第70話 「会長、借り物競走で借りられる」
体育祭本番。
ミレイは運営席で進行を確認していた。
次は借り物競走。
黒瀬くんが出る種目だ。
ミレイは平静を装っていたが、内心ではずっと落ち着かなかった。
(お題は何かしら。黒瀬くんは無理なく走れるかしら。足は大丈夫かしら)
号砲が鳴る。
黒瀬くんが走り出す。
足取りは少しぎこちないが、ちゃんと走れている。
ミレイはほっとする。
彼がお題の紙を開く。
そして、動きが止まる。
(難しいお題なのかしら)
次の瞬間、黒瀬くんはこちらへ走ってきた。
ミレイの心臓が跳ねる。
周囲がざわつく。
黒瀬くんは運営席の前で止まり、息を切らしながら言った。
「白鳥先輩、来てください」
「私?」
彼はお題の紙を見せた。
あなたが一番頼りにしている人
ミレイは息を呑んだ。
一番。
頼りにしている人。
黒瀬くんが、自分を。
胸の奥が熱くなる。
彼は真っ赤な顔で言った。
「僕が一番頼りにしているのは、白鳥先輩です」
その瞬間、周囲の音が遠くなった。
嬉しかった。
とても。
生徒会長として頼られるのとは違う。
黒瀬くん個人から向けられた言葉のように感じた。
ミレイは手を差し出す。
「わかったわ」
黒瀬くんがその手を取る。
手が触れた瞬間、心臓が大きく鳴った。
二人でゴールへ走る。
ミレイは運営側なのに、競技に参加している。
少しおかしい。
でも、今はそれどころではなかった。
黒瀬くんが、自分を選んでくれた。
その事実だけで、胸がいっぱいだった。
ゴールした後、歓声が上がる。
リコが駆け寄ってくる。
「会長、借り物にされましたね」
ミレイは息を整えながら言う。
「人は借り物ではないわ」
「そこですか?」
黒瀬くんは慌てて言う。
「すみません、白鳥先輩を借り物扱いしたわけではなく」
ミレイは首を振る。
「わかっているわ。頼りにしてくれて、嬉しかった」
黒瀬くんが固まる。
その反応が、いつもの黒瀬くんで、ミレイは思わず笑った。
◆オチ
その日の生徒会日誌。
体育祭借り物競走。黒瀬くんに『一番頼りにしている人』として選ばれた。
ミレイはしばらく考えて、追記する。
とても嬉しかった。
さらに小さく追記。
手をつないで走った。
翌日、リコが読んで言う。
「会長、これもう日誌じゃなくて恋愛事件簿です」
ミレイは赤くなりながら言う。
「事件ではないわ」
リコは笑う。
「じゃあ、進展ですね」




