第88話 「会長、苺ミルクをもらって宝物扱いする」
黒瀬くんが、苺ミルクをくれた。
「前に苺クリームのクレープを選んでいたので、好きかと思って」
その言葉を聞いた時、ミレイの胸はふわっと温かくなった。
覚えていてくれた。
買い出しの時、自分が選んだクレープ。
ほんの小さなことなのに、黒瀬くんは覚えていた。
それが嬉しかった。
とても。
ミレイは苺ミルクを両手で持つ。
「ありがとう。とても嬉しいわ」
黒瀬くんは赤くなって視線を逸らした。
その反応も、やっぱり嬉しい。
リコが横から言う。
「会長、飲まないんですか?」
「飲むわ」
「ずっと眺めてますけど」
ミレイは苺ミルクを見る。
たしかに、まだ開けていない。
「少し、もったいなくて」
リコは笑った。
「苺ミルクを宝物みたいに扱う人、初めて見ました」
「黒瀬くんがくれたものだから」
言ってから、ミレイは固まる。
リコがにやりと笑う。
「はい、本音出ました」
ミレイは顔を赤くする。
「違うの。感謝の意味で」
「感謝で飲料を宝物扱いするんですね」
ミレイは返せない。
結局、苺ミルクは生徒会室で飲んだ。
甘くて、少し冷たくて、いつもよりおいしく感じた。
黒瀬くんがくれたから、だと思う。
その日の帰り、購買部の田島さんに声をかけられる。
「会長、苺ミルクどうだった?」
ミレイは驚く。
「田島さん、知っていたんですか?」
「もちろん。黒瀬くん、すごく真剣な顔で買ってたよ」
ミレイは想像してしまう。
購買で苺ミルクを選ぶ黒瀬くん。
自分に渡すかどうか悩む黒瀬くん。
胸がぎゅっとなる。
田島さんはにこにこして言う。
「大事にされてるねえ」
ミレイは言葉に詰まる。
大事にされている。
そう感じてしまっていいのだろうか。
でも、嬉しかった。
◆オチ
その日の生徒会日誌。
黒瀬くんから苺ミルクをもらった。クレープの好みを覚えていてくれたらしい。
追記。
とても嬉しかった。
さらに追記。
空き容器は捨てた。えらい。
リコが読んで言う。
「会長、捨てるか迷ったんですね」
ミレイは小声で答える。
「少しだけ」




