。士業の資格もちの利用者見たことあるが、コミュ力なくて営業できないんで資格活かせないってさ。障害者雇用で大手企業の事務職のがコスパ良いだろ。我々のライバルは福祉エリートの他の障害者とかであって一般人みたいな戦い方しても負けるぞ」


 資格も打ち出の小槌になってくれない。いくら頑張って努力しても、福祉に関わったらゼロにリセットされるような感覚があった。


「そ、そうですか……」

「どうせ難関資格とるなら社労士にしてくれよ。それで障害者年金の手続き『成功報酬』、友達価格っていうかタダでやってくれない?」


 一寸法師は図々しいヤツだ、こいつは俺の敵だ、障害年金の審査が厳しいのもお前みたいなヤツのせいだと顔を真っ赤にしていた。確かに頑張ろうとしている一寸法師くんからしたら、俺は敵かもしれない。


「えー、だから福祉を受けるのには、日本は申請主義ですから『困ってる!』って声を上げないといけない。あるいは医者に行って無理矢理にでも診断名つけて貰うしかないわけだ。だから本当に困っている人の為のものじゃないのかも知れない」


 今日も誰も聞いていない生配信をしてる。


「福祉を受けるコツはいかに可哀想な人でるか、いかに道化を演じるか。あるいはニコニコ笑顔で天使みたいな良い障害者を演じるか。間違っても頑張っちゃダメだ。頑張れば頑張るだけ損をするシステムが出来上がっているからね。ねぇ福祉って本当にいいもの? リスナーのみんなはどう思う?」


 ちなみに一寸法師くん、簿記一級の試験は合格したが、就職はできていないと聞いた。

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