第123話 これがいわゆる”チート・デイ”と言うヤツ?
「アレも、コレも、ソレも全部ちょうだい!」
「アイヨー! 全部売ってヨシ!」
プリちゃんは屋台の冷凍ミカンを手当たり次第買い込もうとしている。そんなにたくさん頼んで食べきれるのかな? 厳しい修行の日々から解放された勢いで羽目を外しすぎてるんじゃない? でも、目一杯羽目を外したくなるような修行が続いていたから、息抜きにはちょうどいいくらいなのかもしれない。聞いたところによると、この国では”チート・デイ”と呼ぶらしいね?
(バリバリ! シャリシャリ!!)
「うへはぁ!? うんめぇー! たまんねー、コレ! 五臓六腑に染み渡る味だぜぇい!」
「プリちゃん? 冷たいもの食べ過ぎるとお腹に悪いアル。腹八分目にするヨロシ。」
「味も好評、ヨシ!」
ただのミカンを凍らせただけ。単純にそれだけの食べ物をプリちゃんは美味しそうに貪り食ってる。まるで今まで、ろくに食事を与えられていなかった捕虜とか囚人さながらといったところ。
私も一緒にいたけど、サヨ先生のプリちゃんへの指導はある意味、懲罰に匹敵するほど過酷な内容だったと思う。だからきっと、プリちゃんは心労で壊れてしまったのかも。元から? それはただの気のせい。そう思って上げないとプリちゃんの苦労が浮かばれないヨ……。
「ところでさぁ、このカラクリ、どっかで見たことあんだよね? なんだっけ?」
「私、知らないアル。でも、とっても可愛い外見なのはよくわかってるアルヨ。」
「なんだっけなー? なんかとんでもないクソみたいなのが関わってたような? なんかクサイ犬みたいなのが!」
私にはそれが何を意味してるのかはわからない。でも魔術を使ったカラクリの傀儡人形がここまで人間みたいな動きをしているのが不思議に見える。ちゃんと受け答えして店の売り子をしているのは初めて見た。故郷の都でも滅多に見られない物珍しさだと思う。これを作った人は間違いなく天才だ。
「おい、猫! この商品を残り全て頂こうか?」
「全部、買う? ヨシ?」
「代金分のお金持ってるなら、ヨシ!」
「現金限定で、ヨシ!」
「なんだアイツら! 全部買おうとしてるよ! 独り占め、ダメ絶対!!」
なんだか騎士風の格好をした女の人3人組がやって来て、冷凍ミカンを買い占めようとしている! カラクリ猫さん達も本当に売るのか、相手に買えるほどの金銭はあるのかと議論している。あるなら売るという結論に達したみたいだけれど、これを見たプリちゃんはプリプリ怒り始めた様子。買い占めの人達に立ち向かって行こうとしてる!
「おう、おう、おう!! ワレ、エエ根性しとるのう! 何処の組のもんじゃい?」
「我々にいったい何用かな? ”クミ”とは何の事かな?」
「とぼけとんかい、ワレぇ? ワシは”ワラワ組”のプリメラン言うもんや! ”リロイの食いしん坊”とはワシの事じゃけぇ!!」
「知らないな、そんな異名は? 私の名はゴドルフィン。ナイト・メアーズのリーダーをしている。」
「ワレの名の方こそ、知らんがな、ってレベルやんけぇ! 舐めとったら、アカンぞぉ!!」
なんだか急にプリちゃんの態度が仁侠の侠客みたいになってる……。”ワラワ組”って何? サヨ先生の事を言ってる? ”リロイの食いしん坊”っていうのも初めて聞いた。確かに食いしん坊だと思うけど……。騎士の人たちにあること無いこと言って、困らせようとしてるけど、冷静にあしらわれている。この人達、何者? しかも3人組? もしかして……?
「あなた達、もしかして、れーす競技とか言うのに出る人達アルか?」
「ほう? それに気付いたと言うことは、貴公らも同じく参加者なのかな?」
「その通りアル!」
「ほげっ!? 参加者やったんかいっ! 早よ言わんかい、ワレぇ!」
「私はこの、ダーレー、バイアリーと共にレースに参加する予定だ。こんなところでライバルと鉢合わせするとはな。」
やっぱりだった。三人組の只者ではない雰囲気からもしかしてと思ったら、本当にそうだった。私たちと一緒で参加者登録にやってきたんだと思う。今日が応募締め切りの日だったから、駆け込みで登録してきたのかもしれない。でも、なぜ、ミカンを買い占めようとしているんだろう?
「我々はもともと馬術競技をするために各地を回って旅をしているんだが、たまたま立ち寄ったこの町で珍しいレースが開催されると聞いたのだよ。畑違いとはいえ、レースと聞いて血が騒いだのでね。思いきって参加を決めたのだ。」
「はっはーん? でもレースには搭乗するためのカラクリが必要なんやで? もっとるんかいな? お馬さんしかないようじゃ話になりまへんでぇ?」
「心配ご無用。我々のパトロン、キング・ギャレオン氏がカラクリを手配してくださるとおっしゃっているのだ。どうやら、この町の工場にコネがあるそうでね。」
「でも、ミカンを買い占めるのがレースと何の関係があるネ?」
「ああ、それは買い取ったミカンをこの町の人達にただで提供し宣伝活動をするつもりだよ。なにしろ、この競技では無名もいいところだからね。ファンを増やすアピールが重要なのだよ。」
彼らにはなんだか凄い雇い主がいるみたい。カラクリの手配から大胆な宣伝活動まで! 私たちのサヨ先生に匹敵する財力の持ち主と言えるかもしれない。やっぱりこの人達は侮れない気がする。チャーハンの人も参加するかもしれないし、強力な優勝候補もいるらしいから波乱のレースになりそう。




