第99話 聞くべきこと。
俺は七瀬先輩と話をする為に、その姿を探して校内を歩き回る。
だが、その姿はどこにも見当たらない。白王は名家や資産家、社長といった富裕層の卒業生を多く輩出しており、その支援による潤沢な資金もあって、学校の規模は他とは比べ物にならないほど広大だ。
そんなバカ広い場所から一人の生徒を見つけ出すなど現実的ではなく、本来であれば放送で呼び出すのが手っ取り早いのだが、今の状況ではその手段も使えない。
会長ほどではないにせよ、七瀬先輩もその家柄と風紀委員長という立場から常に注目を集めており、コアなファンも多い以上、軽々しく呼び出すことなど出来るはずもなかった。
しかし、このまま当てもなく探し続けても埒が明かない以上、多少のリスクを承知で手段を選んでいる余裕はない。仕方がない‥‥スキルを使わせてもらう。
「――探知。」
本来、校内でのスキル使用は厳禁であり、この光景を誰かに見られれば生徒会という立場すら危うくなるが、今はそんなことを気にしている時間はない。バレた時は、その時に考えればいい。
自分を中心に、探知の円が静かに広がっていく。
‥‥グラウンドは反応なし、体育館もなし、本校舎もなし‥‥まさか旧校舎かと思うが、そこにも反応はない。七瀬先輩は一体どこにいるんだ?
探知をさらに広げて探っていくが、その姿は一向に捉えられない。まさか学校から出たのか――そう考えた、その瞬間だった。
ピコン!!
屋上に一つの反応が現れ、その位置にいる人物が七瀬先輩であることを、俺は確信する。
まさか屋上にいるとは思いもしなかったが、よく考えればあそこは絶好の隠れ場所だ。屋上への立ち入りは教師、もしくは許可を得た者に限られており、それ以外は原則として立ち入ることが出来ない。
加えて今は体育祭の昼食時間であり、校内を歩けば必ず誰かと顔を合わせ、外に出れば保護者と出会う可能性が高い。その度に七瀬家の人間として挨拶を求められる以上、一人になれる場所は極端に限られる。
その条件を満たす場所となれば、屋上しかない。
場所さえ分かれば、あとは向かうだけだ。そうして俺は、七瀬先輩がいる屋上へと足を向けた。
◇
「七瀬先輩。」
静かにその名前を呼ぶと、先輩はわずかに間を置いてから、ゆっくりとこちらへ顔を向けた。
その表情を見た瞬間、胸が締め付けられる。そこにあったのは、ただ辛いとか悲しいとか、そんな一言で片付けられるものじゃない。
同じ名家の人間としてやってしまったことに押し潰されそうなほどの後悔と、逃げ場のない現実に縛られたまま、どうすることも出来ずに立ち尽くしている。
――そんな表情だった。
先輩も苦しんでいる。自分がしてしまったことの重さを、誰よりも理解しているからこそ、その事実が何度も何度も胸の中で繰り返され、消えることなく積み重なっていく。
忘れようとしても忘れられず、目を逸らそうとしても逸らせない現実が、容赦なく先輩を追い詰めている。だからこそ、後悔が消えることはなく、その苦しみは時間が経つほどに深く沈んでいく。
なら、俺がここでやるべきことは決まっている。理由を問い詰めることじゃない‥‥その胸の奥に押し込めているものを、全部吐き出させてやることだ。
それが――俺の仕事だ。
「七瀬先輩。先輩に一つだけお聞きしたいことがあるんでけど、聞いてもいいですか?」
「‥‥」
俺の問いかけに先輩は何も答えなかったが、それでも構わず、俺はそのまま言葉を続ける。
俺が先輩から聞きたかったことは、たった一つだけで――
「先輩は‥‥一ノ瀬会長を嫌っていますか?」




