第67話 帳簿改ざんより簡単な方法
偽ネウマ譜の一件に教会が関与しているかもしれない。
あくまで可能性だ。
でも、なんとなくそれ以上のものを感じてしまう。
これまで僕が教会で遭遇した出来事を思うと——。
「商団側が教会にネウマ譜を届けた以降になにかしているのだとしたら……」
「帳簿を調べたら発見があるかもしれない」
ヴィヴィの言葉を聞き、ダンテが案を出した。
商団側が発行した納品書と教会側の帳簿を照合すれば、ネウマ譜の動きがわかる。
でも……。
僕は首を傾げた。
『たぶん、帳簿に不都合な点は見つからないんじゃないかな』
根拠はないけど僕はそう思う。
「教会の帳簿に細工してないって? どうして?」
ヴィヴィが詰め寄ってくる。
『偽物の存在がバレたら、教会も疑われるだろうから』
「疑いの目を教会に向けさせる行為はしないだろうって?」
『うん。数をごまかすなんて単純すぎる』
「数のごまかしはすぐにバレるか……そりゃあ、そうだけど」
どうにもヴィヴィは納得しない。
帳簿を改ざんしたと思いこんでいる。
「二重帳簿があるのかもしれない」
ダンテが商人らしい指摘をした。
『否定はできないけど、カリファにそんな知恵はないと思う』
「あたしもレオの意見に賛成。あいつは修道士だし、なにより頭良くないからさ」
ヴィヴィが馬鹿にしたように笑った。
「……たしかに。カリファは単純だからな」
ダンテが妙に納得している。
「数をごまかしたんじゃないとしたら……」
ヴィヴィが斜め上を向いた。
数じゃないなら、他にどんな可能性があるんだろう。
数……。
偽ネウマ譜が商売人の手に渡ったのは事実。
でも、数は合っているとするならば……。
あっ!
答えは簡単。
僕はヴィヴィとダンテを交互に視線を送った。
『数をごまかすより簡単な方法がある』
ヴィヴィに伝えた。
「どんな方法があるんだ?」
ヴィヴィの言葉を聞き、ダンテが僕に目を向けた。
『数を操作する必要なんてない。偽物と本物をすり替えたんだよ』
「ネウマ譜をすり替えたって?」
僕は何度もうなずいてみせた。
「……単純すぎて気づかなかった」
「ああ。でも、カリファなりに知恵を絞ったんだろうなぁ」
ダンテはヴィヴィと顔を見合わせ、同時にため息をついた。
犯人は偽物を紛れこませたのではなく、本物とすり替えた——。
偽ネウマ譜事件の調査は一歩前進。
でも、いまのところ証拠はない。
「教会を調べる必要がありそうだな」
「そうだよね。でも、カリファが許してくれるかなぁ」
「拒否するだろうな」
ダンテがお手上げのポーズをとった。
カリファは犯人であろうとなかろうと、僕たちに協力してくれないだろう。
自分の領域を侵されるのを嫌うカリファ。
正当な理由がない限り、なにがなんでも抵抗するだろう。
それを動かすにはどうすればいい?
そうだ。
『商売人側と帳簿が合わないから、教会の帳簿を調べたいっていう口実を使おう』
提案をヴィヴィに伝えた。
「口実? 無理だよ。なにをどう言ってもカリファが許さないよ」
ヴィヴィは僕の意図を察してくれたけど、否定的でダンテに伝えてくれない。
『違うよ。ダレッツォ修道士長に頼むんだ』
「あっ! なるほど」
ヴィヴィが納得した。
すぐさまダンテに説明をはじめる。
「カリファは修道士長さまには頭が上がらないからな……いい手を考えたな、レオ」
「さすが、レオ」
ヴィヴィが笑顔で僕を褒めてくれた。
「よし、行こう」
ダンテの掛け声で僕たちは教会に向かった。
教会に到着し、すぐさまダレッツォに面会。
「今日は納品日でも出荷日でもないはずですが」
突然の僕たちの来訪にダレッツォが驚いている。
でも、迷惑そうではない。
「申し訳ありません。商売人たちとちょっと行き違いがあって」
言いづらそうにダンテが言い淀んだ。
どう説明しようか悩んでる。
「数が合わないんです。商団側が売ったネウマ譜と、商売人が受け取った数が」
ヴィヴィが横から口を挟んだ。
「それは本当ですか?」
「……はい」
嘘をついたという罪悪感からか、ダンテが少し視線を逸らした。
決して嘘じゃない。
偽ネウマ譜は売った数から除外してしかるべき。
そう考えると、数が違ってくる。
『数が合わないんです。そのせいで、僕は採譜師として商売人に責められました』
ヴィヴィに通訳を頼み、ダレッツォに伝えてもらった。
「それは大変ですね。急いで調査しなくては」
「そうなんです。どうか協力してください」
ダンテが必死に訴える。
「ええ、それは……」
「お断りします!」
突然、カリファがやってきた。
ダレッツォの前に進みでて、僕を睨みつける。
「どうしてですか?」
ダンテが理由を求めた。
「我々教会側には落ち度はありません。なので、協力はお断りします」
予想通りカリファが協力を拒む。
「まぁまぁ、カリファ修道士副長。協力してあげてはどうでしょうか」
にこやかにダレッツォがカリファに諭している。
でも、カリファの態度は変わらない。
拒否し続ける。
「カリファ修道士副長さま。やましいことがないのなら、協力できるんじゃないですか」
ヴィヴィが挑発的な言葉を口にした。
「な、な、なにを……パン焼き屋の分際で」
顔を真っ赤にしてカリファが言い返す。
「申し訳ありません。言い過ぎかもしれませんが……」
必死にフォローしようとするダンテ。
でも、それすらも拒むカリファは僕たちに背を向けた。
「教会側に責任を押しつけようって魂胆だな」
ぼそりと小声でカリファがつぶやく。
『この件が解決しないと、商団はネウマ譜販売を継続できないと思います』
僕はヴィヴィの腕を引っ張った。
ヴィヴィはうなずき、この場にいる全員に僕の意思を伝えた。
『そうなったら、教会の収入が減ります。それで困るのは孤児たち』
続けてヴィヴィに思いを伝えた。
脅すようなことは言いたくない。
でも、やる。
悪役になってでも——。
ダレッツォを動かし、カリファを説得できなければ教会を調べられないから。
「おまえは我々を脅しているのか!」
カリファは振り向き、烈火の如く怒った。
僕を睨み、一向に視線を外さない。
睨み殺さんばかりの勢いだ。
僕は無言のまま、カリファを見つめ続けた。
目を逸らしらた負けだ。
「教会への恩を仇で返すとは……信じられん!」
カリファの怒りはおさまらない。
より一層僕を睨んでくる。
でも、僕は怯まない。
睨まれ、脅されるのは慣れている。
だから、一歩も引かない。
なにがなんでも教会を調べる。
そのために、最後の一手を打つ。
毎日更新。
*カクヨム(https://kakuyomu.jp/works/16817330647661360200)で先行掲載しています(毎日更新)。




