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買った屋敷を魔改造


 一つのギルドにつき、一件だけ購入が許される《ギルドハウス》。

 ギルドメンバーだけが中に入れたアイテムを共有できる《ギルドボックス》。ギルドメンバーだけが100を越えるマップから瞬時にギルドハウスへ帰還できる《ギルドの羽根》。ギルドメンバーだけが採掘・栽培できる《ギルドファーム》。

 etcetc...。

 ギルドに所属するプレイヤーの拠点に使われるそれは、様々なクリエイティブ要素の注ぎ込まれ、まさしく『帰るべき場所』と呼ばれるに相応しい性能をしていた。

 ただし、ギルドハウスの価格はそれ相応で、課金して入手しようとしたら一括20万円。ゲーム内マネーで買おうとしたら50M。

 真面目にゲーム内マネーで買おうとした場合、『一番金銭効率の高い狩り場』というモンスターの狩り場を紹介するサイトによると、一人でやろうとしたらおよそ2年はかかるらしい。


『やっべぇ遂に買っちまったな!』

『みんなでコツコツ貯めて来た甲斐があったってもんよ』

『やりぃ』


 しかし、彼らはリアルフレンドであったのが奏功した。

 VCボイスチャットで会話する三人は、同い年で花盛り真っ盛りの男子高校生。お金に関してはルーズなような、シビアなような年齢だったが、友達同士でのお金の貸し借りも頻繁に行われる、大変仲の良い間柄であった。

 『みんなで買った』という発言からも分かるとおり、この三人の男子高校生組が、リアルマネーを出し合って買ったのだろう。


『半年で買えちまうとはなぁ……』

『まぁ、資金の半分は○○がオンラインポーカーで稼いでくれたからね。感慨深いようなそうでないような』

『元手は20$。今は3050$』

『○○だけ一人で稼ぎすぎなんだよなぁ……。俺だって家庭教師のバイトした金、少しは入れたんだぜ!?』

『それは感謝してる。この中で一番俺が貢献してないだろうからな。うん』

『自慢げに言うな!』

『おっ、大丈夫か大丈夫か』


 お互いの生々しいリアルをぶつけながらも、自分達のギルドハウスの前にキャラクターを座らせ、この半年間の思い出に浸っていた。


『○○、お前、最近喋り方がチャットに似てきたな』

『え、マジかぁ……。自覚なかったけど、僕そんな喋り方してた?』

『してたよ。流石に学校じゃしてないけど、一緒にゲームしてるとたまーにね』

『あぁ。特に初めてVC繋ぐ人の前だとな』

『うーん……。言われてみれば、喋り方をチャットの方に寄せようとしてたかも』

『でも俺達も学校とかでスラング使ってるし、似たり寄ったりだな』


 ゲームの中では、少年の友達が操作するキャラクター『moka☆』がうんうんと頷く動作をする。

 彼は「おっぱい大きい子が好き。おっぱいのサイズが正義」と公言するくらい、胸が大きな女キャラが好きなのである。

 故に、彼の操作するキャラクターもまた、胸を大きくさせたキャラクターメイキングであった。友人は苦笑していたが。

 ちなみに少年は、RPGなどは自分自身を投影させてストーリーを楽しむタイプなので、自分に似通った背のちんまい童顔キャラクター。

 もう一人の友人はトランジスタグラマーが好みなので、性能よりも見た目を重視した、露出の激しい衣装の巨乳ロリだ。


『つーかさ、そんなのどうでもいいから早く中入ろうぜ!』

『賛成』


 痴女巨乳ロリの友人に誘われ、少年はギルドへと入っていった。ゲーム内でなければ、犯罪のワンシーンか、エロ漫画の導入部分に見えなくもない絵面である。


『あーちょちょちょ、俺も混ぜてよー! 混~ぜ~ろ~よ~』

『早く来いよ』

『あくしろ』 

『せっかちだなぁモマエラはよぉ。そう言えば、ギルドアイテムとか買った?』


 moka☆がVC越しに聞く。

 ギルドの内装は最低限の家具が備えられているが、《ギルドボックス》などのギルドメンバーに有用に働くハウジングアイテムなどは、鍛冶・裁縫・木工などの生産スキルプレイヤーに頼むか、運営からリアルマネーで買わなければならない。


『買ったよ』


 少年は即答した。

 先日、課金アイテム画面をスクロールする中で、彼はあるアイテムが目に止まった。

 そのアイテムがあったら、草臥れた日常がどんなに素晴らしく彩られることだろうか。

 ログイン・ログアウト時に必ずギルドに帰ってこられるか。

 昔懐かしいノスタルジックな気分に浸れるか。

 wikiで調べれば調べるほど彼の購入欲求は掻き立てられ、気づけばギルドを買うより早く、そのギルド専用アイテムを買っていたのである。

 ハードウェアを買う前にソフトウェアを買うような、待ちきれなくて少年心剥き出しにして買った、そのアイテムは――――。







 彼がこの屋敷を欲しがったのは、かつて仲間と買った『ギルドハウス』に酷似していたからだ。

 この屋敷を手にすれば、スキル制ゲームで遊んだ日常を、学校でゲーム話に華を咲かせた友人達を、全てを忘れずに済む。

 少年は全てを引き替えにしても、この屋敷が欲しかった――――。


「~♪」


 取引から一日経つと、少年はジェーンからお屋敷の所有権移転登記……のような書類にサインし、鍵束と現金で500万ルピを受け取った。

 ミスリルとお屋敷のレートが釣り合わなすぎたため、誠意の表れとしてお釣りを彼に手渡したのだ。

 現生を手にした少年はひがな御機嫌だった。

 レアアイテムの物色もできるようになったし、この世界特有の格好いい洋服だって買える。いつもみたいに鬱陶しくマリィに絡まれても笑顔で対応するレベルだ。

 そして今は――――。


「あ……あぁ……サイコー……」

「ねぇローナ、私夢でも見てんのかな~……小さな箱から音楽が聞こえてくるんだけど……」

「夢ではありませんよ、私にも聞こえますから……。少年さん、これは何でしょうか?」

「この曲のタイトルは『夢の彼方』。○○社のRPG代表作である『Warrior』ってゲームの、最初の町で流れる音楽で有名だね。開発した会社と『スキル制ゲーム』が同じゲームだから収録できたんだ。ギルドハウスで必ずこの曲を聴いてから狩りに行くのが僕のルーティンだったんだぁ……。あぁ……サイコー……!」

「へぇ~……」

「すみません少年さん。何を言っているのか分からないんですが……」


 暖炉付きの居間に設置された、フワッフワのソファに深々と座り、ハウジングアイテムの《ギルド・ミュージックボックス》から流れる、ほのぼのとした癒される曲調の音楽に骨抜きにされいる。

 彼が買ったギルドのハウジングアイテムがこれ。

 スキル制ゲームを開発・運営をした会社のゲームBGMを、ギルドハウス内で流せるアイテムだ。

 そして饒舌になったかと思えば、今までこれっぽっちもしなかった身の上話を始めた。

 それくらい彼は上機嫌であった。

 マリィは、滅多にしない少年の『自分語り』を聞き逃さないよう、意味が分からずとも一言一言を脳内メモリーに保存していたが、ローナはやはり少年の言う言葉が理解できないようで困惑している。


「……あそうだ」


 曲が二週目に突入すると、少年は何かを思いだしたかのようにアイテムカバンに手を突っ込んだ。

 しかし、カバンから何かを取りだそうとモゾモゾしていたが、ピタリとその動きは止まる。


「……少年さん、どうかなさいました?」

「二人とも着いてきて」

「はぁ……着いて来いと言われれば着いていきますが……」

「なになに、また何か面白いの見せてくれるの~?」

「……」

「少年クン無言に切り替えるの早くない!?」


 少年はアイテムカバンに手を突っ込んだまま立ち上がり、スタスタと居間を後にした。二人は物言わぬ少年の後ろをテクテクと着いていく。

 やがて少年は、ギルドの一番奥にある一番広い客間に着くと、アイテムカバンから何か大きな物体をむんずと掴んで引っ張り出し、部屋の中心部分にドスンと屋敷を揺るがしかねない音を立てて置いた。


「え、ちょ、ちょっと!? え!?!!?」

「な、何ですかそれ!?!? 少年さん、どっから出してるんですか!?!」

「アイテムカバンから」


 並々と注がれたお湯からは湯気が立ち、仄かに漂う木の香りに、ミネラル溢れる匂いもミックスされたその匂いは、嗅いだ人々を落ち着いた気分にさせてくれるリラックス効果があった。

 チョロチョロと、檜の枠組みに設置された湯口から際限なく流れるお湯に、どこから源泉を引っ張ってきているのかと突っ込みが入りそうだ。


「~♪」


 少年は先ほど居間で聞いていた音楽を口ずさみながら、お湯の温度を手で確かめる。

 それはまさしく――――ハウジングアイテムの一つ《檜風呂》であった。


「~♪」


 更にアイテムカバンから、これまたハウジングアイテムの《マッサージチェア》をドン!と檜風呂の真横に設置した。

 《檜風呂》と《マッサージチェア》は、ギルドメンバーだけが使用可能なハウジングアイテムで、それぞれ1分間につきHP・MPの最大上限が10ずつ増えていき、最大で『HP・MPの最大値が100』も伸びるギルド必須アイテムだ。最大値上昇の持続時間は1時間なので、金策・ボスツアーに行くときは必ず使う。

 風呂とチェアのバフは個別に計算は行われず、同じバフ扱いなのでどちらかあれば充分なのだが、少年は両方とも気に入っていたので購入していたのである。

 実装当初は「普通どちらも、戦闘から帰って来てから疲れを取るために使う物では?」という意見がユーザーからあったのだが、それも遙か昔、懐かしい話しだ。


「もう驚かない……。もう何しても驚かない……。落ち着け、落ち着くのよ私……今までだって何度もスルーできたじゃない……」

「あ、あわわわわ……あわわわわ……」


 自己暗示をかけるように自分に言い聞かせるマリィと、空いた口が塞がらないローナ。


「~♪」


 そんな二人に追い打ちを掛けるように、少年は最後にアイテムカバンから《冷蔵ショーケース》を取り出した。中身は、コーヒー牛乳やらミックスジュースやらビールやら、豊富な種類の飲み物がキンキンに冷えている。

 《冷蔵ショーケース》の効果は『特にない』。繰り返すが『特にない』。

 ここはゲーム内ではないので、中身の飲み物は取り出して飲める。その癖、アイテムカバンにしまえば中身が補充される便利アイテムだが、スキル制ゲーム内では実用性のない、ただの観賞用アイテムである。


「……」

「……」


 驚きすぎて、二人は茫然自失。

 こうなってしまうともうファンタジー異世界のお屋敷もへったくれも無い、ただの温泉施設の出来上がりだ。

 一つだけ、少年が気に入らない点があるとすれば、屋敷を改装する技術がないので、その場その場の思いつきでやってしまうと御覧のように、温泉と食事所と休憩所が全部一緒になってしまうところだ。

 彼としても、外観と内装は一致させたいのだ。

 それだけが心残りだが、少年は早く風呂に入りたくてウズウズしていたのだからしょうがない。


「少年クン……少年クン!!!!  私もう限界!! そのアイテムカバンの中身、お姉さんに見せてくれる!!?」

「いいよ」

「え、いいの!? じゃあ貸して!!!」

「ほい」


 少年のやることなすことに慣れるため、ここ数日はスルースキルを発揮してきたマリィだったが、明らかにサイズオーバーの《檜風呂》をアイテムカバンから取り出したことで、スルーメーターが吹っ切れてしまい、ついでにその後の《マッサージチェア》《冷蔵ショーケース》で、頭のネジも一本二本吹き飛んだようで、やたらハイテンションで少年にアイテムカバンを要求する。


「ほい」


 少年も少年で、アイテムカバンの中身は所持プレイヤー以外は取り出せない仕様のため、何の警戒心もなくマリィに渡した。

 案の定、マリィはバッグの中を探るが空っぽ。ひっくり返して上下に振るが何も出てきやしない。


「あれ!!!? 少年クン、何も入ってない!! 入ってないよ!!!!」

「……」

「さっきのどうやって出したの!!? どうやって置いたの!!??」

「……」

「ローナもカバンの中確認してみて!! 手伝って!!!」

「……」

「ローナってば!! ちょっとローナ!!!!」

「……」

「あれ……ローナ……?」

「……」

「た、立ったまま……だと……」


 驚きすぎて茫然自失――――。

 一張羅のシスター服がお風呂の湿気にやられてしまうのも気にせず、ローナはその場に立ちつくした。

 ポケーッと口を開き、目の焦点は虚ろ。ただ意識はあるようで、たまに口から「……ぇ……」と蚊が鳴くように声にならない声が零れる。


「ちょちょちょローナ、大丈夫!?」

「マリィさん……これは夢でしょうか……」

「私も同じもの見てるから現実なの! て言うか、さっきも居間でこのやり取りしたでしょ!」

「マリィさん……少年さんは……何者なんでしょうか……」

「私が知りたいわよそんなの!」


 マリィは半ギレでローナの肩を揺さぶり、現実へと引き戻そうとする。

 彼女は少年とこの町に着くまでの旅路で、幾度も幾度も「少年クンはどこから来たの~?」「スキルって何かな~?」「《市民:Lv0》なのにどうしてそんなに強いの~?」と、衣服をはだけさせる色仕掛けを駆使し、少年の経歴を聞き出そうと四苦八苦していたが少年は黙り。実りある返答は一つとしてなかった。

 マリィの優れた容貌と、出るところは出て引っ込むところは引っ込むスタイルがサッパリ利かないため、彼女は自分の美貌に自信が無くなるのと同時に、少年のホモ疑惑が高まっていた。


「私……少年さんが王族に見えてきました……」

「そんな訳無い……とは言い切れないけど、別に王族でもよくない?」

「蘇生薬はタダでくれるし、ミスリル鉱石をポンと手放してしまいますし、お風呂やら見たことない家具まで一瞬で用意してしまいますし……。そもそも《ヒーラー》を名乗れるようになるのが蘇生魔法を使えるようになってからって……私の存在意義って何なのでしょう……」

「ちょ、ちょっとローナ!? 段々自分見失ってない!?」


 それはそれとして、今はローナの自我が崩壊しかけているので、これ以上の少年の奇行を止めるのが先である。


「ちょっと少年クン! ローナが大変――――」

「Foooo……! 風呂サイコー……!」


 この一瞬の騒ぎの間に、少年は別室で、夏イベントでもらった、スキル制ゲームのロゴと『9周年記念!』と書かれたクッソださいサーフパンツに着替えており、頭の上にタオルを乗っけて悠然と《檜風呂》を満喫していた。

 そう、肩まで浸かってゆっくりと――――。


「――――んもおおおおおぉぉぉぉ!!! 少年クンマイペースすぎいいいいぃぃっ!!!!」

「牛かな?」

「人だよ!」

「はい……ローナは薄汚い雌牛です……」

「人だようッ!!」


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