第98話 暴かずに救え。
みんなから与えられた時間は、体育祭が再開されるまでのおよそ90分。それほど余裕があるわけではなく、悠長に考えている暇もないため、俺はすぐに行動へと移ることにした。
まずは――二人の力を借りる。
俺は雪と咲にメールを送り、誰もいない教室を確保してそこへ呼び出した。ほどなくして二人は揃って現れ、俺はこれまでの経緯を簡潔に説明する。
「‥‥そういうことね。これは、思っていた以上に厄介な話だわ。」
咲は腕を組みながら静かに呟き、その隣で雪も難しい表情を浮かべる。
「だね。七瀬先輩が犯人だってことを一ノ瀬会長が知っちゃった時点で、それはもう個人の問題じゃ済まなくなる。下手をすれば家同士の争いに発展する可能性もあるし、かと言ってこのまま放置すれば、一ノ瀬会長の立場が完全に終わっちゃう。」
「そうね。つまりこの件を解決するには、七瀬先輩が犯人であることを表に出さないまま、一ノ瀬会長の無実だけを証明する必要があるということになるわ。」
咲の言葉は的確だった。
この事件は単純な“犯人探し”では終わらない。むしろ、犯人を明らかにしてしまった時点で問題が拡大するという、極めて厄介な構造をしている。
だからこそ、通常の解決方法は使えない。
だが――
「その条件を満たす方法は、一つしかない。」
俺は小さく息を吐きながら、二人へと視線を向ける。
「七瀬先輩に、自分の口で認めてもらうしかない。」
二人の視線が一斉にこちらへ向けられる。
「七瀬先輩が自分で事実を認めて、一ノ瀬会長と直接話をすることが出来れば、家を巻き込むことなく個人間で解決できるはずだし、二人の関係も修復できる可能性がある。」
それが、現実的に取り得る唯一の道だ。
しかし――
「理屈は分かるけど、それって相当難しいわよ。」
咲は即座にそう言い切った。
「自分の罪を認めるなんて、普通はしない。私が七瀬先輩の立場だったら、絶対に認めないし、謝ることもしないわ。」
その言葉には一切の迷いがなかった。
「まぁ、咲ちゃんなら‥‥そうだろうな。」
苦笑しながらも、俺はすぐに言葉を続ける。
「でも、もし七瀬先輩が自分のやったことに対して後悔とか、心苦しさを感じてるとしたらどうだ?昔は仲の良い友達だったんだろ?だったら――謝る可能性だってゼロじゃないはずだ。」
雪が小さく頷きながら口を挟む。
「うん。私もそう思う。気持ちが残ってるなら、動く可能性はあるよ。」
「だな。だからそこに賭けるしかない。」
俺は覚悟を決める。
「俺が直接、七瀬先輩のところに行って話をしてみる。二人は、俺が失敗した場合に備えて証拠を探しておいてほしい。」
その言葉に、咲は一瞬だけ目を細めたあと、静かに頷いた。
「分かったわ。相手は七瀬家の人間よ。何をしてくるか分からない以上、警戒だけは絶対に怠らないようにしなさい。」
「あぁ、分かってる。」
「私も了解だよ。生徒会長に気付かれないように、咲ちゃんと一緒に動くね。」
「あぁ、頼んだ。」
そうして役割を分担し、俺たちはそれぞれ動き出すことになった。
二人と別れたあと、俺は迷うことなく歩き出す。
向かう先は――
七瀬先輩のもとだ。




