レーナの最後
命を狙われ、仕方なく――
そう思うには余りにも、
ほの暗い目で家中を
壊して回った兄を見る。
再び家族に会ってから、
様子が変だと思ってた。
けれどもこんな惨状を
起こすだなんて思わなかった。
息子に毒を注ぐとか、
ナイフを翳して襲うとか、
暗殺しようするだとか、
家族は壊れていたけれど、
兄が殺した。だれひとり
生き残る者はいなかった。
シニスの虚ろな瞳すら
私を責める気さえした。
「この血は血でしか濯げない。
そうでしょ? レーナ、僕たちは
違う。こいつらみたいには
ならないでいよう。約束だ」
穏やかな顔で微笑んで、
兄は私にそう言った。
喉が渇いて開かない。
なにも言えずに黙り込む。
これからの、日々は希望に満ちてると、
信じていたの。――違ったのにね。
この血が血でしか濯げないなら
私がそれをしなくちゃね。
母が落としたナイフを握る
――ごめんね兄さん、許してね。
揺らぐ体を奮わせて、
兄さまに寄る、沈みこむ。
キョトンとした顔、「どうしたの?」
抱き着くように突き刺した。
不意にお腹が熱くなり、
痛くて息もかなわない。
命を失うのが分かる。
「君まで僕を裏切るの?」
「いいえ。愛していますとも。
でも血は血でしか濯げない、
それなら私がしなきゃいけない。
このイオシアの、断絶を」
どうせ明日が来たのなら、
憲兵たちがやってくる。
親殺しなど、とんでもない。
もはや未来はないのですから――。
私の刃は届いたのかな。
損ねた結果が返り討ち
またイオシアがひとり死ぬ。
それでいいんだ、こんな血なんて。
――イオシアの 花の咲く頃、
人々が 忘れた名前に思いをはせる。