霊界での一齣
コンコン
静寂を破りドアをノックする音が響き渡る。
「どうぞ、お入りなさい。」
「失礼します。」
ドアを開けて入って来たのは黒縁眼鏡を掛けた神経質そうな死神の男であった。
「どうしたんだい?日野君。」
「既に局長の耳にも入っているかもしれませんが、私の担当地区で予言の書と異なる事案が数件発生しているようです。」
「ほぉ、そうなんですか。まぁ予言の書も絶対ではありませんし数件であれば気にする必要はないんじゃないですかね?」
「それが、どうやらその全てに死神から眼鏡を借りた一人の人間が関わっているらしいんです。如月聡介と言う名前の人間が。」
死神日野天明は局長である細小路貞行の目を真っすぐに見つめる。
「眼鏡を渡した死神とその人間に対して警告をし場合によっては処罰しようと思いますが、、、、よろしいでしょうか?」
その場に再び静寂が訪れる。
「そこまでする必要はないんじゃないかな?」
細小路の口から出た言葉に納得がいかなかった日野は食い下がる。
「重大な規律違反ですよ?そこまでしたくないのは如月聡介が、、、、」
「日野君!」
聡介の名前が出た途端に話を遮る細小路は至極冷酷な目をしている、それ以上何も言うなということであろう。
「さっきも言ったように予言の書とて絶対ではないんだ、それこそあの辺りで予言の書になかった火災が発生し十数名が命を落としている。約束の日までに十分な霊量は確保出来る見込みでしょうから目くじら立てることでもないでしょう。」
「分かりました、、、、ただ今後も彼らがそのような行動を続けるようであれば、私の立場もありますので警告だけはさせてもらいます。」
現世の四分の一にも渡る地域を統括する細小路は上からは数えた方が早い位の上級死神である。最後に意地の一言を加えたがこれ以上の抵抗は得策ではない、背中に冷たい汗をかいているのを感じながら日野は部屋を後にした。
自分の職場に戻りながら日野は先ほどのやり取りを思い返す。
予言の書になかった火災が近隣で発生したのは偶然だろうか?そんな出来過ぎたことがあるか?
如月たちが歪めてしまった運命の帳尻を合わせるために何か良からぬ力が働いているのではないかと感じずにはいられなかった。
『温室育ちのお坊ちゃんは予言の書ってのがなんなのか、知る由もねぇよなぁ。』
かつて自分が取り締まり処罰を与えた同期の死神が去り際に吐いた言葉を思い出し、心の底がザラザラするのを感じていた。
何にしても日野としては安藤紫音・如月聡介双方の今後の動きには注意しなくてはならない、それが死神を取り締まる職務につく彼の使命なのだから。




