―第1話 「神代氷月」―
新シリーズもやりますがもうひとつの転生物も毎日更新します
春は、嫌いだった。
新しい始まりのはずなのに、何もかもが白々しい。
僕はその光の中に立っている。
「――今日から編入することになりました、神代氷月です。よろしくお願いします」
教室に入った瞬間、空気が変わるのが分かった。
静かになる、というより――止まる。
視線が一斉にこちらへ向く。
お嬢様学校。
磨かれた制服、整えられた髪、過剰に静かな教室。
その中で、僕だけが少しだけ“異物”だった。
「……綺麗」
誰かがそう呟いた。
すぐに笑いに紛れる。
「でも、ちょっと怖くない?」
「なんか人形みたい」
それは褒め言葉なのか、それとも違うのか分からない。
でも、どちらでもよかった。
黒板に名前が書かれる。
【神代 氷月】
チョークの音がやけに響く。
その音だけが、この場で唯一“現実”のように思えた。
「席は窓際のあそこね」
言われた場所へ向かう。
歩くたびに視線が刺さる。
興味、好奇、警戒――その全部が混ざっている。
その中に、“少しだけ違う温度”があった。
説明できないけれど、何かがこちらを見ている気がする。
席に座る。
隣の女子が小さく声をかけてきた。
「……神代さん、だよね?」
「そうだけど」
「よろしく」
短い会話。
それだけで少しだけ空気が和らぐ。
窓の外、春の光が揺れている。
その光の向こう側に、一瞬だけ何かが見えた気がした。
――ねぇ。
氷月。
「……」
視線を戻す。
そこには何もない。
教室。机。黒板。
ただの現実。
「神代さんってさ」
隣の声が続く。
「最初からここにいたみたいだよね」
「そう見える?」
「うん。完成されてる感じ」
完成。
その言葉だけが少し引っかかった。
僕は少しだけ考えてから答える。
「なら、それでいいんじゃない」
教室は日常に戻っていく。
笑い声。雑談。春のざわめき。
その中心で、僕だけが少しだけ浮いている。
――どこかで、また声がした気がした。
でも今度は、聞こえなかったふりをした。
神代氷月は、窓の外に目を向ける。
春は眩しすぎて、少しだけ痛かった




