第105話 目が虚無になってる!
「一番似てんのは削岩機だな。連続でノミを打ち込む様な形式のヤツよ。だが、それとは違う。コイツは単発式だからな。」
「杭打ち機は? それの方が近いだろう?」
「違うな。だったら、杭にこんな繊細なものは使わねえ。こんな物を使ったら簡単にへし折れちまうわ。」
親方がこの武器を見て最初に連想したのは削岩機らしい。確かに先端の杭を連続で叩きつけるタイプのカラクリ道具を、ゲンコツのおっちゃんに見せてもらったことがある。即座にイツキが否定しようとしたが、親方はそれを退ける。
やはり、杭に使われている材質が気になるらしい。見るからに金属ではなく、美しい水晶を削り出したかのように透き通っているし、芸術品とも言えるほどの輝きを放っている。確かにここだけを見ると武器とは言えない代物だろう。
「確かに俺たちは見たんだ! これを敵に突き刺している所をな。それでも刃は欠けたりしてない。それに十分耐えうる強度があるのは間違いない。」
「お前らは見たかもしれんが、わしはそれを見とらん。実際に確かめない事には信じられないからな。」
「相変わらず、頭の固いこったぜ!」
親方は徹底した現場主義なだけではなく、とことん現実主義なようである。実際に自分の目で見るまでは信じようとしない。徹底的に自分の感覚・直感を第一として物を見ることを信条としているのだろう。何事も確かめるためには実際に……って、急に何を持ってきたのかと思えば両手にはそれぞれノミとハンマーがあった!
「まずはコイツでこうしてみんと始まらんのよ! お前らは見てきた真実を信じてりゃいいだけのことだ!」
(カッ!!)
「オイ!? マジかよ!?」
手にしたノミを杭の部分に当てて、その後端にハンマーを叩きつけた。叩いた瞬間に破片が飛び散った。さすがに杭が欠けたと思ったのだが、一切そういうことはなかった。未だに綺麗な表面を保ったままだった。表面が砕けて曇っていたりもしない。じゃあ、何が欠けたのかというと……それはノミの方だった。鋭利だった刃の部分が砕けて使い物にならなくなっていたのだ!
「なんてことしやがんだよ、この親父は!」
「ハハッ! 良かったな。賭けはお前らの勝ちだ。お前らの見た真実が正しかった訳よ。わしの敗けだ。見ての通り、ノミは”カケ”で使い物にならなくなったぞ! がはは!!」
「つまんねえ、親父ギャグなんか使うなよ。全く、ハラハラさせやがって……。」
親方はあきれる俺たちに対して駄洒落で返して見せた。ちょっと悔しかったのだろう。そして、イツキとのやり取りを見る限り、こういうのは日常茶飯事なのだろう。年配の男性にありがちな傾向だ。”賭け”に”欠け”で合わせてくるとは。詰まらないとはいえ、体を張ったギャグなのには違いない。しかし、固いものを削るための道具がこうもあっさり壊れるとは、とんでもない強度を持っているということになる。
「コイツは本物の一級品だ。このノミの刃が立たねえのがその証拠だ。このノミも柔な材質で出来てないからな。特製の超硬合金で出来た刃なんだぞ。それが欠けるってぇ事が異常なんだよ。」
「なにそれ? どういうヤツなの?」
「製法まで説明してたら日が暮れるからごく単純に説明すると、重く割れやすくなる代わりに倍の硬さを持たせた金属の事だ。作るのに金も時間もかかるって具合に高級品なんだぞ。」
「そんなのが壊れちゃったの? 大損じゃんか!」
「だから、賭けに負けたって言ったろう? そういうもんよ。」
なんか申し訳ないことをしたな……。ありふれた工具なのかと思いきや、プロ戦士が持ってるような特注武器と対して代わりないくらいの物だったとは。そういう工具でさえ歯が立たないとなると、アレを研いだりする場合はどうするのか? お手入れ不要、メンテナンスフリーとは思えないし、どういう方法で維持をするのかも疑問になってきたな。
「これはおそらく削り出しなんてもんじゃねぇ。”単結晶製法”で作られているに違いない。そうだとすれば衝撃や曲げ捩れ等の変形に強いだけじゃなく、熱にも強い破格の高耐久性なのも納得がいく。」
「た、たんけっしょう? ますますわからない単語が出てきたぞ?」
「単結晶ってのはダイヤモンドや水晶みたいなのをいう。それを人工的に作れるとしたらどう思う? まさしくこれはそういうものなんだよ。」
「金剛石を人工で作る様な技術ぅ!?」
俺とかシジミちゃんはそこまで聞いて何となくわかった程度だが、他の連中はみんな頭の上に「?」の文字が出ている様な感じだ。キョウナは首を右に捻ったり、左に捻ったり。センベイはまるでフクロウの様に更なる首の回転を見せている。
タンブルやキノに至っては聞く気すらない。なんかあちこちの設備を見て回っている。当事者のウィンダムは……目が虚無になってる! おそらく何も考えてない! 思考を停止してるぞ、これ!
「これを作ったヤツはどんな人間かは知らないが、とんでもねぇ技術を持ってやがる。もし、こんなヤツがいるんだとすれば、わしらは近いうちに廃業になるかもしれんな……。」
あまりにもとんでも過ぎて、付いてこれない人が多数いるんでしょうがないかと……。でも本当にいるんだろうか? いるとしたらもっと前から発覚してそうだし、他の形をした武器だって出てきているかもしれない。ひょっとしたら……異世界とか? なんか俺たちの知らないところでとんでもないことが起きようとしている証拠なのかもな……。




