185.5 ドゥクラン オマケ
私は、だらしない公爵の父と夢見がちなメイドだったの母との間に生を受け、誰にも祝福されることなくこの世界に誕生した。
母は、本来なら印持ちの男児を産んだという事で公爵の第二夫人になる条件を満たすも、第一夫人の強硬な反対により、産まれたばかりの私と引き離されたうえ、強制的に田舎の下級貴族の後妻にされた。そして、そのまま2度と私と会うこともなく私が6才の時に亡くなったそうだ。
この話は8才の誕生日の日に、私を唯一可愛がってくれたメイド長が教えてくれた。そして、彼女はその日を境に私の前に現れなくなった。第一夫人の逆鱗に触れたようだ。
それまで夫人達には邪険にされ、自分と瓜二つな義兄に目の敵に、他の義兄弟にも何故か下に見られて鬱々とした日々を送っていたが、理由がハッキリしたことで自分が今後どう振る舞うべきかを理解した。
その後、嫡男であったダスキートを廃嫡した申族は、順当に行けば私が次期当主、第ニ夫人の第一子であり三男の印持ちが守護人獣として討伐に向かう責を負うのだが、ここでもやはり夫人が動いたのだろう、義弟が次期当主として国に承認された。
それを受け、前々から考えていたことを実行に移すことにした。申族の守護人獣の座を棄てるのだ。と言っても、『討伐に失敗して死んだことにしてしまおう。』というザックリしたもので、準備するものといえば、さしあたっての金銭と衣服を簡単にまとめて、森に目印を付けて隠しておく程度。
ある日、酉領との境辺りで大型の魔物が数体出現し、人獣だけでは対応できないからと印持ちの私が率いる部隊も応援に向かった。その地で私は密やかに計画を実行することにした。……のだが、現場では国王自らと酉族の守護人獣、モズが既に討伐し終えて帰還準備を初めていた。
私は計画が実行出来ないことを悟り、物凄く残念な面持ちで、
「申族、守護人獣のダスキートと人獣部隊でございます。討伐戦に間に合わず申し訳ございません。」
国王に深々と頭を下げると、王は少し驚いた様子をみせた後、気にするなと鷹揚に笑った。その日を境に何故か国王に呼び出される事が多くなり、そのうち国王の命により王都に居を構え、最終的に王の近衛兵隊の隊長になった。
隊長になり、充実した日々を送っていた時、国王より大事な話があるとモズ殿と共に呼び出された。そこで国王の考えを聞き感銘を受け協力を申し出た。
私の役目は資金調達と人材と実験場の確保。モズは魔物の捕獲や他国の監視など。役割を決め国王の理想とする国づくりへ向け動き出した。
ここに来て、思わぬものが役に立った。幼少期に無理やり付けさせられた仮面である。以前、ダスキートが廃嫡されると同時に一度仮面を外した事がある。しかし、顔がダスキートに似ているからか何処に行っても間違われ、街に出れば目も会わせないように避けられ、女には罵られ、店に入ろうとすれば今日は店じまいだと断られる。という目にあった。
あの男、普段から街でどれ程の事をしていたのか……それを経験してからはまた仮面を付けて生活した。故に、ドゥクランの顔をハッキリと知るものはいない。
なので仮面を外し、ダスキートのフリをして奴の作った商会を丸々乗っ取り、ダスキートと同等の無能っぷりを発揮する四男の義弟に名ばかりの会長をやらせて資金を確保した。そしてそのまま奴隷商を始め、使える人材を集めると共に、実験用の魔物の餌として活用した。
因みに、あんなダスキートにも良いところを見出だした奇特な者が数人いたらしく、わたしの正体がバレかけた事があったのだが、精神系のスキルを持ったモズが上手いことやってくれたようだ……そのお礼にと理解できない性癖の手伝いをさせられたのは早いこと忘れたい記憶である。
資金も人材も順調に集まり、計画を次の段階に移そうというときに『魔王が誕生したらしい。』と言う噂が世間で囁かれ始めた。時を同じくして、思わぬカードが2枚手に入る。秘匿、保護されていた筈の勇者の親友だと言う娘と、何故かその娘の保護を求めてきた物凄く知能の高い魔物の長と魔物の集団。
魔物の長は髭を生やしたスライムという珍しい見た目もさることながら、こちらの意を汲んで動ける程進化しているようだ。……子供が討伐訓練の相手に選ぶ程弱い魔物の代表格だが、ここまで魔素を吸収したとなると迂闊に手を出さない方が賢明だろう。
この髭スライムの話によれば、この娘は別の知能を持った魔物が魔王への供物用としてさらってきた『勇者』だったそうだ。人違いだったうえに、当の魔物は魔王に挨拶に行ったきり戻らず、『逃げ出さないように見ておけ』と言う命令を守った魔人に食事も与えられず、衰弱していたのを見つけて連れてきたらしい。ずいぶんと不運な娘だ。
私は娘を屋敷に連れていき面倒をみた。回復した娘はローナと言うらしく、国からの恩恵と引き換えに勇者の観察、保護を引き受けた商隊の娘だと判明した。ただ、ローナはマリアが勇者だと言うことも、自分達がそんな任を負っていた事も知らずにいたらしい。
立場を知ったローナは、マリアの話や自分がしてしまったことをポツポツと話、酷く後悔していた。その事を国王に話すとローナと会いたいと言い、会わせるとローナも計画に賛同し、強力してくれる事となった。
ローナの話を聞く限り、勇者マリアはとても利発で人を思いやれる良い子らしい。そういえば、勇者が人探しをしていると言っていたがローナの事だろうか?? ならば知らせてやった方が良いのかも知れない……が、これは王の許可が出なかったので保留となった。
それと、もう1枚のカードである魔物……国王の理想とする世界は魔物の脅威に怯えずに済む世界。魔物との共存共栄。その理想に近づけるかもと淡い期待を胸に魔物と取引をした。
魔力を奪う為に他者を襲わないという条件に対して、他の種族があまり来ない安全に過ごせる場所が欲しいと言うので、申領の山奥で見つけた高い岩が突き出た広場がある森を提供した。
有事の際には力を貸して欲しい、と言えば代わりに魔王の捜索をして欲しいと言う。
あまりの物分かりの良さに驚くも、相容れないと思っていた魔物との協力関係が出来たことを喜んだ。
いつの間にか王の理想が自分の理想に成り代わり、その世界に近づけた事と計画が順調だった事で少し浮かれていたのかもしれない。
国王とローナの様子の変化に気づけなかったのだから……
読んで頂き、ありがとう御座いました。




