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第66話 可能性の先に

「よし、作戦を練ろう」

 ダンテが咳払いをし、僕とヴィヴィを交互に見た。

 ヴィヴィは楽しそうに拍手を送っている。

「まず、俺らの商団が販売するネウマ譜を書いているのは……」

 ダンテが僕をじっと見つめる。

「商団側からは採譜師であるレオ、ひとりだ」

『うん』

「レオ、すっごい」

 ヴィヴィが尊敬の眼差しを向けてくる。

 なんだか照れくさい。


「教会側はダレッツォ修道士長とカリファ修道士副長、それから……」

 ダンテが意味ありげに僕を見つめた。

『修道士長さまは採譜師だけど、商団に卸すネウマ譜は書いてないよ』

 ダレッツォについてヴィヴィに伝えた。

 それをヴィヴィがダンテにうまく要約。

「なるほど。じゃあ、カリファ修道士副長だけか?」

『他にも採譜師はいるけど、商団のためのネウマ譜を書いているのはカリファだけ』

 今度もヴィヴィがダンテに伝えてくれた。

「……じゃあ、教会の他の採譜師はなにをやってるんだ?」

『修行と称して意味不明なことをさせているよ』

「ネウマ譜を教えずに、関係のないことをやらせてるってさ」

 ヴィヴィが憎々しげな表情をしながら通訳した。

「仕事を誰にも渡さないためだな。相変わらず器が小さい」

 ダンテがため息をつく。


「……ってことは、犯人はカリファってことにならない?」

 ヴィヴィがぽんっと手を打った。

「うーん、それはどうだろうなぁ」

 ダンテがうなった。

 僕もダンテの意見に賛成だ。

 カリファの性格なら、なにかやらかしても不思議じゃない。

 でも、カリファの仕業と決めつけるのは早計だ。

 いくら嫌な奴でも、無実の罪を着せたりできない。


「どうして? レオじゃないなら、カリファしかいないんじゃない?」

 ヴィヴィが不服そうにしている。

心証しんしょうだけじゃ……証拠がない」

「それはそうだけど」

 悔しそうにヴィヴィが言った。

『筆跡を真似るなんて、ある程度練習すれば誰だってできるよ』

「真似るのは簡単だって? そうかなぁ、ネウマ譜を書くのは絵を描くのとは違うし」

 ヴィヴィは納得していない様子だ。

「気持ちはわかる。カリファならやりかねないからな。でも、いまは我慢」

「……わかったよ」

「よし。じゃあ、話を進める」

 ダンテが元気よく言った。


「いまは誰が偽物を書いたかよりも、どうやって紛れこませたかを考えよう」

 これから僕たちが考えるべきポイントをダンテが簡潔に提示した。


「商団側が確認のために教会に納品したとき。

 教会で保管されている間。

 卸先が決まって教会から商人に受け渡すまでの短い時間。

 商人たちに渡ってから商売人や客先に納品するまでの道中」


 ヴィヴィが思いつく可能性をあげた。

 それをダンテが黙って聞いている。

「俺も同意見だ」

『僕も』

「このなかで、商団側から教会に納品したときというのは除外!」

 ヴィヴィが胸を張った。

「ああ、その通り。レオも俺らも偽物を納めたりしない」

 ダンテも誇らしげに答える。


「あと、商売人たちの手に渡ってからっていうのは違うような気がするな」

 ヴィヴィの意見にダンテが大きくうなずく。

「そうだな。あれだけ大騒ぎしたくらいだから……多分、違うな」

『うん。信用を大事にする商売人たちはそんなことしないと思う』

 意見が一致し、商売人たちが犯人である可能性を消した。


「残るはふたつ」

 ダンテは言いながら腕を組んだ。

「保管されている間か、教会から商人たちに受け渡すときか」

 ヴィヴィは残る可能性を確認するように口にした。


「ダンテ。ネウマ譜を教会から受けとって商団の商人に渡すって聞いたけど、

 それって、商売人側が運ぶってことはないの?」

 ヴィヴィの問いにダンテは首を横に振った。

「これまで一度もない。毎回、俺ら商団側が運んで商売人たちに渡している」

「なるほどね。嫌なことを聞くけど、商団の荷運び人は信用できる?」

 ヴィヴィは真顔でダンテを見た。

「ああ、大丈夫だ。ジェロが選んだ古参こさんの仲間だから信用していい」 

 ダンテの答えにヴィヴィは満足げにうなずく。

「となると、一番可能性が高いのはネウマ譜が保管されている間だね」

「ああ。俺もそこがあやしいと思ってる」

 ダンテとヴィヴィはきっと同じことを考えている。

 教会の誰かが犯人だって。


 僕は息を飲んだ。

 教会で暮らす修道士たち、孤児たちの全員が善良だとは思わない。

 嫌味な奴、意地悪な奴はいくらでもいる。

 でも、犯罪行為を行う不届者ふとどきものがいるとは思いたくない。


 とはいえ——。

 僕は教会でいろいろな事件に遭遇した。

 チーロが行方不明になった件。

 カリファと修道士たちが僕を拉致したこと。

 どちらも犯罪行為。

 もしすると、これ以外にもあるのかもしれない。

 僕が知らないだけで……。

 不安がよぎった。

毎日更新。

*カクヨム(https://kakuyomu.jp/works/16817330647661360200)で先行掲載しています(毎日更新)。


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