8話
後ろから声をかけてきたのはカイラスだった。
「おう、熱心じゃねえか」
「うん、死にたくないから。カイラスは受付の仕事はどうしたの?サボり?」
「サボりじゃねえよ。休憩だよ、休憩。この時間は受付暇だからな」
「へえ、そっか」
カイラスとの会話を切って素振りを続ける。
「おいおい、わざわざ来てやったのに無視かよ・・・・・・」
「? 休憩に来たんじゃないの。休んでなよ」
「いやそうだけどよお、そうじゃねえんだよ。最近一人で素振りしてるから見に来てやったの」
「ふーん、じゃあ見てていいよ」
「違う違う、剣を教えてやるって話だよ。俺も腕がこうなる前は傭兵やってたんだぜ。だから多少は教えてやれるから」
「そっか・・・・・・じゃあ、それなら私に剣を教えて。わからなかったから、自分でそれっぽくやるしかなかったの」
「おうよ。まあまずは基礎的な型を教えてやるよ。俺は対人のほうが得意だから対人がメインの型になるがな」
「ん、ありがと」
「お前は右利きだろう。なら左足を前にして、剣を右肩上に構えろ。そこから相手の上体を切りつけるように振りぬく。相手の体に剣を押し付けるように切れば大きなダメージを望めるだろうが、外せばこっちがすきをさらすことになる。だから重心を残した切り付けとうまく組み合わせるんだ、いいな」
「うん」
__________
カイラスから様々な型を教えてもらいその素振りを繰り返す。
「対人はこれらの型を基礎としてカウンターとかを応用していけばいいが、魔物や獣は種類によって体の大きさや体の作りさえ大きく違ってくる。だから型だけを信用しすぎるなよ。まあこれから経験を積んでいけば自ずとわかることだ」
「カイラス今日はありがとう。あと、今の宿に不満があって、別のいいところ知ってればおしえてほしい」
「宿かぁ・・・・・・今どこにるのかわからねえがそれなら、ギルド直営の宿で一番いいところに入りゃいいだろ。そこなら女一人でも安心だろう。何よりこの街は大森林が近いおかげで領主がギルドの援助に積極的なんだよ。だから金もそんなかからねえぜ」
「そうなんだ、ありがとう。早速今日からその宿に移ることにする」
カイラスとの訓練を終え、教えてもらった宿に向かう。
その宿には風呂もあるらしいから楽しみだ。街にはほかにもパン屋の隣とかにあるがそこは病気が怖いので使わないでいた。一度見に行った時にはあまりの不潔さに震えてしまったほどで、これまでは濡れタオルで体をふく程度で我慢してきたのだ。
その一方件の宿は、街の神官を雇って神の奇跡とやらで清潔を保っているらしい。
宿に入ってとりあえず三日分とる。部屋のベッドも前の宿に比べて清潔で、部屋も綺麗だ。これで一泊4000ギルで済むのだから安いものだ。
訓練で流れた汗を流すために風呂へ向かう。
綺麗な風呂を見て、神の奇跡とやらを感じる。
神官の使う魔術のようなものは、実際の魔術とは少し毛色が違うらしく。詠唱などのない魔術に対して、それには祝詞のようなものを発して使うらしい。
この世界では初めての風呂にたまっていた疲れが吹き飛ぶ。
「ふぁああ、きもちー」
この世界で五日も風呂に入らず過ごしてきたのだ。大好きな黒髪もギシギシになってしまっていた。
スキンケア用品とかヘアケア用品とかないのかな。あったらほしいな。初めよりかは効率よく薬草採取できるようになって稼ぎも増えてきている。今日も群生地には寄れなかったが、道中で採取したものでも結構な稼ぎになったのだ。
でもお金貯めて、武器も防具も充実させたいしなあ。今は中古の剣だし、一応研ぎはしたけど素人がやったところで大差ないだろう。
魔物を狩れればもっと稼ぎも増やせるんだろうけど、今はまだまだ体力もなければ力もない。そんな現状で戦おうなんて思えない。怖いし
今はまだ、キナ爺に甘えさせてもらおう。キナ爺から教えてもらいたいこともたくさんあるし。
なんだかんだまだキナ爺とあって短いのに、すごいキナ爺になついちゃってる気がする。
今は迷惑かけて甘えてるだけになっちゃってるけど、いつかはこの恩返しをしたいな。その前に愛想つかされなければいいけど・・・・・・
ゆっくりお風呂を楽しんで、宿で夕食を食べる。
パンもスープも前の宿よりおいしいし、何より追加でお肉もついてる!満足な内容に喜び楽しんだ後は部屋に戻る。
魔力操作の訓練で魔力を消費しきってすぐに寝る。この世界に来てからとても健康的な生活リズムになってるな。早寝早起きは大切だし、これもキナ爺のおかげだ。
ー簡単な世界観説明ー
魔力の存在と魔物の脅威によって、現実の歴史と比べると科学技術の発達の仕方がいびつで偏っています。
製紙についてはいまだ高価で一般にはあまり普及していません。上流階級ですら口頭での契約なども多いです。
遠距離での大規模な攻撃などはもっぱら魔術の領分で、火薬の発達はかなり遅れています。
魔力が実際に存在する世界なので、科学技術などと錬金術ははっきりと区別されています。
トイレに関しては公衆トイレが街の中にあります。下水道もあり公衆浴場や公衆の洗濯場などからの排水とともに川に流されます。ただ街の端などにある農奴や貧民が住むスラムではそれが整っておらず劣悪な環境で過ごしています。
ちなみにキナ爺の家はスラムの入り口あたりにあります。




