第1部 許されざる愛
第1章 銀河系 宇宙大航海時代
1-1惑星「アディナ」と「ダイトラン」
地球暦2400年半ば、銀河系を上方からみて、左下の位置にある「ウエスタン・リーチ」星域の恒星「ラタタック」に第3惑星、「アディナ」がある。多少の海はあるが、ほとんどが赤色の土に覆われた惑星だ。
惑星アディナ内には、複数の国家があったが、それぞれが民主的な政権をひいており、それを取りまとめる「国際連合」があった。知的な容姿を持つ40歳代の男性、「マッカーシー・メムス」は、国際連合の会長兼、優秀な科学者だった。
マッカーシー・メムスは、量子力学の「空間歪法」を用いた超光速移動法(通常「ワープ」と呼ばれる)の原理を解明した。そして、その原理を活用・実用化し、銀河系の端から端(10万光年)を1年で航行できる能力のある超光速宇宙航海艦「アジョイント」を開発した。
マッカーシー・メムスは、国際連合内に、「宇宙航海省」を設立し、航海艦アジョイントを用いて、銀河系に「ヒト」に分類される「知的生命体」が存在する星々の探索を行なった。その結果、複数の星を発見。そして、その星々の政府と「友好関係」を結び、交易を開始した。
ちょうどその頃、銀河系の各星々では、ヒトに分類される知的生命体の進化が同時に起こっていた。銀河系の右側の「ミッド・リム」星系の恒星「β―2」の第2惑星、地球によく似た海と陸地を持つ「ダイトラン」でも同様の超光速宇宙航海艦「テクノスター」が開発され、宇宙の航海を行おうとしていた。惑星アディナのマッカーシー・メムスは、王政をしいている惑星ダイトランの、これも50歳手前の自信に満ち溢れた王「ドラゴン・ヒル」とも会談を行い、星交関係を築いた。
「銀河系 宇宙大航海時代」の幕開けである。
1-2 「銀河同盟」と「銀河中央大学」
時は地球暦2450年。銀河系では、惑星アディナ、ダイトランが中心となった6つの主要な星々からなる「銀河同盟」をつくり、交易が滞りなく行われはじめていた。6つの主要な星々とは、
・ウエスタン・リーチ星域:惑星アディナ、サミュエル、地球
・ミッド・リム星域 :惑星ダイトラン、タグ
・マラスティア星域(ウエスタン・リーチ星域とミッド・リム星域の中間の星域)
:惑星パイソン
である。
そして、各星々間では、貿易だけでなく、文化・ヒトの交流なども盛んになった。
地球は前述の6つの星の中間にあるということで、銀河の中で、同じような進化をたどってきた、ヒト系の知的生命体を受け入れ、最先端の教育を行う「銀河中央大学」を「東京」の湾岸部に設立した。「銀河中央大学」には、宇宙科学・経済学・医学・語学などの各科が設立され、前述の6か国はもとより、それ以外からも、さまざまな星々から、学者・学生を受け入れていた。
1-3 運命の出会い
銀河中央大学の宇宙科学科では、マッカーシー・メムスが研究している「量子力学の原理」や、銀河系の大きさ・回転周期、銀河系の星系の誕生から崩壊までの仕組み、鉱物資源の種類と活用法など、宇宙科学に関するさまざまな教育がなされていた。
この学科には、銀河系の各星々から20歳前後の学生が留学してきていた。その中に、惑星ダイトランの、細身で金色の長髪、空色の澄んだ瞳を持つ美しき王女「ロザリー」、中肉中背で平凡そうに見える地球人の「古海 亘」、小柄で実年齢より幼く見える「石崎 美穂」などがいた。また、この学科では、教授はダイトランの科学者、長身でブラウンの髪を後ろに束ねている男性「ビー・バレー」が務めており、 また、講師の一人として、アディナのマッカーシー・メムスの息子、親に似て知的かつスマートな顔立ちと身なりの「アルティア・メムス」が務めていた。また、ロザリーの執事として、ほとんど、感情を表面に出さない、40歳代くらいの、いかにも「紳士」のような風貌の男性「タイモン」がいた。
なんとなくであるが、授業を受ける時は、ロザリーは、石崎 美穂の右横に座り、また、石崎 美穂の左横には、古海 亘が座っていた。そのうち、3人は徐々に打ち解け合い、授業だけでなく、昼食、夕食を共にするようになった。昼食は学校内の食堂で、夕食は週末に、学校の近くのレストランで取るようになっていた。3人は、宇宙科学のさまざまなこと、銀河を巡る旅のことや、お互いの夢をなどについて、昼食や夕食で語り合った。ロザリーの執事のタイモンは、常に、ロザリーを陰で支えており、レストランの手配や食事代の支払いなどは、タイモンが行っていた。
ある日、3人がレストランで食事をとっていると、講師のアルティアが来店した。アルティアは、ロザリー、美穂、亘に気づくと声をかけてきた。
「3人は仲がよさそうだね。授業や、大学の食堂などでいつもいっしょに、楽しそうに話をしている様を遠くから見ていたよ」
ロザリーがすかさずに答えた。
「はい。先生のお話を、大変面白く聴講しています。先生のお話を振り返りながら、3人でいつも、将来の夢を語り合っています」
「そうか。それは良かった。僕にも、いずれ宇宙を駆け回って、さまざまな世界を見てみたいという夢があるのだ。もしよかったら、君たちの会話に僕も入れてほしいなぁ」
「ええ。今度、夕食の時にお誘いしてもよろしいですか?」
「ぜひ、よろしくお願いします。お互いの夢を語り合いましょう」
そののち、3人にアルティアが加わり、昼食や夕食を共にするようになった。
アルティアはよほど楽しかったのか、ビー・バレー教授も誘い、ロザリーの執事のタイモンに頼み、いつも彼らが集まるレストランの前で写真と撮ってもらい、それを、ビー・バレーとともに過ごしている研究室に飾っている。
そのような楽しい時間の中で、ロザリーは、「自由かつ平和主義的」な思想を熱く語り、包容力もあるアルティアに徐々に惹かれていった。また、アルティアも、美しくもしとやかで、将来の夢に満ち溢れているロザリーに惹かれていった。
執事のタイモンは、陰ながら、彼らの行動を見守っていた。
1-4 アルティアの告白
彼らが仲良くなって3か月くらいが過ぎ、夏季休暇の前の最後の授業が終わった時、アルティアは、ロザリーを呼び止めた。
「今晩、2人でいつものレストランに行かないか?」
すると、ロザリーはうれしそうに、
「はい」
と答えた。
「それでは、19時に、レストランの前で待ち合わせよう」
その様子を、亘と美穂は遠くから聞いていた。
「私のカンだと、あの2人、相思相愛だと思うのだけど」
「僕もそう思う」
亘と美穂は、その日、ロザリーを誘うのをやめ、こっそりと2人の様子を見に、変装して、19時の少し前にレストランに入っていた。
19時、アルティアとロザリーは、レストランの前で待ち合わせ、いっしょに店に入って来た。亘と美穂は、その様子を隠れ見ていた。ロザリーの執事、タイモンも変装をして、2人に悟られないようにレストランで食事をしていた。
アルティアとロザリーは、食事をしながら、いつものように将来の夢などについて語り合っていた。食事が一通り終わると、アルティアは、食事の際に飲みかけていたワインを一気に飲み干した上、大きく息を吸った後、ロザリーに語りかけた。
「ロッ、ロザリー。『将来は銀河系を自由に旅する』という君のすばらしい夢に、もし、君さえよければ私も同行させてもらえないだろうか?もし、よければの話なのだけど・・・」
すると、ロザリーは答えた。
「一人旅はつまんないです。先生さえ良ければ、ぜひ、私からもお願いします」
すると、アルティアは、ほっとしたような顔をした。
それを遠くで聞き耳を立てていた亘と美穂は、
「あれって告白かなぁ?でも、何か、成功したようだね」
といって、手を取り合って喜んだ。その時、亘は勢いに任せて、美穂に、
「僕たちも、銀河系を旅しようか・・・」
と言った。すると美穂は答えた。
「素敵なところに連れていってくれるなら、いいわよ」
亘も、ひそかに美穂に好意をいだいていたのだ。
食事が終わり、アルティアとロザリーは、店を出た。店の前は道路になっていて、エアカーが次々と走っていた。それを一時の間、立って見ていた2人だったが、ふと、エアカーの車列が途切れた隙に、ロザリーは、不意にアルティアの頬にキスをした。
「Good Night Kissです。良い夢を。それでは、また」
ロザリーは、少し顔を赤らめながら、走って去って行った。
アルティアは、去っていくロザリーを温かい目で見続けていた・・・。
それから、夏休みの間、アルティアとロザリー、亘と美穂は、それぞれデートを重ね、愛をはぐくんでいった。
そして、ロザリーはアルティアの、美穂は亘の子を身ごもり、それぞれのペアは結婚した。
ロザリーの執事のタイモンは、側近の、20歳代の物腰のやわらかい女性の執事、フライヤからの、
「このことを、王さまにご報告なされなくて良いのでしょうか?」
という進言を抑え、これらのことを黙認していた。
地球歴2451年の夏、ロザリーは女の子を、美穂は男の子を産んだ。ロザリーの子は「マリカ」となづけられ、美穂の子は「崇」となづけられた。アルティア、亘はそれぞれ、産まれた子を抱きかかえて喜んだ。4人は、とても幸せだった。
しかし、そのような幸せは、長くは、続かなかった・・・
第2章 ダイトランの王、「ドラゴン・ヒル」の野望
2-1 ドラゴン・ヒル
惑星ダイトランは、王政を引いていて、その王がロザリーの父、ドラゴン・ヒルであった。
タイモンは、ドラゴン・ヒルに呼ばれたため、ロザリーの世話を同行していた部下のフライヤをはじめとした執事たちに任せ、超光速宇宙航海艦テクノスターで地球からダイトラン星に戻った。
ダイトランに戻ったタイモンは、ドラゴン・ヒルに王宮へと呼び出された。
天井も、壁も透明な耐久性の高い強化ガラスに覆われた王宮の中の大広間で、ドラゴンはゆったりとした椅子に座り、タイモンを待っていた。
タイモンが大広間に入り、ドラゴン・ヒルの前に跪くと、ドラゴン・ヒルはタイモンに話しかけた。
「タイモン。お前と久しぶりに対面で話をしたかった。いろいろ聞きたいことがあるからな」
「ありがたき幸せでございます」
「ところで、ロザリーの様子はどうだ」
「はい。お健やかでございます。勉学にも励んでおられますし、さまざまな星の友人もできたようで、日々、楽しそうに過ごされています」
タイモンは、ロザリーに子供ができたこと。ロザリーの相手が、惑星アディナのアルティアであることをあえて言わなかった。
「そうか。友人とは、どのような星の者たちか?」
「はい。アディナ星人をはじめとして、地球人など、さまざまな星の方々です」
「アディナ星人、か・・・」
そういうと、ドラゴン・ヒルは、椅子から立つと、続けて話しはじめた。タイモンは跪いたまま、聞いていた。
「おまえは、惑星アディナの『マッカーシー・メムス』という者をどう思う」
「はっ。政治にも科学にも長けており、かつ、人望もある方だと思っております。マッカーシーさまの息子、『アルティア』さまも同様かと。ご本人たちは、そのような意図がないのかもしれませんが、おのずと銀河系の星々のヒトたちは、マッカーシーさまの人望に引かれ、彼の指導に従う。現在は、『銀河同盟』と言う形をとっておりますが、そのうち、マッカーシーさまは、銀河系の主となられるのではないか? と思われます。」
「我もそのように感じている。マッカーシー・メムスと言う男。懐が深く、また、人望もある。それがゆえに、我は、やつにある種の『脅威』を感じておる。お前の言う通り、いずれやつは、おのずと、銀河系の主になるのではないか? このダイトランも、おのずと、アディナの属星になるのではないかと・・・」
「ご本人が主になろうと思われているかどうかはわかりませんが、実質的な『銀河系の主』たる扱いを、彼は銀河同盟の友好国から受けるかもしれません」
すると、ドラゴン・ヒルは、自分の思いを語り始めた。
「最初は、我らも銀河同盟に賛同した。しかし、前にも述べた通り、いずれ、マッカーシー・メムスは、我らの星の民衆をも支配する力を持っているのではないかと感じておる。だがのう、我がダイトランも独自の技術で、マッカーシー・メムスの考えていたものと同様の超光速移動理論を考え、超光速宇宙航海艦「テクノスター」を開発していた。我にも銀河系を収める力があると思っている。それにも関わらず、銀河同盟に賛同した星々は、マッカーシー・メムスの指導力に魅了されているように思われる」
さらに、ドラゴン・ヒルは続けた。
「実は、マッカーシー・メムスの、自由主義思想に影響を受けたのか、最近、ダイトラン内部で不穏な動きがある。『王政』に疑問や不平をいだき、我が命を狙おうとする反乱分子が出つつあるのだ。この前も、我の食事係の1人が、我に毒をもろうとした。我の身の回りの警備をする防衛機関『衛士団』と、タイモン、お前のつくっていた『毒物・危険物反応装置』で毒物を判明し、未遂に終わったが・・・」
「そうでございますか?私のつくった装置がお役にたて、王さまのお命が守られてようございました」
「我は、ダイトランの科学力は、アディナに劣っていない。むしろ、軍事力に関しては、我が設立した『戦略科学団』の研究・開発が進み、アディナに勝っていると思っておる。我は、王政を推進し、いずれは銀河系を支配しようと考えておる。お前は、我にその器があると思うか?」
「私は、ドラゴンさまがマッカーシー・メムスに劣っているとは言っておりません。その気になれば可能かと。ただ、強制的な支配は、反乱分子・レジスタントを生むでしょう。それを抑え込むためには、『衛士団』『戦略科学団』をより強固にしなければならないと考えます」
その時、2人の人物が大広間に入って来た。
2-2 狂気的な科学者「オントロジー」と頑強な衛士団長「インベンター」
大広間に入ってきた2人の人物は、タイモンを囲むように左右に分かれ、ドラゴン・ヒルの前に跪いた。戦略科学団の長で狂気的、細身で白髪が少し混ざったザンバラ髪の、50歳を越えたあたりと思われる惑星ダイトラン第一の科学者の「オントロジー」と衛士団を取りまとめている、30歳代と思われる頑強な体格の「インベンター」である。
跪くなり、オントロジーは口を開いた。
「キェヒェヒェヒェ。タイモンよ。お前はあいかわらず、冷静沈着じゃが、考えが甘いのう。まあ良いわ。わしは、強い者・野心のあるものこそ、この銀河系を支配すべきだと思っておる。反乱分子など、力で押さえつければ良い。わしはそのために、今日まで、銀河系最強の武器を開発してきたのじゃ。ドラゴンさま、手遅れにならないうちに、先手を打って、惑星アディナやマッカーシー・メムスを滅ぼすべきと考えます」
「私もそのように思います。『脅威』は早めにつぶすべきかと」
インベンターはオントロジーに続けて、ドラゴン・ヒルに進言した。
「まずは、我々の兵力をお見せしましょう」
オントロジーはそういうと、インベンターに目配せをした。すると、インベンターは、携帯型の無線装置で、自身の部下たちに連絡をとった。
すると、王宮の真上に、複数の砲塔を積んでいる超光速宇宙航海艦型の戦艦が現れた。
2-3 オントロジーの考案した武器
そして、ダイトランの王宮の真上には、砲塔をつんだ戦艦の前に、数十基の惑星アディナの「アジョイント」を見立てたと思われる航海艦が飛んできた。
すると、惑星ダイトランの、複数の砲塔を積んでいる超光速宇宙航海艦型の戦艦の艦尾から、多くの爆撃機が飛び出し、アジョイントを見立てた航海艦にレーザーとミサイルで攻撃を加えた。
「あれは、私が開発した、攻撃型超光速宇宙航海艦『テクノスター・プラス』とAIを活用し、自動操縦で敵を把握して攻撃を加える爆撃機『サイキット・ラーン』でございます」
サイキット・ラーンの攻撃で、アジョイントに見立てられた航海艦からは、火の手があがりはじめた。
その次に、テクノスター・プラスの砲塔から、レーザー砲が放たれ、アジョイントを次々と貫いた。王宮の上空を飛んでいたアジョイントの部隊は、すべて壊滅した。
「す、すごい」
インベンターは、それを見て驚愕した。それを聞いて、オントロジーはインベンターに話した。
「テクノスター・プラスから放たれたレーザー砲は、この星系に数多く存在する『トリチウム』を核反応させてレーザー化した『トリチウム・レーザー砲』じゃ。その殺傷能力は、アディナのアジョイントの装甲を確実に突き破るじゃろう」
続けて、オントロジーは話した。
「インベンターよ。これで驚いてもらっては困る。まだまだこれでは武力は足りぬ。わしは、さらに強力なエネルギー砲を放てる戦艦を製造中じゃ。これらの兵器があれば、アディナやマッカーシー・メムスに勝つことができるじゃろう」
「『さらに強力なエネルギー砲を放てる戦艦』とは、いつできるのだ」
ドラゴン・ヒルが聞くと、
「あと、2か月弱ほどで・・・」
とオントロジーは答えた。
「わかった。その兵器が完成したら、銀河系の星々の征服を行おう」
ドラゴン・ヒルは言った。タイモンは、上空を見上げながらも、無表情のまま、ドラゴン・ヒル、オントロジー、インベンターのやり取りを聞いていた。すると、ドラゴン・ヒルがタイモンに命令を下した。
「オントロジーに戦略科学団長を、インベンターに衛士団長をまかせ、このようにそれぞれを強化している。我は先ほども言った通り、2か月後に銀河系の星々の征服を開始する。そのために、ロザリーを地球に置いておくわけにはいかない。タイモン、お前が乗ってきたテクノスターで今から地球に向かえば、我が始める戦闘の前に地球に着けるだろう。すぐに出発し、ロザリーを保護してダイトランに連れて帰ってこい。そして、その後は、我とロザリーのそばにつき、我らの護衛に注力しろ」
「御、御意」
タイモンは立つと、一礼をしたうえで答え、王宮を後にし、急ぎ、テクノスターで地球に向かった。
その後、ドラゴン・ヒルは、オントロジーとインベンターに命令を下した。
「先ほどの計画通り、約2か月後の『銀河同盟会議』にて、我の命を伝え、ダイトランは『銀河同盟』から離脱する。それと同時に、ミッド・リム星域、マラスティア星域の星々に制圧した上で、ウエスタン・リーチ星域を攻め、マッカーシー・メムスを失脚させて惑星アディナの征服を行い、最終的には、この銀河系全土を我がものにする。
オントロジーよ。戦略科学団の全勢力を注ぎ、兵器の強化と完成を急げ。そしてインベンターよ。オントロジーの武器を使いこなせるよう、衛士団の兵士を鍛え上げておくのだ」
「キェヒェヒェヒェ。いよいよ、始まるのですなぁ。銀河系征服か。楽しみじゃわい。」
「仰せのままに。必ずや、オントロジーさまの製造した武器を使いこなせるよう、兵士を鍛え上げておきます」
オントロジーとインベンターはそう答え、王宮を後にした。
「いよいよ、我の時代がくるのだ。ハッハッハ」
ドラゴン・ヒルは、王宮の広場で雄たけびを上げた。
第3章 惑星アディナ マッカーシー・メムスの真意
3-1 惑星アディナの国際連合本部
銀河系のウエスタン・リーチ星域の端に位置する惑星アディナの国際連合本部は、アディナの赤道近くの大陸、アディナ最大の都市のほぼ中央に位置し、近代的なテトラ上の建物の中にあった。街並みは、その建物を中心に放射線上に発展していた。マッカーシー・メムスがいる執務室は、その最上階にあった。
マッカーシー・メムスは立って、執務室の窓から外を眺めていた。すると、二人の中肉中背の30歳代と思われる男性と女性が執務室に入って来た。
「マッカーシーさま。何か、御用でしょうか?」
入って来た二人はたずねた。
この二人は、アディナの国際連合と銀河同盟の副会長の女性「マナ」と、宇宙航海省の長で、かつ、マッカーシー・メムスの下でアディナの科学技術の研究開発をとりしきっている男性、「パーパス」である。
「マナ。銀河同盟を結んだ各星の活動は滞りないか?」
「はい。各星とも、今のところ、マッカーシーさまのご指導もあり、同盟を守って平和に交易が行われております。ただ1つ、懸念点があるとすると、同盟を組んでいる星の中で、最大の勢力を持つ星『ダイトラン』です。ダイトランは王政を引いておりますが、王政に反旗を翻したレジスタンスたちが、ダイトランの王、ドラゴン・ヒルの暗殺を策略したとの情報が入りました。それに対し、ドラゴン・ヒルは、王国を守る『衛士団』と呼ばれる自衛力を強化しており、また、ひそかに武力を高めようとしているという情報も入りました」
「その情報はどこから得たのか?」
「地球の銀河中央大学、宇宙科学科の、惑星ダイトランから派遣された教授、ビー・バレーです。ビー・バレーは、ダイトラン星人ですが、彼もドラゴン・ヒルの王政に疑問を持っているようです。ビー・バレーには、惑星ダイトランの中に友人がいて、そこからの内通だそうです」
「そうか。ビー・バレーは私も知っている。信用できる者だ。私の息子、アルティアも世話になっているしなぁ」
続けて、マッカーシー・メムスは言った。
「銀河同盟を結ぶ際、私は各星の長と交渉を行った。その中でも、ダイトランの王、ドラゴン・ヒルは注意が必要だと感じていた。王としての威厳と、何か『銀河系征服の野心』的なものを感じていた。マナ、お前はどう思った?」
「私もマッカーシーさまに同行しておりましたが、同じことを感じておりました。」
「そうか・・・。パーパスよ。宇宙航海省の者、数名に命じて、惑星ダイトランを監視しておくように伝えよ。場合によっては、ダイトランは銀河同盟から脱却して、銀河系征服に動き始めるかもしれん」
「了解しました」
続けて、マッカーシー・メムスはパーパスに話しかけた。
「私が原理を発明し、お前に開発を委託していた『モノ』はできているか?」
「はい。着々と本連合本部の機密の地下工場・研究設備で開発を進め、ほぼ完成しております」
「そうか。それでは、その『モノ』を見たい、今からでもその『モノ』を見ることができるか?」
「はい」
パーパスが答えると、マッカーシー・メムスは、マナ、パーパスを連れて、執務室を出たところにあるエレベーターで、機密の地下工場に向かった。
3-2 マッカーシー・メムスの真意
マッカーシー・メムス、マナ、パーパスを乗せたエレベーターは、地下の機密の工場に着いた。
エレベーターのドアが開くと、そこは、巨大な基地レベルの工場と研究施設が広がっていた。
工場では、超光速宇宙航海艦「アジョイント」に砲塔などを積み、武装化した戦艦が急ピッチで製造されていた。また、奥の研究施設の中では実験が行われていて、アジョイントにのせる砲塔から放つ「レーザービーム」が開発されていた。その試作の砲塔から放たれるレーザービームが、惑星ダイトランのテクノスターの航海艦に使われている装甲の素材の板を溶かしているのが見えた。
「あちらで製造をしているのは、アジョイントを武装化した戦艦『アジョイント・コード』でございます。秘密裏に量産を急いでおります」
続けて、パーパスは、研究設備の前にマッカーシー・メムスとマナを連れて行った。
研究設備の壁は透明な耐強化ガラスでできていて、中が見られるようになっていた。
「この研究室では、ウエスタン・リーチ星域で豊富にとれる鉱物『イットリウム、アルミニウム、ガーネット』を利用し、マッカーシーさまが原理を考えられ、我が星やウエスタン・リーチ星域の星々、惑星サミュエルや地球から若くて優秀な科学者を集め、その者たちに開発させた『高濃縮YAGレーザー』です。ご覧の通り、高濃縮YAGレーザーは、ダイトランの超光速宇宙航海艦「テクノスター」の装甲を一撃で溶かします」
パーパスが答えると、マナが聞いた。
「これらの活動を私は知らなかった。この取り組みについて、『銀河同盟』や、わが星の『国際連合』の許可を得ているのか?」
すると、パーパスの代わりに、マッカーシー・メムスが答えた。
「許可は取っておらん。秘密裏にアジョイントを武装化し、それに必要な兵器を開発している。アジョイント・コードの砲塔から放つレーザービームは、先ほど、パーパスが言った通り、私が原理を考え、パーパスに命じて、我が星やウエスタン・リーチ星域の星々、惑星サミュエルや地球から若くて優秀な科学者を集め、その者たちに、ここの研究施設で開発させた。不穏な動きのある惑星ダイトランの対抗措置として」
続けて、マッカーシー・メムスはしゃべった。
「私は当初、『銀河同盟』の元で、銀河系に平和な『コミュニティー』を作ろうと思っていた。だが、惑星ダイトランに不穏な動きがあるがゆえに、私の計画は変わりつつある。もしも、ドラゴン・ヒル率いるダイトラン軍が武力で銀河系征服に乗り出したら、その対抗措置として、『聖戦』と銘打ち、武力でこれを制圧しなければならないかもしれない。そのために、秘密裏に我々も武装化を進めているのだよ。
マナ、パーパスよ。今回お前たちを呼んだのは、ダイトランの動きを逐次、見据えること。そして。武力衝突が必要になった時は、私に相談してほしい。我が星の国々の『国際連合』や、銀河系の『銀河同盟』の星々の者たちに、ダイトラン軍と『聖戦を行うこと』を了承してもらわなければならないからなぁ」
「了解しました。ただ、私は戦争が好きではありません。私たちは、かつて、アディナ星内の紛争を経験し、その反省から、民主的な国際連合をつくりました。その思想の元で、銀河系でも銀河同盟をつくりあげてきたはずです。できれば、交渉を通じて、武力衝突は避けたいものです」
「マナ。お前の気持ちはわかる。お前も、アディナ星内の国際紛争時の孤児だからなぁ。
私も、銀河同盟の元で、銀河系の国々が平和に交流することを願っている。交渉ですむのであればそうしたい。本当は、今、開発している武器は使いたくないのだよ。しかし、惑星ダイトランの王、ドラゴン・ヒルとはここ数か月、連絡が取れていない。彼の気性を考えると、武力衝突は避けられないかもしれない。やはり、対抗できる武力がなければ、我々は惑星ダイトランのドラゴン・ヒルの思うままになってしまうだろう。マナ、パーパスよ。最悪の事態を想定して、準備を怠らないように」
マッカーシー・メムスは、研究設備で自身が指示して開発した高濃縮YAGレーザーが、テクノスターを模した航海艦を溶かしていくのを、どこか悲し気に、複雑な表情で眺めていた。
マナとパーパスは、そのマッカーシー・メムスを、横から見ることしかできなかった。
第4章 最悪の事態へ
4-1 臨時「銀河同盟会議」 ダイトランの離脱
地球歴2451年10月初旬。例年この時期に行われる定例の「銀河同盟会議」が、画像通信回線で開かれ、各星の代表が参加した。しかし、今年の議長星だった惑星ダイトランの王、ドラゴン・ヒルは欠席し、代わりに、惑星アディナのマッカーシー・メムスが議長を務めた。
マッカーシー・メムスが会議の口火を切った。
「本日は、惑星ダイトランの王、ドラゴン・ヒルが欠席しております。そのかわり、ダイトラン王室の代表から、ドラゴン・ヒルの伝言を預かっておりますので、私が代読いたします」
マッカーシー・メムスは、ドラゴン・ヒルの伝言を読んだ。
「銀河同盟の各星の諸君。惑星ダイトランの王、ドラゴン・ヒルだ。我ら『惑星 ダイトラン』は、9月末を持って、銀河同盟を脱退する。惑星ダイトランは独自の銀河開拓路線を歩むこととした」
「これは何を意味しているのですか? なぜ、銀河同盟を脱退する必要があるのでしょうか?」
参加していた惑星タグ、パイソン、地球、サミュエルの代表が一斉にマッカーシー・メムスに質問した。
「なぜ、惑星ダイトランが銀河同盟を脱退したのかの理由は、正直なところ、ドラゴン・ヒルからは説明がありませんでした。ただ、私ども、惑星アディナの宇宙航海省の調査によると、
・惑星ダイトランの中で、王政に疑問を持つ者による、ドラゴン・ヒル暗殺未遂があったこと。
・ドラゴン・ヒルは、王政を強固にするために、我々の銀河同盟の目指す民主的な政治と活動を異にし、軍事力を強化しているような動きがあること。
がわかってきました」
マッカーシー・メムスの質問に対し、各星の代表はそれぞれ発言し始めた。
「戦争が起こると言うことか?我々は、それぞれ、星内の国々の紛争を抑え、民主化を進めて来た。ようやく、内紛が収まったというのに、今度は、『銀河系での星間戦争』を行うと言うことか?」
「考えておく必要があるかもしれません。惑星ダイトランの軍事力は、『星間戦争』を想定しているかもしれない」
「我々は『星間戦争』を想定した武力を所有していない。どうすれば良い?」
各星の代表の意見を一通り聞いた上で、マッカーシー・メムスは、話し始めた。
「各星が動揺するのを避けるため、秘密裏に行っていましたが、我が惑星アディナの宇宙航海省の科学研究設備では、起こりうるかもしれない『星間戦争』に備え、武力を持つ宇宙航海艦とレーザー砲などの開発を行っていました。各星に我々の開発した兵器を供給したいと思います。もしも星間戦争が起こった時には、これらの使用を許可いただければと思います。いかがでしょうか?」
各星の代表から、異議はなかった。
ちなみにそのころ、マナは、惑星アディナ内での国際連合会議を開き、各国に、「惑星アディナの武装化」「ダイトラン軍が戦争を仕掛けてきた時に対抗措置をとること」を惑星アディナ内の各国に了承させていた。
「それでは、逐次、我がアディナ軍のもつ兵器を、各星に供給いたします」
マッカーシー・メムスが述べたちょうどその時、惑星タグとパイソンの代表から、悲鳴のような声があがった。
「今、我々の星に向かって、武力を持つと思われる戦艦の大軍が攻めてきているという情報が入った。画像を確認すると、惑星ダイトランのテクノスターに砲塔をのせた改造艦だと思われる。また、その周りを、戦闘機のようなものが飛行しているようだ。ダイトラン軍からの奇襲攻撃による侵攻が始まったと考えたほうが良いかもしれない。もう、猶予はない。早く、対抗措置をとらなければ・・・」
その直後、惑星タグとパイソンの画像通信回線から、爆発音が響いた。
4-2 ダイトラン軍侵攻 ミッド・リム星域、マラスティア星域の制圧
惑星ダイトランの王、ドラゴン・ヒルは、銀河同盟会議の気をねらって攻撃できるよう、武装型超光速戦艦「テクノスター・プラス」の大艦隊を二手に分け、ミッド・リム星域の惑星タグとマラスティア星域の惑星パイソンに迫っていたのである。
惑星タグとパイソンは、それぞれが持つ自衛力で対抗したが、縦横無尽に飛び回り攻めてくるサイキット・ラーン部隊や、強力なトリチウム・レーザー砲を放つテクノスター・プラスになすすべなく敗れていった。たった、数日の出来事だった。
惑星タグとパイソンは、火の海となり、多くの人々が無残にも死んでいった。
数日後、惑星アディナの国際連合の執務室にいたマッカーシー・メムス、マナ、パーパスの元に、惑星タグとパイソンの代表からの伝言が入った。
「惑星ダイトランの王、ドラゴン・ヒルから『これ以上、ヒトを死なせたくなければ降伏するように』、と通知が来ました。私たちはこれ以上被害が広がらないよう降伏し、惑星ダイトランの傘下に入ります」
マッカーシー・メムスは、その伝言を聞くと、くずおち、頭を両手で抱えた。
「もう少し早く、私が手を打っていたら、このような事態にはならなかったのに・・・」
「私は偵察衛星で警戒はしていたのですが・・・。テクノスターが惑星タグ、パイソンに交易のために近づいているものと思っていましたが、惑星タグ、パイソンにテクノスターが近づいた時、いきなり、航海艦の鋼甲板が180度回転し、砲塔が現れたのです。気づいた時には手遅れでした。我々の偵察衛星もほとんど撃ち落されました。私の監視が甘かった。申し訳ありません」
パーパスはそういうと、涙をにじませた。
マナも涙をにじませていた。そして、肩を落としながら、マッカーシー・メムスにたずねた。
「これから、どういたしますか?」
「惑星サミュエルと地球を含む、ウエスタン・リーチ星系は必ず守らなければならない。サミュエルと地球の代表にすぐに連絡をとれ。我々の武器を供給し、我々ウエスタン・リーチ星域の星々で連合艦隊を組み、ダイトラン軍を、そしてドラゴン・ヒルを倒すしかない」
「了解しました。私はすぐに惑星サミュエルと地球の代表、それから、惑星アディナの国際連合にこのことを報告します。パーパス。すぐに、開発した我々の戦艦『アジョイント・コード』が出撃できるように準備して」
「了解しました。出撃と同時に、惑星サミュエルと地球にも、我々の戦艦と武器を供給いたします」
跪いて頭を抱え込んでいるマッカーシー・メムスは、絞りだすように言葉を発した。
「急いでくれ。もはや、交渉の余地はない。必ず、必ず、ダイトラン軍を、ドラゴン・ヒルを倒すのだ・・・」
それを聞くとともに、マナ、パーパスは執務室を出た。
マナは、惑星サミュエル、地球の代表、それから、惑星アディナの国際連合の議員たちに、惑星タグとパイソンの状況を説明した上で、「聖戦」を行うことを宣言した。
パーパスは、地下の工場に行き、完成している数十台のアジョイント・コードの稼働を部下たちに命令した。一部は惑星サミュエルに、一部は地球への供給用に、そして、その他の多数の戦艦は、惑星ダイトランへ向けて、出撃した。
4-3 ビー・バレーとの話し合い
執務室では、マッカーシー・メムスが執務用のデスクに座り、画像つきの無線機で、地球のビー・バレーに通信した。画面には、地球にいるビー・バレーが映っていた。マッカーシー・メムスは、ビー・バレーに話しかけた。
「ビー・バレー。久しぶりだなぁ。惑星アディナのマッカーシーだ。あなたももう傍受していると思うが、あなたの星、ダイトランの王、ドラゴン・ヒルが戦争を起こした。ミッド・リム星域の惑星タグと、マラスティア星域の惑星パイソンが占領された。おそらく、ドラゴン・ヒルは、ウエスタン・リーチ星域にも攻め込んでくるだろう。もはや、話し合いでの解決は見いだせないと思っている。我々は対抗措置として、武装勢力を出撃させる。地球にも、我々の武器を供給する。中間地点の地球を含む太陽系は、おそらく、戦火の真っただ中になると思う」
すると、ビー・バレーは答えた。
「我々の王が大変なことを起こしてしまいました。同じダイトラン星人として恥ずかしい行為です。申し訳ありません。ちなみに、私の内通者に確認しましたが、武装化したテクノスターを、彼らは『テクノスター・プラス』と、そして、その周りを飛行している戦闘機を『サイキット・ラーン』と呼んでいるようです」
「そうか・・・。恐れていたことがとうとう起こってしまった」
「はい。遺憾です。私は、あなたやあなたの息子のアルティアさんと接するうちに、自由主義思想に魅了されました。惑星ダイトランの王政、独裁政治に疑問を持っております。惑星ダイトランの中では、貧富の差が激しく、王のドラゴン・ヒルを憎んでいる者もたくさんいます。実際に、ドラゴン・ヒルの暗殺未遂まで起こっていますので」
「私は、先ほども述べたように、ダイトラン軍に対抗できる戦艦『アジョイント・コード』を、ウエスタン・リーチ星系の星々に派遣した。生まれ育った地を攻めるのは酷だと思うが、我々の戦艦や武器が届いたら、いっしょに戦ってはくれないだろうか?」
「承知しました。私は、惑星ダイトランのドラゴン・ヒルや、おそらく、テクノスター・プラスを開発したと思われる、私の星の有数の科学者、オントロジーの思想は好きではありません。そのために、私は惑星ダイトランを離れ、地球の女性と結婚し、家族を設けました。そして、今、地球の『銀河中央大学』で務めているのですから・・・」
「ありがとう。それからもうひとつ、頼みを聞いてくれないか?我が息子、アルティアに惑星アディナに戻ってくるよう伝えてくれ。アルティアには、専用の戦艦を用意している。アルティアにも、私とともに、ダイトラン軍と戦ってほしい」
「わかりました。伝えます。ともに、戦いましょう」
マッカーシー・メムスとビー・バレーの会話は終わり、マッカーシー・メムスは通信を切った。そして、ビー・バレーは、すぐに、アルティアを自身の研究室に呼び出し、銀河で起こっている戦闘のことや、マッカーシー・メムスの決意、アルティアに対する命を伝えた。
アルティアは、
「そっそうですか・・・。ただ、私は、惑星ダイトランの王女『ロザリー』を愛し、ロザリーと結婚。子供を設けました。このことを聞くと、ロザリーはショックを受けるでしょう。ただ、ロザリーの父、ドラゴン・ヒルの思い通りにさせておくわけにはいきません」
ひと時、沈黙が続いた。その後、アルティアはビー・バレーに言った。
「少しだけ時間をください。ロザリーと話し合います」
そう言うと、悩んだ顔をしながら、アルティアは、ビー・バレーの研究室を後にした。
4-4 ドラゴン・ヒルの次の狙い
惑星ダイトランの王宮の大広場では、王の椅子にドラゴン・ヒルが座り、その前に、オントロジーが率いる戦略科学団の団員たちと、インベンターが率いる衛士団の団員たちが片膝をついて礼をしていた。
ドラゴン・ヒルがたずねた。
「戦果はどうなっておる」
すると、インベンターが答えた。
「ミッド・リム星域の惑星タグとマラスティア星域の惑星パイソンを制圧しました。我々へ降伏をしてきております。おそらく、リッド・リム星域の他の星も、マラスティア星域の他の星も、全て制圧できるでしょう」
「あの程度の艦隊で制圧できるとは、惑星タグもパイソンも、大したことはないのう。キェヒェヒェヒェ」
オントロジーが笑いながら言った。
すると、ドラゴン・ヒルは、大広場にいる全員に言った。
「インベンターよ。それぞれの部隊へ、各星を完全に制圧し、それぞれの星の者たちを捕虜とするよう、命を出しておけ。
これで、惑星アディナのマッカーシー・メムスがどう出てくるかだ。
『銀河同盟脱退の意思』をマッカーシー・メムスに伝えておる。おそらく、我らの動きを、マッカーシー・メムスは把握しているであろう。何らかの対抗措置をしてくるはずだ。
次はウエスタン・リーチ星域だ。その最先端にある地球を征服し、我々の戦闘拠点をつくる。そこから攻め入り、惑星アディナを含むウエスタン・リーチ星域を征服する。マッカーシー・メムスの動きに遅れをとらぬよう、我が主力艦隊を出す。我も出撃する」
「いよいよ、いよいよ、我の夢の銀河系征服を達成する時が来た。みなも心してかかれ。」
すると、大広間にいる団員たちから雄たけびがあがった。ドラゴン・ヒルやオントロジー、インベンターも高笑いをした。
第5章 アルティアとロザリーの別れ
5-1 アルティアとロザリーの邸宅で
アルティアは、ビー・バレーの研究室を出てすぐ、ロザリーといっしょに住んでいる邸宅へ戻った。邸宅の前には、惑星ダイトランから地球に戻ってきたロザリーの執事たちとタイモンが立っていた。
「アルティアさま。ダイトラン軍が起こしたこと。ご存じでございますか?」
「ああ、先ほど、ビー・バレー教授から話を聞いた。今から、ロザリーにそのことを伝え、これからの私たちの行動をどうするかを話し合おうと思っている」
「わかりました。ただひとつ、私は、一旦、惑星ダイトランに戻り、王のドラゴン・ヒルから命を受けております。ロザリーさまを惑星ダイトランにお連れするようにと」
「タイモン。君はどうするつもりだ」
「ロザリーさまとの話し合いの結果を教えてください。それにより、私は、熟慮し、行動をいたします。なお、王のドラゴンさまには、あなたとロザリーさまがご結婚され、ご息女を得たことは、まだ、ご報告いたしておりません」
「ありがとう。わかった。ロザリーとの話し合いが終わったら、君にも相談する。それまで待ってくれ。まず、このことを聞いたら、ロザリーは動揺すると思う。その様子も考慮しながら、これからの私たちの行動を決めたい」
「わかりました。ご息女は、あなたとロザリーさまが話し合いをされている間、私と私の側近が面倒を見ます。私どもは強引なことはいたしません。ご信用ください」
「わかった」
そういうと、アルティアは、邸宅の中に入っていった。
アルティアが家に入ると、ロザリーは子供を抱きかかえ、あやしながら、リビングのソファーに座っていた。
あまり浮かない様子をしながら、リビングに入って来たアルティアを見て、ロザリーが言った。
「おかえりなさい。お疲れ様です。でも、浮かない顔をされているわ。何かあったの?」
「うーん。ロザリー。二人でゆっくり話せないか?」
「でも、今、子供が泣き止んで寝かせつけたところなの」
「そうか」
それを、こっそり家に入って聞いていたタイモンが口を開いた。
「こっそり家にあがり、申し訳ありません。もしよろしければ、ご息女は私どもが見ておりますので、どこか落ち着いた場所で、お二人で話されてはいかがでしょう。アルティアさまから、ロザリーさまへ、大事なお話があるようです」
「タイモン。惑星ダイトランに帰っていたと、あなたの側近から聞いていたけど、地球に戻っていたのね。アルティア、そんな大事な話があるのなら、子供がなついていて、子供の世話も手慣れているタイモンに預けて、あなたと会った、いつものレストランに行きましょうか?」
事情が今一つつかめないロザリーが言った。
「そうしてもらえるか・・・」
アルティアは小声でそういうと、子供をタイモンに預け、ロザリーを連れて、いつも二人で会っていたレストランに向かった。いつ道々、アルティアは一言も話さなかった。ロザリーは、黙って、アルティアの後を着いていった。
5-2 いつものレストランで
レストランに着くと、アルティアは、窓側の席にロザリーを連れて行き、自分の前にロザリーを座らせた。
座ってひと時の間の沈黙が続いた。それを察しながら、ロザリーが囁いた。
「大事なことって何?」
すると、重い口を開けて、アルティアが話し始めた。
「ロザリー。心を落ち着けて聞いてほしい」
そして、深呼吸したあと、アルティアは続けた。
「銀河系で戦争が始まった。戦争を始めたのは、君の星、ダイトラン。そして、君の父のドラゴン・ヒルだよ。惑星ダイトランは、ドラゴン・ヒルの命のもと、銀河同盟を脱退し、戦闘を起こした。そして、ダイトラン軍は奇襲攻撃をかけ、惑星タグを中心としたミッド・リム星域と惑星パイソンを中心としたマラスティア星域を制圧したそうだ。惑星タグとパイソンの民衆は降伏したそうだよ」
「そっ、そんな・・・」
アルティアの言葉を聞いて、ロザリーは絶句した。
アルティアは続けて話した。
「これは、銀河中央大学の宇宙科学科の、惑星ダイトラン出身のビー・バレー教授からの情報だから確かだ。ビー・バレー教授もショックを受けられていたよ。ビー・バレー教授は惑星ダイトラン出身だけど、戦争には反対で、君の父の行動を批判していた。僕の父、マッカーシー・メムスと話をし、対抗措置をとるそうだ。
それから、君の執事、タイモンもこのことを知っていて、君の父から、君を惑星ダイトランに連れて帰るようにという命を受けているそうだ」
ロザリーは、青ざめた顔をして、うつむいていた。
アルティアとロザリーの間に、また、ひと時の間、沈黙がはしった。
その静寂の中、出されているコップの水の中の氷が「カラッ」となる音がレストランに響いた。氷がコップの中で揺れていた。
再び、アルティアが重い口をあけて話し始めた。
「僕は君のことが好きだ。愛している。でも、でも、僕は、君のお父さんを、君の星を滅ぼさないといけない。これは、僕に課せられた『さだめ』なんだよ・・・。
僕は、父のマッカーシー・メムスから、惑星アディナに戻るように言われている。僕は、惑星アディナに戻り、アディナ軍のもつ武装機器を使って、ダイトラン軍と、君の父と戦う。
僕は、君と子供を惑星アディナに連れて帰りたいと思っている。君はどうしたいと思っている?」
「私は・・・」
ひと呼吸おいて、ロザリーは続けた。
「私は、地球に子供と残る。惑星アディナや銀河連合の星々の方、そして、あなたの父、マッカーシーさまに合わせる顔がない。また、戦争を起こした私の父、ドラゴン・ヒルとも顔を合わせようという気にならないわ。私は、このまま地球に残ります」
「このままいくと、地球を含む太陽系が、ダイトラン軍とアディナを含む、ウエスタン・リーチ星域の連合軍との戦闘の場になるかもしれないのにかい?」
「もし、太陽系が激戦地になるのであれば、私は、ビー・バレー教授に協力して、ダイトランのレジスタンスと共に戦うわ」
「タイモンは、君を惑星ダイトランに連れ帰るよう、君の父、ドラゴン・ヒルから命をうけているようだけど、どうする」
「タイモンには『お父さん。きっと、あなたは太陽系に来るでしょう。私は、あなたが来るのを、地球で待っている』とだけ伝えてもらうよう、頼むわ。そして、期を迎えるまでは、ばれないように、惑星ダイトランから来ている執事たちとすごすわ。
アルティア、でも忘れないで。父を待つのは、ダイトラン軍と戦うため。あなたとダイトランのレジスタンスと共に戦うためよ」
「わかった。僕からもタイモンには、君の言った通りを伝えるよ」
アルティアとロザリーは、アルティアが「いっしょに銀河を旅したい」と告白した時と同じワインを頼み、お互い、涙を流しながら乾杯し、契りを交わした。
その後、2人は、レストランを出て邸宅に戻り、待っていたタイモンに、レストランで約束した通りの言葉のみを伝えた。
タイモンは、2人の表情を見ながら、何かを察したのか、冷静な口調で、
「わかりました。ドラゴンさまには『ロザリーさまが地球で心待ちにしています』と伝えます。私は、ドラゴンさまの命のもと、ダイトラン軍に合流し、惑星アディナの連合軍と戦わざるを得ません。あとは、私の部下の執事たちに私から、『引き続き、ロザリーさまのお世話をするように』と命を出しておきます。」
と言った。そして、タイモンは一礼をすると、その場を去り、乗って来たテクノスターに戻った。そして、ドラゴン・ヒルにロザリーの言葉を通信で伝えた後、テクノスターを出発させ、ドラゴン・ヒルのいるダイトラン軍へ戻っていった。
アルティアは次の日、銀河中央大学で古海 亘と美穂と会った。そして、ビー・バレー教授、ロザリーも立ち合いのもと、これまでの銀河系でのできごとやアルティアやロザリーが今後、どのような意思で行動をとるのかを話し、その上で、ビー・バレー、古海 亘、石崎 美穂たちに「ロザリーと子供を守ってもらう」ようお願いした。ビー・バレーと亘は言った。
「わかった。僕らが、ロザリーとマリカを守るよ」
話し合いが終わると、アルティアは、ロザリーと子供のマリカを抱きしめた後、彼女らに別れを告げ、地球のアディナ基地にあるアジョイントの1台を使って、惑星アディナに戻っていった。
第6章 太陽系決戦
6-1 ダイトラン軍主力艦隊 太陽系へ
ミッド・リム星域、マラスティア星域の制圧を行ってから2か月ちょっと。地球歴2451年12月の頭に、ダイトラン軍の主力艦隊は太陽系に近づいた。
主力艦隊は、3隊に編成されていた。
先導部隊として、戦闘機のサイキット・ラーンを積んだ戦艦、テクノスター・プラス20艦。指揮を執るのは、衛士団の長、インベンターである。
ダイトランの王、ドラゴン・ヒルは、先導隊の後ろの本隊におり、地球から戻った執事のタイモンを従えて、テクノスター・プラスの2倍の数の砲塔を持つ大型機、「キング・テクノスター」に乗っていた。その周りには、テクノスター・プラス20艦が航行していた。
また、本隊の後方は、中央に戦略科学団の長であり、科学者のオントロジーの乗る「円管型で、上部に艦橋がある『謎めいた』戦艦」が、その周りにテクノスター・プラス10艦を従えて航行していた。
ダイトラン軍は、太陽系の最果ての惑星、海王星・天王星を通り過ぎ、土星に近づいた。
「太陽系に何か変わりはあるか?」
本隊のキング・テクノスターに乗るドラゴン・ヒルが、先導部隊のインベンターへ問うた。
「我々の見る限りでは、特に動きはありません。しかしながら、レーダーを見ると、こちらから見て、太陽系の土星の後方に、何か、大艦隊のようなものが隠れているように思います。先行して、サイキット・ラーンを飛ばし、偵察を行います」
「サイキット・ラーンからの情報を得るまで、慎重に進め。もしかしたら、ウエスタン・リーチの惑星が連合を組んで、武装勢力を持ち、待ち構えているかもしれぬ」
すると、土星の裏にまわって偵察を行おうとしていたサイキット・ラーンが、複数のレーザー砲により撃ち落された。そして、土星の裏から、複数の戦艦が現れてきた。アディナ軍を中心としたウエスタン・リーチ連合艦隊のアジョイント・コードである。
「やはり、我々を待ち構えていたか。インベンターよ。先導部隊のテクノスター・プラスを出撃させ、トリチウム・レーザー砲で対抗せよ」
ドラゴン・ヒルの命令とともに、土星周辺を舞台とした、ダイトラン軍のテクノスター・プラスと、ウエスタン・リーチ軍のアジョイント・コードの戦闘、太陽系決戦がはじまった。
6-2 拮抗する攻防
アディナのマッカーシー・メムス率いるウエスタン・リーチ連合軍は、土星の裏側に隠れていた。そして、こちらからも、ダイトラン軍の動きをレーダーで捕らえていた。
「大艦隊だ。これほどまでダイトランの王、ドラゴン・ヒルの野望は大きいのか?もはや、交渉の余地はない。やつらを叩くしかない。パーパスよ。先導部隊を前に出せ」
ウエスタン・リーチ軍は、先導部隊として、アディナの宇宙航海省の長「パーパス」とサミュエル、地球の連合軍のアジョイント・コードが25艦。その後ろに、マッカーシー・メムスや、サミュエル、地球の隊長などが乗る、これも、アジョイント・コードの2倍の数の砲塔を持つ、大型戦艦「マスター・アジョイント」や1.5倍の数の砲塔を持つ、アルティアが乗る「ホープ・アジョイント」などの本隊が25艦ある。数の上では、ダイトラン軍・ウエスタン・リーチ連合軍は、互角の兵力だった。
ダイトラン軍から見て、土星の裏側に潜んでいたウエスタン・リーチ軍は、マッカーシー・メムスの命を受け、まず、パーパスの先導部隊が、ダイトランのサイキット・ラーンを撃ち落としながら、土星の前面に出て、ダイトランの先導部隊のテクノスター・プラスと相まみえた。
ウエスタン・リーチ軍の高濃縮YAGレーザー砲が、サイキット・ラーンやテクノスター・プラスを次々と撃ち落とす。それに対抗するように、テクノスター・プラスからトリチウム・レーザー砲が放たれ、アジョイント・コードの装甲を貫いて破壊する。
土星周辺は、先導部隊どうしの戦闘が激化した。
先導部隊の戦艦の数の上では、ウエスタン・リーチ軍が上回っていたが、小回りの利く、サイキット・ラーンからのレーザーやミサイルの攻撃も相まって、両者は激戦を繰り広げていた。
しかしながら、サイキット・ラーンからの小回りの利いた攻撃で、徐々に、ウエスタン・リーチ軍の戦艦、アジョイント・コードは、高濃縮YAGレーザー砲塔などを破壊され、劣勢に立たされつつあった。
「ダイトラン軍の爆撃機、サイキット・ラーンの攻撃に、我々の砲塔の攻撃が追いついていきません。テクノスター・プラスからのトリチウム・レーザー砲も相まって、我々は徐々に劣勢に立たされています」
ウエスタン・リーチ軍の先導部隊の隊長、パーパスからの連絡を受け、マッカーシー・メムスは、次の策として、本隊を突撃させるかなどを考えていた。その時、マスター・アジョイントの艦橋のモニターに、地球にいるビー・バレーが映った。そして、ビー・バレーは言った。
「マッカーシーさま。ダイトラン軍のおおよその攻撃パターンがわかってきました。我々、
ダイトランのレジスタンス隊が、サイキット・ラーンに対抗できるよう、土星のリングの中に潜ませている、サイキット・ラーン同様、小回りの利く戦闘機『サポート・ベクターマシン』を出動させます。本隊の突入はしばらくお待ちください」
6-3 ウエスタン・リーチ軍の逆襲
「サポート・ベクターマシン。始動」
地球にいるビー・バレーは、銀河中央大学の地下にひそかに建設していた、ダイトランのレジスタンス基地から、サポート・ベクターマシンの起動ボタンを押した。
すると、土星のリングの中にあらかじめ仕込んでおいた、高濃縮YAGレーザービームの1/5のエネルギービームを出せるアンテナが2つ、ダイトラン軍のサイキット・ラーンやテクノスター・プラスを検知できるAI画像認識用のレンズを1つ持ち、そして、ステスル系の無人の球状物体が、無数、ダイトラン軍の方へ向けて飛んで行った。その球状のものの一部はサイキット・ラーンを追い、レーザーで撃ち落し、また、他の一部は、テクノスター・プラスの砲塔を攻撃した。
「サポート・ベクターマシンが、敵のサイキット・ラーンと互角に戦っています。また、サポート・ベクターマシンは、テクノスター・プラスの装甲も攻撃し、かなり、敵にダメージを与えているようです。テクノスター・プラスの先導部隊の隊列が乱れ始めました」
先導隊のパーパスからの連絡を受け、本隊にいるマッカーシー・メムスは先導部隊・本隊のアジョイント・コードに命令を出した。
「我々本隊は、先導部隊に続き、隊列が乱れている敵の先導部隊を中央突破し、敵の本体に突入する。ここが勝負どころだと見た。アルティア、最後尾の守りは、お前のホープ・アジョイントに任せる。中央突破した時の後方の守りを、お前とアジョイント・コード5艦に任せる」
ウエスタン・リーチ連合軍、ダイトラン軍とも、先導部隊の戦艦は、それぞれ、10艦ほど破壊されていたが、残っているダイトラン軍の先導隊のテクノスター・プラス10艦は、隊列を乱し、離散していた。そこへ、マッカーシー・メムスの命令により、ウエスタン・リーチ軍の先導隊のアジョイント・コード15艦と、本隊のマスター・アジョイントおよび、20艦のアジョイント・コードが中央突破を図り、ダイトラン軍の本体に迫った。
キング・テクノスターにのっているドラゴン・ヒルは、それを迎え撃つように、ダイトラン軍の本隊20艦を、ウエスタン・リーチ軍へ進めていった。
キング・テクノスターと、マスター・アジョイントは、ほぼ正面で、お互いの砲塔を撃ち合った。しかし、勢いに勝るウエスタン・リーチ軍が、徐々に、ダイトラン軍のテクノスター・プラスを破壊していった。一部のテクノスター・プラスは、盾になるかのごとく、キング・テクノスターの前に出て、次々と、マスター・アジョイントに破壊されていった。
「おのれ。マッカーシー。これほどの武装勢力を用意していたとは・・・。このままでは我らは破れてしまう。タイモン、何か良い手はないか?」
そうドラゴン・ヒルに問われたタイモンではあるが、無言のまま、何も答えることはできなかった。
その時、ダイトラン軍の後方部隊の「円管型で、上部に操縦部がある『謎めいた』戦艦」に乗っているオントロジーから通信が入った。
「キェヒェヒェヒェ。都合の良いように、群れをなして、こちらに来ておるわい。ドラゴンさま。慌てることはありません。わしの最終兵器を今、使う時が来ました。ドラゴンさまは一旦お引きになり、わしのこの戦艦『ニュー・トリノ』の前を開けていただけますか?彼奴らを一網打尽にしてしまいましょう。これからがショータイムでございます。キェヒェヒェヒェ」
6-4 不気味な戦艦
キング・テクノスターの後方部隊の中心にある「謎めいた」戦艦は、オントロジーが開発した「ニュー・トリノ」という名だった。
ドラゴン・ヒルの乗るキング・テクノスターと、その周りを飛行しているテクノスター・プラスは、マッカーシー・メムスの乗るマスター・アジョイントやそのまわりのアジョイント・コードの高濃縮YAGレーザー砲を避けながら、四方八方に逃げ、中央を開けた。マッカーシー・メムス率いる戦艦は、ダイトラン軍の戦艦ニュー・トリノの真正面にさらけ出された。
戦艦ニュー・トリノでは、円筒形の内側の無数のアンテナらしきものから、円筒の中心に、稲妻のようなトリチウム・レーザーが放たれていた。そして、円筒形の中心に、オレンジ色のエネルギーの塊ができ、徐々に巨大化していった。
その光景を、地球のレジスタンス基地からマスター・アジョイントのモニターを通じてみていたビー・バレーが叫んだ。
「こ、これは・・・。無重力空間に点在する超光速微粒子『ニュー・トリノ』をトリチウム・レーザーで集約させ、巨大なエネルギーの塊『ニュー・トリノ粒子砲』として撃とうとしています。オントロジーが開発をしているという噂を耳にしていましたが、まさか完成していたとは・・・。とても、ウエスタン・リーチ軍の高濃縮YAGレーザーでは対応できません。ひとまとまりになっていれば、先導隊、本隊とも、『ニュー・トリノ粒子砲』の餌食になってしまいます。マッカーシーさま、アルティアさま、早く、早く、散らばって逃げてください」
そう言っているうちに、ダイトラン軍のほうでは、オントロジーがドラゴン・ヒルに通信した。
「エネルギー充填完了です。発射します」
「発射しろ」
ドラゴン・ヒルの号令を受け、ニュー・トリノ粒子の巨大なエネルギー砲が発射された。その、とてつもないエネルギー砲は、けたたましい音を立てながら、ウエスタン・リーチ軍の先導隊、本隊を直撃した。マッカーシー・メムスの乗るマスター・アジョイントやその周りのアジョイント・コードは、木っ端みじんに粉砕した。マッカーシー・メムスは、
「みな、すまない・・・」
という断末魔の叫びを残し、また、先導部隊のパーパスも、ニュー・トリノ粒子砲とともに、ひと方もなく、消え去った。
アルティアの乗るホープ・アジョイントも通信が切れた。
6-5 太陽系決戦 決着
ニュー・トリノ粒子砲により、ウエスタン・リーチ軍は、ほぼ、壊滅状態になった。わずかにニュー・トリノ粒子砲をのがれたアジョイント・コードも一気呵成に攻めるドラゴン・ヒル率いるダイトラン軍の餌食となっていった。
土星周辺の太陽系決戦は、ダイトラン軍の勝利に終わった。
ダイトラン軍は、30艦ほどのテクノスター・プラスと多くのサイキット・ラーンを失ったが、ドラゴン・ヒルの乗るキング・テクノスター、インベンターの乗る物も含め、先導部隊、本隊、後方部隊20艦ほどのテクノスター・プラス、それから、オントロジーの乗る戦艦ニュー・トリノは無事だった。
「キェヒェヒェヒェ。いかがですか?わしが開発したニュー・トリノ粒子砲は?」
「見事だ。我らの大勝利だ。ハッ、ハッ、ハ」
ドラゴン・ヒルは続けていった。
「我らもかなりのダメージを受けはしたが、おそらくウエスタン・リーチ軍はほぼ壊滅だ。なによりも、目の上のこぶだったマッカーシー・メムスを抹殺できたのは大きい。ウエスタン・リーチ軍は、司令塔を失い、求心力が急速に衰えるだろう。この勢いで、地球を制圧し、地球に我らの、ウエスタン・リーチ星系制圧の拠点となる基地『ダイトラン・コラム』を建設する」
土星の周りは、砕けた戦艦のかけらが吹き飛んでおり、それが、土星のリングと同様に、土星の周りをむなしく周回していった。
あざ笑うかのように、太陽系決戦を制したダイトラン軍は、悠然と地球に向かって進軍していた。
第7章 ダイトラン・コラム
7-1 ウエスタン・リーチ星系の星々の動揺
ウエスタン・リーチ軍の太陽系決戦の敗北と、そのリーダーであるマッカーシー・メムス、およびマスター・アジョイントに乗っていたウエスタン・リーチ軍の各星の首脳の死は、ダイトラン軍のドラゴン・ヒルの必勝宣言の通信により、瞬く間にウエスタン・リーチ星系の星々に伝わった。
リーダーを失った惑星アディナでは、待機していた国際連合の副会長のマナを中心に、各国の首脳を集めて、会議を開いていた。
「太陽系決戦で、ウエスタン・リーチ軍は敗北しました。マッカーシーさまは亡くなり、アルティアさまとも通信がとれません。おそらく、ダイトラン軍の攻撃の餌食になったものと思われます。レーダーの動きを見る限り、ダイトラン軍は、地球を手始めに、ウエスタン・リーチ星系の制圧に取り掛かるものと思われます。いずれは、この惑星アディナにも攻め込んでくるでしょう。しかし、惑星アディナには、今回敗北したウエスタン・リーチ軍のような軍事力はもう残っていません。また、私には、マッカーシーさまのような『リーダー的な資質』はありません。これから、私たちがどのような対応をするのかを、本会議で協議させていただければと思います」
マナの訴えに対して、各国の首脳は、何も答えることができなかった。
一時の沈黙があった後、首脳の中でも一番の年配の者が答えた。
「わしたちは、アディナ内の内紛を経て、『武力による制圧』の無意味さをいやというほど知ったはずだ。正直なところ、マッカーシーさまが亡き今、ダイトラン軍に対抗したとしても勝てるとは思えない。無意味な殺し合いになるだけだ。残念じゃが、わしは、ダイトラン軍が攻めて来た時、戦いを行わず、彼らに従うほうが、最小限の被害に抑えられるのではないかと思う。彼らは、ミッド・リム星域、マラスティア星域の制圧をした時も、制圧した星々のヒトを捕虜にはしているが、殺してはいない。ダイトラン軍に、いや、ダイトランの王、ドラゴン・ヒルに逆らわなければ、我々は、生きていける。
ただ、わしは、『武力による制圧、独裁政権』は長続きしないものと思っておる。我慢していれば、いずれは、わしたちは、再び、自由を得られるのではないか?地球のことわざにもある通り、『耐え難きを耐え、忍び難きを忍び』を今は行うべきだと考えておる」
「ご意見、ありがとうございます。他の方はいかがですか?」
「やむを得ないだろう」
マナの問いかけに、異論を示す首脳はいなかった。会議は終わり、惑星アディナが採るべき行動は決まった。
しかし、惑星サミュエルの政府は、真逆の対応を行おうとしていた。
「最期まで、悪と戦う」
という考えの元、マッカーシー・メムスから供給されたアジョイント・コードを集め、来るべき、ダイトラン軍との決戦に備えた。
地球政府も、地球に向かってきているダイトラン軍に対抗するために、マッカーシー・メムスより供給されたアジョイント・コードを航行させた。
しかしながら、地球政府のアジョイント・コードは、木星・火星近辺で、数にまさるダイトラン軍に、すべて破壊された。
地球政府は、ダイトラン軍への攻撃をやめた。
「地球を制圧し、地球人をすべて捕虜とする。そして、地球を、ウエスタン・リーチ星系征服の最前線にするために、ユーラシア大陸のど真ん中に、我らの軍事基地兼、地球人を捕虜として一括で管理するための基地『ダイトラン・コラム』を建設する。『ダイトラン・コラム』の設計・建設の総指揮は、タイモンに任せる。タイモン、ロザリーはどこにいる。ロザリーを保護した上、インベンター、オントロジーの支援を受けながら、『ダイトラン・コラム』の建設にかかれ。頼んだぞ」
ドラゴン・ヒルの命令を受け、タイモンは、
「御意」
と答え、地球のロザリー邸に向かった。
7-2 ロザリーの保護
タイモンは、テクノスター・プラスに乗り、ロザリー邸の近くの広場に降り立った。ロザリー邸の前では、ビー・バレーと古海 亘が、ロザリー邸に入ろうとするのを、タイモンの部下の執事たちが止めていた。
タイモンが近づいて、言った。
「ビー・バレーさま、古海さま。ここは私にお任せいただき、お引き下さい。ドラゴン・ヒルさまからの命令を受け、私はここに来ました。今から、私がロザリーさまとお話をいたします。ロザリーさまの安全のため、私がロザリーさまとご息女のマリカさまをお引き取りいたします。ダイトランの王、ドラゴン・ヒルさまには、マリカさまのことはお話ししておりませんが、私が何とかロザリーさまとともに保護をいたします」
「土星近辺の太陽系決戦のことは私たちも、ロザリーも知っている。ロザリーのことが心配で来てみたが、私たちも事を荒立てたくない。ここはお前とロザリーの意思に任せることにする。私たちはここで待つ。結果だけ、聞かせてくれ」
「わかりました。しばらくお待ちください」
ビー・バレーの問いに、タイモンはそういうと、ロザリー邸に入っていった。
ロザリーは、LEDのライトを薄暗くし、マリカを抱きかかえて、リビングのソファーに座っていた。
「ロザリーさま」
タイモンがロザリーに声をかけたが、ロザリーは無言だった。マリカはロザリーに抱かれて眠っていた。
「今回の太陽系で起こった戦争のことはご存じだと思います。私は、ドラゴン・ヒルさまからの命令を受け、ここに来ました。ロザリーさま。私とともに、ドラゴン・ヒルさまのところに行きましょう。マリカさまのことは、私にお任せください。ドラゴン・ヒルさまに見つからないようにひそかに連れて行き、ロザリーさまの元へ届けます。」
すると、ロザリーは、涙を浮かべながら、静かに話した。
「私は、アルティアと別れる時に約束したの。ダイトランのレジスタンスに加わり、父、ドラゴン・ヒルを倒すと・・・」
「お気持ちはお察しいたします。しかしながら、私は、あなたさまの安全を第一に優先いたします。今、地球に来ているダイトラン軍に合流いただくほうが良いかと存じます。私は、ドラゴンさまからの命令を受け、この地球に、ウエスタン・リーチ星系制圧のための最前線基地『ダイトラン・コラム』を建設する役割を受けました。ダイトラン軍に合流した後は、私が建設の責任を担う『ダイトラン・コラム』に移っていただくことになると思います」
「いやです。私は、ダイトランのレジスタンスに加わります」
すると、タイモンは、無表情ながらも、リビングの窓から夜空を見上げ、諭すように、ロザリーに話し始めた。
「ロザリーさま。私がこれから言う地球のことわざをご存じですか?」
「えっ。何?」
「『虎穴に入らずんば虎子を得ず』です。私はあくまで、ドラゴンさま、ロザリーさまの執事です。どちらの味方をするわけにはいきません。しかしながら、私は、あなたを御父上のおそばに導くことはできます。その後のことは、あなたさまにお任せいたします。もし、あなたさまが今の願いを果たしたいのであれば、難なく御父上のおそばに行ける『ダイトラン軍に戻る』選択をしてはいかがでしょうか?」
タイモンの言葉の意味を悟ったのか、ロザリーは泣き止み、気丈な表情に変わった。そして、諭すように話していたタイモンに答えた。
「少し用意をさせて。用意が済んだら、あなたとともに、私はダイトラン軍に戻るわ。マリカは一旦、あなたに任せるけど、あなたの言う『ダイトラン・コラム』では、一緒にいられるようにして」
タイモンは、静かに答えた。
「わかりました」
約1時間後、ロザリーは用意を済ませ、マリカを抱きながら、タイモンとともにロザリー邸を出て来た。ロザリー邸の外で待っていたビー・バレーと古海 亘はたずねた。
「ロザリー。どうするのだ?」
「タイモンとともに、地球に向かっているダイトラン軍に合流するわ。そして、ダイトラン軍がウエスタン・リーチ星域征服のために、地球に建設する最前線基地『ダイトラン・コラム』に行く。父、ドラゴン・ヒルのそばに難なく近づけるようにするために」
続けて、タイモンが話した。
「ダイトラン・コラムは、地球のユーラシア大陸のど真ん中に建設予定です。」
ビー・バレーと古海 亘は、鬼気迫る表情で話すロザリーとダイトラン軍の基地「ダイトラン・コラム」の場所を話すタイモンから何かを悟ったのか、
「わかった。また、会おう」
とだけ言って、去っていった。
ロザリーとマリカは、タイモンとタイモンの部下の執事たちとともに、タイモンが乗ってきたテクノスター・プラスで、地球に迫ってきているダイトラン軍に戻っていった。
7.3 ダイトラン・コラム建設
ドラゴン・ヒル率いるダイトラン軍は、着々と地球へと航行していた。その中で、ドラゴン・ヒルは地球政府(地球の国際連合)の幹部たちへ問いかけた。
「もう、地球の軍隊に勝ち目はない。我々に降伏し、捕虜となるか、あくまで抵抗して、滅ぶか?どちらかを選べ」
その問いかけに、地球政府は「降伏」を選択した。
ダイトラン軍の、ドラゴン・ヒルが乗る戦艦キング・テクノスター、オントロジーが乗る戦艦ニュー・トリノとインベンターが乗る物も含めた5艦ほどの戦艦テクノスター・プラスはユーラシア大陸のど真ん中に降り立った。残りのテクノスター・プラスとサイキット・ラーン部隊は、地球人を捕獲するために、地球の各地に飛び立った。
また、ロザリー、マリカとタイモンを乗せたテクノスター・プラスは、キング・テクノスターと合流した。タイモンは、マリカを部下の執事、フライヤに預け、ロザリーを連れて、キング・テクノスターの艦橋へ向かった。
ドラゴン・ヒルはキング・テクノスターの艦橋から、地球政府へ通信した。
「ここに、我らのウエスタン・リーチ星系征服の最前線基地、『ダイトラン・コラム』を建設する。今から、我らの部隊が地球人を捕獲に向かう。地球人たちに、捕虜になることを了承させておけ」
このように話している調度その時に、ロザリーを連れてきたタイモンが、艦橋に現れた。ロザリーがドラゴン・ヒルの前に立った。
「おお。ロザリー。元気でいたか?心配しておったぞ」
ドラゴン・ヒルが聞くと、ロザリーは、つくり笑いであろうか、少しひきつったような冷めた笑顔を浮かべながら答えた。
「お父さま。お待ちしておりました。地球へようこそ」
その様子を、タイモンはロザリーの右横に片膝を着き、ドラゴン・ヒルに頭を下げて聞いていた。
「ロザリーよ。我は、この地球に、ウエスタン・リーチ星系征服の最前線基地をつくり、銀河系を制圧する。お前の母が病気で亡くなり、我の子孫はお前ひとりだ。我の後はお前に託そうと思っておる。お前は女王となるのだ。この地球は元より、銀河系はすべて、いずれ、お前のものにしてやるぞ。喜べ」
「わかりました。光栄でございます。ありがとうございます」
ロザリーとの会話が終わると、ドラゴン・ヒルはタイモンに問いかけた。
「最前線基地、『ダイトラン・コラム』の設計図はできておるか?」
「御意」
タイモンはそう答えると、ダイトラン・コラムの3次元設計図をキング・テクノスターの艦橋の斜め上にあるモニターに映した。
モニターには、ダイトラン・コラムの全体像
・中央の北側に王宮が、南側に作戦会議等を行う建造物。中央に、王宮から見下ろせる、テクノスター・プラスが30艦は並べられるくらいの大きなコロッセウム広場。
・北東には、ダイトラン軍のテクノスター・プラス、ニュー・トリノ、サイキット・ラーンの格納庫。
・南東には、テクノスター・プラスやサイキット・ラーンなどの戦艦や戦闘機を増設できる工場と研究所。
・北西には、捕虜とする地球人たちを集める区画。
・南西には、ダイトラン軍の兵士たちの住む居住区。
があった。なお、ダイトラン・コラムは、横長の長方形の形をしており、高い外壁でおおわれていた。外壁の上のところどころに、見張り台が建てられていた。
「設計図はできております。この地にダイトラン・コラムを建設します、建設には3か月ほどかかるかと存じます」
「わかった。惑星ダイトランからも、テクノスター・プラスやサイキット・ラーン、それからダイトラン・コラム建設に必要な機材を補充しよう。建設を急げ。ダイトラン・コラムの建設が終わったら、ウエスタン・リーチ星系制圧に向かう」
「御意。それでは、インベンターとも相談し、私の執事たち、およびダイトラン軍の一部の兵士を使い、ダイトラン・コラムの建設に取り掛かります」
タイモンはそういうと、艦橋を出た。ロザリーもタイモンについていった。
艦橋を出た廊下を歩きながら、タイモンはロザリーに言った。
「まずは、王宮の建設からはじめます。王宮の中に、ロザリーさまがお住まいになる部屋をご用意いたします。ご用意できしだい、マリカさまをお連れいたします。フライヤをはじめ、私の執事の数名をお世話につけますので、ドラゴン・ヒルさまにばれないように、ロザリーさまとマリカさまは、その部屋でお過ごしください」
「わかったわ」
ダイトラン星からの機材の補充、ダイトラン軍の地球人の捕獲などがスムーズに進み、ダイトラン・コラムは予定通り、2か月で建設を終了し、王宮のロザリー専用の王女の部屋で、ロザリーは、マリカと暮らしはじめた。
第8章 ダイトラン・レジスタンスの作戦
8-1 戻ってきた戦艦
少し、時間をさかのぼる。ダイトラン軍が、タイモンの指導の下、ダイトラン・コラムを建設している最中のことだった。
東京の湾岸に建っている「銀河中央大学」の地下に、ビー・バレーが秘密裏に建設していた「ダイトラン・レジスタンス軍」の基地の指令室で、地上の監視を務めていたレジスタンスの監視官から、ビー・バレーのいる銀河中央大学-宇宙科学科の研究室に連絡が入った。
ちょうどその時、ビー・バレーは古海 亘と話をしていた。
「地球に、黒い球状の物体に囲まれた、航空艦相当の大きさの物体が1つ、地球に侵入し、東京湾の我々の基地の方へ近づいています。黒い球体が「耐レーダー」を備えているようで、目視ではじめてわかりました」
「我々に気づいていて、攻撃を仕掛けそうな雰囲気はあるか?通信でコンタクトを取って見ろ。すぐにそちらに行く」
ビー・バレーはそういうと、古海 亘を連れて、基地の指令室まで行った。
ビー・バレー、古海 亘は指令室に入って、監視官とともに、その物体をモニターから観察していた。
その物体は、静かに東京湾の岸壁に着水すると、黒い球状の物体に周りを囲まれながら、地下に潜水していった。
着水した物体から、通信が入ってきた。
「私は、アルティア・メムス。東京湾の地下に、ダイトランのレジスタンス基地があるはずだ。海底の水門を開けて保護してほしい」
モニターに映ったのは、砲塔などを含む船体がボロボロに壊れ、なんとか稼働しているものと思われるホープ・アジョイントだった。ホープ・アジョイントは、その存在を察知されないように、周りを、太陽系決戦で破壊されずに残っていた、耐レーダー(ステルス機能)のあるサポート・ベクターマシンで囲みながら、ダイトラン軍の猛攻を避け、地球へ戻って来たのだ。
「アルティア。良く無事で帰ってきた。今から、水門を開けるよ」
ビー・バレーはそういうと、管制官に水門を開けるように命じた。
ホープ・アジョイントは、ややフラフラしながら、水門を入ってきた。
基地の中にはいってきたホープ・アジョイントからは、アルティアの他に数人のけがをした乗組員が下りてきた。アルティアも腕や足に傷を負っていた。彼らはすぐに基地の医務室で治療を受け、病室で休んだ。
数日たったのち、アルティアは、基地の指令室に、松葉杖をつきながら、訪れた。
指令室には、ビー・バレーや古海 亘がいて、アルティアは、彼らと話をした。
「ロザリーとマリカは元気ですか?今、どこにいるのだろう?それから、地球は今、どのような状況になっていますか?」
アルティアの問いかけにビー・バレーが答えた。
「ロザリーとマリカは、タイモンの保護のもと、ダイトラン軍に合流した。ロザリーは、『私は、ダイトランのレジスタンスと共に戦う』と言い、最初は抵抗していたが、タイモンが諭し、何か、決意を秘めたような表情を浮かべながら、タイモンといっしょにドラゴン・ヒルの元へ去った。なお、地球政府は降伏し、太陽系決戦で戦った主力のダイトラン軍は地球にいる。今は、ダイトラン軍が地球に建設している、ウエスタン・リーチ星系制圧の最前線基地『ダイトラン・コラム』と呼ばれるところにいるものと考えられる」
「そうですか。ただ、マリカは私とロザリーの娘だ。このことを、ダイトランの王、ドラゴン・ヒルは知った上で、マリカを受け入れたのだろうか?」
「タイモンの話では、ドラゴン・ヒルには、マリカの存在は報告していないようだ。マリカはタイモンが極秘裏に連れて行った」
「そうですか・・・。我々、ウエスタン・リーチ連合軍が敗れた今、ロザリーは、ドラゴン・ヒルの元にいたほうが良いかもしれない。マリカの無事を祈るしかない。ホープ・アジョイントもほぼ、破壊され、なんとか地球に戻ってきた。これ以上、私に抵抗する力は残っていない。ところで、ウエスタン・リーチの各星々は、今はどのような状況だろうか?」
「わからない。ただ、何の動きもない」
「そうですか・・・」
一時の沈黙の後、深いため息をつきながらアルティアは続けていった。
「このまま、我々は、ダイトランに征服され、ドラゴン・ヒルの元で捕虜となるのでしょうか?」
その言葉を聞いて、ビー・バレーは答えた。
「まだ、戦いは終わらない」
8-2 ダイトラン・レジスタンスの作戦
「まだ、我々に打ち手はあるのですか?」
アルティアが聞くと、ビー・バレーが答えた。
「この、ダイトラン・レジスタンスの基地で、起死回生の策を練り、それに必要な武器を準備している」
「起死回生?」
「そう。まずは、これを見てくれ」
ビー・バレーは、そういうと、指令室の前のモニターに、ダイトラン・コラムの設計図と空撮した、建設中のダイトラン・コラムを映した。
「これがダイトラン・コラムですか・・・。空撮はともかく、設計図はどのように入手したのですか?」
「ダイトラン軍は一枚岩ではない。ダイトラン軍に所属していても、ダイトラン政権、ドラゴン・ヒルのやり方に不満を持っている者がいる。その者からの情報だ。」
「その者とは、信用できる者なのですか?」
「そうだ」
そういうと、ビー・バレーは、アルティアに続けて話した。
「ダイトラン・コラムは、外壁を覆われ、監視塔があるなど、頑強に守られている。しかしながら、ひとつだけ、盲点がある」
「盲点?」
「そう。ダイトラン・コラムは、地上からの攻撃への備えは万全だが、地下からの攻撃に対しての備えはない。我々は、地下から、ダイトラン・コラムに奇襲攻撃をかけたいと思っている」
「そのようなこと、できるのですか?」
「そう。その兵器を、古海 亘君が設計し、製造の指揮を執ってくれている。
古海君はひそかに、サポート・ベクターマシンの改造設計案を考え、ここにいるダイトラン・レジスタンスや、銀河中央大学の宇宙科学科で学んでいた、アディナ、サミュエル、パイソン、タグ、地球人などの星々の同士たち、約50名を統率し、改造版のサポート・ベクターマシンを製造した。改造版のサポート・ベクターマシンは、ヒトが1名乗れる大きさにし、操縦できるようにしている。そして、従来のサポート・ベクターマシンの先端に、穴を掘るためのドリルをつけている。高濃縮YAGレーザービームの1/5のエネルギーを出せるアンテナと耐レーザー(ステルス)の機能はそのままだ。我々はこれを『ドリル・ベクターマシン』と呼んでいる。このドリル・ベクターマシンで、地底から、ダイトラン・コラムに奇襲攻撃を仕掛ける。狙うのは、彼らの戦艦などがある格納庫。そして、王宮だ。彼らの武器を破壊しながら、王宮に奇襲攻撃をかけ、ドラゴン・ヒルを抹殺する。ウエスタン・リーチ軍が、マッカーシーさまを失って統制がとれなくなり、崩壊したように、ダイトランの王、ドラゴン・ヒルを抹殺すれば、ダイトラン軍は統制がとれなくなり、崩壊する。そこにつけいり、地球にいるダイトラン軍を壊滅するのだ」
指令室の横には、大規模は工場があり、そこで、ドリル・ベクターマシンは50機がほぼ製造を終了していた。
「いつ、攻撃を仕掛けるのですか?」
「いつでも。ダイトラン・コラムもほぼ完成している。早めの襲撃が良いかと思う」
「わかりました。亘。美穂と崇は元気かい?ビー・バレー教授。できるなら、私の傷が治ってから、私も参加し、襲撃を行いたい。レジスタンスの数名をここに残して、美穂と崇、それから、ビー・バレー教授のご家族を守るのはどうでしょうか?その上で、私を含むレジスタンスたち50名は、ドリル・ベクターマシンで出発してはいかがでしょうか?」
「私もそう考えている。亘。美穂と崇をこの基地で保護しよう。2人を早く迎えに行ってくれ。私は、自分の家族に連絡を取り、この基地に来るように言う。妻は、私が指揮いているダイトラン・レジスタンスとこの基地のことを知っている。我々は、アルティアの傷が治り次第、出撃しよう」
「承知しました。美穂と崇をここへ連れてきます」
亘はすぐに、美穂と崇を迎えに行った。アルティアは傷を早く治すべく医務室に、ビー・バレーは自身の家族に連絡を取った後、レジスタンスたちとともに、ドリル・ベクターマシンの最終動作チェックを行うために工場に向かった。
ダイトラン・コラムでの奇襲攻撃が始まろうとしていた。
第9章 ダイトラン・コラムでの戦闘
9-1 オントロジーの懸念
時は、ダイトラン・コラム完成後に戻る。
ダイトラン軍は、
・ウエスタン・リーチ星系征服のための武装勢力、キング・テクノスター、ニュー・トリノの整備。
・テクノスター・プラスとサイキット・ラーンの増強。
・地球人たちを捕獲し、倉庫へ隔離する。
を着々と進めていた。
それを、ドラゴン・ヒルは、オントロジー、インベンター、タイモンとともに王宮の最上階の耐久性の高いガラスが張られている王室のテラスに出て、真下に見えるコロッセウムを見おろしながら、
「タイモン。見事な『ウエスタン・リーチ征服の最前線基地 ダイトラン・コラム』だ。壮大な造りだ。眺めが良いぞ」
と満足げに高笑いをしていた。インベンターも、オントロジーも満面の笑みを浮かべていた。タイモンは、ドラコンの後ろで片膝をつき、頭をさげ、ドラゴン・ヒルの言うことを、表情を変えずに聞いていた。
その時、笑みを浮かべていたオントロジーがおもむろにドラゴン・ヒルに語りかけた。
「キェヒェヒェヒェ。マッカーシー・メムス亡き今、ウエスタン・リーチの星々も、我らに対抗する武装勢力は持っておるまい。ドラゴンさまが銀河系の王になる日は近いものと思います。しかしながら、ただ一つだけ、わしには懸念事項がございます」
「なんだ。オントロジー」
「銀河中央大学の宇宙科学科で教鞭をとっていた、私の研究の片腕だった科学者、ビー・バレーの消息がわかりません。彼奴の科学力や知識は有能でしたが、野望を持たず、理知的なところがありました。うわさで、ドラゴンさまの立ち振る舞いに不満を持っていたとも聞きます。彼奴は、もしかしたら、我らを倒そうとする『レジスタンス』として活動しているかもしれません」
オントロジーのその一言を聞いた時、片膝をついて頭を下げていたタイモンの眉が少しピクっと動いた。タイモンはそれを悟られないように、
「それでは、私は、ロザリーさまの状況を確認してきます」
といってその場を離れた。
タイモンが去った後、オントロジーは、ドラゴン・ヒルにつぶやいた。
「もしもとは思いますが、このダイトラン・コラムの王宮が襲撃にあった時のために、王さまのお部屋の警備装置を多少、改造させてもらいたいと考えております。ご許可をお願いいたします」
「わかった。お前の好きなようにしろ」
「了解いたしました」
許可を受けたオントロジーは、自分の部下たちに命じ、ドラゴン・ヒルの王室の警備装置の改造に取りかかった。
9-2 ダイトラン・レジスタンス軍出動
そのころ、アルティアの傷はほぼ治り、ダイトラン・レジスタンス基地では、いよいよ、レジスタンス軍が、ダイトラン・コラムへの出撃の準備にかかっていた。
改めて、ビー・バレーが、アルティアや古海 亘、その他のレジスタンスたちを集めて、作戦を説明した。
「よいか。我々が所有する武器は、ドリル・ベクターマシン50機のみ。数や規模の上では、ダイトラン軍に対して、圧倒的に劣る。ターゲットを絞り、奇襲攻撃に賭けるしかない。みな、覚悟を決めて取り掛かってくれ」
「それでは、我々の作戦をこれから言う。注力すべき目標は、ダイトラン・コラムの中央に建つ王宮にいると思われるダイトラン王のドラゴン・ヒルの抹殺とロザリーとマリカの救出、および、北東の格納庫にあると思われる彼らの武装勢力の中枢、戦艦キング・テクノスターとニュー・トリノの艦橋の破壊。目標以外のものには目をくれるな。ドラゴン・ヒルの抹殺、ロザリー・マリカの救出とキング・テクノスター、ニュー・トリノの艦橋の破壊のみに注力する。このレジスタンス基地から、ドリル・ベクターマシンで穴を掘りながら、ダイトラン・コラムの真下まで行く。その上、地底から真上に一気に突進し、20機は王宮に、30機は格納庫へ向かう。格納庫に向かう30機の指揮は私がとる。キング・テクノスター、ニュー・トリノの艦橋を集中して攻撃する。そして、王宮に向かう20機のうち10機の指示はアルティアに任す。必ず、お前の父、マッカーシー・メムスの仇、ドラゴン・ヒルを抹殺してくれ。残りの10機の指示は古海 亘に託す。ロザリーとマリカの探索と救出にあたり、救出したら、我々には目もくれず、逃げてくれ。以上だ」
「わかりました」
ビー・バレーのそばにいる全員が答えた。
そして、彼らは、ドリル・ベクターマシンへと向かった。
古海 亘は、ドリル・ベクターマシンに向かう途中で、崇を抱いて立っている美穂のところに近づき、美穂と崇を抱きしめた。
「必ず戻ってくるから。留守を頼む」
「はい。無事を祈ります」
亘の呼びかけに美穂は涙を流しながら答えた。崇は、美穂の腕の中で心地よさそうに眠っていた。
「また、会おう」
そう言うと、亘はドリル・ベクターマシンに向かった。
ビー・バレーは、未練が残ると思ったのか、家族に別れを告げず、一目散にドリル・ベクターマシンに向かった。すでに、アルティアはドリル・ベクターマシンに乗り、出撃準備を完了していた。
通信で、ビー・バレーが号令をかけた。
「それでは、ダイトラン・コラムに向かうぞ。出撃」
美穂と崇、およびビー・バレーの家族と、それを護衛する4~5人のレジスタンス兵を残して、ダイトラン・レジスタンス軍のドリル・ベクターマシンは、レジスタンス基地を出撃した。そして、地底にドリルで穴を掘りながら、ダイトラン・コラムへ向けて進軍していった。
9-3 ダイトラン・コラムでの攻防
ダイトラン・レジスタンス軍が出撃して1日で、彼らは、ダイトラン・コラムの真下に到着した。
「アルティア軍、亘軍、準備はいいか?今は、地上は真夜中のはずだ。ダイトラン軍の警備も手薄になっているはずだ。この機会を狙うしかない。それでは、今から、一気にダイトラン・コラムへ上昇する」
ビー・バレーの号令で、ドリル・ベクターマシンは、地上のダイトラン・コラムへ向かった。
―――――
その頃、ダイトラン・コラムの王宮では、ドラゴン・ヒルが王室で、ロザリーとマリカは王女の部屋で眠っており、タイモンは王女の部屋の前で、部下の執事たちとともに警備を行っていた。また、ダイトラン・コラムの工場の横の研究室では、インベンターとオントロジーが仮眠をとっていた。起きていたのは、王宮の執事たちと、外壁を守る兵だけだった。しかしながら、見回りを行っていたダイトラン兵が、わずかな地下の振動に気づき、工場の横の研究施設で仮眠をとっていたインベンターとオントロジーに進言した。
「レーダーには引っかかっておりませんが、何か、地底から振動のようなものを感じます。もしかしたら、地底から何かが迫ってきているのかもしれません」
それを聞いたオントロジーは、インベンターに命令した。
「確かに、何か、振動らしきものを感じるのう。インベンター、感じぬか?」
「そう言えば、振動らしきものを感じます」
「念のためじゃ。わしは、戦略科学団の者たちに格納庫に集まるように手配する。インベンターよ。王宮のタイモンに連絡して、やつの執事たちに王宮の警備を厳重にするように伝え、お前の衛士団全員を、王宮、捕虜としている地球人のいる倉庫、それから、格納庫に行かせ、キング・テクノスター、ニュー・トリノ、テクノスター・プラス、サイキット・ラーンを稼働させられるように準備をしておけ。わしは、王宮に向かう」
「わかりました」
―――――
地上で、ダイトラン軍が警戒体制を引いている頃、ビー・バレー率いるダイトラン・レジスタンス軍は、ダイトラン・コラムの地上間近に来ていた。
「地上に飛び出すぞ、後は、アルティア、亘の指示に従うように。成功を祈る。」
ビー・バレーがそう言った数秒後、ビー・バレー軍のドリル・ベクターマシンは、ダイトラン・コラムの格納庫の地下から地上に、アルティア、亘軍のドリル・ベクターマシンは、王宮の1階に飛び出した。
格納庫では、キング・テクノスターとニュー・トリノの艦橋に向かう高濃縮YAGレーザーを放つドリル・ベクターマシンを、サイキット・ラーンが取り囲むようにトリチウム・レーザーで、また地上にとまっているテクノスター・プラスのトリチウム・レーザー砲で容赦なく打ち続けた。
格納庫は大混乱に陥ったが、その中で、ビー・バレー軍のレーザーはキング・テクノスターとニュー・トリノの艦橋を破壊していった。しかしながら、インベンターの命令の元、冷静を取り戻したダイトラン軍は、ドリル・ベクターマシンをサイキット・ラーンのレーザーやテクノスター・プラスのレーザー砲でハチの巣のごとく撃った。格納庫のドリル・ベクターマシンは次々に墜落していった。
―――――
王宮の1階に飛び出したアルティア軍と亘軍のドリル・ベクターマシンは、その勢いのままに、王宮の各階の床を高濃縮YAGレーザーで打ち破り、王宮の最上階の王室へと突進した。
「何があったのだ」
ドラゴン・ヒルがそばにいた執事のフライヤに聞いた。
「敵襲です。おそらく、地球に残っていた軍隊か、ダイトランのレジスタンス部隊かと思われます」
ドラゴン・ヒルはベッドを降り、軍服に着替えた。ドラゴン・ヒルの周りを、フライヤを含むタイモンの部下の執事たちが、レーザーを放てるサーベルと盾を持って、守りを固めた。
その時。王室のベッドの横の大広間に、数台のドリル・ベクターマシンが飛び出してきた。
飛び出してきたドリル・ベクターマシンは、王室の中を旋回した。
ちょうどその時、タイモンの制止を振り切り、ロザリーが王室に入って来た。
「いたぞ。ドラゴン・ヒルだ」
ドリル・ベクターマシンに乗っているアルティアが叫んだ。それに対し、他のドリル・ベクターマシンに乗っている古海 亘が叫んだ。
「入口にロザリーもいる。ドラゴン・ヒルを抹殺し、ロザリーを助けよう」
「その声は、アルティアと亘なの?アルティア、生きていたのね?」
王室の入り口から入っていたロザリーが叫んだ。続けてロザリーが話そうとした時に、後ろにいたタイモンが、ロザリーの後ろから手を回し、ロザリーの口を押えて、耳元で囁いた。
「ロザリーさま。落ち着いてください。私は、ドラゴンさまにあなたとアルティアさまが結婚していることを話しておりませんし、あなたとアルティアさまの子供のマリカさまの存在も隠しております」
タイモンがロザリーの声を抑えるのが早かったことと、ドリル・ベクターマシンのレーザーとドラゴン・ヒルを守っているタイモンの部下の執事たちのサーベルからのレーザーとの打ち合いの音が大きかったため、ロザリーの声はかき消され、ドラゴン・ヒルには届いていなかった。
王室は、ドリル・ベクターマシンとドラゴン・ヒルのまわりの執事たちとのレーザーの打ち合いになった。しかしながら、ドリル・ベクターマシンのレーザーのエネルギーのほうが強く、ドラゴン・ヒルを守っている執事たちは、次々に倒されていった。
「もう少しだ。もう少しでドラゴン・ヒルを抹殺できる。父の仇をうてる」
アルティアが叫んだその時だった。
9-4 決着・捕獲
王室の天井が開いた。そこには、多くの王室保護専用のサイキット・ラーンが飛んでいた。
「念のため、サイキット・ラーンを増設し、また、王室の天井を開くようにしておいてよかったわい。キェヒェヒェヒェ」
サイキット・ラーンの一台にオントロジーが乗っていた。サイキット・ラーンのAIコンピュータは、ドリル・ベクターマシンを敵と機械学習で画像認識し、ドリル・ベクターマシンに総攻撃を仕掛けて来た。
ドラゴン・ヒルの周りの執事たちとの打ち合いに没頭していたドリル・ベクターマシンは、王室の上空のサイキット・ラーンの総攻撃を受け、すべて、破壊された。20機のドリル・ベクターマシンのうち、古海 亘の乗るものを含め、10機のドリル・ベクターマシンは爆発し、操縦していた古海 亘たち10名は投げ出された。古海 亘は投げ出された反動で王室の壁に体を強く打ち付け、気絶した。
アルティアの乗る物も含めたドリル・ベクターマシンは、操縦席ごと、サイキット・ラーンのトリチウム・レーザーで破壊され、アルティアも含めた10名は死んだ。アルティアは、胸をレーザーで撃ち抜かれた。アルティアが死ぬ間際に見たのは、王室の入り口で、タイモンに後ろから押さえられているロザリーだった。
「ロザリー、ロザリー・・・」
アルティアは、涙を流しながら、息を引き取った。その直後、アルティアの乗るドリル・ベクターマシンは爆発し、アルティアは跡形もなく消えていった。
タイモンに口を押さえられているロザリーは、涙を流しながら、心の中で、
「アルティア。アルティア―・・・。あぁ。あぁーーーー」
と叫んでいた。ロザリーの後ろでアルティアが亡くなるのを目の当たりにしたタイモンは、顔をゆがめた。
―――――
格納庫のダイトラン・レジスタンス、ビー・バレー軍は、戦艦キング・テクノスターとニュー・トリノの艦橋に、飛び立てなくなるくらいのかなりのダメージを与えたが、それ以上のことはできず、格納庫の中の激闘に敗れ、また、アルティアと亘軍は、ドラゴン・ヒルの抹殺とロザリー、マリカの救出に失敗した。50機あったドリル・ベクターマシンはすべて破壊され、アルティアを含む半数が死んだ。ビー・バレー、古海 亘を含む残りの半数は、ダイトラン兵に捕えられた。
捕虜となった者たちは、王宮の下のコロッセウム広場に集められ、その前には、ドラゴン・ヒル、インベンター、オントロジーが立っていた。タイモンは、ドラゴン・ヒルの後ろに跪いていた。捕虜は、手に袋をかぶされたまま手錠をつけられ、足には重りのついた足輪をつけられて座っていた。
オントロジーは、捕虜の最前列に座っているビー・バレーを見つけ、顔を近づけて声をかけた。
「ビー・バレー。久しぶりじゃのう。元気そうでなによりじゃ。こうした形で再会したくはなかったがなぁ。キェヒェヒェヒェ」
ビー・バレーは、何も言わず、オントロジーの顔に唾を吐きかけた。
「わしの第一の弟子が、これくらいしか抵抗できぬとはのう。まあ、良いわ。キェヒェヒェヒェ」
すると、インベンターがドラゴン・ヒルに聞いた。
「この者たちの処分はいかがいたしましょうか?」
「キング・テクノスターとニュー・トリノの艦橋の修理はどれくらいかかるのか?」
それに対しては、オントロジーがインベンターの代わりに答えた。
「精密機器が多い部分を破壊されましたので、時間がかかります。2か月程度だと思われます」
「わかった。我に良い考えがある。破壊された王宮、格納庫、およびキング・テクノスターとニュー・トリノの修理が終わり次第、こ奴らは、このコロッセウムの広場で十字架に張り付け、銃殺による公開処刑を行う。見せしめのために、捕虜にしている地球人どもに見学させる。惑星アディナやサミュエルにも画像通信で公開処刑状況を見せるのだ。我ら、ダイトラン軍に逆らえばこうなるのだとなぁ。公開処刑が終われば、ウエスタン・リーチ星系の制圧に向かう。
オントロジーよ。戦艦キング・テクノスター、およびニュー・トリノの修理を急げ。インベンターよ。ウエスタン・リーチ星系征服の作戦を練って、我に伝えよ。タイモンよ。こ奴らの公開処刑の準備をお前に任せる。盛大な公開処刑になるように準備をせよ。以上だ」
ドラゴン・ヒルの命令に、オントロジー、インベンター、タイモンは、
「御意」
と答えた。
さらに、オントロジーは、
「公開処刑とはおもしろい。さぞや愉快なセレモニーになろう。キェヒェヒェヒェ」
と言った。ドラゴン・ヒル、オントロジー、タイモンはその場を去り、インベンターは、部下に命令して、今回確保したダイトラン・レジスタンスの捕虜たちを、地球人の捕虜がいる倉庫へと連れて行った。
第10章 喝采と崩壊
10-1 ダイトラン・レジスタンスの処刑準備
ダイトラン・レジスタンスの反乱から2か月余り。地球歴2452年春に、王宮、格納庫、および戦艦キング・テクノスターとニュー・トリノの修理はほぼ終了し、また、タイモンの指揮のもと、ダイトラン・レジスタンスの処刑の準備は整いつつあった。
オントロジー、インベンターとタイモンは、王宮の最上階の王室の広場に呼ばれた。
「みな、修理や、公開処刑の準備はできておるか?」
「キェヒェヒェヒェ。キング・テクノスターとニュー・トリノの艦橋は終了しました。今、すぐにでも、ウエスタン・リーチ星系の征服に出発できますわい」
「王宮と格納庫は、私の部下の衛士団の兵を使い、修理しました。元に戻っております」
タイモンは、オントロジー、インベンターの後に、表情を変えずに話した。
「公開処刑の準備も、私の部下の執事たちを中心にできております。なお、公開処刑を、ウエスタン・リーチ星系征服の足掛かりのセレモニーとするため、処刑前に、上空でサイキット・ラーンの航空ショーをお見せできるよう、サイキット・ラーンのAIコンピュータのプログラミングの改造を行いました。ドラゴン・ヒルさまにも、きっと、お喜びいただけるものと思います」
「そうか、それは楽しみだ。我の力をより鼓舞するにはふさわしい。それでは、公開処刑の決行は、地球歴の2452年4月1日の12時から行おう。我は祝いのワインと食事をコロッセウムが見下ろせる王室で行いたいと考えておる。タイモンよ、ワインと食事の準備を頼む。それから、我の後を継ぐ、娘のロザリーも同席させるように。華々しいセレモニーをロザリーにも見せたいからのう」
「御意」
タイモンは、答えた。
準備は進み、時は地球歴2452年4月1日になった。コロッセウムの広場には、レジスタンスの捕虜を張り付けるための十字架が用意された。昼前に、インベンターの兵士により、ビー・バレーや古海 亘などのダイトラン・レジスタンスの面々が広場の中央に、捕虜としてとらえられていた地球人たちが、コロッセウムを囲む座席に連れてこられた。タイモンの部下の執事たちにより、ダイトラン・レジスタンスの面々は、十字架に手足と腰を鎖で固定され、張り付けになった。王宮の王室には、ドラゴン・ヒルやロザリー用の食卓が用意された。公開処刑のセレモニーの準備は整った。
10-2 ダイトラン・レジスタンスの公開処刑 喝采と崩壊(ダイトラン・コラム事変)
12時になった。王室の食卓には、先にロザリーが座っており、その後、対面にドラゴン・ヒルが座った。タイモンはロザリーの後ろに立った。ロザリーの娘、マリカは、秘密裏に、ロザリーの王女の部屋で眠らされていた。王女の部屋の外は、フライヤを含む、タイモンの部下の執事たちが警備にあたっていた。
ロザリーの後ろに立っているタイモンは、手に持つスイッチを押した。すると、格納庫からコロッセウムの上空にサイキット・ラーンの部隊が飛行してきて、プログラミングされた通り、航空ショーがはじまった。
「おう、すばらしい。我の銀河系征服の門出にふさわしい」
王室の食卓の前には、バルコニーがあり、コロッセウムが一望できるようバルコニーに通じる扉は解放されていた。ドラゴン・ヒルは、バルコニーのそばの食卓に座り、サイキット・ラーンの航空ショーとコロッセウムの広場に張り付けられている、ダイトラン・レジスタンスたちを見ながら、誇らしげな表情を浮かべていた。
すると、対面に座っていた、無表情なロザリーが、ドラゴン・ヒルのワイングラスを手に取り、用意していたボトルから、紫色のワインを注いだ。実は、ロザリーは、セレモニーが始まる前に食卓に行き、ドラゴン・ヒルやタイモンが来る前に、ドラゴン・ヒルが飲むワインのボトルの中に、透明な液体の溶液を注いでいた。その透明な液体は、ロザリーが、タイモンから保護される時に、ロザリー邸であらかじめ用意しておいた猛毒だった。猛毒の作り方を、ロザリーは地球の銀河中央大学の宇宙科学科の授業で習っていたのだ。ロザリーは気を見計らって、ドラゴン・ヒルを毒殺しようとしていたのだ。
そして、毒入りのワイングラスを、ドラゴン・ヒルに手渡した。
「おめでとうございます。記念のワインですね」
「おお、ありがとう。しかし、ロザリーよ。何か、浮かばぬ顔だなぁ。どうした。もっと喜べ」
「はい。とても盛大な式典ですので、驚いておりました。改めて、おめでとうございます」
ロザリーは、作り笑いを浮かべて、答えた。
ドラゴン・ヒルは、バルコニーに出て、コロッセウムに向かって高らかに話した。
「今日と言う日を迎えられ、我はうれしい。今日から、銀河系征服が始まるのだ。その前に、我に逆らうレジスタンスどもを処刑する。まずはその前に乾杯しよう」
ドラゴン・ヒルは、ワインを飲もうとした。その時、何かを感じたのか?ドラゴン・ヒルはタイモンに命じた。
「念のためだ。いつものように、このワインと、食卓のものを、お前の『毒物・危険物反応装置』で調べろ」
「御意」
とタイモンが答えた時、ロザリーが言った。
「私をお疑いですの。大丈夫ですわ」
そういうと、ロザリーは、ドラゴン・ヒルに注いだボトルから自分のワイングラスにワインを注ぎ、飲み干した。
「ほら、大丈夫ですわ」
毒薬で苦しいながらも、一生懸命、作り笑いをつくるロザリーを見ても、
「念のためだ」
と言って、ドラゴン・ヒルは、タイモンにワインや食卓のものを調べさせた。タイモンの「毒物・危険物反応装置」は無反応、毒薬がないと判別した。タイモンは、装置を改造し、毒薬を検知しても反応しないようにしていたのだ。
「私も毒見をしてみましょう」
タイモンは、横にあるワイングラスに、ドラゴン・ヒルに注いだボトルからワインを注ぎ、飲んだ。
「大丈夫でございます」
ロザリーは、苦しさをこらえながらつぶやいた。
「タ、タイモン・・・」
それを見たドラゴン・ヒルは、高らかにワイングラスを掲げた後、
「乾杯」
と言って、ワインを飲み干した。
「ワッハッハ・・・・。ウッ、ウウッ」
ドラゴン・ヒルは口から血を吐き出した。
それを見届けるかのように、苦しさを我慢していたロザリーとタイモンも、口から血を吐いた。ロザリーとタイモンはしゃがみこんだ。
血を吐きながら、ドラゴン・ヒルは言った。
「お前たち、我を騙したのか?」
「私の夫、惑星アディナのマッカーシーの息子、アルティアの仇討ちよ」
口から血を流しながら倒れ、涙を流しながら、ロザリーは答えた。
「私は、アルティアさまが殺害された時にわかったのです。私はあなたさまの執事ではありません。私はロザリーさまの執事。私も、ダイトラン・レジスタンスだということを」
そうタイモンは言いながら、最後の力を振り絞って、手に持っていたスイッチをもう一度押した。すると、飛行していたサイキット・ラーン部隊の大部分は、格納庫へ向かい、格納庫にあるダイトラン軍の、戦艦キング・テクノスター、ニュー・トリノ、テクノスター・プラスを攻撃しに行った。また、サイキット・ラーンの1機は、バルコニーで悶絶しているドラゴン・ヒルに標準を合わせて、レーザーを放った。
悶絶していたドラゴン・ヒルは、サイキット・ラーンのレーザーで、跡形もなく溶けて、死んでいった。
それと同時に、張り付けになっていたダイトラン・レジスタンスや、それを見学させられていた捕虜の地球人たちに取り付けられていた手錠や足かせが外れた。これらすべては、タイモンの仕掛けだった。
ダイトラン軍の兵士が持っていたサーベルや銃を、数に勝るダイトラン・レジスタンスと地球人たちが強奪した。コロッセウムは大混乱に陥った。
王室の入り口の前にいたインベンターは、わずかなダイトラン兵を従え、横にいたオントロジーを守るように、逃げまどった。
ビー・バレーと古海 亘はいっしょに、強奪したダイトラン軍のサーベルと銃を持ち、ダイトラン軍と戦った。ビー・バレーが古海 亘に言った。
「私にダイトラン軍の状況や、ダイトラン・コラムの設計図などの情報を秘密裏に提供してくれたのは、ドラゴン・ヒルとロザリーの執事のタイモンだったのだよ」
「そうだったのですか?さきほど、王宮の最上階、王室をサイキット・ラーンが攻撃しているのが見えた。王室に向かってみよう」
ビー・バレーと古海 亘はダイトラン兵を倒しながら、炎が立ち込める王宮の最上階の王室に向かった。
王室では、食卓の横で、ロザリーとタイモンが倒れていた。ビー・バレーがタイモンのところへ、古海 亘がロザリーのところへ行った。
ビー・バレーがタイモンを抱き起すと、タイモンは、表情を崩し、涙を流しながら、虫の息で言った。
「このような事態になるまで何もできず、申し訳ありません。ビー・バレーさま、後はよろしくお願いします」
そう言って、タイモンは死んだ。
同時に、ロザリーを古海 亘が抱きかかえた。ロザリーは最後の力を振り絞って、古海 亘に言った。
「この階の一番奥、私の王女の部屋に私とアルティアの娘、マリカがいるの。マリカを助けて・・・」
「わかった」
それを聞くと、安心したような顔を浮かべ、ロザリーは、古海 亘の腕の中で息を引き取った。
10-3 愛の「結晶」
ロザリーと約束した古海 亘は、ビー・バレーに声をかけた。
「マリカを救出しよう」
ビー・バレーと古海 亘は、マリカのいる、ロザリーの王女の部屋に向かった。
ベッドの周りを炎に包まれていた王女の部屋では、マリカが目を覚まし、泣き叫んでいた。
「オギャー。オギャー・・・」
第1部完