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組織凋落の気配

 ボルフを【アナスタシス】から追放して四日が過ぎた。


「おい! どういうことだ!」


 戦闘訓練を監督していた威力部門の長・マサーケが怒声を上げる。攻撃が明らかに弱くなっている。投擲武器の命中率もいつになく低い。


「たるんどるのか!? 最近地獄強化特訓を行っておらんかったからなあ……」


 地獄強化特訓の言葉を聞いて兵士たちは気合いを入れ直すが、依然攻撃は弱く飛び道具も当たらない。


「……ということがあったのだ! 士気が下がる理由もわからんが、他の原因にも心当たりがない! お前たち何か知っとるか!」


 その晩、マサーケは食堂でそのようにこぼした。


「ふむ。いつからそのようになったのですか?」


 書記長ゾーラが興味を示す。


「昨日夕方の訓練のときからだ!」


 ゾーラは魔導手帳を開いた。


「昨日夕方……食事メニューが雨季から夏へ、武具の量産開始、総会の日程発表」


「直接関係しそうなのは武具だが、量産して弱くはならんよの。生産部門が手を抜いたか? あるいは他の二つが士気に影響したか」


「あとメラー師が禁書の閲覧申請を出して却下されました」


「いつものことじゃろ」


 三日前、つまりボルフが追放された翌日、メラーは研究員を連れてその部屋の魔導書を漁った。ボルフは一、二冊を除いて持ち出していなかった。中身を暗記しているからである。メラーはクルグ・トランス著『神秘の零落』を集中して読み始めた。


 難解なその本を読んでいるうちに、メラーの右手が勝手に動いて窓ガラスを割り、破片を掴んで首を切ろうとしていた。割れる音で気づいた研究員が止めたが、それ以降ボルフの部屋の本はすべて禁書認定され、部屋も封鎖されている。

 それからメラーは二日で閲覧申請を二十五回出し、すべて却下された。その上閲覧申請は一日一回という制限を設けられた。


 食堂での話はその後別の話題に移ったが、これを聞いていた研究開発部の研究員がメラー師に戦闘能力の低下について告げた。


 反応は劇的だった。


「そ、それ、それは神秘の零落に書いてあったことだねェ〜!! あ、あの本、あの本を読まねばヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ」


「いけませんメラー先生! 正気を保ってください! 本に何が書いてあったか覚えておいでですか!?」


 それを聞いてメラーは正気に返り(彼のいつもの状態を正気と言うのならの話だが)、思い出して語った。


「ヒヒ……魔法術式をあえて難しく圧縮して書くと、強い効果を発揮することがある。そんな言い伝えは知っているかね?」


「ええ、まあ……」「でも言い伝えでしょう」「再現できた人なんていませんよ」


「クルグ・トランスはこれを認めている! しかも再現できたような書きぶりなんだねェ! この本はその前提の上で、強い効果を発揮しなくなる場合について述べる……例えば多く転写した場合などだと! 深淵だねエー! 魔法は本当に深淵だねエー!」


「じゃあまさか、ボルフがその技術を師であるクルグ・トランスから受け継ぎ、それで我々は強い武装を得ていた? 量産したから弱くなった?」


 研究員たちが顔を見合わせる。


「我々はあの本を読めませんよね。恐ろしすぎますよ」


「甘いねェー! ケン君、甘いよォ! そんなもので好奇心が止まるもんかね! ……だがこの場合我々が読むよりもボルフを呼び戻すのが良いだろう!」


「なるほど……研究開発部から立案してみましょう」


 その翌日のことだ。禁書の件もあり、ボルフ呼び戻し作戦は速やかに実行されることが決議された。

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