第60話 アンチテーゼだとでも思ってください。
「想定外ですよ。ここまで力を出せるなんて……。」
「魔王を舐めるんじゃないよ。一時的に力を発散されても、その下から更に力を滾らせればどうにでもなるのさ!」
なんかコアから出せる力って容量が限られてるって勘違いしてるんじゃない? コップに入れた水みたいに溢しちゃえば量は減るみたいに考えてるんだろう。コップの中に無限にわき出てくる源泉みたいなのがあるっていうのに。それがデーモン・コアだ。持つ者の能力に応じて差はあるけど、ほとんど永久機関なのがコアの性質なんだ。
「グオオガッ!!!」
「それなりにダメージは受けたはずなのに元気だね? やっぱり痛み自体も感じないようにされてるのかな?」
「その程度のダメージでへこたれる事などないんですよ。その身が朽ち果てるまで戦い続けるのです。」
「それはアンタが言うことじゃないだろ。無理矢理戦わせてるだけなのにさ!」
ブレンダンは棍棒を離して起き上がり今までと変わりない戦いを再開した。さっきのダメージは回復する必要なしと判断されたのか、回復女も回復にはいかなかった。いや、止めさせられたというべきか? シャルルがあの女の動きを手で遮ったようにも見えた。あの女はシャルルほど割りきれていないようだな。
(ガゴッ、ガギッ!!!)
「やっぱり味気ないな。コイツは元々、口も達者なヤツだったからおもしろかったのに。これじゃただ力比べをしているだけだ。」
「そんなもの本来は必要ないものなのです。特に処刑人という立場なら尚更です。ただ黙々と仕事をこなすのが使命なのですから。彼は少々おしゃべりが過ぎたのですよ。ですから処刑人、いや、処刑具としての役割に専念してもらうようにしただけなのです。」
「道具扱いか。ひどい扱いだな。」
ブレンダンはひたすら処刑対象を狩り続けるだけのマシーンに成り下がってしまった。それを知ってか知らずか、男は剣を振るい続けている。オレを倒すまでは絶対に倒れることを許されず、ただ闘争本能だけを頼りに戦い続けるのか。なんだかこっちはやる気が失せてきた。なんだか力が出なくなってきている様に感じるのだ。
「フフ、その調子ですよ、ブレンダン。あなたが戦い続ける限り、相手はどんどん消耗していく。」
「消耗なんてするもんか。デーモン・コアは永久に力を産み出せるんだよ……。」
その言葉とは裏腹に体が徐々に重たく感じるようになってきている。おかしい。さっきブレンダンを地面に叩きつけてから調子が悪くなってきている……? あのとき力を腕だけに集中させて使ってから、徐々におかしくなってきているのだ。
「おやおや? ずいぶんと弱々しくなってきてるじゃありませんか?」
「くっ! うるさい! 気のせいだ! 別に弱くなんて……、」
「グガッ!!!」
(ゴギィッ!!!!)
ブレンダンが思い切り上段から剣を振り下ろしてきた! それを受け止めるために持ち手の反対側でも棍棒を支えるようにした。完全に防御に徹するような動きを取ったというのに、衝撃を抑えきれず、思わず片膝を付いてしまった。そのときオレは異変に気が付いた。棍棒に何かが付着して変色している事に!
「こ、これは……!? オレの武器に何か細工をしやがったな?」
「今ごろ気付きましたか? でももう遅いですよ。あなたの力はそれのお陰でパワーダウンしてしまっているのですから。」
「こんな汚いモン、いつの間に付けていたんだ?」
「それは先程話したコーティング材その物ですよ! ブレンダンが義手で掴んでいる間に鉤爪の間から噴射して吹き付けていたのです。コアその物に塗布すればある程度効果はあると踏んでいましたが、それなりの効果を発揮したようですね。」
「く、クソ……。」
力を入れようとしても、力が入らない! それどころか力が抜けていくんだ! シャルルは例のコーティングがどうこう言ってるから、コアから出る力がどんどん発散されてしまっているんだろう。直接塗り付けるなんて手段を取るとは思わなかった!
「次から次へと卑怯臭いマネを思い付くもんだ……。」
「ハハハ! あなた方には言われたくないですね! コレはあなた方にとっては猛毒のような効果をもたらす物質ですからね。毒に対してのアンチテーゼだとでも思ってください。あなた方魔族は毒を湯水のように多用してくるのですから、その気持ちが少しくらいはわかったでしょう?」
「オレは毒なんてセコいマネは使わない。蛇とか羊みたいな奴らとは違うんだ!」
「よく言えますね。同族の癖に! 私達はあなた方を全て同等の外道としか認識してないですから! ブレンダン、今のうちに倒してしまいなさい!」
「グオアッ!!!」
ブレンダンはオレを蹴飛ばし、地面に倒れさせた。ヤツはオレを蹴ると同時に頭上高く跳躍していた。先端が扁平になった剣を下に突き出しながら落下してくるのが見える。その姿はまるで断頭台の刃の様だった。明らかにオレの首を狙っている!
「なんとぉーっ!!!」
「ガッ!?」
(ドガアッ!!!)
落下してくるブレンダンに横から蹴りを入れて妨害してきたヤツがいた! ヤツはそのままブレンダンと揉みくちゃになりながら吹っ飛んでいった。オレを救ったのはアイツだ。あの勇者にオレが助けられるなんてな……。




