第121話 噂をすれば何とやら……。
「でね、味の四天王という審査員が現れて、料理のコンテストが始まっちゃったのよ!」
「何者だよ? その人達? 怪しすぎるでしょ。」
シトラスは俺と同じ日に冒険者ライセンス試験を受けたときの話を簡単に話した。全貌を話せば長くなるので、料理試験になるまでの流れが分かればいいのだ。確かあの試験だけは予告なしに抜き打ちで行われたのは確かだったはずだ。サヨちゃんの鶴の一声によって実現したというからな。思い返してみると、なんという暴君ぶりなことか!
「で、豚の丸焼きってことかい。なんだかんだで、抜き打ちの試験の要素も持ってたんだな。冒険者ってのは臨機応変に対応することが必要になるからかもね。」
「俺なんて、その場のノリで失格扱いみたいになっちまったんだよ! ありゃあ、酷かった!」
「力士さんの料理があまりにも評価が高かったから、直前の勇者様の評価がひっくり返っちゃったんですよねぇ。」
俺はあの時、取って置きの料理であるチャーハンを披露し、一時は絶賛された。しかしその直後に力士が現れて、展開がひっくり返ることとなった! 力士の料理が物珍しかったというのもあり、奴の料理自体の評価を爆上げしてしまったのだ。なんか、そのうまさで俺の料理は完全に忘れ去られてしまい、敗北を喫したのであった。それどころか、試験自体も不合格という結果になって、凄い凹んだ……。
「アレで下手に成功して調子にのってもいかんと思うてのう、敢えて一旦不合格という事にしたのじゃよ。」
「なっ!? サヨちゃん!? なんでこんなところに!?」
「ああっ!? 味の女帝様!?」
「なんか、大物みたいな人が出てきたよ……。」
昔話に花を咲かせていたら、話の渦中ににいた本人が登場してしまった! なんでこんなところにいるんだ! 神出鬼没すぎるだろ! その手にはアイスクリンとヤンしゅうミカンが握られており、驚いて目を白黒させている俺たちを眺めながら交互に食べている。まさか、食べ物に引き寄せられてわざわざやって来た訳ではあるまいな?
「そなたがこの町に落ち延びたという情報は黒狐めからの連絡で知っておった。一度様子を見に来てやったのじゃ。」
「レンファさんと連絡を? そんな話聞いてなかったんだけどな?」
「事態が事態故に隠密での行動をさせておった。そなたの救出の任にあやつを抜擢したのは妾じゃ。立場的に自由に立ち回れるのはあやつだけじゃったからのう。他の者共は下手に立ち回れば、法王庁の手勢を刺激してしまい兼ねんからのう。」
「なるほど。そういうことだったのか。」
俺の救出のために、サヨちゃんがうまく人員を手配してくれたようだ。確かにレンファさんだけだと教団に関する情報を得られないから、その辺りのサポートをしてくれていたのだろう。
サヨちゃんの立場だからこそ、誰がどのように行動すれば問題に発展しにくいかを熟知しているだろうから、救出に行きたがったであろうエルやファルを落ち着かせる役割も果たしてくれていたんだと思う。感謝してもしきれないくらいに便宜を図ってくれているのだろう。
「とにかく無事でよかったわい。」
「いいのかい? あたし達の様な別勢力の前でそんな話をしても?」
「構わぬよ。そなたらの勢力の首魁とは昔から交流があってのう。あやつが野心を燃やしていた若い頃から知っておるわ。それ故、あやつの性格も熟知しておる。勇者に対しても下手に手出しするつもりもなかろうて。」
「ゲッ! うちらのパトロンと旧知の仲なのかよ!」
「女帝様って顔が広いんですね……。」
「あやつの趣味には妾も興味があってのう。よくその事について談義する機会もあるのじゃ。」
何? サヨちゃんとMr.ビッグって知り合いだったの? しかも若い頃から知ってるなんて、味の四天王の残り三人や冒険者ギルド支部長とおんなじじゃないか? 下手すりゃ、何かしらの弱みを握ってるレベルなんじゃないか。まさか、それを教えるためにやってきたとかいうわけじゃなかろうな?
「で? 俺の様子を見に来て、ついでに美味しそうな物を食べにきただけなのか?」
「あくまでそれらはついでじゃ。妾も参加しようと思うておってな。」
「え? 何に?」
「サバイバル・レースじゃよ。そなたらも参加するのじゃろう? そなたらの競合相手というわけじゃ。」
「なんだとーっ!?」
「参加するの? あなたが?」
「女帝様まで参加するの!?」
まさかの参加表明! とんでもない強豪が参戦する運びになってしまったようだ! サヨちゃんはあまりにも手強すぎるぞ! 何か対策立てとかないとあっさり追い抜かれたり妨害を受けてしまいそうだ! でも、待てよ? カラクリのレースなんだから、それ用の乗り物を用意できるのだろうか? まあ、でも、あっさり魔法でポンっと出してしまいそうで怖いな……。
「とはいってものう。あまり妾は手を出すつもりはない。あくまで新弟子の修行の一環を兼ねておる。」
「え? じゃあ、ということは……?」
「メインは小娘どもじゃ。修行の成果を見ることになろう。」
と言いながら、通りの向かい側を指差した。ヤンしゅうミカンの屋台前で大騒ぎしているツインテールな髪型のアホ娘の姿が見えた。その傍らにはお団子ヘアーの娘がそれを諭してるのも見える。奴らだ! サヨちゃんはあの二人をレースに参加させることを目論んでいるようだ! これは台風の目になりそうな予感がする!




