第68話:なんだかんだ言って、夏休みはまだ続く
翌日。なんやかんや誤魔化して、喫茶店にやってきた。
目的はこのお店のコーヒー、ではない。
カランカラン、とやってきた知人に手を振る。
ちょっと古めかしい、アンティーク調の椅子に座り、お冷を一口飲む。
そりゃあ暑かったよなぁ。うんうん。
彼女は適当にアイスティーを注文して、ひと段落。
そんな人に、わたしはこう言った。
「わたし、モテ期来たかもしれません……」
「はぁ?」
赤い髪の彼女、馬場鈴鹿さんに向かって、わたしは深刻そうに自慢した。
「どした、急に。アタシを呼びつけてそれってマジ?」
「いや違うんですよ!! 相談するアテがなくて……」
だって相談役代表筆頭の尊花さんとまゆさんに関しての話なんだから!!!!
響さんはこれっぽっちも興味なさそうだし、万葉さんはわたしが男の人苦手だから論外。
ならどうなるって、鈴鹿さんしか相談する相手がいないのだ。
「尊花とかまゆはどうなんだよ。アイツらならノってくれるだろ?」
「その尊花さんとまゆさんに告白されたんです……」
「は……?」
鈴鹿さんは固まった。
目をかっぴらいて、口を半開きにして。
後ろに宇宙が見える気がする。宇宙鈴鹿さんだ。宇宙バカだ。
「は? え? 尊花と、まゆに?」
「は、はい……」
一瞬目がぐるった。気がした。
そりゃそうもなるよね。わたしだって、それが全部先日の出来事ですなんて、前世の自分に言ったら白目剥いて気絶する自信ある。
かたやクラスの委員長で、アイドルみたいな存在。
かたやゆるふわで男性人気一番の美少女。
それを元アイドルで陰キャのわたしがたぶらかしているって言うんだから、顔のチカラってすげー、よね。
……顔のチカラであってほしいです。
「いろいろツッコミたい所あるんだけど、どこからツッコめばいいと思う?」
「どこからでも」
「どこからツッコめばいいって聞いてるだろ!!!!!!」
鈴鹿さんのバカでかい声が店内に響く。
もちろん喫茶店なので、他のお客さんもいるわけで。
マスターに静かにしろと、唇の前に人差し指を置かれたので謝罪。
それから冷静になってどこからツッコんでもらうか悩む。
分からなかった。
「わたしも混乱してて……。ここってあくまでギャルゲーの世界で、別に百合ゲーの類とかじゃないはずなんですよ。だから攻略対象外だった尊花さんはいざ知らず、まゆさんが万葉さんになびかないなんてどうかしていると思うし、同じく攻略対象外で親友キャラだったはずの鈴鹿さんがなんか告白成功してるし、響さんに関しては本当に引きこもっているだけだから、もう何が何だか……」
「アタシが何が何だかなんだが……」
冷静になってみてもおかしいことだらけなんだよ。
なんで相沢美鈴に憑依する形で転生したのか。
なんで尊花さんがわたしを好きなのか。
なんでまゆさんがわたしを好きなのか。
これはもうわたしにモテ期が来たぐらいしか分からなくって。
「まぁ、なんだ。別に女同士なんて今さら珍しい話でもないだろ」
「え、そうなんですか?」
「当たり前だろ。アタシのダチなんか男なんかより、綺麗な女の方がいい、って言っていろんな女をとっかえひっかえしてるぞ」
え。それは人としてどうなの。
「同性愛がどうとか、よくテレビでボーっとしてても流れてくるしな!」
「ちなみに鈴鹿さんはいざその矛先になったら?」
「相手による!!」
それはそうだけど、そんなあっさりと受け入れなくても。
別にわたしだって百合が行けるか行けないかという話でもない。
興味はあるし、前世でそういう漫画を読んだことだって、星の数は言いすぎだけど、牛乳瓶の1ダースぐらいはある。
でもいざ自分がそういう目で見られていることを意識すると、まぁ。うん。
要するに戸惑っているのだ。
「性別がどうとか言うよりも、一緒に過ごして気が合えば一生過ごしていいんじゃね?」
「なんか、鈴鹿さんなのに賢い事言ってますね……」
「アタシがバカだって言いたいのか?!!!」
また店内に響く声。マスター、お静かにのポーズ。わたしたち謝罪。
次やったら出禁か、土下座かな。
「まぁ、オマエよりは対人経験豊富だからな!」
「ぐっ!」
陽キャに煽られた。鈴鹿さんのポイントマイナス5。
しばらく味わってなかったけど、シンプルに煽ってくるの腹立つな。
「で、返事はどうするつもりなんだ?」
「それなんですよねー」
尊花さんとまゆさん。どちらも接していて、素敵な相手だと思うし、わたしだって好きだって胸を張って言える。
でもそれは友だち、推し友だからであって、恋愛対象として見ることはまだできなくて。
きっと楽しいと思うけど、それと同時にどちらかの好意を捨てなければいけないということを含めてしまうと、やっぱり恋愛なんてしたくないなぁ、って考えてしまう。
「正直。いろいろ考えても、結局どちらかだけを選ぶなんてことはしたくないんですよね」
「オマエ、ダメで優柔不断な浮気彼氏みたいなこと言うな」
「ク、クズと一緒……」
た、確かに、どちらもキープしておきたいのは事実で。
でもどっちとも裏切りたくなくて……。
うーん、確かにクズかもしれない。
ダメ女からクズ女に昇格かぁ……。何かガチャ石のボーナス貰えるかな?
「いっそのこと、どっちとも付き合うってのは?」
「流石に……」
「ぶっちゃけオマエら3人なら何とかなりそうだけどな」
容易に想像できてしまうのは確かにそう。
友だちみたいに3人でデートしたり、海に出かけたり。
それから旅館に泊まって……。うん、普通に妄想できるなぁ。
やっぱり尊花×まゆかな。
「キモ……」
「なんですかぁ。万葉さんとイチャイチャしてる時の鈴鹿さんだって、だいたいこんなニヤケ顔ですよ」
「うえぇ……」
いろんな可能性はある。
尊花さんと付き合う未来。
まゆさんと付き合う未来。
それから、誰とも付き合わずお友だちとして。
あとは……。3人で付き合う未来も。
あのカミサマはハッピーエンドになるなら、どうしてもいいとは言いそうだ。
今度呼び出したら聞いてみようかな。
そんな感じで、相談しつつ、時には万葉さんとの恋人生活をほじくりながら、わたしは帰路についた。
依然として暑い。太陽が西に傾き、もうすぐ夜が訪れるんだろうなぁ、とぼんやり空を見る。
まだまだ夏休みはあるのに、濃厚な瞬間を切り取っていた。
これが俗に言う青春というものなのだろう。わたしが取り損ねたひと時。
カミサマの気まぐれでここにやってきて、友だちに告白されて、答えを保留にして。
いずれにしても、必ず答えは出す。
曖昧なままなのはお互いにとっても嫌なことだから。
家に着いて、玄関に入る。
今日のご飯はどうしようかな。告白の答えはどうしようかな。そんなことを考えながら。
バタバタと廊下を走る音が聞こえて、半日ぶりの女神の声が笑顔とともに届いた。
「おかえりー、美鈴さん!」
「…………」
「美鈴さん?」
まぁ。どんな答えだとしても、2人が笑顔でいて、わたしも気後れすることなく推せれば、それでいいか!
「はい、ただいまです!」
夏は、まだ始まったばかりなんだから。
4章、終わり!




