ゴー・トゥ・ザ・オップジット・ディレクション
その後の事を語ろう。
右脚攣ったので片足ダッシュで逃げて左脚も攣って逆立ちで頑張ったものの夜になっても王女・フラッシュが健在だったので悉く見つかって最終的に滝壺にダイブして巻いた。
何とかアリサ王女だけは確保したものの、行き当たりばったりで逃げたので知り合いのいる学園都市とは真逆の方向に流されてしまった。
全身筋肉痛でカナヅチのアリサ王女を抱えたまま川を流れるのは地味に死の危険を感じた。ヤバかった(小並感)。
寝間着姿のアリサ王女は完全に伸びてしまった。まあ、ギリギリまで大丈夫大丈夫と無茶したのがいけなかったのか、一日過ぎた今では別人のようにゲッソリしている。
「あり得ないです……マジあり得ないです……王女なのに王女なのに……」
ぶつぶつと光の消えた瞳で呟く姿からは、昨日の輝かんばかりの活躍はまるで窺えない。正直スマンかった。
そんな彼女だが、ボロボロの寝間着のままで手に縄を掛けられている。縄の先を辿ると、リールのようにアリサを引く幼女が居た。
「もう! ノロノロしないで! あたしのはじめてのえものなんだから、早くお母さんにみせるの!」
「ほいほーい。悪かったって。ほら、先に進もうぜ」
「獲物って……王女なのに獲物って……」
ちなみに俺は王女の後ろで同じように手縄を引かれている。
先頭を往く幼女は返答に機嫌を良くしたのか、鼻歌混じりに歩みを再開した。
奴隷商人幼女……。新しいジャンルだ。とそんなことを思っていると、アリサ王女がまた愚痴をこぼし始めた。
「ハハハ……全くお笑いですよ……こんなのが王女だなんて、ねえ……?」
「元気出せって、明日があるさ」
「そもそも貴方のせいじゃないですかー!」
「もー! えものが喋っちゃダメでしょー!」
「ニャ――! さっきから獲物獲物ってうるさーい!」
「えもののくせにさからう気なの!? なまいき!」
「ニャ――!」
「シャ――!」
乱闘が始まった。
アリサ王女を落ち着かせよう。うん。ちょっと調子に乗り過ぎたかもしれん。彼女の精神を沈めるためにここはまたSUSHIを出すべきか……。
その横で動きがあった。
幼女が蹴りを見舞うと、アリサ王女は拘束されているにも拘らず華麗に躱す。
幼女が縄を引こうとすれば、意外としっかりとした重心で耐える。
武器を取り出せば、威力を出せぬ距離まで近付き。
掴みかかれば、諸手を弾いて牽制する。
一進一退の攻防だ。幼女と痴女チックな王女という配役からは意外なほどちゃんとしたものだった。
……やっぱこのままの方が面白いかも。
幼女と王女の間に挟まれ、斬撃と打撃の被害を受けながらそう思った。
●
お母さんは言っていた。
えものにはようしゃするな、って。
「愛しい娘よ。今の世の中で、御前が生きていくのは難しいだろう。なんせ甦った化け物の御蔭でこんな田舎も殺伐としているからな」
笑ったお母さんは好き。血のついたお母さんはもっと好き。
「弱肉強食。自然の摂理だ。弱い者は強い者の糧に。強い者も自然に逆らえず糧となる」
お母さんもえものになるの? と聞いた。
そしたらまた笑った。
「人間は弱い。生物的に戦いに向いた種族ではない。人間同士の強者が、クリーチャー相手の強者とは限らん」
負けたところを見たことがないお母さんがそういった。だから、そうなのかも、とおもった。
「だが、どんな強者に対しても、弱者が勝つ方法が一つだけある」
そういって、血でまっかになったお母さんは、血をぬぐってからゆびでアタマをつついていった。
「頭だ。頭を使うのだ娘よ」
そうすればよわくてもかてる。お母さんがそういったから、えものがつよくてもあたしがかつ。
アタマをつかって、ワナをいっぱいしかけて、いっぱいがんばって夜おきてて、えものをまった。
ちょっとだけねむちゃったけど、おきてみたらえものがいた。
「アア――!? 絡め獲られるぅ――!? ちょ、これ、これちょっと微妙に川底に藻が張って抜け出せないのほおおおおおお――!?」
「ひええええ!? そんなにくっつかないで下さいぃぃぃ――!?」
へんなえものだった。かたそうなのとやわらかそうなのだった。
でもえものだからお母さんにみせなくちゃ!
えいえいおー! とがんばった。
……なのに、
「しつこい!」
「ニャ――! 今の私は王女を捨てましたよ! 形振り構うもんですか!」
「えものなんだからおとなしくしろ」
「知りませーん! えものじゃないですぅー王女ですぅー!」
「どっちなんだよそれ。というか君ら、俺を挟んで戦うのやめない? さっきから流れ弾が飛んでくるんですけど」
やわらかそうなのが、かたそうなのをたてにした。
はんげきしてきたから、オカエシにかたそうなのをたてにする。
なかなか終わらなくてイライラする。
かたそうなのが邪魔だったけど、縄でむすんでるからはなれなかった。
「完全なサンドバック状態じゃねえか……。縄があるから二人から逃げれないし。――仕方ない」
「ふえっ!?」
かたそうなのが、やわらかそうなのを捕まえた。かたそうなのは、やわらかそうなのに何か食べさせてる。
たぶん、共食いだ。
チャンス! と思ったから、お母さんからもらったナイフでとびかかった。
「もう一度光臨せよ、――王女・フラッシュ!」
「またこれですか――!?」
「ひにゃあああああああああ!?」
まっしろになった。