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『神の手違いが生んだ報われぬ者の転生録』  作者: Lark224a


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第135話 姉と妹。

私と楓花お姉ちゃんとの出会いは、本当に偶然だった。


私は家庭の事情もあって、家族を養う為に自分が働くしかなかった。でも、普通に働いて得られるお金だけでは到底生活を支え切れず、もっと多くのお金を手に入れる為に、私は探索者になるという選択を取ったのである。


そう――最初はお金の為だった。


テレビやインタビューの前では、人を守りたいとか、誰かの役に立ちたいとか、そんな綺麗な言葉を口にしていたけど、探索者になった理由の根本にあったのは結局“お金”だった。


だけど、現実はそんな甘いものじゃない。


今まで争いとは無縁の世界で生きてきた私が、急にダンジョンへ潜って魔物とまともに戦えるわけもなく、最初の頃は何度も死にかけながら、ただその日の生活費を稼ぐだけで精一杯だった。


来る日も来る日も傷だらけになりながらダンジョンへ潜り、ボロボロの体で帰宅して、それでも次の日になればまたダンジョンへ向かう。そんな限界ギリギリの生活を繰り返す内に、私の中から“探索者への憧れ”なんて感情はとっくに消え失せており、残っていたのは生活の為に潜るしかないという義務感だけだった。


そして、その日も同じように魔力も体力も限界まで削られ、まともに武器を握る力すら残っていない状態で、それでも私は必死に魔物から逃げ続けていたのだが、限界を迎えていた私の前へ予期していなかった魔物が現れた瞬間、私は自分の人生がここで終わることを理解してしまう。


体はもう満足に動かず、魔力も底を尽きており、武器を握る気力すら湧いてこない。そんな極限状態の中で死だけが目の前へ迫ってきたことで、私は最後には戦うことすら諦め、その場で泣くことしか出来なくなっていた。


でも――そんな時だった。


突然現れた楓花お姉ちゃんは、私を追い詰めていた魔物を風のような速度で一瞬の内に斬り捨てると、まるでそれが当たり前であるかのような表情を浮かべながら、泣き崩れていた私へゆっくりと手を差し伸べてくれた。


「大丈夫?」


たったそれだけの言葉だったが、その時の私にとって、その言葉と笑顔は何よりも救いだったのである。


絶望しか見えていなかった私にとって、その時の楓花お姉ちゃんは本当に物語の中のヒーローみたいに見えて、自分もいつかこんな風に誰かを助けられる人間になりたいと、心の底からそう思った。


だから私は、その瞬間に決意した。


もう、お金の為だけに生きるのはやめようって。


自分が楓花お姉ちゃんに救われたように、今度は自分が誰かを救える人になりたい。人の為に戦い、人を守れる探索者になりたいと、あの時初めて本気で思ったのである。


そして私は、楓花お姉ちゃんの弟子になった。


――それが、私、宮崎 日葵の始まりだった。



私は鉛のように重い体を無理やり持ち上げながら、ゆっくりと顔を上げ、その目に映った光景に絶望した。


謎の魔物が放った高速の斬撃は私ではなく、私を庇うように飛び込んできた楓花お姉ちゃんの体を深く切り裂いており、その瞬間に楓花お姉ちゃんの口から大量の血が吐き出され、その鮮血が私の顔へ降り掛かる。


「ケホッ!!」


「はぁ‥‥はぁ‥‥楓花お姉ちゃん。何で、はぁ‥‥はぁ‥‥」


息が上手く吸えず、頭も真っ白になってしまったことで、私は言葉すらまともに出てこなくなっていた。


そうしている間にも楓花お姉ちゃんの体はゆっくりと力を失いながら倒れていき、その姿を見た私は慌てて両腕を伸ばし、その体を抱きしめるようにして受け止めた。


その瞬間、私の目からは涙が溢れ出し、止めようとしても止まらない涙によって視界が滲み、楓花お姉ちゃんの顔すらまともに見えなくなっていく。


「ど、どうして‥‥私なんかの‥‥為に、楓花お姉ちゃんが‥‥」


震える声でそう呟くと、楓花お姉ちゃんは苦しそうに血を吐きながら、それでも優しく笑い、震える手をゆっくりと私の頭へ伸ばして、いつものように優しく撫で始めた。


「ケホッ!!良かった。日葵が無事で本当に‥‥良かった。」


だが、その手は小刻みに震えていて、触れられている感覚だけで楓花お姉ちゃんの状態がどれほど危険なのか理解出来てしまう。


「いやだよ。楓花お姉ちゃんが死んでほしくないよ!!何で、私なんかを庇ったの!?私は、楓花お姉ちゃんのようにみんなを守れないのに、どうして!!」


涙を流しながら叫ぶ私に対して、楓花お姉ちゃんは何度も苦しそうに咳き込みながら、それでも必死に言葉を紡いでいく。


「ゴホッ‥‥ゴホッ‥‥そんなことない。日葵はちゃんとみんなを守っているわ。だから、私の代わりにこれからも守って欲しいの‥‥この国を‥‥そして人を。」


その声は徐々に小さくなっていき、楓花お姉ちゃんの胸から伝わってくる鼓動も、時間が経つごとにどんどん弱くなっていったことで、このままでは死ぬということを、医者じゃない私でも理解出来てしまった。


だから、一刻も早く治療しなければならない。


だが――現実は無情だった。


新たに生まれた主は既に二人の目の前まで迫っており、その圧倒的な存在感を放ちながらゆっくりと剣を振り上げていく。


もう逃げることも避けることも出来ない――そう理解した私は、楓花お姉ちゃんを抱き締めるようにしながらゆっくりと目を閉じ、そのまま主が二人へ向かって剣を振り下ろそうとした――その時だった。


魔物の剣が、二人の目の前でピタリと止まり、何故止まったのか理解出来ないまま私が顔を上げると、魔物は二人へ止めを刺すことなく、何処か別の方向へ視線を向けながらゆっくりと歩き始めていた。


そして最後に、人には理解出来ない言葉を低く叫び終えると、その姿はまるで最初から存在していなかったかのように消えていく。


突然の出来事に理解が追い付かない私だったが、今はそんなことを考えている余裕などなく、何よりも優先しなければならないのは楓花お姉ちゃんを助けることだったので、私は涙を拭うことすら出来ないまま、すぐさま楓花お姉ちゃんの体を抱え上げると、必死に出口へ向かって走り出すのであった。

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