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ギフテッド一寸法師〜何者にもなれない私たちの寓話〜  作者: 地野千塩


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ギフテッド一寸法師の同僚

 人手不足と言われているけれど、社会が求めているのは低賃金で働いてくれる都合の良い人なのかもしれない。コレさえあればものすごい才能は必要ない。難関資格よりも必要な要素はコレ。


「ええ。土日も深夜も出られます。お皿洗い好きです」


 私、とある飲食店のファミレスの面接中だった。配膳ロボットなど効率化されていると聞くが、食洗機に入れる前にはさっと洗う手間もあるらしく、その他洗い場でもろもろ働いてくれる人材が欲しいらしい。


「なるほど。期待しているよ」


 面接官、いや店長はそう頷くと、あっさりと採用になった。面接後に即採用。なんか嫌な予感しかないが、私も訳アリ。


 新卒で入った会社がブラックだった。連日パワハラを受け、適応障害と円形脱毛症も発症。休職や引きこもりを繰り返し、気づくと履歴書は穴だらけ。かといって正社員できちんと働くのも難しいし、飲食店のバイト求人ぐらいしか選択肢がないってわけ。人手不足なんていうのは建前で、わたしみたいな人間に選択肢は少ないんだ。今の時代、男性の収入も抑えられているし、結婚に逃げる選択肢もないし。


「でも内定でちゃったし、お金ないしなぁ。とりあえず働くか」


 ということで、ファミレスの洗い場でバイトを始めることになった。食洗機はあるが、すでに床は水でべちょべちょ。長靴のサイズも合わないし、歩きにくいなぁ。


「初めまして。ここの洗い場担当の社員っす」


 上司とも挨拶したが、金髪でロン毛のヤンキーだった。言葉使いも終わってるし、距離感も変だ。なぜか地元でバンドを組んでいた話までしてる。


「まあ、才能ないからバンドは成功しなかったけどな」

「そうなんですか」

「音楽とか結局さ、運だな。実家が太ければ思いっきり音楽したかったよなー」


 上司の目、灰色がかってる。本当はこんな洗い場やりたくないんだろうなぁ。気持ちはわかる。言葉遣いは終わっていたが、なぜかわたしは褒められた。特に忙しい時にテキパキと機械のように動いていただけで「女神かよ!」と。


「別に普通ですよ。昔も似たようなレストランでバイトしていましたが、あっちは和食系で小皿が多くて大変でしたよ」

「でも、助かるわぁ。本当嬉しいっす!」


 上司は金色の髪を揺らし、本当に嬉しそうだが、謎。そこまで喜びようが疑問だったが、その謎はすぐに解けた。


 次の週から別のバイトと一緒になったが、忙しい時はパニックを起こすし、皿やグラスを割るのも日常茶飯事だった。あだ名は一寸法師くん。そう呼ばれるぐらい身体が小さいのだが。


「あぁ、もう、一寸法師邪魔!」


 忙しいと上司はイライラし、一寸法師をつき飛ばしていた。


「大丈夫です?」


 思わず手を差し伸べたが、一寸法師の目、灰色がかってた。かなり濃いめの灰色だ。雲の色だったら大雨が降ってもおかしくないような。


 しかし、一寸法師くん。私の手も払いのけてしまった。まるでわたしも敵かのように。


 察した。この子もきっと訳アリなんだろうなぁ。敵に囲まれているのに、打ち出の小槌も姫も現れない一寸法師。


 気持ちはわかる。私も引きこもりから復帰している身分だ。低賃金のバイトは引きこもりの復帰の入り口としては良いが、続けられるかどうかは別問題。こういった職場、ヤンキーや意地悪なお局とか多いしなぁ。かといってホワイト企業にいくのはブランクが足を引っ張り、狭き門。


「一寸法師くん、大丈夫?」


 バイトの帰り、駅までの道、一寸法師くんと一緒になった。お互い飲食店の油っぽい匂いが染み付き、遠くの空には月が浮かんでた。もう深夜近く、他に誰も歩いていない。


「うるさいな。話しかけるな」

「いいじゃん。最近ハマってることとかある? わたしはハンドメイド」


 といってもハンドメイド作家として食えるはずもなく、細々とビーズや刺繍糸で何か作っている感じ。


「お、俺は数学」

「へえ。なんかすごいね」

「でも何の成果も出せない。世間が求めるもんはソレじゃない」

「いいじゃん、別に。趣味でやっても悪くないでしょ?」


 好きなこと、必ずしも換金できない。私が一番稼げた時期もブラック企業時代だったりする。


「お金稼げなくても、悪いことじゃないでしょ?」

「そうだけどさ……」


 一寸法師くんの目、さらに灰色がかっていた。納得いっていない顔だ。


「結局、運だよ。運。私も異世界みたいにハンドメイドが貴重な世界に行けば勇者かも。一寸法師くんも数学が発展していない異世界に生まれれなかっただけだよ。運でしょ?」


 そう、運だ。ブラック企業に引っかかったのも、飲食店バイトなのも運だ。運だと思えば少しは納得できる。


「いや、俺は納得できない」


 まあ、一寸法師くんは納得していなかったけれど、時々一緒に帰るようになった。別に親しくなったわけでもないけれど、数学やハンドメイドの話をよくしたものだった。数学の話をしている時の一寸法師くん、楽しそうだった。仕事中と全然違う。


 でも、もう二度と一寸法師くんから数学の話は聞けない。この仕事を辞めてしまったからだ。原因はあのヤンキー上司。忙しい時に皿を割った一寸法師くんキレた上司は一寸法師くんを殴り、怪我をさせてしまった。


 労災は通ったみたいだけど、なぜか警察沙汰にはならず、上司は何のお咎めなし。被害者の一寸法師くんだけが辞めた形だ。


「あいつ、あの一寸法師とかいうの本当に使えんかった。辞めてスッキリしたよ」


 なんて上司は言っていたが、この一件で仕事のやる気は消えた。


「私も辞めますね」


 これで上司のワンオペ業務が決定した。嬉しい。本当の人手不足になりそうじゃないか。


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