165. S のお手柄
奴隷商の元締め、元申族の『ダスキート』の捕獲に成功した。
このダスキートと言う男、年は我々の1つ下で幼い頃からワガママ放題。爵位からすれば同等であるハズの我々にも『公爵家の嫡男』と言う立場を主張し、自分より下に置こうとする。
兄弟であるドゥクランをいつも後ろに控えさせ、あれこれ命令してはグズだノロマだと文句をつけているような奴だった。
そんなダスキートが事件を起こしたのは9年前の茶会。戌族の嫡男、プールド様の婚約者にくだらない嫌がらせをした。泣いて嫌がる令嬢に更に嫌がらせを繰り返し、プールド様だけでなく、グッドル公爵までを怒らせた。
ここまでならキチンと謝罪すれば子供の悪ノリで済んだかもしれない。が、やつはあろうことか、謝りもせず不貞腐れて茶会の会場から出ていった挙げ句、大人達が夜会に出ている間に部屋付きのメイド達を騙し、プールド様に嫌がらせをしに行った。結果、自身の親であるモンキーニ公爵もそれまでの奔放さも相まって、腹に据えかねたのか勘当の処分をし事態を納めた。
その後は、今まで聞いてきた通りだが、目の前の煤だらけの男と、人工で魔王を造って国を滅ぼそうとする男のイメージが会わない。とりあえず、縛られて文句を言うダスキートに、
「何をふざけたことを!! 自分がしたことを考えてみろ! このまま行けばどれ程の被害が出ると思ってるんだ!!」
どうとでもとれるように、話を振ってみる。すると顔色を変え謝ってくる。やはり、人造魔王の黒幕はお前か!?
「新しく区画を作って、同じ本数の苗を植えたんだ! 今度は根腐れなんかさせない! 作り方をちゃんと聞いたからな!! あ、苗はちゃんと自分の金で買ったぞ、教会の金には手を付けてないから安心してくれ。」
………………何の話だ?? 困惑していると、ナーナという修道女がダスキートの話に反応する。トマトが採れなければ、教会のバザーの収益に被害が出るそうだ。
………………………………………ハァ?
ナーナは誰に断るでも無しにダスキートの縄を外し、一緒になって頭を下げる。ダスキートのこの行動に衝撃を受けたのは私だけではなかったようだが、どうもダスキートはここしばらくこの土地で静かに暮らしていたらしい。
と、イチカが自分を連れ去った男とは違う気がすると言い始めた。よくよく聞けば、いつも仮面を着けていた弟のドゥクランは顔がそっくりなのだそうだ。
ならば、本当の黒幕はドゥクランなのだろう……。かなり有益な情報を入手したのだが、何故かどっと疲れた……。
我々はダスキートとナーナに別れを告げ、壊滅した村に向かって再び移動を開始する。
「セス兄様はドゥクランって人には会ったことあるの? ダスキートにそんなに似てる?」
ファジールが聞いてくる。そうか、9年前はまだ3才だったファジールはダスキートを覚えて無いのか……
「会ったことはあるが、いつも仮面を着けていたからな……ダスキートの命令で着けてたって話だが、最近の茶会や夜会でもずっと着けてたから素顔は知らないんだ。」
あの仮面の人か! と思い当たったらしい。
「あの人、いつも仮面着けたままで……会場の端で話しかけるな!! ってオーラを出してる感じで話しかけづらくて……」
そうだな。私も一言二言位しか話した記憶が無いな。と、『ピィーーー! ピィーーー!』とイヤに大きな鳥の鳴き声が聞こえ、外が騒がしくなってきた。見ればフィルやホルス様、ファジールやマリア嬢まで臨戦態勢をとっている。
イチカはノリアスを守るように抱え込み、タイラ様は卵を抱えながらノリアスを離すようにイチカを説得している。
「どうした?」
御者台のフィルに聞けば、
「ドラゴンだ!! 上空で3頭、鳴きながら旋回してる!」
「ま、待って!! 攻撃しちゃダメだからな!! 俺降りるから!! 止めて! 皆、早まるなよ!! 絶対攻撃しちゃダメだからな!!」
タイラ様がドラゴンと聞き、慌てて幌内から出ていく。
「セス! 卵とって!! あ、結構重いから気をつけて……」
確かに少し重量のある卵を持ち、一緒に馬車から降りる。危ないから馬車に入っててと言うが、タイラ様1人に任せるわけにはいかない。だって、卵持ってフラフラしてるし……
危なっかしいタイラ様から卵を取り上げ、横に並ぶ。
「あ、ありがとう……良かった。なんかだんだん重くなってる気がする……って、それ、頭の上に持ち上げられる?」
言われたとおり持ち上げると、
「おーい!! 見えるかぁー? 女王連れてきたぞぉー! 竜王呼んでくれぇーー!!」
上空で旋回するドラゴンに話しかけている。と、1頭が我々が向かおうとしていた方に向かい飛んで行った。
「良かった! 聞こえたみたい!!」
タイラ様が笑顔で此方を向いた瞬間、ゴォーーーー……バキバキっ!! ドーン、ドーン…… かなりの突風が吹き、木々が折れ、折れた木が地面に叩きつけられて地響きがする。誰かが結界を張ってくれたようで、馬車や我々は無事だが、森に隠れていたのであろう魔物達は木々と一緒にふっ飛んで行った。
視界が開けた先に居たのは、山かと思うほど大きく真っ黒なドラゴン。私の身体より大きな瞳をゆっくりと動かし、我々を観察する。突風から守るため抱え込んだ卵に視線を会わせると、『ギャーーーーー!!』っと言う耳を塞ぎたくなるような大声で哭いた。
卵を落とすわけにもいかず抱え込み、肩を竦めてやり過ごしていると、ピキピキと卵にヒビが入った。お? 産まれるのか?? このまま持っているべきなのか置いた方が良いのかと瞬巡していると、卵の殻が突如盛り上がり私の顎を直撃した。
「おっふ……」
落とさなかった自分を褒めてやりたい……。クラクラとしていると、タイラ様が背中を支えてくれたが立っていられず、そのまま尻餅を着くように座り込んでぼんやりと目の前の光景を眺める。
黒い山に向かい、白い蝶が飛んで行く……
「よかったー! 無事に孵った!! ありがとな、セス。俺なら落としてたかも知れないわ……ってだいじよ……」
タイラ様が座り込んだ私の背中を支えたまま、感謝の意を伝えてくれた。そこまでは覚えているが、そこあとは気を失ったようで覚えていない。
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