28話
今日もいつも通り森の手前でキナ爺と別れて、二人で森に入っていく。
今日もいつも通り薬草を道中採取しながらオークを狙っていく。
しばらく歩いてオークを探すが今日はなかなか見つからない。最近はオークを見かけることも多く。1日に複数体狩ることもざらにあるほどなのだが。
昼過ぎになってもいまだに見つからず、いったん腹ごしらえをする。と言っても干し肉や道中採取した果実を食べるだけだが。
昼食後も根気よく探したが、結局オークは見つからなかった。
森から帰ってきてギルドに入る。
ギルドに入るが今日はギルド内の様子がおかしいことに気づく。いつもだったら食堂兼酒場の方から迷惑なほどに騒々しい喧騒が聞こえてくるものだが、今日はびっくりするほどに静かだ。
これほどに静かだとわたしでも少し気になってしまう。何かあったのだろうか。
まあ、それはともかくとりあえず換金をしようとカイラスの元へ向かう。
「カイラス、換金よろしく」
「お、おう。ハナビか。わかった」
なんだかカイラスさえ歯切れが悪く様子がおかしい。でもまあそんな日もあるかと換金を終えて、食堂に向かう。
キナ爺とは食堂の方で待ち合わせをしているので、いつもこの時間には帰ってきているキナ爺はもうとっくについて待っていることだろう。もちろん、待ち合わせ場所が食堂というだけで実際に行く店はもっといいところだが。
そうして食堂に入り周りを見渡すが、キナ爺の姿は見当たらない。
「キナ爺、いないね。まだ帰って生きてないのかな」
「どうしたんだろう?」
「うん、珍しい。まあ、待ってればすぐ来ると思うから待ってよ」
そうして空いていた席について果実水でも飲みながら待つことにした。
「キナ爺、まだかなぁ」
体の大きい傭兵たちに合わせて作られているせいで大きい椅子に座り、宙ぶらりんになった足をふらふらと振りながら待つ。
「おい、あいつが___」 「ああ、死んだ爺さんの__」 「気の毒だな__」
周りの何人かが二人の方を見ながら何かささやいている。
それを聞いてミヤは何かを感づいたのか、大きく目を見開き息をのむ。
ハナビはそうした周りの囁きが聞こえていないのか、それとも聞こえているうえで無視しているのか___それともなんとなく感じてしまって現実を受け入れられていないのか___それに反応する素振りはない。
「今日行く店はミヤも行ったことないとこだよ。カイラスに教えてもらったんだけど、ほんとにおいしいの」
ハナビはそれほど楽しみなのか、上機嫌に話している。機嫌がよすぎるあまり、口調もいつもより明るいし口数も多い。
それにミヤは逆にいつもよりも歯切れ悪く応答する。
「遅いねぇ。ちょっとカイラスにでも聞いてこようか。もしかしたら体調とか崩しちゃったのかも」
そうして再びカイラスの元へ行く。
「カイラス、キナ爺はまだ戻ってきてないの?今日、一緒にご飯に行く約束をしてるんだけど」
「え、ああ・・・・・・そうなのか。爺さんは、まだ帰ってきたないんじゃないか?」
「そっか、こんなに遅いなんて珍しい」
「あ、ハ、ハナビちゃん・・・・・・」
私とカイラスを交互に見ながらミヤが話しかけてくる。
「ミヤ、どうしたの?」
しかしハナビの上機嫌な姿を見てこれ以上先を口に出すのはためらわれ、ミヤは結局何も言えなかった。
そうしてしばらく待ったがキナ爺が食堂に訪れることはなかった。
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翌朝、いつも通り準備をしてギルドに向かう。
そしていつも通り食堂へ行くのだが、いつもならとっくに来ていて朝食に野菜を齧っているキナ爺の姿がない。
「キナ爺、いない。昨日も結局来なかったし、もしかしたら体調でも崩したのかも。大丈夫かな」
いまだに現実が見えていない風のハナビにミヤは意を決して話すことにする。
「ハナビちゃんキナ爺さんは昨日亡くなったの。だからもういないんだよ」
「え?何言ってるの?いくらミヤでも流石にそんなことを言うのは許さないよ」
強く怒気をはらんで声でハナビは言う。
「そんなおふざけ何も面白くないから。やめて。キナ爺が死ぬわけない」
「昨日ね、カイラスさんから聞いたの。キナ爺さんはオーガに殺されちゃったって」
「そんなの!余計ありえないじゃん!キナ爺が魔物に殺されるなんてありえない!ふざけないで!」
「ハナビちゃん、聞いて。ハナビちゃんも昨日うすうす感じてたんじゃないかな。つらい気持ちは私も一緒だよ?それでも乗り越えなくちゃ」
「うるさい!聞きたくない!」
「ハナビちゃん・・・・・・」
ミヤに告げられた真実を聞いて受け入れられずハナビは癇癪を起す。
「おい・・・・・・ハナビ」
「あ、カイラスさん」
「ハナビ、すまねえな。昨日素直に伝えてやればよかった。ミヤがさっき言っていた通りだ。爺さんは昨日死んだんだよ。オーガと勇敢に戦ってな」
「そ゛ん゛な゛、そ゛ん゛わ゛け゛な゛い゛」
もうハナビの顔は涙で酷く濡れてしまっている。
「現実を受け入れろ、ハナビ。爺さんな。森でオーガと戦って逃げてきて南門まではたどり着いたんだが、オーガに負わされた傷が深くてそのまま死んじまったんだよ。ただオーガの左目を潰してやったって死ぬ前に嬉しそうに語っていたよ。一人の傭兵が勇敢にオーガとやりあって死んだんだ。受け入れろ」
「・・・・・・まだ生きてるキナ爺と話したの?それならなんで助けなかった!?ポーションでも飲ませればまだ助かったかもしれないのに!」
「何を言ってる。傭兵みたいな職業は死ぬも生きるも自己責任なんだよ。それに爺さんも自分で戦うことを選んで散ったんだ。爺さんの選択を無下にするようなことを言うな。爺さんにも爺さんの考えもあってその選択をしたんだろうからよ」
「でも、でもぉ・・・・・・」
「それにお前は困ってるやつ死にかけてるやつを目にしたら手あたり次第に助けるのか。お前がそうしたいならそうすればいいがそれを他人に押し付けるな。そんな甘い世の中じゃねえんだ」
カイラスからの正論にぐうの音も出ない。
「少なくとも自分と仲いいやつ位は助けたいと思うんならもっと強くなるんだな。お前は他人を救うにはまだ弱いからな」
「ん゛、ん゛ん゛」
「ハナビちゃん・・・」
ミヤはハナビが落ち着くまでハナビの見た目だけは華奢なからだをそっと抱きしめていた。
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「落ち着いた?」
「う、うん。ありがと」
「ハナビ、お前も結構子供みたいなところがあるんだな。年相応で結構だが」
「う、うるさい・・・・・・でも、ごめん。ありがと」
「気にするな。この世の中が冷てえのは事実だからな」
「ん、あとキナ爺のお墓はどこにあるの。お墓参りしなきゃ」
「墓か、墓なんてたいそうなものはないが。キナ爺の遺体は焼かれて街の西側にある牧草地の向こうに埋められたはずだ」
「お墓はないの?」
「ああ、目立つ墓石とかはおかれてねえよ。なんてったってハナビなら知ってるだろうがあの爺さんは奴隷だからな。だから街の住人みたいに墓地に丁寧に埋葬されたりはしてねえ」
「そっか。あとはキナ爺はどこでオーガに会ったの?」
「あ?オーガを狩りに行くつもりか?やめとけ敵を討ちてえ気持ちも分かるがお前が安心して狩れるような相手じゃねえ」
「違う。危ないからそこは避けて森に入るってだけ」
「ほんとかよ。まあ、場所は教えてやるよ。ほんとだったら森に行くのさえ止めてやりてえが自己責任だからな。それに敵を討つっつったって明日討伐隊を組んで討伐しに行くからな」
「そっか」




