第78話 「会長、買い出しをデートと言われかけて固まる」
生徒会の買い出しで、黒瀬くんと駅前へ行くことになった。
ミレイは最初、あくまで業務だと思っていた。
封筒を買う。
付箋を買う。
マーカーを買う。
備品を補充する。
それだけ。
けれど、学校の外で黒瀬くんと並んで歩いた瞬間、心がそわそわし始めた。
(これは買い出し。買い出しよ)
文房具店での黒瀬くんは頼もしかった。
付箋の色分け。
書類の分類。
保管方法。
どれも具体的で、意外と実用的だった。
「黒瀬くん、整理が得意ね」
そう言うと、彼は少し照れながら、
「推しグッズ管理で鍛えました」
と答えた。
ミレイは思う。
(黒瀬くんの好きなものは、彼の力になっているのね)
買い物の後、クレープ屋が目に入った。
少し食べたい。
でも買い出し中だし、寄り道になる。
そう思っていたら、黒瀬くんが気づいてくれた。
「少し休憩しませんか。備品調達クエストの途中回復です」
その言葉が嬉しかった。
自分が言う前に、気づいてくれた。
気を遣わせない言い方で誘ってくれた。
ミレイは苺クリームのクレープを買った。
ベンチに座り、黒瀬くんと並んで食べる。
夕方の駅前は少し賑やかで、学校とは違う空気がある。
黒瀬くんはクレープのクリームを少し頬につけていた。
ミレイは思わず笑う。
「黒瀬くん、ついているわ」
「えっ、どこですか」
ミレイはハンカチを出しかける。
でも、そこで止まる。
(これは……頬を拭くイベントでは?)
黒瀬くんも気づいて、自分で慌てて拭く。
二人とも赤くなる。
リコがいなくても、リコのツッコミが聞こえる気がした。
帰り道、黒瀬くんが言った。
「デート……ではなく、調達任務として有意義でした」
デート。
その単語だけが、ミレイの中で大きく響いた。
彼はすぐに否定した。
でも、言いかけた。
黒瀬くんの中でも、これは少しデートに近かったのだろうか。
そう思うと、胸が熱くなる。
「そうね。調達任務として、とても有意義だったわ」
言いながら、ミレイは思う。
(でも、少しだけデートみたいだった)
◆オチ
その日の生徒会日誌。
黒瀬くんと備品買い出し。封筒、付箋、マーカー購入。
追記。
途中でクレープを食べた。
さらに追記。
デートではない。たぶん。
翌日、リコが読んで言う。
「会長、『たぶん』って書いた時点で負けです」




