144. I とホルス
「ドラド……ドラドねぇ……。あの無愛想の女嫌いのどこが良いんだろうなぁ? 俺の方がよっぽど愛想があって、優しくて、笑顔が素敵~! ってなりそうなもんだと思うんだけどなぁ……ねぇ?」
自画自賛しながら、サクサクと森を進むホルスと言う男に付いて歩く。こんなチャラ男でもやはり騎士は騎士らしく、体力お化けの様で、こちらがゼィゼィと呼吸を荒くする道のりを難なく歩いて行く。勿論、私には話しかけられても返事などする余裕は無い。
「あれ~? 返事が無いって事はイチカちゃんもドラド派? あ、でも、セスとフィルとも面識あったっけ? あと、ファジール。えーっと、あとは……あぁ、アモイとバリーもか。」
呼吸一つ乱さず話を続ける。
「皆独身で、夜会やらではお嬢様方に狙われてる奴らばっかり。なのに何故か婚約者も居ないんだよねー……本来なら婚約どころか、結婚しててもおかしく無い年のヤツもいるんだけどね……。何でだろ? まぁ、俺も人の事は言えないけどね。で、イチカちゃんは誰がタイプ?」
聞かれても、ホルスの方を見るので精一杯。ホルスを見つめ、ため息をつく。
「あんまり進んで無いけど、もしかして疲れてる?? 」
……愛想があって、優しくて、笑顔が素敵でもモテない理由を垣間見た気がする。
「……出来ればちょっと休憩させて欲しいです。」
「オッケー。ちょっと待ってね。」
周囲を警戒し様子を見てから、休憩の許可が出る。水を飲み、近くの岩に腰かけると不思議そうにホルスが私を見る。
「貴族のお嬢さんみたいだな。体力もあんまり無さそうだし討伐隊に同行して役にたてるの?」
「私は治療班なので。」
「治療班って言っても、現場に出るなら、襲われる可能性もあるだろ?? 隊の治療班は戦闘訓練も受けてるけど、あんたは危ねえんじゃねえの?」
「ドラドさんに魔力を玉にして打ち出す武器を貸して貰って、練習して合格は貰いました……捕まってるときにとられちゃったみたいで、今は無いですけど……」
「あぁ、光魔法の……すげぇな。あれ貸して貰ったの? かなりの希少品だぜ?」
どうやら光魔法自体がレアな上に、回復系の魔法が多いため、攻撃用の魔道具の製造も開発も進んでおらず、あの銃も生産数自体すくないらしい。……どうしよう、高級品をとられてしまった……
「あの、その道具とかって作ったりどこかで買うことは……」
「出来ねぇな。帝国の魔道具を専門に作る機関が開発して、数個作ったって聞いたのが……あれ? いつだったかな……」
う~ん……聞かされると、とられて失くしました。なんて言えない……取り戻しに行きたいが、そんな余裕も無いだろうし……
「取り返したい?」
「え?」
「あんたが捕まってた小屋は、酉の港町の北の森。今はここより南にある城下街に向かってる。目的地はそこから更に南下して、ドラド達が向かった申の領地。寄ろうと思えば港町に寄れるけど? まあ、多少遠回りだから体力にもよるけど……」
「でも、誰にとられたかもわからないので……」
「ミリーは、あんたが居た小屋がある領地を任されてる男爵の娘だ。ああいう港にはごろつきなんかが結構居てな、……貴族のお嬢さんのお願いを聞いて、旦那にこずかいをせびるようなヤツが結構いる。しかも、ヤバければヤバいお願い程、小遣いの値が上がる。さらに、貴族相手なら捕まらないようにてを回してくれるわ、捕まっても助けてくれるか、最悪ムカつく貴族を道連れに出来るからな。ごろつきにとっちゃいい仕事だ。」
「じゃあ、そのごろつきが取って行っちゃったんですかね……?」
「だろうな。プロならそんな足がつきそうな代物に手は出さずに言われた事だけやって金を受けとるだろうが、今回に関しちゃ仕事が雑だったからな……属性が会わなきゃ使えない代物でも、見た目が良いから、値はつくだろうと持っていったんだろう。」
要は売られてるかも知れないって事だよね?
「そうですか……あの、なら、街に寄って貰ってもいいですかね……? もし売りに出ていたら買いたいので……」
「……フフッ、買うの!? やっぱりあんた面白いわ!! 盗んだヤツを捕まえて取り戻すんじゃなく、自分で金だして買うんだ……うん、いいよ。港町に寄って行こう……フフッ……」
この男の笑いのツボが良くわからないが、寄ってくれるならありがたい。
呼吸も元に戻り、進路を少し修正して港町に向かう。
暫く進むと、人型……と言っていいのか……ボロボロの神父服を着たミイラ1と、壊れた鎧を着た骸骨の魔物が2、計3人? 匹? 現れた。今まではフィル達やハスキスさん達が守ってくれたが、今はホルスさんと二人きり。一人くらいは倒さなければ……
ミイラが杖、骸骨が剣を持っている。弱そうなのは……骸骨よりちっちゃいし、持ってるのも杖だから……ミイラかな。取りあえず他より引きはなそうと、銃は無いが、ホルスさんの後ろから魔力玉を作って投げつける。…………届かない。惜しいとかでも無く、全くもって届いてない。
さてどうしよう……と思っていたら、骸骨が1匹襲いかかって来た。ヒャーヒャー言いながらも、とっさに掌に魔力玉を作り骸骨に向かって投げつける。と、至近距離だったために命中。頭蓋骨が半分無くなっていた。そのまま骸骨はくずれ落ちたのだが、その拍子に持っていた剣で脛を少し切ってしまった。
興奮状態で痛みはあまり無いが、取りあえずさっと治してホルスさんを見れば、ちょうど残りの2匹を倒したようで、サラサラと黒い粉のようなものが舞う。
「大丈夫か? 怪我は?」
「大丈夫です。 怪我はここをこの剣でちょっと切った位。 それより!! 見てください!! ちゃんと倒せました!!」
ホルスさんに、崩れてただの骨になった魔物を見せる。
「……なんで……? ってか、怪我! 切ったとこ見せて!!」
慌てたようにホルスさんが足を持ち上げ、『ここ』と示したところを見ようとするが、急に足を持たれた私は当然バランスを崩す。ヒャッっと声を出せば、ホルスさんが抱き抱えるように支えてくれた。……いや、足を離してくれ……
「スマン。だが、本当にこの剣で切ったのか? それに……なんでコイツは魔素に戻らないんだ??…………お前、医療班だったな?ちょっとこの傷治してくれ。」
そう言って見せられた傷は切り傷だが、傷の周りがやたらと黒ずんで徐々に広がっているように見える。
「な、怪我したなら早く言ってくださいよ!!」
慌てて傷を治す。と、黒ずみも一瞬で消えた。
「……お前、聖属性もちか?」
「うぇ? いや、ち、違いますけど!?」
「フン、戌属の入れ知恵か……だが、まあ、正解だな。属性の事は言わない方がいい。だから少し俺の話をきけ。」
こうして臨時の魔法講義を聞くことになった。
読んで頂き、ありがとうございました。




