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姫様、黒龍が復活しました

ネタバレ:黒龍が復活します。

「姫様。ご報告が」


神殿での職務の合間の休憩時間。

私室のテラスでのんびりと夕焼け空を眺めながらお茶をしていた時、アレスがいつも通りの低めのテンションで声をかけてきた。

せっかくの休憩なのに、と私は小さく息を吐く。


「なぁに。長い話?」

「少々長いかと。ご報告は3つありますので」

「それじゃあ良い知らせからお願い」


良い知らせですか、とアレスは少し考える素振りをみせる。

悪い知らせしか無いらしい。

まあ、内容はだいたい予想出来るけれど。

話す順を決めたらしいアレスが口を開く。


「キリカ国王が本日婚礼の儀を行ったそうです」

「それは良い知らせね」


苦笑してテラスの外に視線を向ける。

断崖絶壁に沿うように建てられたこの神殿のテラスからは、遥か遠くの街まで見渡せた。うっすら見えるその街は、国境ギリギリに位置する場所であり、奥を流れるセセール川が国境線でもある。

まぁ、婚約破棄が無かったらセセール川のさらに奥の土地も我がランゼウム王国の領土になっていたのだけれど。

そこからさらに奥、馬車で3日の距離を進めばキリカ王国王都、キリクがある。

そこにある聖ミレーニア大聖堂で婚礼の儀を行ったとのこと。


「あの茶番劇から半年経ったのね」


あの婚約破棄の話をすると、アレスは険しい顔になった。

自分の主を偽聖女と決めつけられた事に、未だに怒りが冷めないらしい。

その忠誠心は嬉しいけれど、私はもう怒っていない。

だって、これから起こることを考えたら怒りなんて吹き飛んでしまう。


「それにしても前王が崩御され、あのバカ王子が王位についてから半年で結婚とは、思ったよりも早かったわね」


あの2人は後先考えずにすぐに結婚するつもりだったみたいだけれど、さすがに一国の王妃になるための準備が必要だと大臣や貴族達が説得したそう。

あの聖ミレーニア教会が聖女と認めた女性であるとはいえ、ろくに教育も受けていない男爵令嬢のままでは王妃にはなれない。

まずはそれなりの上位貴族の養女になり、そこで王妃教育を行う事になった。

王妃様は数年前に病で儚くなられているから、養家である侯爵家の夫人がみっちり指導をして、人前に出ても問題ないようにする予定だったけれど、あの礼儀のれの字も知らないような娘が半年たらずでまともになるはずもない。

結局は王妃になってから、公務をやりつつ勉強しようという事にしたらしい。

あのバカが王で、王妃もそんな感じ。

キリカ王国の大臣達は大変ね…まぁ、国交も絶ったから私にはあの国がどうなろうと関係がないけれど。


「次のご報告ですが」


紅茶のおかわりを侍女に告げる。

温かい紅茶が注がれ侍女がさがるのを待って、アレスが口を開いた。


「黒龍が復活しました」


淡々と告げるアレスに、私も淡々と答える。


「予想通りね」


黒龍を封じてからきっかり700年。

神殿で神官長様が受けた神託がそのまま現実になった。

数年前、それを聞いた前キリカ国王があわてて聖女である私に王太子との婚約をお願いしに来たのだ。

何故なら、黒龍が封じられていた場所というのが―――


「それで?王宮はどうなったの?」

「全壊したと報告がきております」

「あらら。黒龍が眠る場所の真上に城なんか建てるからそうなるのよね」


700年前。

聖女様が黒龍を封じ込めた後、焼け野原となった土地に人々は王国を築いた。

初代国王ハインリヒ・キリカは、厄除けにでもなると思ったのか、黒龍を打ち倒して建国された国であると示したかったのか、聖女と黒龍との決戦の地に王都を作り、黒龍の眠る地の真上に自らの住まいでもある王宮を建てた。

黒龍がいつか眠りから覚めるとは予想してなかったのだろうか。


「キリカ王をはじめとする国の重鎮達は王宮に居なかったので無事だそうです」

「結婚式に出ていたんだものね」


神託で黒龍が復活すると言われていた日にわざわざ結婚式を行ったのは、私を聖女に選んだ神殿の言うことなど信用していないとこちらにアピールしていたのかしらね。黒龍など復活しないと高を括っていたのでしょう。

皮肉にもそのおかげで復活時の城の崩壊に巻き込まれずに済んだわけだけれど。


「眠りから覚めた黒龍は城を破壊後街を襲ったそうですが、騎士団と教会の神官達が応戦し、どこかに飛び去ったとの事。キリカに潜入している者達があとを追っています」

「ふうん、追い払えたのね。700年も眠っていたから本調子じゃないのかしら。それともキリカの騎士や神官が優秀なのかしら?」

「いえ。王国側は壊滅寸前です。追い払ったのは我らの手の者ですので」

「あら。見張りと調査を命じていただけなのにキリカに手を貸してあげてしまったの?」

「民の犠牲を減らすためです。それに、姫様は初めからこのために彼らをキリカに置いていたのでしょう?」


アレスは何故だか得意気に微笑んだ。

全てお見通し、みたいな態度をされるとなんだか面白くない。

確かに、別に民に恨みはないし、王都を見張らせていたら勝手に助けるだろうとは思っていたけれど。


「…それで?戦闘を指揮した王や大臣達は無事なの?」

「残念ながら…」


アレスは悔しそうに唇を噛み締め、呻くように言う。


「ぴんぴんしてるそうで…!」

「良かったじゃない、結婚初日に死ななくて」

「そうですか…あ、ですが、あの小娘は怪我を負ったそうです」

「小娘って…一応、王妃に向かって貴方は…まあ、いいけれど…」


シャリアは聖女の祈りの力でもう一度黒龍を眠らせよと王に命じられ、ウェディングドレスのまま黒龍の前に連れていかれた。

聖女といっても教会の行事に着飾って出席したり、教会に多額の寄付をした貴族の怪我や病気の治療をしたりといった事しかしてこなかったシャリアが、どうやったら黒龍を眠らせられるのかなんて知るはずもない。

とにかく教会にある聖ミレーニア像のポーズを真似て祈ってみたり、光魔法で攻撃してみたり、泣いたり喚いたり色々とやってみたものの、ほとんど効果も無かった。

むしろ中途半端に攻撃なんかしたものだから黒龍の怒りを買い、ブレス攻撃を食らった。幸い、近くにいた騎士に庇われたおかげでちょっと火傷した程度で済んだそうだ。


「自分の愛する妻を黒龍の前に引き摺り出すなんて、あのバカ王最低ね」


しかも自分は無傷。

キリカ王(あのバカ)は、聖ミレーニア教会の聖女とはいえ本当にシャリア1人の力でなんとかなると信じて黒龍と対峙させたのかしら。

愛する妻を危険な目に合わせて自分は安全な後方で見物でもしていたのかと思うとシャリアに同情してしまった。

あの婚約破棄の日のシャリアの無礼な態度はもう水に流してあげよう。

それに彼女が悪い人間ではない事は知っている。

…礼儀はなっていないけれど。


「さて、それじゃあ最後の報告は?黒龍復活よりも悪い知らせとは何かしら?」


アレスは心底嫌そうな顔をしてから、吐き捨てるように言った。


「キリカ王が姫様に会わせろと神殿に来ています」

お読みいただきありがとうございます。

次回は別の人物視点の予定です。

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