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火事は燭台が倒れたことによる失火として処理された。警察から事情聴取を受けたが、事件性はないものとして扱われた。
光司と幸恵からは、後日たちばな葬祭株式会社へ手紙が届いた。
火災があった夜、二人の夢に玲が現れたという。微笑みながら「無事でよかった」とメッセージを残し、消えてしまったそうだ。
手紙には、息子に助けられた命を大切にし、これからは慎ましく生きていくと記されていた。
蔵のあった土地は更地にされた。跡地には供養のために地蔵が祀られた。佑真は定期的に訪れ、手を合わせている。
「どうか、安らかに眠りますように」
お参りをすると、佑真につきまとう不気味な影は一時的に大人しくなる。あくまでも勢いが衰えるだけだ。油断をすれば、幸円と同じ道を辿るかもしれない。
幸円は怪しい影と佑真は相性が良いと言っていた。
当初は分からなかったが、おそらく均衡がとれるという意味なのだろう。影は佑真を乗っ取れない代わりに、佑真がお祓いの類をしても消えることはない。
よりにもよって悪霊と腐れ縁のような関係になるとは。人生とはどう転ぶかわからないものだ。
ささやかれた幸円の言葉を思い出す。
「すみません、連れてはいけないようです……か」
お参りを終えると佑真は社用車に乗り込む。まだ片付けなければならない仕事がある。車の収納スペースを開けると、保管していた刃物を手に取る。
美しい刀身だ。眺めていると黒い感情に心が焼かれそうになる。
忘れてはいけない。あの日、僕達はおそろしい体験をしたのだ。
「大丈夫、僕は正常だ。みんなをひどい目に合わせた人間に復讐をする。それだけさ」
車のエンジンをかけると、佑真はゆっくりとアクセルを踏み込んだ。
〈了〉




