6話
現実で夕飯を済ませて再度ログインする。
ベッドから起き上がりまた瞑想を始める。体にある魔力を全身に巡らせたり、一か所に集めたりする。
これをしばらく繰り返していると、少しずつ体内の魔力が減っていってるのを感じる。魔力を集めたりすることで何か意味があるのかはわからいが、魔力を消費するらしい。
とりあえず、素早く体内で魔力を動かせるように反復して練習しよう。現状魔術の知識を得る手段はないのだ。手探りでやっていくしかない。
幸い種族補正なのか魔力を感じることはできているから、しばらく続けていれば何かしらの結果は出るんじゃないかな。
魔力が尽きかけているのを感じたので、瞑想をやめてもうそろそろ寝よう。
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朝起きてすぐに、ギルドへ向かう。
昨日同様キナ爺は野菜をかじっていたので、同じ席について私も野菜を食べる。
「今日もリンサの群生地にいくの?」
「ああ、リンサはあと10日ほどしか採集できないからなぁ。だから今のうちに回らにゃならん」
「そっか」
朝食を食べ終えてしばらくしたが未だに男はやってこない。まあまだ5時にもなっていない。私たちが早すぎるだけだ。
あの調子では、男はもう数時間は待たないとこないだろう。ただ待っているだけではもったいないので、キナ爺と雑談していることにする。
「キナ爺はずっと薬草採取ばっかしてるみたいだけど、討伐依頼で稼いだりはしてこなかったの?」
「ああ、おれは体もちいせぇからなぁ。戦うには向かなかった。だから魔物とは戦わずにに、逃げてきた。だがその分森の植物の知識だけはある。」
「それにおらぁもの投げんのも得意なんだ。投げたもんで音を立てて注意をひいて、それで逃げんだよ。だから逃げ足の速さもまけねぇぞぉ」
「そうやって薬草採取で生きてきたんだ。すごいね」
「はぁ、すごい・・・・・・すごいかぁ・・・・・・ヒヒッ」
そう言ってキナ爺は嬉しそうに笑った。
他にも話をしてしばらくしたころ男がやってきた。
「おう、行くぞじじい」
「ああ、ただおれの言うことには絶対に従えよぉ。いいな」
「あ?いいから案内しろ」
街を出て森に入る。いつも通りキナ爺が先頭で草木を払いながら進み、その後ろが男、最後尾が私だ。男は、森に歩きなれていないのか早々に少し疲労を感じ始めている。
私は今日で森の中に入るのは三回目だが、教えてくれている人間が良いのでかなり森の歩き方は洗練されてきている。そのために少しは体力の消費を抑えることができている。とはいえ体力はまだそこまでついていないので、群生地につく頃には息も荒れていることだろう。
しばらく歩いていくとキナ爺が何かに気づいたのか、後続を手で制止する。
「伏せろ」
「なんだぁ?」
「これを見ろ。ゴブリンの足跡だ。数も多い。これなら5はいるぞ」
「今すぐ引くぞ。奴らがここを通ったのは遠くない。まだ近くにいるぞ」
「はぁ?ゴブリン程度になにビビってんだよ」
「俺の指示には従うように言ったはずだ。引くぞ」
「葉っぱ取って、ゴブリンを狩れば一石二鳥じゃねえか。案内しろよ」
「いや、だめだ」
「___チッ。じゃあ群生地の場所がどのへんかだけ教えろよ。俺一人で行ってやるよ」
「そうか。ならあの蔓の巻いた木の方へ進め、そう遠くはない。ゴブリンは狡猾だぞ。不意打ちに気をつけろ」
「じゃあな、じいさんに美人な姉ちゃんためになったぜ。葉っぱは俺の独占だぜ」
そう息巻く男と別れ引き返す。
「行かせてよかったの?」
「ああ、ゴブリンも近くにいるだけだ。運が良けりゃあ、遭遇せずに帰れるだろう。傭兵なのにゴブリンにビビって帰る俺がおかしいんだよ」
「そっか」
でも正直私も、もし魔物と遭遇して襲われたりしたらなんて考えると少し怖いんだ。
ゴブリンが向かっていっただろう方向とは逆へ進み、採集をして今日は街へ戻った。
ギルドへ換金をしに行ったとき、もう帰ったのかもしくはまだ帰っていないのかはわからないが、あの男の姿はなかった。
ーこの世界の魔物についてー
魔物は現実世界にいるような動物が魔力に順応して生物として進化したもの。濃い魔力溜まりの中で魔力が集合して生物として形を成したものがいます。濃い魔力溜まりでは、大量の魔力が過密になったことで反発しあって災害が起こったりします。魔力溜まりにより発生した魔物は異形が多く、強さも異次元の災害のような存在になります。
現状出ている地域では、大森林の最奥がそのような魔力溜まりになっています。