第105話 「プール事件の翌日、噂が水より早く広がる」
プール清掃の翌日。
アキラは家で静かに過ごす予定だった。
積みゲー。
録画アニメ。
麦茶。
冷房。
完璧な夏休み防衛布陣である。
しかし朝、スマホにトオルからメッセージが来た。
お前、会長をプールで抱きしめたって本当?
アキラは麦茶を吹きそうになった。
(情報伝達速度が早すぎる。水泳部ネットワーク、光回線か?)
すぐに返信する。
抱きしめたのではなく、落下防止のための緊急回避行動。
トオルから即返信。
説明が長い時点で本当なんだな。
アキラはスマホを伏せた。
さらにユナからも来た。
黒瀬くん、会長助けたんだって? かっこいいじゃん。
アキラは頭を抱える。
(夏休みなのに校内噂イベントが継続している)
しばらくして、ミレイからメッセージが来た。
昨日は本当にありがとう。怪我もなくて大丈夫です。黒瀬くんは大丈夫?
アキラはその文面を見て、少し落ち着いた。
ミレイが無事でよかった。
それが一番大きい。
返信する。
僕は大丈夫です。ミレイ先輩が無事で本当によかったです。
送ってから、胸が熱くなる。
かなり素直に書いてしまった。
返事はすぐ来た。
黒瀬くんが助けてくれたからよ。ありがとう。
アキラは床に座り込んだ。
(これは……感謝メッセージという名の追撃)
昼頃、トオルが電話してくる。
「で、実際どうだったんだよ」
「何が」
「会長を後ろから支えたんだろ?」
アキラは黙る。
思い出してしまう。
腕の中の軽さ。
ミレイの髪の匂い。
真っ赤になった顔。
アキラは額を押さえる。
「記憶の再生が危険なので詳細は伏せる」
トオルは爆笑した。
「お前、それ完全に意識してるじゃん」
「救助行動だ」
「救助行動でそこまで顔赤くなるか?」
「顔は見えないだろ」
「声が赤い」
アキラは電話を切りたくなった。
その日の夜、アキラはノートに書く。
プール事件。ミレイ先輩を助けた。無事でよかった。
少し迷って追記する。
抱き止めた感触が忘れられない。
書いた瞬間、全力でページを閉じた。
(これは記録してはいけない種類のログだった)
◆オチ
姉のマドカが部屋に入ってくる。
「何か隠した?」
「何も」
「会長のこと?」
アキラは固まる。
マドカはにやりと笑った。
「図星の時、あんた本当に処理落ちするよね」
アキラは真顔で言った。
「姉さんの洞察力、家族内ボスとして強すぎる」




