第2話 「気になる新入生発見!」
白鳥ミレイは、入学式の壇上から新入生たちを見渡していた。
毎年、入学式は緊張した顔の生徒が多い。
初々しくて、少し眩しい。
ミレイは生徒会長として、彼らが安心できるように完璧な挨拶をしようと心に決めていた。
そして実際、挨拶はほぼ完璧だった。
ただし最後にマイクを切り忘れた。
「……今の挨拶、噛まなかったわよね?」
体育館中に自分の小声が響いた瞬間、ミレイは心の中で崩れ落ちた。
(終わったわ。私の生徒会長としての威厳が、マイク一本で卒業したわ)
だが、その時。
新入生の列の中で、ひとりだけ妙に真剣な顔で頷いている男子がいた。
眼鏡。
ボサボサの髪。
前髪で目元はよく見えない。
なのに、なぜか全力で何かに納得している。
(あの子、何に納得したのかしら)
それが、黒瀬アキラとの最初の出会いだった。
放課後、生徒会室に戻ったミレイは、副会長の早坂リコに入学式の失敗を相談する。
「リコ、私、マイクを切り忘れたわ」
「知ってます。全校生徒が知ってます」
「やっぱり?」
「はい。先生方も知ってます」
ミレイは机に手をついた。
「生徒会長として、責任を取るべきかしら」
「マイク切り忘れで辞任しないでください」
その時、ドアの外に人の気配がする。
ミレイがドアを開けると、そこにいたのは、入学式で気になった眼鏡の男子だった。
「あなた、新入生?」
「はい。黒瀬アキラ、レベル1です」
ミレイは一瞬、反応に困る。
(レベル1……? 成績のこと? それとも体力測定の区分?)
だが、本人はいたって真剣だ。
ふざけているようには見えない。
ミレイは思う。
(不思議な子。でも、悪い子ではなさそう)
新入生歓迎会の準備を手伝ってもらうことになり、ミレイは黒瀬アキラを観察する。
彼は変わっている。
プリントを運ぶだけなのに、
「これは配布物運搬クエストですね」
と言う。
リコが小声で、
「会長、変なのを拾いましたね」
と言う。
ミレイは小声で返す。
「拾ったのではなく、来てくれたのよ」
「そこですか?」
アキラは作業自体は丁寧だった。
プリントの向きを揃える。
段ボールを黙って運ぶ。
落ちた紙を拾って、端をきれいに整える。
話し方は不思議なのに、行動はとても誠実だった。
ミレイはそこに少し惹かれる。
重い段ボールを持とうとした時、自分がふらついてしまい、アキラが支えてくれた。
「大丈夫ですか、生徒会長」
その声は、思ったよりも優しかった。
ミレイは少し驚く。
前髪と眼鏡で顔はよく見えない。
でも、近くで見ると、目元の奥にまっすぐな光があるような気がした。
「ありがとう。黒瀬くん、意外と力があるのね」
「イベントアイテム運搬クエストは得意です」
ミレイはしばらく考える。
(イベントアイテム……段ボールは備品扱いではなく、イベント扱いなのかしら)
わからない。
でも、面白い。
「黒瀬くんは、少し不思議な話し方をするのね」
彼は一瞬、しまったという顔をした。
まるで叱られた子犬みたいだった。
ミレイは慌てて笑う。
「でも、面白いわ」
すると彼は、なぜか耳まで赤くなった。
その反応がまた不思議で、ミレイの胸が少しだけ温かくなる。
その日の帰り、リコが言う。
「会長、黒瀬くんのこと気に入ったんですか?」
ミレイは即答する。
「生徒会に協力的な新入生として、気になっているだけよ」
リコはじっと見てくる。
「本当に?」
「ええ。生徒会長として」
「じゃあ、なんでさっきから黒瀬くんが揃えたプリント見て微笑んでるんですか」
ミレイは手元を見る。
確かに、プリントを見ていた。
「これは……紙が綺麗に揃っているから」
「紙にときめく人、初めて見ました」
ミレイは首を傾げる。
(ときめく? 私は別に、ときめいてなんて……)
しかし、その夜。
ミレイは生徒会日誌にこう書いてしまう。
本日、新入生の黒瀬アキラくんが手伝いに来てくれた。話し方は不思議。でも、とても丁寧。面白い。
書いた後で、少し悩む。
(面白いって、失礼だったかしら)
そして一行付け足す。
あと、たぶん優しい。
◆オチ
翌日、リコに日誌を見られる。
「会長、これもう観察日記ですよ」
ミレイは真面目に答える。
「そうね。生徒会活動記録として、黒瀬くんの生態を正確に残さないと」
「生態って言いました?」




