ギフテッド一寸法師の上司
夏休み中、テレビドラマを見た。絵の才能がある障害者の話だった。周囲の偏見や差別に耐えながら、それでも夢を見ている障害者の姿。目頭が熱くなって仕方ない。
「すごいよな。福祉作業所でこんないじめを受けているのに、絵を描くことを諦めないなんて……」
気づくとティッシュを何枚も使ってた。涙、全然止まらない。感動した。良いドラマだった。
俺、涙脆いんだ。こういうドラマとか漫画とか超弱い。猫とか動物も好きだし、音楽も好き。ちなみに俺は地元の連中と「四露死苦the天使参上!」というバンドも組んでメジャーデビューも目指していた。ま、今は音楽活動の資金を稼ぐため、絶賛バイト生活だってわけ。
「よし、バイトもバンドも頑張るぞ!」
そしてとバイト先の飲食店のバイトへ向かった。チェーン店のファミレスで、二十四時間営業。俺はそこの厨房で洗い物係。皿洗い機もあるが、その前に軽く水洗いする作業や残飯をまとめる作業もある。昼や夜のピーク時は大変で、人手も全く定着しない。
「鈴木くん、君は二年もうち働いてくれて嬉しいよ。どうか、契約社員にならないか?」
いつものように更衣室で着替えていただけなのに、店長から提案された。店長、マッチョで強そうだし、断りにくいんだよなぁ。男って結局、力の強いヤツには逆らえないから。
「どうかい? 給料も上がるし、有給もあるぞ」
「いや、でも店長……」
だったらバンドはどうなるのか。せっかくメジャーデビューを目指しているのに。
「とりあえず、生活を安定させてから夢を叶えたって良いじゃないか。ほら、ヒカキンとか有名人だって売れる前は社員やってたよ」
「た、確かに……」
音楽は金がかかる。楽器はもちろん、練習スタジオ代だってバカにならない。良い曲を作ったとしても売れるとは限らないし、先輩は資格をとって今は開業していた。
揺れてる。正直なところ、心のどこかではメジャーデビューできるかギャンブルみたいだと思ってもいた。二心だ。口ではメジャーデビューしたいと言いながら、グラグラしてる。小さなライブハウスで内輪ノリしているのも嫌いじゃないんだ。叩かれたり、アンチがいるリスクはなく、いつまでも夢だけは見られるコンフォートゾーン。
「それに新しいバイトも入るんだよな」
「へえ、今度はすぐ辞めないと良いですね」
「いや……」
新しいバイトの話になると、店長は歯切れが悪そうだった。なんでも障害者雇用らしい。制度上、雇わないといけない。一方で国からお金も入るので、悪い話ではないというが。
「正直さ、合理的配慮とかわからん。面接では通院時や忙しい時にパニックにならないようにフォローして欲しいとか言われたがな」
ますます歯切れが悪い店長。でも、俺の頭には例のドラマのイメージしかない。きっと健気に頑張ってくれるんじゃないか。そもそも俺、障害者の知り合いや友達もいないし、ドラマのイメージ以上に知識もない。
「まあ、大丈夫っすよ。俺が新入りの指導しますよ」
「じゃあ、契約社員の話もオッケーで?」
「そうですね」
話の流れで結局、契約社員になることに。バンドのメンバーは意外にも好意的。というか、ドラマが彼女を妊娠させてしまい、脱退した。新しいドラムも見つからないし、バンドの熱は急激に冷えていた。
「初めまして。よろしくお願いします」
そうして新入りが入ってきた。身体が小さい男だ。顔つきも幼い。俺と同じぐらいの年齢だったが、小学生みたいな佇まいだった。それ以外の見た目は普通。
「僕のあだ名は一寸法師って言うんです。一寸法師と呼んでください」
それにユーモアもあるし、コイツとなら上手くやれそう。そんな気がした。ドラマでも障害者は一生懸命、頑張っているし。何か天才的な才能もあるかもしれないし。
実際、一寸法師くんの仕事ぶりは悪くない。言われた通りに黙々と仕事をこなすし、特に問題は無さそう?
ただ、忙しい時はかなり焦っていた。皿を割るし、食洗機の扱いも雑だ。
「あー、もう!」
髪を掻きむしりながら、イライラしている時もあった。
「おいおい、一寸法師くん。落ち着けって。今日は祝日で特にお客さん多いだけだ。とりあえず、息しろ」
なんて言う俺も忙しい時は余裕がない。確かに一寸法師くんは無能とも言えないのだが、これといって有能ともおえず、特に忙しい時は感情的だし、かえって邪魔くさいというか足手纏いに感じるようなことが増えた。
「店長ー、別に一寸法師くんって悪いヤツじゃないと思うだけど、正直、ちょっとイライラするというか」
更衣室で店長に愚痴ってしまった。
「もう少し仕事もテキパキやってもらいたいというか。もくもくやってくれているのは良いんだけど、それだけっていうか。指示待ちなのも察しが悪くて。空気が読めないっていうかさぁ」
しかし店長はろくに取り合ってくれない。現場でなんとか教育してくれと言う。
「そもそもアイツ、ギフテッドとか天才じゃないんですかね? ピュアって感じでもないし。どうも障害者のイメージと違うような気がするんですが……」
ここで店長、口元に指をたてて「シーっ!」と言う。まさか今の俺、何か問題ある発言だった?
「まあ、障害者といっても人それぞれ。天才もいれば無能もいる。それは我々でも同じでしょう?」
「そうっすね、店長。努力が必ず結果になるわけでも無いですしね。人類ってそういうもんか」
バンドをやっていた俺は店長の言いたいこと、よくわかってしまった。
結局、ドラマーが見つからず、バンドは活動休止となってしまった。ベースが実家を継ぎ、ギターは難関資格を目指すらしい。ボーカルの俺はこのまま契約社員として働くことに決めた。
「あぁ、もう一寸法師くん! もう少しテキパキと動いてくれない? 仕事なんだからさ。みんなと同じように動いてくれよ!」
忙しい時は一寸法師くんに怒鳴ってしまう。イライラする。本当はこんな飲食店の仕事より、ステージでスポットライトを浴びたかった。
「は、はい……。わかりました」
なぜか一寸法師防止くんも俺と似たような目をしてる。不満で仕方ないって目だ。彼も本当は何かやりたいこともあるのかも知れないが、どうでも良いか。今はとにかく仕事をちゃんとやって欲しい。




