第86話 「会長、黒瀬先生の説明にときめく」
期末テスト対策で、黒瀬くんに数学を教えてもらうことになった。
最初は少し意外だった。
もちろん、黒瀬くんが勉強できることは知っている。
けれど、自分が教わる側になるのは新鮮だった。
黒瀬くんは数列の問題を見て、すぐに目の色を変えた。
「ここはまず、規則性を見ます。数列は、イベントの伏線回収に似ています」
ミレイは思わず聞き返す。
「伏線回収?」
黒瀬くんは真剣に説明する。
初項。
公差。
規則性。
一般項。
本来なら少し硬い内容のはずなのに、彼の説明は物語のようだった。
「初項が第一話、公差が毎話の変化です」
ミレイは驚く。
本当にわかりやすい。
黒瀬くんの世界では、数学も物語になるのだ。
それが、とても彼らしいと思った。
「わかりやすいわ」
そう言うと、黒瀬くんは少しだけ嬉しそうな顔をした。
その顔を見て、ミレイの胸が温かくなる。
黒瀬くんは好きなこと、得意なことを話す時、表情が明るくなる。
そして、その明るさは周囲まで少し楽しくする。
ミレイは思う。
(私は、こういう黒瀬くんが好きなのかもしれない)
好き。
心の中でその言葉が出た瞬間、ミレイは手を止めた。
黒瀬くんが心配そうに覗き込む。
「ミレイ先輩、大丈夫ですか?」
名前で呼ばれた。
さらに顔が近い。
ミレイは動揺する。
「え、ええ。大丈夫よ」
「数列、わかりにくかったですか」
「違うの。とてもわかりやすいわ」
黒瀬くんはほっとする。
ミレイは問題を解き、正解する。
「できたわ」
「正解です」
黒瀬くんの声が嬉しそうだった。
ミレイも嬉しくなる。
「ありがとう、黒瀬くん。頼りになるわ」
黒瀬くんが固まる。
リコが横から言う。
「会長、体育祭以降その言葉は黒瀬くんに特効ですよ」
「特効?」
「一番頼りにしている人事件を思い出すので」
ミレイも思い出して赤くなる。
黒瀬くんも赤い。
生徒会室に、また妙な沈黙が生まれる。
けれど嫌な沈黙ではなかった。
◆オチ
その日の生徒会日誌。
黒瀬くんに数学を教わった。説明が物語のようでわかりやすかった。
追記。
黒瀬先生は頼りになる。
リコが読んで言う。
「会長、黒瀬先生って書いてますよ」
ミレイは慌てる。
「比喩よ」
リコは笑う。
「恋愛的にはだいぶ実習中ですけどね」




