第67話:で、約束ってわけ
「うん、よかったねー!」
「それもこれも全部まゆさんのおかげです!!」
電話を終わらせて、まゆさんに感謝の気持ちを伝える。
よかったぁ。誤解、というかちゃんと自分の言いたいことが言えたのは間違いなくまゆさんのおかげなわけで。
これからちゃんと尊花さんとの関係を考えなきゃいけないけど、関係が続く予感がして、わたしにとっては革命的瞬間だった。
というか、ここまでのことをしておいて、まゆさんはまだ「ほっておけない」からわたしと居るのだろうか。
わ、分からない……。
そうなのだ! まゆさんの考えていることも分からないのだ!!
「うんうん!」
「……えーっと」
「ん?」
彼女の無邪気『そうな』笑顔が今は怖い。
何を求められるのか、わからないからだよ!!!!!!!
この前はお風呂に入ったし、一緒に添い寝? も気絶している間にした。
じゃあ今度はいったい、何を求められるんだ?!
でも総じて言えるのは……。
ぺたっ、という情けない音を立てて、自分の胸を見た。
わたしが売れるのって、これぐらいですよね。
「な、何がご所望ですか?! わたしにできることであれば何でもしますから! そ、その気になったら体を売るとか……」
「か、体を売るって……」
恥ずかしそうに言われても、何かを求めてきそうな顔してたのはあなたでしょう?!!
「もー、美鈴さんは相変わらずだねー」
「自信のなさと推しへの愛だけが取り柄ですので!」
「じゃあー。今日の始め。お願い事を1つする、っていう約束、覚えてる?」
「え、えぇ……。でも、それはわたしのことを聞かせて、ってことで……」
まゆさんの顔がにこやかになった。
あ、この顔知ってる。わたしを本気でイジろうとしている、悪い子まゆさんの顔だ。
「でも美鈴さんにできることなら、何でもするんだよね?」
「うぐっ!!!!!!」
相沢美鈴、一生の恥(本日2回目)
気軽なノリで何でもするとは言ってはいけない。
誰かと付き合うにしろ、知らない人に付いていくにしろ、この言葉は今後二度と使わないようにしよう。
「え、っと……。お手柔らかに……」
「うん、じゃあー……。ベッドに、行こっか」
ナ、ナニされるんですかわたし?!!!!
◇
「あ、あの……」
「なーに?」
「ひとつのベッドで向かい合って一晩寝てほしいって、それだけでいいんですか?」
まゆさんのお願いは以前にもしてきた、弥生まゆ抱き枕ホールドよりは少し優しかった。
ひとつのベッドで、向き合いながら一晩寝る、というもの。
これだけでも正直恥ずかしいんだけど、お手々を繋いで、というのもポイントだ。
緊張で夜はもう眠れないかもしれない。
「それだけー、って。美鈴さんも随分と慣れてきたねー」
「な、慣れてないです!! 今にも気絶しそう……」
「あはは。じゃあ手加減してあげないと、だねー」
これ以上をしようと思っていたのか、この小悪魔は。
いい子だったまゆさんはどこに行ってしまったのだろう。
帰ってこーい、いい子まゆさーん! わたしの命がもたないよー!
「そ、それにしても暑くないですか? クーラーつけましょうか?」
「今日だけだよー。いいでしょー?」
暗闇だから薄ぼんやりとしか見えないけど、月明かりに照らされたまゆさんが夏の優しい風のような心地いい笑みでわたしを見つめる。
そ、そんな顔で言われたら、今日だけならいいか、ってなっちゃうよ……。
「ま、まぁ。今日はまゆさんの奴隷ですから」
「えへへ、美鈴さん買っちった」
「あのアニメ見たんですか?」
「うん、ちょっと前に友だちの家で」
そうだよなぁ。まゆさん、何故かわたしと尊花さんのグループに居るけど、学校ではわたしたち以外にもたくさんの人と友だちになっている。
わたしとはスキマ時間を利用して、一緒に話しているけど、やっぱりコミュ強なんだもんなぁ。
「あぁ言う風に、自由に色んなところに行けたらいいのになー、って」
「まゆさんって門限そんなに厳しかったでしたっけ?」
「うーん、と言うよりも怒られないように勉強してるー、とか嘘ついて」
「悪い子だぁ」
「えへへ~」
家ではいい子を振る舞っているから、自由に縛られずに、どこかへ行くってことができないんだ。
それは確かに窮屈だなぁ。
「まゆさんね。高校を出たら一人暮らししようと思ってるの」
「わぁ」
「見知らぬ土地で仕事とか家を探して、両親に縛られずに生きたい。って、なんか青臭いかな?」
まゆさん、まだ高校1年生なのにそんなことまで考えてたんだ。
わたしなんかゲームとアニメのことしか考えてなかったのに。なんだか……。
「すごいなぁ」
「え?」
「まゆさん、しっかり未来を見据えているんだなぁ、って素直に感心しちゃって」
「……えへへ」
今度は遠慮したようにハの字の眉が笑う。
まゆさんは本当にすごい。将来の夢があるし、自分の意見も持ってるし。それにわたしのことを励ましてくれた。
わたしなんかより、いっぱい大人だ。
だから、ちょっと気になったことがあった。尊花さんと同じく、どうしてわたしのことをほっておけないのだろうか。
「まゆさん、今日は本当にありがとうございました」
「ううん! わたしがほっとけなかったからだよ」
「…………どうして、なんですか?」
「え?」
どうして、わたしのことをほっておけないんですか?
それは尊花さんの告白前のフィルムを焼き回した感覚。
「今日のことは嬉しかったんです。過去を否定してくれて、尊花さんと仲直りできて。でもまゆさんのことはまだ聞いてなくて……。どうしてなんだろう、って思って」
しばらくの沈黙。
それが何を意味するのか、鈍感でニブチンで、何事においても自分を除いていたわたしでも分かってしまった。
「ほっておけないのはね、まゆさんも美鈴さんが好きだからだよ」
あまりにもあっさりと。でも真剣に口に出された2度目の告白は、まだ気楽だったけど……。
けどさぁああああああああああああ!!!!!
「ま、まゆさんもですか?!!」
「えへへー、好きだよ。だぁいすき!」
「ふ、ふたりとも、わたしのことなんかなんで好きなんですか」
「ふふふ、なんでだろーねー?」
「まゆさん!」
クスクスと笑うまゆさんが目を閉じた。
え、もしかして今からキスとか? いやいや、唐突すぎでしょ! そ、そんなの……。
「おやすみー」
そんなのはなかったらしい。
散々弄り倒したわたしのことを、肝心なところで放置して、まゆさんは寝落ちした。
もちろん目の前にいる状態で!
もう、意味がわからなさすぎる。散々振り回して自分は寝るなんて、本当に悪い子だ。
わたし、今どんな顔してるんだろう。
気持ちはさっきよりも楽だったけど、息苦しさは今まで以上。
きっとりんごみたいに真っ赤なんだ。耳まで赤面してる。
今夜は、なんというか寝れなさそうだなぁ……。
あと1話で4章も終わりです




