第241話 普通、斬れたと思うじゃん?
「これじゃ下手に攻撃できない! あの技を使うしかないな!」
まさか勇者の奥義が通用しないなんて……。やはり上級魔族はただ者ではない。その使い魔さえも一筋縄ではいかないのか。アイローネが作り出した炎邪と水邪みたいなヤツのように、両方同時に倒さないと死なない呪いとかいう小細工までしてたよな? 同様に何らかの仕掛けを施している可能性は否定できないが、もうあれに頼るしか手段がない!
「見せてやるよ、あの奥義を!」
「待ってました!」
「アニキ、そんなに勿体ぶる必要なかったと思うでヤンス? さっきは普通に使ってたのに?」
「魔族相手なら自前の奥義より勇者の技の方が効くと思い込んでただけさ。」
「来るか、あの奥義とやらが? 下等魔王どもを死に追いやったヤツがよぉ?」
「霽月八刃!!」
(バツン!!!)
満を持して奥義を放った。最初からこの技を使えばよかったとも思えるが、なにか嫌な予感がして使っていなかったのだ。その不安を打ち晴らすように敵を頭の上から一刀両断してやった。やった……が、おかしなことに手応えを感じない。相手は真っ二つになった。しかし、自分で斬った感触を感じなかったのだ……?
「おおおーっ! どういうことだ! 俺のダーク・サーヴァントがぁ……。」
「スゴいぞ! 真っ二つだ! おいらの攻撃でもびくともしなかったのに!」
「いや……まて、なにかおかしいぞ? 様子がおかしい。」
ガンダーはてで顔を覆い、大袈裟に悔しがり泣きべそをかくかのような素振りを見せた。ヤツの使い魔は頭のてっぺんから股の部分までバッサリと体が両断されては……いる。しかし、そこで止まったままだ。普通なら霽月八刃を食らえば徐々に体は崩壊するはずなのだ。その現象が起きない。
俺も感触的に相手を斬った感じがしなかった。むしろ、空を斬った、空振りしたかのような感触なのだ。泣いているように見せかけていたガンダーは徐々に含み笑いをしながら、指の隙間から目を除かせていた。ギラリと輝いている!
「グワグワワッ!! おかしいなぁ? 真っ二つになったのに生きているぞぉ? 技が効かなかったのかな?」
「効く効かないの問題じゃない! 最初から斬れてないんだろ?」
「ありゃ? バレたかね? せっかく絶望的な雰囲気に仕立て上げてやろうと思ったのによ?」
「斬られる瞬間、コイツは自ら二つに分裂したから死ななかった。そうだろう、ガンダー?」
「わかっちまったのかよ? 俺様の天才的センスに? そうなんだよ。防げないんなら、いっそのこと自分から斬られちまえばいいんだって思ったんだよ。スライムの習性、分裂増殖を使ってな? 一時的に分断しとけば問題ないんだよ! 見たか、魔王軍随一のインテリのセンスを?」
どおりで手応えを感じないはずだ。斬られる瞬間に自分から真っ二つになったのだ。そりゃ奥義だって空振る。斬った感触がなかったのはそのせいだ。あのスライムで覆われた体は打撃に強いだけじゃなく、エネルギー的な攻撃を無効化するだけじゃなく、自ら分断回避することで崩壊を防ぐことだって出来るのだ。こんな逆転的な発想に誰が対処できるんだ?
「さあ、どうする? 頼みの奥義は効かない。このままだと俺が勝っちまうな。アイローネの敵討ちは俺が完了しちまいそうだ。アイツの仇討ちに躍起になってた”紺碧の騎士”には悪いが、仕方ねえもんな?」
これならもう、全力の奥義をぶつける以外に方法がないじゃないか? しかし、それでは継戦能力に支障が出る。あの使い魔を倒している間にガンダーに狙われたらこちらがやられてしまう。他にもう一体作り出されてしまう可能性だってある。ウィンダムがまともに戦えればこの場を切り抜けられるとは思うが、今はそれすら出来ない。万事休すか?
「折角の大金星のチャンスだ! 美味しく頂いち……ま?」
(ザクッ!!!!)
余裕綽々でガンダーは俺たちに向かってこようとしたが、その一歩目くらいで足が止まった。異変が起きたのだ。ヤツの頭のてっぺんに何かが叩きつけられていたのだ。その正体は斧! 誰かが投げたのかと思って斧をよく見たら、なにか小柄な影がそれを振り下ろしていたのだとわかる。その小柄な影の正体は……、
「な? なに? 俺様のドタマをカチ割ろうとしたのは誰だ? この超インテリ頭脳に傷が付いたらどうするんだぁ!!」
「ああーーっ!? アイツは!?」
「あの新人でヤンス!? なんて無謀な事を!?」
「こんガキゃあ!! 何者だぁ!!」
「未来の犬の魔王、テス・ココ様だ! 文句あっかあ? お前なんか、焼き鳥、唐揚げにして食ってやる!!」
振り払おうとする手を回避しながら、小柄な人影は斧を手にしてガンダーの正面にヒラリと降り立った。なんとヤツの真後ろから奇襲を仕掛けたのは例の新人だった。次から次へと敵が現れて追いかけることを忘れてしまっていたが、俺らに協力する為に戻ってきた?
でもなんか俺らのことは眼中に入っていない様子だ。最初からガンダーにしか注目していない感じに見える。相手は上級魔族だ。なんとかアイツを止めてやらないと大変なことになる!




