コント集37
コント集37
361・・言い方
362・・・聞き方
363・・・ゲームは一日
364・・・裸の王様
365・・・仕事
366・・・演劇的国語
367・・・荒れてる息子
368・・・Sクラス
369・・・出汁
370・・・本物
『言い方』
・登場人物
小川(大学生)
儀間(大学生)
・舞台
食堂
明転。
食堂。テーブル一つに椅子二つ。テーブルの上にはプレートに乗った食器。
小川、儀間、板付き。
小川「あー。彼氏欲しいー」
儀間「作れば良いじゃん」
小川「作れたらこんなに苦労はしないんだよー」
儀間「まぁ、そうねー」
小川「私のどこが悪いんだろう……盛り上げ役には持って来いな性格だと自分では思ってるんだけどなぁ……」
儀間「器用貧乏なのにねぇ」
小川「芸達者って言ってくれる?」
儀間「あ、そうか」
小川「顔は美人じゃないけど、性格で可愛いように見せるようにはしてるんだけどな……」
儀間「八方美人だからね」
小川「愛嬌があるって言ってくれる?」
儀間「あ、そうか」
小川「まぁ強いて言うなら、自分でもちょっとブラブラし過ぎかなとは思うけどね」
儀間「勝手気ままだもんね」
小川「自由奔放って言ってくれる?」
儀間「あ、そうか」
小川「あのさぁ?」
儀間「何?」
小川「もっとこう……言い方をさ……?」
儀間「言い方?」
小川「もっとこう……何て言うんだろうな……?配慮?が欲しいなって」
儀間「配慮?何に?」
小川「私に対して」
儀間「……あー。そういう事ね?分かった。ごめんね?」
小川「いや、分かってくれれば良いんだけど……」
儀間「豆腐メンタルだもんね」
小川「繊細な心の持ち主って言ってくれる?」
儀間「あ、そうか」
小川「だからさぁ……そういうところだよ?」
儀間「何が?」
小川「アンタも彼氏が出来ない理由」
儀間「それは別にいなくても生きていけるだけの自信があるだけ」
小川「自分を過大評価し過ぎでしょ」
儀間「でも事実だし」
小川「そうやって自分だけ上にするのズルいわー」
儀間「だって頭脳明晰、スポーツ万能の天才ですから」
小川「自意識過剰だって言われない?」
儀間「何でも言い切っちゃえば通るもんだよ?」
小川「カッケェ……」
儀間「ってかこの前も彼氏出来てなかったっけ?」
小川「あぁ、北島君?あの人はちょっとねぇ……」
儀間「まぁ分かるよ。優柔不断だったもんね」
小川「優し過ぎるって言ってくれる?」
儀間「あ、そうか。で、その前にも付き合ってた人いたよね?」
小川「あーっと……藤原君と枝村君と西岡君?」
儀間「そうそう。その三人はどうだったの?」
小川「まず藤原君なんだけどねぇ……ちょっとチヤホヤされ過ぎたっていうか……」
儀間「浮気癖が酷かったとか?」
小川「モテ過ぎって言ってくれる?」
儀間「あ、そうか。で?枝村君は?」
小川「枝村君はねぇ……ちょっと筋肉つけ過ぎというか……」
儀間「筋肉馬鹿だったのか」
小川「ストイックって言ってくれる?」
儀間「あ、そうか。で?西岡君は?」
小川「あの人はお母さんとの話しかしないからちょっとね……」
儀間「マザコンか」
小川「家族思いって言ってくれる?」
儀間「あ、そうか。そういえばもう一人いなかったっけ?」
小川「……あぁ、高橋君の事?」
儀間「そうそう。高校の時からの付き合いだったんでしょ?」
小川「付き合いって言うか、母校が一緒だったってだけ」
儀間「で?付き合ったの?」
小川「大分前にねー。アンタも知ってるでしょ?」
儀間「分かるよ?あのキモオタでしょ?」
小川「ヨジゴジのファンって言ってくれる?」
儀間「何で別れたの?あ、そのユニットの一人が脱退しちゃったからだっけ?」
小川「そう……でもそれは私も分かる部分がある。私もモロハイプのあの子が抜けちゃったから……」
儀間「だから三次元の男に走ったのか」
小川「だから言い方よ。お互いに生きる糧を無くして、そのショックで何か冷めちゃったんだよね。一番、仲良くしてたのに……結婚まで考えてたのに……」
儀間「恋人に夢中になれないなんて、何て可哀想な……」
小川「だからさぁ……言い方どうにかなんない?」
儀間「これが自然体なの」
小川「なんかさぁ……私の事、馬鹿にしてる?」
儀間「してないよ?」
小川「嘘だぁ。さっきから私のセンスが悪いみたいに言っててさぁ」
儀間「そう言ってるつもりは無いんだけど……私、馬鹿正直だから……」
小川「自覚あるんだ」
儀間「現実を俯瞰的に見てるからね」
小川「だからアンタも彼氏いないんだよ」
儀間「いたらおかしいよ」
小川「何で?」
儀間「だって結婚してるもん」
小川「えっ!?いつの間に!?」
儀間「だったら良いよね」
小川「何だよ。冗談か」
儀間「この世には余る程、男がいるから私からしたらより取り見取りじゃん」
小川「あ、相変わらず自己評価が高い!」
―――終わり
『聞き方』
・登場人物
北島(学生)
藤原(学生)
枝村(教師)
・舞台
高校の教室
明転。
高校の教室。机二つに椅子二つ。
藤原、板付き。
SE、チャイムの音。
北島、舞台上手から駆け込んで登場。
北島「セーフっ!」
藤原「おはよー」
北島「おはよっ。まだセーフだよな?」
藤原「うん。先生はまだ来てない」
北島「良かったー……昨日、夜更かししちゃったから寝坊したんだよね」
藤原「どれくらい早く寝たの?」
北島「え?早く……?いや、早くないよ?深夜二時とかだったし」
藤原「そんな時間まで何してたの?」
北島「あ、そうそう。お前にもお勧めしたくて持ってきた。この漫画読んでたんだよ」
藤原「何それ?」
北島「『黄昏のヴァンパイア』って漫画。結構、読み応えあって面白いぞ?」
藤原「どれくらい短いの?」
北島「え?あ、いや、十巻くらいあるんだけど……」
藤原「へー。結構あるんだねぇ」
枝村「(舞台上手から登場)ほーい。おはよー」
北島藤原「はよざいまーす」
枝村「はい、出席を取りまーす。北島ー」
北島「はーい」
枝村「藤原ー」
藤原「はーい」
枝村「はい。全員、出席ねー。この後、このまま俺の授業なんで先にこの前のテスト返すよー」
北島藤原「はーい」
枝村「名前を呼ばれたら取りに来てー?北島ー」
北島「はーい。おっ」
枝村「藤原ー」
藤原「はーい」
枝村「じゃあ答え合わせに行く前に平均点を……あ、チョークが無ぇ。ちょっと取りに行ってくるから待っててくれよなー?(舞台上手に退場)」
北島藤原「はーい」
北島「なぁ、なぁ?何点だった?」
藤原「何で?良い点だった?」
北島「結構な」
藤原「俺は72点。お前はどれくらい低かった?」
北島「え?あの、低くはない……」
藤原「何点?」
北島「98点……」
藤原「凄いじゃん」
北島「まぁ、うん……」
藤原「先生、帰ってこないなー」
北島「そうだなー。あ、そういえば昨日、身体測定あったじゃん?」
藤原「あったな」
北島「身長は伸びてないのに体重だけ増えてた……」
藤原「どれくらい軽かったの?」
北島「軽くはない。去年より五キロ増えてた」
藤原「筋肉じゃない?」
北島「あー。それかなぁ?ところでさぁ?」
藤原「何?」
北島「聞き方が変じゃない?」
藤原「聞き方が変?」
北島さっきから聞いてる事、逆じゃない?」
藤原「逆?」
北島「普通は遅くに寝たらどれくらい遅くか、とか、多重が増えたらどれくらい重くなったかって聞かない?」
藤原「……あー、成程ね?」
北島「分かった?」
藤原「分かったと思う」
枝村「(舞台上手から登場)ごめん、ごめん。うっかりしてた。じゃあ始めるぞー?まず平均点だが、今回、皆かなり悪かったぞー?」
藤原「どれくらい高かったんですかー?」
北島「藤原。逆、逆」
藤原「え?」
枝村「えーっとね、八十点!」
北島「あ、通じるんかい……」
藤原「あー!平均点、取れなかったー!」
枝村「藤原ー?五月蠅いぞー?じゃあまず最初で最後の一問目なー?答えは選択肢の中で『ペ』だ」
藤原「先生ー。これ、答え合ってるのにバツもらってますー」
枝村「あー、それな?これから途中式を教えるからそれ見てから言ってくれ。第一問『(X+Y)^2』だが、詳しく解説するぞー。これは(X+Y)×(X+Y)になる訳だ。そして順番にXから掛け算していって、X^2+XY、そして次はYを展開してXY+Y^2だ。なのでX^2+XY+XY+Y^2で、計算すると、X^2+2XY+Y^2になる訳だ。だから途中式が合ってないと減点だ」
藤原「えー?でも『キャ』でも答え自体は合ってると思いますー」
枝村「そう。答え自体は合ってる。でも数学は基本的にアルファベットが若い順から書くから、Y^2が先に来るのは駄目なんだ」
藤原「へー。分っかりましたー……」
枝村「じゃあこの後は面倒臭いから自習で。何かあったら俺の所まで聞きに来て?」
北島藤原「はーい」
藤原「先生ー」
枝村「何ー?」
藤原「先生って何で数学教師になったんですかー?挫折したんですかー?」
北島「逆、逆」
枝村「そうそう。挫折したから、コナクソって思って勉強したんだよねー」
北島「通じるんかい……」
藤原「先生の行った大学って偏差値どれくらい低かったんですかー?」
枝村「えーっとね、確か当時、68とかだったかな?」
藤原「へー。頭、良かったんですねぇ」
枝村「褒めても点数はやらんぞー」
北島「通じるんかい」
藤原「何で男子校の教師になろうと思ったんですかー?男好きなんですかー?」
枝村「そうだよー。って言ったらどうするー?」
藤原「怖いでーす」
北島「通じるんかい!先生ー。何でそんなに藤原と話が通じるんですかー?」
枝村「あー?それはなー……俺の嫁さんの弟さんだからだよー」
北島「そういう繋がりがあるんかい!」
―――終わり
『ゲームは一日』
・登場人物
母親
子供
・舞台
ゲームショップ
明転。
ゲームショップ。陳列棚がいくつかある。陳列棚にはゲームソフトと機体と攻略本等が並んでいる。
母親、子供、舞台下手から登場。
子供「あ、お母さん!このゲーム欲しい!」
母親「アンタ、そのシリーズのゲーム、買って一週間で飽きたでしょ?もう買わないよ」
子供「今度は絶対に最後までやるから!」
母親「そう言ってこの前だってお父さんとお母さんが最後まで全クリしたのよ?今度は本当に出来るの?」
子供「絶対にやる!」
母親「
母親「よし。じゃあ買いましょう」
子供「やったぁ!」
母親「但し、お母さんとちゃんと約束しなさい?」
子供「何を?」
母親「ゲームは一日六時間。これを守れなかったらゲーマーの道は諦める。それでも良い?」
子供「……ちょっと時間を下さい」
母親「はい、駄目ー」
子供「え?」
母親「ちょっとした判断の遅れがFPSやスプラトゥーンでは命取りなのよ?そんなんじゃゲームは買いません」
子供「異議あり!キッチリ考える逆転裁判やレイトン教授のように考える事を放棄してすぐに安易な結論を出すのは良くないと思う!」
母親「……よく言ったわ。買いましょう」
子供「やったぁ!」
暗転。
明転。
ゲームショップ。
母親、子供、舞台下手から登場。
子供「あっ!あった!お母さん、この本欲しい~!」
母親「それって勉強ドリルとかじゃないでしょうね?」
子供「違うよ!?ゲームの攻略本だよ!」
母親「……それってこの前、買ったゲームの攻略本じゃないの?」
子供「そうだけど?」
母親「駄目です。買いません」
子供「え~!?何で~!?」
母親「攻略本に頼るようじゃあもうゲーマーとしてはやっていけないわ」
子供「頼るんじゃないよ!答え合わせだよ!?」
母親「答え合わせ?」
子供「そうだよ!本当に全クリ出来たか確認する為にやるんだよ!」
母親「でもこれ、公式本じゃないじゃないの」
子供「それは……!そうだけど……!」
母親「公式が出すまではこういった攻略本は買いません」
子供「で、でも少しでも全クリに近付けたくて……!」
母親「そもそも、どこかの企業が出す前にアンタのホームページでアンタが全クリの報告を出来なかったのが悪いんじゃない」
子供「でも、確実に全クリしたかどうかなんて分からないじゃないか!」
母親「そんなのデータ解析すればすぐ済む話じゃない」
子供「それは邪道だ!そんな事をしたら、誰だって何もプレイせずに全クリが可能になっちゃうじゃないか!」
母親「……一理あるわね。分かった。今回は特別に買ってあげる。でも約束して?公式ファンブックが出るまでに、全クリするって」
子供「分かった!約束するよ!」
母親「良い子ね。ちゃんとゲームやる?」
子供「やる!」
母親「勉強は?」
子供「二の次!」
母親「将来の夢は?」
子供「プロゲーマー!」
母親「座右の銘は?」
子供「諦めないゲーム愛!」
母親「ゲームは一日?」
子供「六時間!」
母親「良し。じゃあ買いましょう」
子供「やったぁ!」
暗転。
明転。
ゲームショップ。
母親、子供、 舞台下手から登場。
母親「あ、あのゲームの新しいコントローラーが出てるわ。買おうか?」
子供「えー?良いよぉ。もう全クリしたし……」
母親「何、言ってるの?ただ全クリしたからって終わりじゃないのよ?」
子供「どういう事?」
母親「RTAよ。RTA」
子供「リアルタイムアタック?何で?」
母親「勿論、この前、公式本が出て全クリしたんだから、今度はRTAよ。それで再生回数を稼ぐのよ」
子供「えー?良いよもう……三ヶ月もやって飽きたし……」
母親「じゃあプロゲーマーの夢はどうするの?」
子供「お母さん。僕、ちゃんと勉強して普通のサラリーマンになる。副業で実況者をやろうと思うんだ」
母親「本当にそれで良いの?」
子供「うん」
母親「今までそんな軽い気持ちでゲームをしてたの?」
子供「途中で気付いたんだ。ゲームを仕事にするって、楽しいだけじゃないんだって。嫌々でもやらなきゃいけないゲームもある。だったら、本当に自分がやりたいゲームだけを楽しんでやるのが、本当のゲームの価値なんだって」
母親「そう……大人になったわね」
子供「でもゲームは続けるよ?」
母親「それで良いのよ。じゃあ今晩のおかずを買いに行きましょう?」
子供「うん!あ、試食会やってる!お母さん、行こう!?(舞台上手に退場)」
母親「こらー。走ると危ないわよー?……教育、完了!」
―――終わり
『裸の王様』
・登場人物
王様
仕立屋AB(仕A、仕B)
配下A~D(配A、配B、配C、配D)
・舞台
宮殿
NA「むかーしむかし、ある国に新しい服が大好きなお洒落な王様がいました。そこに二人の仕立て屋がやってきて、不思議な布地で新しい衣装を作れると言いました。しかし王様は嘘が嫌いです。果たしてどうなる事やら……」
明転。
宮殿。王座が一つ。
王様、仕AB、配ABCD、板付き。
仕A「ご覧下さい。王様。立派なお召し物でしょう?」
王様「何だ?それは」
仕B「これは馬鹿には見えぬ服で御座います」
王様「ほう……」
仕A「ご聡明な王様には見えるでしょう?」
王様「いいや、見えぬ」
仕AB「え?」
仕B「いやいや、そんなご冗談を」
王様「いいや、見えぬ。我は嘘が嫌いだ。お前達、我が馬鹿だという事を公然に知らしめたな?万死に値する」
仕AB「えぇ!?」
仕A「いやいや、ご冗談を……!」
仕B「王様には見えるでしょう!?」
王様「お前達、見えるか?」
配ABCD「いえ」
王様「我だけでなく、配下をも侮辱したな。万死に値する」
仕AB「ちょちょちょ!?」
王様「どんな死に方が良いか選ばせてやろう」
仕AB「嫌だー!死にたくなーい!」
王様「恥ずかしいコーデで街中を歩くか、その馬鹿には見えない服で街中を歩くか、全裸でお前達の店の名前を書いたプレートを持って街中を歩くかを選べ」
仕A「……あ、そういう感じ?」
仕B「社会的に死ぬ方なんだ……」
王様「どうする?」
仕A「じゃあ、その……恥ずかしいコーデで……」
仕B「私も……」
王様「そうか。ではその服を着せてやろう」
仕AB「えぇ!?」
王様「何だ?何か不満でもあるのか?」
仕A「あ、いや、その……」
仕B「それはちょっと嫌というか……」
王様「何故だ?自分達で作ったんだろう?さぞ立派な服なんだろう?」
仕A「いや、あの……」
仕B「国民には見えないかもしれないので……」
王様「何故だ?」
仕A「教養が足りてない可能性があるので……」
仕B「そう!そうです!」
王様「ほう?つまり我が国の国民は皆、馬鹿だと言いたいのか?万死に値する」
仕AB「えっ!?いやっ!違っ!?」
王様「じゃあその服を着ろ。せめてもの温情だ。パンツは履かせてやる」
仕A「あ、じゃあ、まだ大丈夫か……」
王様「但し、お前達の店の名前を書いたプレートに『私達は詐欺師です』という文章を追加するがな」
仕AB「本当に社会的に死ぬんだー!?」
王様「ではその服を着ろ」
仕AB「ごめんなさい!嫌です!」
王様「何故だ?」
仕AB「私達は嘘吐きだからです!」
王様「嘘吐きなんて可愛い響きじゃない。さっきも言ったが、詐欺師と言うんだ」
仕AB「ごめんなさーい!(舞台上手に逃げようとする)」
王様「捕まえろ」
配下ABCD「はっ(仕ABを捕らえる)」
仕A「許して!許して下さい!」
仕B「何でもしますから!」
王様「今、何でもするって言ったな?」
仕AB「はい!」
王様「ではこの服を着てプラカードを下げて街中を歩いてもらおうか」
仕AB「それだけは!それだけはー!」
王様「そこの二人、コイツ等を連れてけ」
配AB「はっ(仕ABを連れて舞台下手に退場)」
仕AB「たぁすけてぇええええええええええ!」
王様「さて、どんな仕上がりになる事やら」
配C「楽しみですねぇ」
王様「あぁ」
配A「(舞台下手から登場)王様」
王様「何だ?」
配A「何だか、もう一つ用意した服があるから、それを見てほしいとの事でして……」
王様「ほう?ではそれを着させて連れて来い」
配A「畏まりました。おーい」
仕AB配B「(舞台下手から登場)」
王様「……何だ?マントなんか被って」
仕A「これが、一応……」
仕B「もう一つ用意した服なんですが……」
王様「で?何て服だ?」
仕AB「馬鹿にしか見えない服です……」
王様「ほう?」
仕AB「い、如何でしょう……?」
王様「見えるぞ」
仕AB「で、ですよね……」
王様「お前達、見えるか?」
配ABCD「はい」
王様「また我々を馬鹿にしたな?万死に値する」
仕AB「どうしても駄目かー!」
王様「物理的な死よりはマシだろう?さぁ、その服を脱いであの馬鹿には見えない服を着て、プラカードを下げて街中を歩こう?」
仕A「無理だー!」
仕B「社会的に死ぬくらいなら!」
仕AB「いっそ本当に死んだ方がマシだー!」
王様「良く言った!その願い叶えてしんぜよう!」
仕AB「……え?」
王様「殺してやろう!おい!お前達!」
配ABCD「はっ!」
仕AB「ちょちょちょちょ!?止めて!?止めて下さい!」
王様「何だ?死にたいんじゃなかったのか?」
仕A「言いました!言いましたけれども!」
仕B「本当に死にたいわけじゃありません!」
王様「何なんだ?結局どうしたいんだ?」
仕A「せめてプラカードだけは!」
仕B「そう!プラカードだけはご勘弁を!」
王様「分かった。プラカードは許してやろう」
仕AB「ほっ……」
王様「その代わりに段ボールに書いてやろう」
仕AB「意味が無い!」
王様「まだ茶色いから見え辛いだろう?」
仕AB「余計に惨めです!」
配D「王様。白い段ボールしかご用意出来ません」
王様「あ、そうなの?じゃあそれで」
仕AB「嫌だー!」
王様「もういい。面倒だ。お前達、服を脱がして、その馬鹿には見えない服とやらを二人に着させろ」
配ABCD「はっ」
仕AB「うわー!」
暗転。
明転。
宮殿。
王様、配下CD、板付き。
王様「今どうなってる?」
配C「はい。まずどこにその服があるか分からないので徹底的に探しております」
王様「さっきまでそこにあったよな?」
配D「はい。ですが質量を持たないようでして……」
王様「何と……素晴らしい技術じゃないか。はっはっは!」
配B「(舞台下手から登場)王様、ご用意が出来ました」
王様「そうか。どれ。見てやろう。入れろ」
配B「はっ(舞台下手に退場し、仕AB、配Aと共に舞台下手から登場)」
仕AB「……どうですかね?」
王様「何だ?さっきと変わらん服じゃないか」
仕A「えーっと、えーっと……」
仕B「これが本当の馬鹿には見えない服で御座います!」
仕A「そう!そうです!」
王様「ほう……では我が頭が良くなったって事か?」
仕AB「左様で御座います!」
王様「だがおかしいな。そうするとその服は我に合わないサイズではないか?」
仕A「うぐっ……!」
仕B「そ、それは……!」
王様「瀕剥け」
仕A「わーっ!ちょっと、ちょっと!」
仕B「お待ち下さい!正直に申し上げますから!」
王様「何だ?」
仕A「嘘でした!ごめんなさい!」
仕B「お金、欲しさに嘘を吐いてしまいました!申し訳ありません!」
王様「全く……最初から素直にそう言えば良かったものを。分かった。許してやろう」
仕AB「ほ、本当ですか!?」
王様「あぁ。だがそれはそれとして我は他人の裸を見るのが好きだから脱げ」
仕AB「えぇ!?」
王様「しないと罰する」
仕AB「は、はい……分かりました……!」
王様「おい」
配C「はっ」
王様「ビデオカメラ」
配C「はっ(舞台下手に退場)」
仕A「な、何をなさるおつもりで……?」
王様「だから言っただろう?我は他人の裸を見るのが好きだ、と。記念撮影だ」
仕AB「そんな馬鹿な!?」
王様「逆らったら死刑だ。勿論、社会的な死だ」
仕B「……分かりました」
仕A「相棒!?」
仕B「仕方ないだろう!?脱ぐぞ!」
仕A「……仕方ないかぁ……」
暗転。
王様「あーっはっはっは!他人の裸は面白い!本当に!いや、マジで!冗談抜きで!腹抱えて笑うわこんなん!」
仕B「あ、本当に他人の裸が好きなだけだったんだ……」
NA「裸の王様ならぬ、裸好きの王様でしたとさ。チャンチャン」
―――終わり
『仕事』
・登場人物
北島康介(息子)
北島正将(父親)
北島美幸(母親)
先生(声のみ)
・舞台
北島家
・衣装
康介・・・高校の制服
明転。
北島家。ソファ二つにテーブル一つ。
正将、美幸、板付き。康介、舞台上手から登場。
康介「ただいま~」
正将「おう。おかえり」
美幸「おかえり~」
康介「父さん。母さん。ちょっと良い?」
正将「何だ?改まって」
康介「学校の宿題で、保護者の仕事についてレポートを書いて来いってのがあってさ」
美幸「あら。何か小学生の作文みたいな宿題ね」
正将「仕事か~。まぁ良いけど」
康介「父さんって普段、家にいるけど、在宅ワーク?」
正将「あー……まぁ、在宅ワークっちゃあ、在宅ワークだなぁ」
康介「具体的に何してるの?」
正将「仕事をしているよ」
康介「え?」
正将「だから、仕事をしているよ」
康介「え、あの、内容は?」
正将「仕事という仕事をしているよ」
康介「えぇ……?どういう事……?そういえば母さんは?」
美幸「私は専業主婦だから」
康介「そうか。じゃあ家族全員を養っていけるだけの仕事はしているんだ?」
正将「まぁ、そうだな」
康介「で、何の仕事をしているの?」
正将「仕事という仕事を仕事しているよ」
康介「えっ、あの、その……国家機密的な……?」
正将「いいや?」
康介「え、じゃあ……その……裏社会的な……?」
正将「そんな事しないよ」
康介「母さんは?母さんは知ってるでしょ?」
美幸「知ってるよ?」
康介「父さんは何してるの?」
美幸「仕事」
康介「だから内容は?」
美幸「仕事という仕事よ?」
康介「……分からん」
正将「まぁ、お父さんの仕事は仕事を仕事するのが仕事なんだ」
康介「……ゲシュタルト崩壊してきた……」
美幸「まぁお茶でも飲んで一息、吐きましょう?(舞台下手に退場)」
康介「父さんの仕事って、そんなに重要な事なの?」
正将「重要…………ではある…………か……?」
康介「その間は何?」
正将「いや、微妙なラインなんだよね……」
康介「じゃあ何?その、ヤバいの……?」
正将「ヤバ…………くは…………無い…………か…………な……?」
康介「だからその間は何?」
美幸「(舞台下手からお茶を持って登場)何?まだ話を聞いてるの?」
康介「母さん。母さんなら知ってるでしょ?」
美幸「何を?」
康介「父さんの仕事の内容」
美幸「知ってるよ?」
康介「父さんの仕事ってまともなものなの?」
美幸「まと…………も…………では…………ある…………の…………か…………な……?」
康介「父さんにも聞いたけど、その間は何?」
美幸「いや…………こう…………何て言ったら良いんだろう……?言葉では言い表せないというか……」
康介「や、やっぱりヤバい仕事なの……?」
美幸「ヤ…………バく…………は…………無い…………の…………かな……?」
康介「だからその間は何なの?」
美幸「いや、だからこう……上手く言葉に出来ないんだよね…・…」
康介「これじゃあレポート書けないよ……」
正将「素直に書けば良いんじゃないか?」
康介「え?」
正将「『僕のお父さんは、仕事という仕事をしています』って」
康介「んな事、書けるか!」
正将「ちゃんと説明してあげるから」
康介「じゃあ教えてよ」
正将「良いよ。お父さんの仕事はねー、仕事という仕事を仕事して仕事になって仕事になるから仕事なんだよ」
康介「……何か分かんないけど、何だか分かってきた気がする」
正将「そうか。でも誰にでも出来る事じゃないから、参考にはならんぞ?」
康介「詳しく!」
暗転。
明転。
北島宅。
正将、美幸、板付き。康介、舞台下手から登場。
康介「じゃあ父さん!母さん!行ってきます!」
正将美幸「行ってらっしゃい」
康介「(舞台上手に退場)」
美幸「本当の事を言わなくて良かったの?」
正将「良いんじゃない?実際のところ真似出来るものじゃないし」
美幸「そうよねぇ。だって宝くじで一等を当てたってだけだもんね」
正将「恥ずかしくて正直には言えないよな~」
暗転。
先生「じゃあ次、北島君」
北島「はい!僕の母は専業主婦ですが、父は仕事をしています!」
先生「だからその仕事は何なの?」
北島「仕事という仕事です!」
先生「……え?あ、いや、その……」
北島「詳しく言います!父の仕事は、仕事という仕事を仕事して仕事になって仕事になるから仕事になるという仕事です!」
先生「……詳しく聞かせて頂戴?」
北島「はい!えーっと、仕事が仕事で仕事になる為、仕事が仕事して……(フェードアウト)」
―――終わり
『演劇的国語』
・登場人物
小川(新しく赴任してきた教師)
枝村(生徒)
北島(生徒)
儀間(生徒)
西岡(生徒)
高橋(生徒)
藤沢(生徒)
藤縄(生徒)
藤原(生徒)
米山(生徒)
和田(生徒)
・舞台
中学校の教室
枝村、北島、儀間、西岡、音読パートは演劇的に。
明転。
中学校の教室。黒板一つに教壇一つ、机六つに椅子六つ。
枝村、北島、儀間、西岡。藤原、米山、板付き。小川、舞台上手から登場。
小川「はーい。皆さん。初めまして。新しく赴任してきた小川美幸と申します。趣味は演劇鑑賞です。皆さんは名前と部活名を言って下さい。じゃあ最初、枝村さん」
枝村「はい。枝村拓実です。部活は演劇部です。宜しくお願いします」
小川「枝村君ね。覚えた。次、北島さん」
北島「はい。北島康介です。部活は演劇部です。宜しくお願いします」
小川「北島君ね。覚えた。次、儀間さん」
儀間「はい。儀間愛真です。部活は演劇部です。宜しくお願いします」
小川「儀間さんね。また演劇部ね。次、高橋さん」
高橋「はい。高橋和志です。部活は演劇部です。宜しくお願いします」
小川「高橋君ね。また演劇部ね。次、西岡さん」
西岡「はい。西岡聖弘です。部活は演劇部です。宜しくお願いします」
小川「西岡君ね。演劇部が盛んねー。次、藤沢さん」
藤沢「はい。藤沢優斗です。部活は演劇部です。宜しくお願いします」
小川「藤沢君ね。演劇部員ばかりねー。次、藤縄さん」
藤縄「はい。藤縄廸人です。部活は演劇部です。宜しくお願いします」
小川「藤縄君ね。本当に演劇部が盛んねー。次、藤原さん」
藤原「はい。藤原正将です。部活は演劇部です。宜しくお願いします」
小川「藤原君ね。本当、演劇部勢が多いわねー。最後、米山さん」
米山「はい。米山菜奈美です。部活は演劇部です。宜しくお願いします」
小川「米山さんね。このクラス、演劇部ばかりねー。最後、和田さん」
和田「はい。和田純生です。部活は演劇部です。宜しくお願いします」
小川「和田君ね。このクラス、演劇部しかいないのねー。じゃあ早速、授業を始めます。皆ー。教科書の十五ページを開いて下さーい?今日は『走れメロス』を読みます。深掘りはまた次回の授業にするので、今日は読むだけにします。じゃあ早速読んでもらおうかなー……」
枝村「じゃあ俺、メロスやります」
小川「え?」
北島「じゃあ俺はディオニスやります」
高橋「じゃあ俺はセリヌンティウスやります」
小川「え?え?」
西岡「じゃあ俺は老爺やります」
藤縄「じゃあ俺は山賊やります」
藤原「じゃあ俺は群衆やります」
藤沢「じゃあ俺は旅人やります」
儀間「じゃあ私はフィロストラトスやります」
和田「じゃあ俺は婿やります」
小川「え?え?え?」
米山「じゃあ私はナレーションやります」
小川「え?え?え?ナレーション……?」
米山「では行きますよ?」
小川「あ、はい……」
米山「メロスは激怒した。必ず、かの邪智暴虐の王を除かなければならぬと決意した。メロスには政治がわからぬ。メロスは、村の牧人である。笛を吹き、羊と遊んで暮して来た。けれども邪悪に対しては、人一倍に敏感であった。きょう未明メロスは村を出発し、野を越え山越え、十里はなれた此のシラクスの市にやって来た。メロスには父も、母も無い。女房も無い。十六の、内気な妹と二人暮しだ。この妹は、村の或る律気な一牧人を、近々、花婿として迎える事になっていた。結婚式も間近かなのである。メロスは、それゆえ、花嫁の衣裳やら祝宴の御馳走やらを買いに、はるばる市にやって来たのだ。先ず、その品々を買い集め、それから都の大路をぶらぶら歩いた。メロスには竹馬の友があった。セリヌンティウスである。今は此のシラクスの市で、石工をしている。その友を、これから訪ねてみるつもりなのだ。久しく逢わなかったのだから、訪ねて行くのが楽しみである。歩いているうちにメロスは、まちの様子を怪しく思った。ひっそりしている。もう既に日も落ちて、まちの暗いのは当りまえだが、けれども、なんだか、夜のせいばかりでは無く、市全体が、やけに寂しい。のんきなメロスも、だんだん不安になって来た。路で逢った若い衆をつかまえて、枝村「何かあったのか、二年まえに此の市に来たときは、夜でも皆が歌をうたって、まちは賑やかであった筈だが」
米山「と質問した。若い衆は、首を振って答えなかった。しばらく歩いて老爺に逢い、こんどはもっと、語勢を強くして質問した。老爺は答えなかった。メロスは両手で老爺のからだをゆすぶって質問を重ねた。老爺は、あたりをはばかる低声で、わずか答えた」
西岡「王様は、人を殺します」
枝村「なぜ殺すのだ」
西岡「悪心を抱いている、というのですが、誰もそんな、悪心を持っては居りませぬ」
枝村「たくさんの人を殺したのか」
西岡「はい、はじめは王様の妹婿さまを。それから、御自身のお世嗣を。それから、妹さまを。それから、妹さまの御子さまを。それから、皇后さまを。それから、賢臣のアレキス様を」
枝村「おどろいた。国王は乱心か。」
西岡「いいえ、乱心ではございませぬ。人を、信ずる事が出来ぬ、というのです。このごろは、臣下の心をも、お疑いになり、少しく派手な暮しをしている者には、人質ひとりずつ差し出すことを命じて居ります。御命令を拒めば十字架にかけられて、殺されます。きょうは、六人殺されました」
米山「聞いて、メロスは激怒した」
枝村「呆れた王だ。生かして置けぬ。」
米山「メロスは、単純な男であった。買い物を、背負ったままで、のそのそ王城にはいって行った。たちまち彼は、巡邏の警吏に捕縛された。調べられて、メロスの懐中からは短剣が出て来たので、騒ぎが大きくなってしまった。メロスは、王の前に引き出された」
北島「この短刀で何をするつもりであったか。言え!」
米山「暴君ディオニスは静かに、けれども威厳を以て問いつめた。その王の顔は蒼白で、眉間の皺は、刻み込まれたように深かった」
枝村「市を暴君の手から救うのだ」
米山「とメロスは悪びれずに答えた」
北島「おまえがか?」
米山「王は、憫笑した」
北島「仕方の無いやつじゃ。おまえには、わしの孤独がわからぬ」
枝村「言うな!」
米山「とメロスは、いきり立って反駁した」
枝村「人の心を疑うのは、最も恥ずべき悪徳だ。王は、民の忠誠をさえ疑って居られる」
北島「疑うのが、正当の心構えなのだと、わしに教えてくれたのは、おまえたちだ。人の心は、あてにならない。人間は、もともと私慾のかたまりさ。信じては、ならぬ。」
米山「暴君は落着いて呟き、ほっと溜息をついた」
北島「わしだって、平和を望んでいるのだが」
枝村「なんの為の平和だ。自分の地位を守る為か」
米山「こんどはメロスが嘲笑した」
枝村「罪の無い人を殺して、何が平和だ」
北島「だまれ、下賤の者。」
米山「王は、さっと顔を挙げて報いた」
北島「口では、どんな清らかな事でも言える。わしには、人の腹綿の奥底が見え透いてならぬ。おまえだって、いまに、磔になってから、泣いて詫びたって聞かぬぞ。」
枝村「ああ、王は悧巧だ。自惚れているがよい。私は、ちゃんと死ぬる覚悟で居るのに。命乞いなど決してしない。ただ、――」
米山「と言いかけて、メロスは足もとに視線を落し瞬時ためらい」
枝村「ただ、私に情をかけたいつもりなら、処刑までに三日間の日限を与えて下さい。たった一人の妹に、亭主を持たせてやりたいのです。三日のうちに、私は村で結婚式を挙げさせ、必ず、ここへ帰って来ます」
北島「ばかな」
米山「と暴君は、嗄れた声で低く笑った」
北島「とんでもない嘘を言うわい。逃がした小鳥が帰って来るというのか」
枝村「そうです。帰って来るのです」
米山「メロスは必死で言い張った」
枝村「私は約束を守ります。私を、三日間だけ許して下さい。妹が、私の帰りを待っているのだ。そんなに私を信じられないならば、よろしい、この市にセリヌンティウスという石工がいます。私の無二の友人だ。あれを、人質としてここに置いて行こう。私が逃げてしまって、三日目の日暮まで、ここに帰って来なかったら、あの友人を絞め殺して下さい。たのむ、そうして下さい」
米山「それを聞いて王は、残虐な気持で、そっと北叟笑んだ」
北島「生意気なことを言うわい。どうせ帰って来ないにきまっている。この嘘つきに騙された振りして、放してやるのも面白い。そうして身代りの男を、三日目に殺してやるのも気味がいい。人は、これだから信じられぬと、わしは悲しい顔して、その身代りの男を磔刑に処してやるのだ。世の中の、正直者とかいう奴輩にうんと見せつけてやりたいものさ。願いを、聞いた。その身代りを呼ぶがよい。三日目には日没までに帰って来い。おくれたら、その身代りを、きっと殺すぞ。ちょっとおくれて来るがいい。おまえの罪は、永遠にゆるしてやろうぞ」
枝村「なに、何をおっしゃる。」
北島「はは。いのちが大事だったら、おくれて来い。おまえの心は、わかっているぞ」
米山「メロスは口惜しく、地団駄踏んだ。ものも言いたくなくなった。竹馬の友、セリヌンティウスは、深夜、王城に召された。暴君ディオニスの面前で、佳き友と佳き友は、二年ぶりで相逢うた。メロスは、友に一切の事情を語った。セリヌンティウスは無言で首肯き、メロスをひしと抱きしめた。友と友の間は、それでよかった。セリヌンティウスは、縄打たれた。メロスは、すぐに出発した。初夏、満天の星である。メロスはその夜、一睡もせず十里の路を急ぎに急いで、村へ到着したのは、翌る日の午前、陽は既に高く昇って、村人たちは野に出て仕事をはじめていた。メロスの十六の妹も、きょうは兄の代りに羊群の番をしていた。よろめいて歩いて来る兄の、疲労困憊の姿を見つけて驚いた。そうして、うるさく兄に質問を浴びせた。
枝村「なんでも無い」
米山「メロスは無理に笑おうと努めた」
枝村「市に用事を残して来た。またすぐ市に行かなければならぬ。あす、おまえの結婚式を挙げる。早いほうがよかろう。」
米山「妹は頬をあからめた」
枝村「うれしいか。綺麗な衣裳も買って来た。さあ、これから行って、村の人たちに知らせて来い。結婚式は、あすだと」
米山「メロスは、また、よろよろと歩き出し、家へ帰って神々の祭壇を飾り、祝宴の席を調え、間もなく床に倒れ伏し、呼吸もせぬくらいの深い眠りに落ちてしまった。眼が覚めたのは夜だった。メロスは起きてすぐ、花婿の家を訪れた。そうして」
枝村「少し事情があるから、結婚式を明日にしてくれ」
米山「と頼んだ。婿の牧人は驚き」
和田「それはいけない、こちらには未だ何の仕度も出来ていない、葡萄の季節まで待ってくれ」
米山「と答えた。メロスは」
枝村「待つことは出来ぬ、どうか明日にしてくれ給え」
米山「と更に押してたのんだ。婿の牧人も頑強であった。なかなか承諾してくれない。夜明けまで議論をつづけて、やっと、どうにか婿をなだめ、すかして、説き伏せた。結婚式は、真昼に行われた。新郎新婦の、神々への宣誓が済んだころ、黒雲が空を覆い、ぽつりぽつり雨が降り出し、やがて車軸を流すような大雨となった。祝宴に列席していた村人たちは、何か不吉なものを感じたが、それでも、めいめい気持を引きたて、狭い家の中で、むんむん蒸し暑いのも怺え、陽気に歌をうたい、手を拍った。メロスも、満面に喜色を湛え、しばらくは、王とのあの約束をさえ忘れていた。祝宴は、夜に入っていよいよ乱れ華やかになり、人々は、外の豪雨を全く気にしなくなった。メロスは」
枝村「一生このままここにいたい」
米山「と思った。この佳い人たちと生涯暮して行きたいと願ったが、いまは、自分のからだで、自分のものでは無い。ままならぬ事である。メロスは、わが身に鞭打ち、ついに出発を決意した。あすの日没までには、まだ十分の時が在る」
枝村「ちょっと一眠りして、それからすぐに出発しよう」
米山「と考えた。その頃には、雨も小降りになっていよう。少しでも永くこの家に愚図愚図とどまっていたかった。メロスほどの男にも、やはり未練の情というものは在る。今宵呆然、歓喜に酔っているらしい花嫁に近寄り」
枝村「おめでとう。私は疲れてしまったから、ちょっとご免こうむって眠りたい。眼が覚めたら、すぐに市に出かける。大切な用事があるのだ。私がいなくても、もうおまえには優しい亭主があるのだから、決して寂しい事は無い。おまえの兄の、一ばんきらいなものは、人を疑う事と、それから、嘘をつく事だ。おまえも、それは、知っているね。亭主との間に、どんな秘密でも作ってはならぬ。おまえに言いたいのは、それだけだ。おまえの兄は、たぶん偉い男なのだから、おまえもその誇りを持っていろ」
米山「花嫁は、夢見心地で首肯いた。メロスは、それから花婿の肩をたたいて」
枝村「仕度の無いのはお互さまさ。私の家にも、宝といっては、妹と羊だけだ。他には、何も無い。全部あげよう。もう一つ、メロスの弟になったことを誇ってくれ。」
米山「花婿は揉み手して、てれていた。メロスは笑って村人たちにも会釈して、宴席から立ち去り、羊小屋にもぐり込んで、死んだように深く眠った。眼が覚めたのは翌る日の薄明の頃である。メロスは跳ね起き」
枝村「南無三、寝過したか、いや、まだまだ大丈夫、これからすぐに出発すれば、約束の刻限までには十分間に合う。きょうは是非とも、あの王に、人の信実の存するところを見せてやろう。そうして笑って磔の台に上ってやる」
米山「メロスは、悠々と身仕度をはじめた。雨も、いくぶん小降りになっている様子である。身仕度は出来た。さて、メロスは、ぶるんと両腕を大きく振って、雨中、矢の如く走り出た」
枝村「私は、今宵、殺される。殺される為に走るのだ。身代りの友を救う為に走るのだ。王の奸佞邪智を打ち破る為に走るのだ。走らなければならぬ。そうして、私は殺される。若い時から名誉を守れ。さらば、ふるさと」
米山「若いメロスは、つらかった。幾度か、立ちどまりそうになった」
枝村「えい、えい」
米山「と大声挙げて自身を叱りながら走った。村を出て、野を横切り、森をくぐり抜け、隣村に着いた頃には、雨も止み、日は高く昇って、そろそろ暑くなって来た。メロスは額の汗をこぶしで払い」
枝村「ここまで来れば大丈夫、もはや故郷への未練は無い。妹たちは、きっと佳い夫婦になるだろう。私には、いま、なんの気がかりも無い筈だ。まっすぐに王城に行き着けば、それでよいのだ。そんなに急ぐ必要も無い。ゆっくり歩こう」
米山「と持ちまえの呑気さを取り返し、好きな小歌をいい声で歌い出した。ぶらぶら歩いて二里行き三里行き、そろそろ全里程の半ばに到達した頃、降って湧いた災難、メロスの足は、はたと、とまった。見よ、前方の川を。きのうの豪雨で山の水源地は氾濫し、濁流滔々と下流に集り、猛勢一挙に橋を破壊し、どうどうと響きをあげる激流が、木葉微塵に橋桁を跳ね飛ばしていた。彼は茫然と、立ちすくんだ。あちこちと眺めまわし、また、声を限りに呼びたててみたが、繋舟は残らず浪に浚われて影なく、渡守りの姿も見えない。流れはいよいよ、ふくれ上り、海のようになっている。メロスは川岸にうずくまり、男泣きに泣きながらゼウスに手を挙げて哀願した」
枝村「ああ、鎮めたまえ、荒れ狂う流れを!時は刻々に過ぎて行きます。太陽も既に真昼時です。あれが沈んでしまわぬうちに、王城に行き着くことが出来なかったら、あの佳い友達が、私のために死ぬのです」
米山「濁流は、メロスの叫びをせせら笑う如く、ますます激しく躍り狂う。浪は浪を呑み、捲き、煽り立て、そうして時は、刻一刻と消えて行く。今はメロスも覚悟した。泳ぎ切るより他に無い」
枝村「ああ、神々も照覧あれ!濁流にも負けぬ愛と誠の偉大な力を、いまこそ発揮して見せる」
米山「メロスは、ざんぶと流れに飛び込み、百匹の大蛇のようにのた打ち荒れ狂う浪を相手に、必死の闘争を開始した。満身の力を腕にこめて、押し寄せ渦巻き引きずる流れを」
枝村「なんのこれしき」
米山「と掻きわけ掻きわけ、めくらめっぽう獅子奮迅の人の子の姿には、神も哀れと思ったか、ついに憐愍を垂れてくれた。押し流されつつも、見事、対岸の樹木の幹に、すがりつく事が出来たのである」
枝村「ありがたい」
米山「メロスは馬のように大きな胴震いを一つして、すぐにまた先きを急いだ。一刻といえども、むだには出来ない。陽は既に西に傾きかけている。ぜいぜい荒い呼吸をしながら峠をのぼり、のぼり切って、ほっとした時、突然、目の前に一隊の山賊が躍り出た。
藤縄「待て」
枝村「何をするのだ。私は陽の沈まぬうちに王城へ行かなければならぬ。放せ」
藤縄「どっこい放さぬ。持ちもの全部を置いて行け」
枝村「私にはいのちの他には何も無い。その、たった一つの命も、これから王にくれてやるのだ」
藤縄「その、いのちが欲しいのだ」
枝村「さては、王の命令で、ここで私を待ち伏せしていたのだな」
米山「山賊たちは、ものも言わず一斉に棍棒を振り挙げた。メロスはひょいと、からだを折り曲げ、飛鳥の如く身近かの一人に襲いかかり、その棍棒を奪い取って」
枝村「気の毒だが正義のためだ!」
米山「と猛然一撃、たちまち、三人を殴り倒し、残る者のひるむ隙に、さっさと走って峠を下った。一気に峠を駈け降りたが、流石に疲労し、折から午後の灼熱の太陽がまともに、かっと照って来て、メロスは幾度となく眩暈を感じ」
枝村「これではならぬ」
米山「と気を取り直しては、よろよろ二、三歩あるいて、ついに、がくりと膝を折った。立ち上る事が出来ぬのだ。天を仰いで、くやし泣きに泣き出した」
枝村「ああ、あ、濁流を泳ぎ切り、山賊を三人も撃ち倒し韋駄天、ここまで突破して来たメロスよ。真の勇者、メロスよ。今、ここで、疲れ切って動けなくなるとは情無い。愛する友は、おまえを信じたばかりに、やがて殺されなければならぬ。おまえは、稀代の不信の人間、まさしく王の思う壺だぞ」
米山「と自分を叱ってみるのだが、全身萎えて、もはや芋虫ほどにも前進かなわぬ。路傍の草原にごろりと寝ころがった。身体疲労すれば、精神も共にやられる」
枝村「もう、どうでもいい」
米山「という、勇者に不似合いな不貞腐れた根性が、心の隅に巣喰った」
枝村「私は、これほど努力したのだ。約束を破る心は、みじんも無かった。神も照覧、私は精一ぱいに努めて来たのだ。動けなくなるまで走って来たのだ。私は不信の徒では無い。ああ、できる事なら私の胸を截ち割って、真紅の心臓をお目に掛けたい。愛と信実の血液だけで動いているこの心臓を見せてやりたい。けれども私は、この大事な時に、精も根も尽きたのだ。私は、よくよく不幸な男だ。私は、きっと笑われる。私の一家も笑われる。私は友を欺いた。中途で倒れるのは、はじめから何もしないのと同じ事だ。ああ、もう、どうでもいい。これが、私の定った運命なのかも知れない。セリヌンティウスよ、ゆるしてくれ。君は、いつでも私を信じた。私も君を、欺かなかった。私たちは、本当に佳い友と友であったのだ。いちどだって、暗い疑惑の雲を、お互い胸に宿したことは無かった。いまだって、君は私を無心に待っているだろう。ああ、待っているだろう。ありがとう、セリヌンティウス。よくも私を信じてくれた。それを思えば、たまらない。友と友の間の信実は、この世で一ばん誇るべき宝なのだからな。セリヌンティウス、私は走ったのだ。君を欺くつもりは、みじんも無かった。信じてくれ!私は急ぎに急いでここまで来たのだ。濁流を突破した。山賊の囲みからも、するりと抜けて一気に峠を駈け降りて来たのだ。私だから、出来たのだよ。ああ、この上、私に望み給うな。放って置いてくれ。どうでも、いいのだ。私は負けたのだ。だらしが無い。笑ってくれ。王は私に、ちょっとおくれて来い、と耳打ちした。おくれたら、身代りを殺して、私を助けてくれると約束した。私は王の卑劣を憎んだ。けれども、今になってみると、私は王の言うままになっている。私は、おくれて行くだろう。王は、ひとり合点して私を笑い、そうして事も無く私を放免するだろう。そうなったら、私は、死ぬよりつらい。私は、永遠に裏切者だ。地上で最も、不名誉の人種だ。セリヌンティウスよ、私も死ぬぞ。君と一緒に死なせてくれ。君だけは私を信じてくれるにちがい無い。いや、それも私の、ひとりよがりか?ああ、もういっそ、悪徳者として生き伸びてやろうか。村には私の家が在る。羊も居る。妹夫婦は、まさか私を村から追い出すような事はしないだろう。正義だの、信実だの、愛だの、考えてみれば、くだらない。人を殺して自分が生きる。それが人間世界の定法ではなかったか。ああ、何もかも、ばかばかしい。私は、醜い裏切り者だ。どうとも、勝手にするがよい。やんぬる哉」
米山「――四肢を投げ出して、うとうと、まどろんでしまった。
ふと耳に、潺々、水の流れる音が聞えた。そっと頭をもたげ、息を呑んで耳をすました。すぐ足もとで、水が流れているらしい。よろよろ起き上って、見ると、岩の裂目から滾々と、何か小さく囁きながら清水が湧き出ているのである。その泉に吸い込まれるようにメロスは身をかがめた。水を両手で掬って、一くち飲んだ。ほうと長い溜息が出て、夢から覚めたような気がした」
枝村「歩ける。行こう。肉体の疲労恢復と共に、わずかながら希望が生れた。義務遂行の希望である。わが身を殺して、名誉を守る希望である。斜陽は赤い光を、樹々の葉に投じ、葉も枝も燃えるばかりに輝いている。日没までには、まだ間がある。私を、待っている人があるのだ。少しも疑わず、静かに期待してくれている人があるのだ。私は、信じられている。私の命なぞは、問題ではない。死んでお詫び、などと気のいい事は言って居られぬ。私は、信頼に報いなければならぬ。いまはただその一事だ」
枝村米山「走れ!メロス」
枝村「私は信頼されている。私は信頼されている。先刻の、あの悪魔の囁きは、あれは夢だ。悪い夢だ。忘れてしまえ。五臓が疲れているときは、ふいとあんな悪い夢を見るものだ。メロス、おまえの恥ではない。やはり、おまえは真の勇者だ。再び立って走れるようになったではないか。ありがたい!私は、正義の士として死ぬ事が出来るぞ。ああ、陽が沈む。ずんずん沈む。待ってくれ、ゼウスよ。私は生れた時から正直な男であった。正直な男のままにして死なせて下さい」
米山「路行く人を押しのけ、跳ねとばし、メロスは黒い風のように走った。野原で酒宴の、その宴席のまっただ中を駈け抜け、酒宴の人たちを仰天させ、犬を蹴とばし、小川を飛び越え、少しずつ沈んでゆく太陽の、十倍も早く走った。一団の旅人と颯っとすれちがった瞬間、不吉な会話を小耳にはさんだ」
藤沢「いまごろは、あの男も、磔にかかっているよ。」
枝村「ああ、その男、その男のために私は、いまこんなに走っているのだ。その男を死なせてはならない」
枝村米山「急げ、メロス」
枝村「おくれてはならぬ。愛と誠の力を、いまこそ知らせてやるがよい。風態なんかは、どうでもいい」
米山「メロスは、いまは、ほとんど全裸体であった。呼吸も出来ず、二度、三度、口から血が噴き出た」
枝村「見える。はるか向うに小さく、シラクスの市の塔楼が見える。塔楼は、夕陽を受けてきらきら光っている」
儀間「ああ、メロス様」
米山「うめくような声が、風と共に聞えた」
枝村「誰だ」
米山「メロスは走りながら尋ねた」
儀間「フィロストラトスでございます。貴方のお友達セリヌンティウス様の弟子でございます」
米山「その若い石工も、メロスの後について走りながら叫んだ」
儀間「もう、駄目でございます。むだでございます。走るのは、やめて下さい。もう、あの方をお助けになることは出来ません」
枝村「いや、まだ陽は沈まぬ」
儀間「ちょうど今、あの方が死刑になるところです。ああ、あなたは遅かった。おうらみ申します。ほんの少し、もうちょっとでも、早かったなら!」
枝村「いや、まだ陽は沈まぬ」
米山「メロスは胸の張り裂ける思いで、赤く大きい夕陽ばかりを見つめていた。走るより他は無い」
儀間「やめて下さい。走るのは、やめて下さい。いまはご自分のお命が大事です。あの方は、あなたを信じて居りました。刑場に引き出されても、平気でいました。王様が、さんざんあの方をからかっても、メロスは来ます、とだけ答え、強い信念を持ちつづけている様子でございました」
枝村「それだから、走るのだ。信じられているから走るのだ。間に合う、間に合わぬは問題でないのだ。人の命も問題でないのだ。私は、なんだか、もっと恐ろしく大きいものの為に走っているのだ。ついて来い!フィロストラトス」
儀間「ああ、あなたは気が狂ったか。それでは、うんと走るがいい。ひょっとしたら、間に合わぬものでもない。走るがいい」
米山「言うにや及ぶ。まだ陽は沈まぬ。最後の死力を尽して、メロスは走った。メロスの頭は、からっぽだ。何一つ考えていない。ただ、わけのわからぬ大きな力にひきずられて走った。陽は、ゆらゆら地平線に没し、まさに最後の一片の残光も、消えようとした時、メロスは疾風の如く刑場に突入した」
枝村米山「間に合った」
枝村「待て。その人を殺してはならぬ。メロスが帰って来た。約束のとおり、いま、帰って来た」
米山「と大声で刑場の群衆にむかって叫んだつもりであったが、喉がつぶれて嗄れた声が幽かに出たばかり、群衆は、ひとりとして彼の到着に気がつかない。すでに磔の柱が高々と立てられ、縄を打たれたセリヌンティウスは、徐々に釣り上げられてゆく。メロスはそれを目撃して最後の勇、先刻、濁流を泳いだように群衆を掻きわけ、掻きわけ」
枝村「私だ、刑吏!殺されるのは、私だ。メロスだ。彼を人質にした私は、ここにいる!」
米山「と、かすれた声で精一ぱいに叫びながら、ついに磔台に昇り、釣り上げられてゆく友の両足に、齧りついた。群衆は、どよめいた。あっぱれ。ゆるせ、と口々にわめいた。セリヌンティウスの縄は、ほどかれたのである」
枝村「セリヌンティウス」
米山「メロスは眼に涙を浮べて言った」
枝村「私を殴れ。ちから一ぱいに頬を殴れ。私は、途中で一度、悪い夢を見た。君が若し私を殴ってくれなかったら、私は君と抱擁する資格さえ無いのだ。殴れ」
米山「セリヌンティウスは、すべてを察した様子で首肯き、刑場一ぱいに鳴り響くほど音高くメロスの右頬を殴った。殴ってから優しく微笑み」
高橋「メロス、私を殴れ。同じくらい音高く私の頬を殴れ。私はこの三日の間、たった一度だけ、ちらと君を疑った。生れて、はじめて君を疑った。君が私を殴ってくれなければ、私は君と抱擁できない」
米山「メロスは腕に唸りをつけてセリヌンティウスの頬を殴った。
枝村高橋「ありがとう、友よ」
米山「二人同時に言い、ひしと抱き合い、それから嬉し泣きにおいおい声を放って泣いた。群衆の中からも、歔欷の声が聞えた。暴君ディオニスは、群衆の背後から二人の様を、まじまじと見つめていたが、やがて静かに二人に近づき、顔をあからめて、こう言った」
北島「おまえらの望みは叶ったぞ。おまえらは、わしの心に勝ったのだ。信実とは、決して空虚な妄想ではなかった。どうか、わしをも仲間に入れてくれまいか。どうか、わしの願いを聞き入れて、おまえらの仲間の一人にしてほしい」
米山「どっと群衆の間に、歓声が起った」
ボイス、藤原の声で作った群衆かつ藤原の声「万歳、王様万歳」
米山「ひとりの少女が、緋のマントをメロスに捧げた。メロスは、まごついた。佳き友は、気をきかせて教えてやった」
高橋「メロス、君は、まっぱだかじゃないか。早くそのマントを着るがいい。この可愛い娘さんは、メロスの裸体を、皆に見られるのが、たまらなく口惜しいのだ」
枝村北島儀間西岡高橋藤沢藤縄藤原米山和田「勇者は、ひどく赤面した」
小川「……何か感動しちゃった……!」
―――終わり
『荒れてる息子』
・登場人物
米山(お隣の主婦)
儀間(お隣の主婦)
小川美幸(米山と儀間の家の隣の家の母親:声のみ)
小川正将(美幸の息子:序盤声のみ。終盤登場)
・舞台
道端
・衣装
正将・・・7:3分けに黒縁瓶底眼鏡に学ランをキッチリ締めてる。
明転。
道端。
米山、舞台上手側で箒で掃除をしている。儀間、舞台下手から登場。
儀間「あら、米山さん。こんにちは」
米山「あぁ、儀間さん。こんにちは」
儀間「ちょっと、ここだけの話、お隣の小川さんの息子さん、荒れてるらしいわよ?」
米山「あー。たまに聞こえてきますよね」
儀間「さっきもやってたのよ?」
米山「内容は?」
儀間「聞いてれば分かるわよ」
正将「おいママぁ(ババァに近い発音とイントネーションで)!金、出せよ!」
美幸「この前あげたばかりじゃない……」
正将「五月蠅ぇ!良いから出せよ!金!」
米山「……荒れてますねぇ」
儀間「えぇ。荒れてるのよ……」
正将「もう切れちまったんだよ、薬!」
米山「クスリって……相当ヤバいんじゃないんですか?」
儀間「そうなのよ……もう何本、使ったから分からないらしいのよ」
米山「単位の事は分かりませんけど、相当、中毒者なんですね……」
正将「もう荒れて仕方ねぇんだよ!早く金を寄越せよママぁ!」
米山「荒れてるのは自覚あるのか……」
儀間「大変よねぇ。小川さんの所も」
正将「もう痛くて痛くてたまらねぇんだよ!」
米山「痛いんだったら止めたら良いのに……」
儀間「止めれないらしいわよ?」
米山「えぇ……?」
正将「もう耐えられねぇんだよ!この血と痛みがよぉ!」
美幸「でも今月でもう何回目……?まだ真夏なのよ?」
米山「季節とか関係あるんですかね?」
儀間「さぁ?」
正将「仕方ねぇだろ!体質なんだから!」
美幸「病院に行きましょ?そうしたら良くなるから」
正将「俺、注射は嫌いなんだよ!」
米山「私クスリには詳しくないんですけど、注射器タイプ以外にあるんですね。飲み薬的な?」
儀間「いや、塗り薬よ」
米山「え?」
美幸「注射なんてしないでしょ。塗り薬と飲み薬で終わりでしょ?」
正将「でも俺、病院は怖くて嫌なんだよぉ!」
美幸「大丈夫だって。ママも着いて行ってあげるから」
正将「嫌だぁ!」
美幸「我が儘を言わないの!」
正将「自力で治したいんだよぉ!この唇の荒れをよぉ!」
米山「……あ、荒れてるって、精神的な方とか暴力的な方じゃなくて、唇の乾燥による荒れの事を言ってるんですか?」
儀間「みたいよ?本当、困ったもんよねぇ……」
正将「今すぐ欲しいんだよリップクリームぅー!」
米山「買ってあげれば良いのに……」
美幸「でも今月に入ってもう五本目よ?流石にこれは……」
正将「これ見てよ!これによるとこのリップクリームが一番効果があるんだって!」
美幸「それ当てになるの?結局、市販品じゃ限界があるでしょう?」
正将「これはお医者さんも勧める超効能効果があるやつらしいんだよ!これ買ってよ~!」
美幸「流石に駄目です。もしかしたら本当に何か重大な病気かもしれないから、一度、病院に行こう?ね?」
正将「病院は怖いって言っただろ!?ママぁ!」
米山「よく聞いたら分かったんですけど、あれ、ババァじゃなくてママぁって言ってます?」
儀間「そうよ?」
米山「マザコン?」
儀間「多分ね」
美幸「もう!好き嫌いせずに何でも食べないからそうなるのよ!ちゃんと栄養の事を考えないからそうなるのよ!」
正将「怒らないでよママぁ~!」
美幸「全くもう!これじゃあ救急車を呼ぶわよ!?」
正将「それだけは嫌だぁ~!」
美幸「じゃあこれが最後ね!これで治らなかったら病院!それで良いわね!?」
正将「分かったぁ~!」
米山「何か解決しましたね」
儀間「みたいね」
美幸「じゃあはいコレ!最後のお金ね!」
正将「ありがと~!ママ大好き~!」
美幸「良いから買ってきなさい!」
正将「はぁ~い!(舞台下手から登場)あ、こんにちは~!(舞台上手に退場)」
米山「あ、こんにちは~……」
儀間「こんにちは~」
米山「根は穏やかな子なんですね」
儀間「そうみたいね」
米山「ってか真夏なのに学ラン来てる……」
儀間「そのストレスで荒れてるのかもね~」
―――終わり
『Sクラス』
・登場人物
北島(後輩)
藤原(先輩)
・舞台
予備校
明転。
予備校。クラス分け表前。名前とクラスが書かれたボードがある。
北島、板付き。
北島「えーっと……俺のクラスは……あ、Bかぁ。結構頑張ったけど、Aには行かなかったかぁ」
藤原「(舞台上手から登場)おう、北島じゃないか」
北島「藤原先輩!?何で藤原先輩がこの予備校に?」
藤原「二浪したんだよ。お前も?」
北島「はい。第一志望が落ちちゃったんで、来年こそはと親を説得して一浪させてもらいました」
藤原「そっかぁ。頑張れよ!」
北島「藤原先輩もね!」
藤原「おう!ところでお前、何クラスなんだ?」
北島「Bッスね」
藤原「えっ!?凄ぇじゃん!今年から入って一番最初がBって相当凄いぞ!?」
北島「本当はA狙ってたんですけどね……まぁここから頑張ります。先輩は何クラスだったんですか?」
藤原「俺?俺はSクラス」
北島「えっ!?Sクラスですか!?」
藤原「そうだが?」
北島「相当凄くないですか!?Sって!」
藤原「そんな事、無いよ」
北島「いやいや、Sクラスって凄いですよ……?もう合格、待ったなしじゃないですか」
藤原「あんまり言うなよ。恥ずかしいから」
北島「いいや、胸を張って下さいよ!Sって相当エリートって事じゃないですか!」
藤原「エリート?」
北島「そうですよ!Sってエリートの証拠じゃないですか!」
藤原「全然、凄くないよ?だって下から七番目なんだから」
北島「……ん?上から一番目じゃなくて?」
藤原「違うよ?ABCDEFGHIJKLMNOPQRSだから、上から十九番目だよ?」
北島「……あ、Sってリアルな階級のSなんですか!?」
藤原「そうだよ?だから落ちこぼれに近い」
北島「あ、本当に凄くないんだ……で、でも、見方を変えれば、下にはまだ下がいるって考え方も出来るのでは……?」
藤原「大して変わらんよ?偏差値ほぼ一緒だし。一、二点差だし」
北島「えぇ……?ちなみにどこの大学受けるつもりなんですか?」
藤原「宇宙大学」
北島「宇宙大学!?先輩、そんな凄い感じの宇宙関係の仕事に就きたいんですか!?」
藤原「さっきからもう……とりあえず落ち着け」
北島「あ、ごめんなさい……」
藤原「良いか?東京大学ってあるだろ?」
北島「はい」
藤原「その下に関東大学があるだろ?」
北島「ん?はい」
藤原「で、その下に日本大学が合って、その下に亜細亜大学があって、その下に優羅志亜大学があって、その下に地球大学があって、その下に太陽系大学があって、その下に銀河大学大学が合って、最後に宇宙大学があるだろ?」
北島「……あ、本当に凄くないんだ!?え、あの、偏差値とかどんな感じなんですか……?」
藤原「二十八」
北島「二十八!?聞いた事が無い数値だ……」
藤原「だから誰も行きたがらないから逆に狙い目なんだ」
北島「え、でも、そこに二年連続で落ちてるんスよね……?」
藤原「そうだなぁ」
北島「じゃあもういっその事、就職した方が良かったんじゃないですか?」
藤原「良いか?北島。偏差値ニ十八の大学に二年連続で落ちるような高卒を誰が雇いたいって言うんだ?」
北島「先輩。頭が良いんだか悪いんだかどっちかにして3下さい」
藤原「だから頭が悪いって遠回しに言ってるだろ」
北島「遠回しに言えるんだったら多分、偏差値ニ十八じゃないっスよ?」
藤原「でも現実、こうして落とされてるし」
北島「いっその事、東大とか受けてみたら良いんじゃないですか?逆に頭が良いのかもしれないし」
藤原「えー?無理だって~!」
北島「受けるだけ受けてみましょうよ」
藤原「え~?逆に~?」
北島「そうです。一周、回って頭が良いのかもしれませんし」
藤原「馬鹿にしてる?」
北島「ほら!そういうところ!」
藤原「え?」
北島「今、馬鹿にされたって分かったじゃないですか!絶対、偏差値がニ十八な訳無いですよ!」
藤原「そうかなぁ……?」
北島「そうですよ!受けるだけ受けてみましょう!?」
藤原「まぁ、お前がそう言うなら……」
暗転。
明転。
予備校。
北島、藤原、舞台上手から登場。
藤原「おい、北島。受けてみたけどサッパリ分からなかったぞ?」
北島「まぁ、それは結果を見て見れば分かりますって」
藤原「そうかぁ?お前も東大を受けたんだよな?」
北島「はい。ちなみに受かってましたよ」
藤原「はぁ!?何で先に見るんだよ!?」
北島「だって予備校の先生に報告しなきゃいけないじゃないですか」
藤原「裏切者め~……!俺はお前と一緒に開けてドキドキしたかったのに……!」
北島「あぁ、だからずっとその封筒握りしめてるんですね?」
藤原「え?あ、おう。ところでお前は入る学部は決めてるのか?」
北島「いえ。入学してからゆっくり決めようと思います」
藤原「東大ってそういうところあるよな~。普通、どこの学部、学科を決めて受験するのにな~」
北島「で?先輩はどうだったんですか?」
藤原「見るのが怖いが……えい!」
北島「ど、どうでした……?」
藤原「……う、う、う、受かった~!」
北島「す、凄い!これで今年の春から一緒に大学に行けますね!」
藤原「あぁ!受けてみて良かった!ありがとう!北島!」
北島「いえいえ!先輩の努力の賜物ですよ!ちなみに第二志望と第三志望と滑り止めはどうだったんですか?」
藤原「あ、それは見た。全部、落ちてた」
北島「あ、逆に?」
藤原「そう。逆に」
―――終わり
『出汁』
・登場人物
北島(客)
藤原(客)
枝村
・舞台
喫茶店
明転。
喫茶店。テーブル一つに椅子二つ。テーブルの上にはケーキがいくつか。
北島、藤原、板付き。藤原、写真を撮っている。
北島「なぁ?もう良いだろ?早く食おうぜ?」
藤原「え?あぁ、ごめん、ごめん。後一枚撮ったらな」
北島「早くしてくれよー。俺、ここのケーキ喰いたくてウズウズしてたんだからさー」
藤原「分かってるって。良し。こんなもんか。じゃあ喰うか」
北島「でもいきなり甘い物は喰わずに、定食からな」
藤原「喫茶店で定食て」
北島「良いだろ別に。元定食屋だったんだから。それにそれがここのマスターの拘りなんだから」
藤原「まぁ、そうだな。じゃあ喰うか」
北島「おうじゃあ」
北島藤原「頂きまーす」
北島「……うわぁ……!美味ぇ……!」
藤原「うん……これは美味い……!」
北島「来て良かった~!ケーキだけじゃなくて定食も美味いのかよ~!」
枝村「(舞台上手から登場)ありがとうございます」
北島「あっ、マスター。いや、本当に美味しいです!」
藤原「この炊き込みご飯、椎茸の出汁が効いてて良いですね」
枝村「拘りました」
藤原「お味噌汁も鰹の出汁が効いてて本当に美味しいです」
北島「そうそう」
枝村「拘り抜いた甲斐がありました。ではごゆっくり(舞台上手に退場)」
北島「本当、出汁が良いよな」
藤原「うん。拘りを感じる」
北島「ふぅ。ご馳走さんでした」
藤原「ご馳走様でした」
北島「さて、ケーキの方を喰うかな……うん、うん!美味い!」
藤原「これは美味いなぁ」
北島「な!味と香りが良いよな!」
藤原「うん。紅茶の出汁が効いてるんだな」
北島「紅茶の風味が効いてるって言えよ」
藤原「え?」
北島「何だよ。紅茶の出汁って。雰囲気がぶち壊しだよ」
藤原「あぁ、悪い、悪い。それよりこっちも喰ってみようぜ」
北島「おう……うん、うん!美味い!」
藤原「これは良いな!珈琲の出汁が効いてる!」
北島「だから珈琲の風味が効いてるって言えよ」
藤原「あ、そうか」
北島「こっちは……?おっ、これは渋い!」
藤原「これは良い味出してるわ」
北島「なっ!」
藤原「抹茶の出汁が効いてる」
北島「だから風味が効いてるって言えよ」
藤原「あ、そうか、そうか」
北島「も~!折角、良い雰囲気だったのに~!」
藤原「悪かったって」
枝村「(舞台上手から登場)どうかされましたか?」
北島「あ、ごめんなさい……五月蠅かったですよね……?」
枝村「いえ。何だか今にも喧嘩をしてしまいそうな雰囲気でしたので心配で」
北島藤原「すみませ~ん……」
枝村「もし宜しければお話をお伺い出来ますか?」
北島「いや、本当にしょうもない話なんで……」
枝村「いいえ、何だか私の提供したお料理に何か問題があるような雰囲気でしたので」
北島「あー……いや、その……」
藤原「いやね?このケーキの出汁について何ですけどね?」
北島「藤原!風味!」
藤原「あ、そうか」
枝村「分かってくれましたか!」
北島「え?」
枝村「この紅茶と珈琲と抹茶の出汁はかなり拘ったんですよ~!」
藤原「分かります!良い出汁をお使いになってますよね~!」
北島「え?え?」
枝村「この出汁を探し出すのに十年掛かったんですよ~!」
藤原「この出汁が無いとこの味は出ませんよね~!」
北島「え?え?え?ちょっと、ちょっと?」
枝村「何ですか?」
北島「え?あの、その、出汁で合ってるんですか……?」
枝村「そうですが?何か?」
北島「いや、こう、何というか……風味が効いてるって言った方が雰囲気がありませんか……?」
枝村「まっさか~!だってウチ、元々、定食屋っスよ!?そんな洒落たもん出す訳無じゃいないですか~!」
北島「あ、そう、ッスか……」
藤原「やっぱり国産に限ってるんですか?」
枝村「いやいやいや、ご冗談を!抹茶はともかく、紅茶と珈琲は国産じゃあこの味は出せませんよ~!」
藤原「じゃあやっぱりそれぞれの国に沿ってるんですか?」
枝村「そりゃあモチのロンッスよ!紅茶はイギリス、珈琲はブラジル産の物を使用してますよ~!」
藤原「抹茶は?抹茶は何処なんですか?」
枝村「そりゃあ勿論、静岡ですよ!」
藤原「結構ベタな所に行くんですね~!」
枝村「何事もね、基本が出来てないと上手くいかないんですよ……!だからここから更に拘りに拘り抜いて、最後は完璧に拘り抜いた喫茶店もとい定食屋に進化させますよ!」
北島「あぁ……出汁をダシに話が進んでいく……」
―――終わり
『本物』
・登場人物
北島
藤原
枝村
西岡
高橋
藤縄
・舞台
ラーメンの屋台街
明転。
ラーメンの屋台街。ラーメン屋の屋台が五軒並んでいる。それぞれ「元祖ラーメン小川家」「本家ラーメン小川家」「本元ラーメン小川家」「家元ラーメン小川家」「大本ラーメン小川家」と幟旗がある。
藤原、枝村、西岡、高橋、藤縄、板付き。北島、舞台上手から登場。
北島「へー。ここって、こんなにラーメンが栄えてんだー。あれ?何か似た名前のラーメン屋が並んでるなぁ」
藤原枝村西岡高橋藤縄「らっしゃい!」
北島「まぁどこも一緒だろ。すみませーん(元祖に入る)」
藤原「らっしゃい!何にします?」
北島「あー……じゃあ、折角なんで小川ラーメンを」
沈黙。
北島「え?あの……?」
藤原「お客さん。今、何ておっしゃった……?」
北島「へ?小川ラーメンを……」
枝村西岡高橋藤縄「ちょっと待ったぁ!」
枝村「本家小川ラーメンはウチだ!」
西岡「本元はウチだ!」
高橋「いいや!家元はウチだ!」
藤縄「何を言ってる!?大本はウチだ!」
藤原「馬鹿野郎!元祖はウチだい!」
北島「あ、あの……?」
藤原枝村西岡高橋藤縄「ウチのラーメンを喰ってくれ!」
北島「えぇ!?そ、そんなに食べられませんよ!?」
藤原「俺達それぞれが一人前の五分の一を出す!」
枝村「それを喰ってどれが本物の味か決めてほしい!」
北島「えぇ……?でも俺、グルメ雑誌の編集者でも何でもありませんよ?」
西岡「そんな事はどうでも良い!」
北島「えぇ?」
高橋「そうだ!素人の率直な意見が欲しい!」
藤縄「それでどこが一番、美味しかったかで勝敗を決めたい!」
北島「え、じゃ、じゃあ折角なんで……料金はどうしましょうか?」
藤原「俺達の小川ラーメンは皆千円だ」
枝村「だから二百円ずつで良い」
北島「は、はぁ……?じゃあ、はい。二百円を五店舗に……」
藤原枝村西岡高橋藤縄「毎度ありぃ!」
北島「いや、初めてなんスけど……」
藤原枝村西岡高橋藤縄「少々お待ちくださぁい!」
北島「はぁ……」
藤原枝村西岡高橋藤縄「お待ちどう!小川ラーメン!」
藤原「元祖!」
枝村「本家!」
西岡「本元!」
高橋「家元!」
藤縄「大本!」
北島「あ、じゃあ、元祖から順番に……(食べる)」
北島「うん、うん」
藤原「どうでい!ウチの味は!?」
北島「とりあえず次、本家を」
枝村「どうですか!?」
北島「次、本元」
西岡「どうッスか!?」
北島「次、家元」
高橋「どうでっしゃろ!?」
北島「最後、大本」
藤縄「ど、どうですかね……!?」
北島「……僅差だなぁ……」
藤原枝村西岡高橋藤縄「何だって!?」
藤原「ウチ!ウチですよね!?」
枝村「馬鹿!ウチだよ!」
西岡「分かって無いな。ウチだよ!」
高橋「ウチに決まってる!」
藤縄「いいや、ウチだね!」
北島「どれも僅差だ……僅差の不味さだ……」
藤原枝村西岡高橋藤縄「えぇ!?」
藤原「そんな馬鹿な!?」
枝村「そんな訳あるか!」
西岡「美味しいですよね!?」
高橋「そうだ!美味しいの間違いだ!」
藤縄「仮に不味かったとして、どこが一番。不味かったですか!?」
北島「うーん……不味さのベクトルが違うから何とも甲乙付け難い……」
藤原枝村西岡高橋藤縄「えぇ!?」
藤原「ど、どこがどう違うんですか!?」
北島「えーっとね……まず元祖さん」
藤原「は、はいっ!」
北島「麺が柔らか過ぎる。茹で過ぎ。その上、味が無い」
藤原「なっ……!?」
北島「次、本家さん」
枝村「はいっ!」
北島「スープが残念。出汁を入れりゃあ良いってもんじゃない。どれか一つに絞ってほしい」
枝村「がっ……!?」
北島「次、本元さん」
西岡「はいっ!」
北島「お酢を使い過ぎ。論外」
西岡「うっ……!?」
北島「次、家元さん」
高橋「はいっ!」
北島「背油が多過ぎ。もう本来の味が無いと思う」
高橋「ぐっ……!?」
北島「最後、大本さん」
藤縄「はいっ!」
北島「単純に辛過ぎ。味なんか分かんない」
藤縄「ぎっ……!?」
北島「総じて点数は皆零点。一から出直しなさい」
藤原枝村西岡高橋藤縄「ぐぐぐ……!」
北島「ご馳走様でした。次までには味を調えて置いて下さいね?まぁ、そもそも二度と来るかって感じですけど」
藤原枝村西岡高橋藤縄「ま、待って下さい!」
北島「はい?」
枝村「どうか、どうか最後にアレを食べて下さい!」
北島「アレ?」
西岡「すぐにご用意しますので!」
高橋「少々お待ち下さい!」
藤縄「皆!行くぞ!?」
藤原枝村西岡高橋「応っ!」
藤原、枝村、西岡、高橋、藤縄、元祖の中に入り、一杯のラーメンを持ってくる。
藤原枝村西岡高橋藤縄「お待ちどう!」
北島「これは?」
藤原「まぁまぁ」
枝村「良いから食べてみて下さい!」
北島「はぁ……?じゃあ頂きます……うん、うん!これは美味い!」
藤原枝村西岡高橋藤縄「本当ですか!?」
北島「これこそ本物のラーメンだ!正統派ラーメンだ!」
藤原枝村西岡高橋藤縄「やっぱり……」
北島「やっぱり?とは?」
西岡「前々から思ってたんですよ。俺達は皆で一つのラーメンなんじゃないかって」
高橋「元々は一つだった店がそれぞれ五つに分かれてから、業績が落ちてしまって……」
藤縄「今のでハッキリと分かりました!俺達、これからは一つのラーメン屋としてやっていきます!」
北島「その方が良いですよ」
藤原枝村西岡高橋藤縄「ですよね!?」
藤原「皆、今までいがみ合っててごめん!」
枝村「俺の方こそ」
西岡「俺だって」
高橋「これからは一つの店でやっていこう!」
藤縄「元祖、本家、本元、家元、大本……これらを統一した店の名前……あっ!」
藤原枝村西岡高橋藤縄「本物ラーメン小川家!どうでしょう!?」
北島「まぁ、良いんじゃないですか?」
藤原枝村西岡高橋藤縄「ありがとうございました!じゃあ今日は無料でもう一杯どうぞ!」
北島「いや、もう腹いっぱいで……」
藤原「そう言わず!」
枝村「スタンプカードも作りますから!」
西岡「割引券もお付けします1」
高橋「次回、予約して下されば、無料で一杯ご注文頂けます!」
藤縄「あ、そうだ。折角だから俺達の餃子と炒飯も食べてみて下さい!」
北島「……分かりました。どうぞ持って来て下さい」
藤原枝村西岡高橋藤縄「あざーっす!」
藤原枝村「(餃子と炒飯を持ってくる)お待たせしました!餃子と炒飯です!」
北島「どれどれ……マッズ!?こっちもマッズ!?」
藤原枝村西岡高橋藤縄「えぇ!?」
西岡「そんな……!?俺達の全てを結集したラーメンが美味くて、餃子と炒飯が不味いなんて!?」
北島「一応ですけど、それぞれの店の餃子と炒飯を出して下さい」
藤原枝村西岡高橋藤縄「は、はい!(それぞれ餃子と炒飯を持ってくる)」
藤原「元祖餃子と元祖炒飯です!」
枝村「本家餃子と本家炒飯です!」
西岡「本元餃子と本家炒飯です!」
高橋「家元餃子と家元炒飯です!」
藤縄「大本餃子と大本炒飯です!」
北島「頂きます……うん、うん!これはこっちの方が良いな!」
藤原枝村西岡高橋藤縄「本当ですか!?」
北島「うん。これはそれぞれの味を出した方が美味い」
藤原「じゃあこれからは別メニューで出すか」
枝村「そうだな」
西岡「それか日替わりで出すかだな」
高橋「それだとバラつきが出そうだけどな」
藤縄「まず別メニューとして出してみようよ」
藤原枝村西岡高橋藤縄「じゃあそれで!」
藤原「お客さん。本当にありがとうございました!」
枝村西岡高橋藤縄「ありがとうございました!」
北島「何。これからは心機一転、頑張って下さいね?」
藤原枝村西岡高橋藤縄「はい!」
北島「じゃあ俺は帰るんで」
藤原枝村西岡高橋藤縄「またのお越しをお待ちしておりまぁす!(それぞれの屋台に戻る)」
北島「久々に本物の味を食べたなぁ」
―――終わり




