第38話 「会長、後夜祭で勇気を出す」
後夜祭。
校庭には柔らかな明かりが灯り、文化祭の喧騒が少しずつ遠ざかっていく。
ミレイは運営確認をしながら、ずっと黒瀬くんの姿を探していた。
(生徒会長として、参加状況を確認しているだけ)
そう自分に言い聞かせる。
でも本当は違う。
黒瀬くんが誰かに誘われていないか気になっていた。
リコが横から言う。
「会長、黒瀬くんはあっちです」
ミレイはびくっとする。
「私は別に探していたわけでは」
「はいはい。廊下の混雑確認の次は、校庭の人員配置確認ですね」
黒瀬くんは校庭の端にいた。
音楽を聴きながら、踊る生徒たちを見ている。
少し寂しそうにも見えた。
ミレイは胸がきゅっとなる。
(誘いたい)
そう思った。
けれど、怖かった。
断られたらどうしよう。
迷惑だったらどうしよう。
生徒会長としてではなく、自分個人として誘うことになる。
それは、とても勇気がいることだった。
でも文化祭は、もうすぐ終わる。
このまま何も言わなければ、きっと後悔する。
ミレイは歩き出す。
「黒瀬くん」
彼が振り向く。
「生徒会長」
ミレイは深呼吸する。
「私も、少しだけ休憩時間なの」
本当は、もっと素直に言いたかった。
一緒に踊りたい、と。
けれど言葉は少し遠回りになる。
「よかったら、一曲だけ……一緒に踊ってくれる?」
黒瀬くんは驚いた顔をした。
それから、真っ赤になった。
「未実装ですが、アップデートしてみます」
その返事が黒瀬くんらしくて、ミレイは思わず笑う。
二人で輪に入る。
ダンスはぎこちない。
黒瀬くんはタイミングを間違え、自分の足を踏んでいる。
ミレイも決して上手ではない。
でも楽しい。
黒瀬くんが小さく言う。
「すみません。僕、こういう青春イベントが苦手で」
ミレイは首を振る。
「私も、得意ではないわ」
「生徒会長なのに?」
「生徒会長でも、緊張するものは緊張するの」
黒瀬くんは少し驚いた後、柔らかく笑う。
「少し安心しました」
ミレイも笑う。
「私も」
音楽が終わる。
手が離れる瞬間、ほんの少しだけ寂しいと思った。
◆オチ
リコが後ろから近づいてきて言う。
「会長、後夜祭伝説、知ってます?」
ミレイは赤くなる。
「知らないわ」
黒瀬くんも赤くなる。
リコはにやりと笑う。
「最後に踊った相手とは仲良くなれるらしいですよ」
アキラは真剣に言う。
「仲良く……現在も十分良好な関係値では?」
ミレイは小さく笑う。
「もっと、仲良くなれるかもしれないわね」
アキラは完全停止した。




