第107話 「夏休み三回目の生徒会活動日、花火大会を意識する」
夏休み三回目の生徒会活動日。
アキラは朝から落ち着かなかった。
理由は二つある。
一つは、プール事件以降、ミレイと会うのが妙に緊張すること。
もう一つは、その三日後に町の花火大会があること。
アキラは知っていた。
駅前の掲示板に貼られていたポスター。
商店街の夏祭り。
夜店。
花火。
浴衣。
学園ラブコメにおける夏の大型イベント。
(花火大会。それは夏休み恋愛イベントの王道中の王道。誘う難易度は高い。成功した場合、破壊力も高い)
アキラはミレイを誘おうと決めていた。
正確には、決めたつもりだった。
生徒会室へ向かう廊下で、何度も練習する。
「ミレイ先輩、花火大会に行きませんか」
直球すぎる。
「三日後の花火大会、予定ありますか」
無難だが、意図が見えすぎる。
「夏季夜間イベントに同行しませんか」
怪しすぎる。
「花火クエスト、一緒に受注しませんか」
自分らしいが、逃げている。
生徒会室に入ると、ミレイがいた。
「おはよう、黒瀬くん」
「お、おはようございます、ミレイ先輩」
目が合う。
二人とも一瞬だけ、プール事件を思い出したように赤くなる。
リコがすでに席にいて、にやにやしていた。
「二人とも、まだプールの水が抜けてませんね」
アキラは真顔で言う。
「プールの水は抜けました」
「そういう意味じゃないです」
今日の作業は、二学期の生徒会掲示物の準備だった。
紙を切り、掲示案を考え、行事予定をまとめる。
作業自体は平和だ。
しかし、アキラの心は平和ではない。
(花火大会。いつ切り出す。今か。いや、リコ先輩がいる。二人きりの方がいいのか。しかし二人きりになったら緊張で言えない可能性が高い)
ミレイが言う。
「黒瀬くん、この紙を取ってもらえる?」
「はい、ミレイ先輩」
指が触れそうになる。
アキラは少しびくっとする。
ミレイも少し赤くなる。
リコが小声で言う。
「プール事件、効いてますねえ」
アキラは作業に集中しようとする。
だが、掲示物の中に夏祭り関連のお知らせが混ざっていた。
そこに書かれていた。
三日後、駅前商店街花火大会開催。
ミレイがそれを見て言う。
「そういえば、もうすぐ花火大会なのね」
アキラの心臓が跳ねる。
(来た。向こうから話題が来た。今がチャンス)
口を開こうとする。
「ミレイ先輩、その……」
その瞬間、リコが言った。
「あ、会長。その日って予定ありましたよね?」
アキラの心臓が一瞬止まった。
ミレイは考える。
「ええと……そうだったかしら?」
リコは手帳を見る。
「たしか親戚の集まりが入るかもって言ってませんでした?」
ミレイは「あ」と小さく声を上げた。
アキラは内心で膝をついた。
(誘う前にイベント失敗判定!?)
◆オチ
帰り道、アキラは一人で呟いた。
「花火大会クエスト、受注前に参加条件未確認で詰んだ可能性」
そこへ偶然トオルからメッセージ。
会長、誘えた?
アキラは返した。
ボス部屋の扉の前でイベントキャンセルが発生した。
トオルから即返信。
日本語で言え。




