2ー52 同期
△▽△▽
アルとセリアは、白い部屋にいた。
先ほどまで、あの場所にいた記憶だけは明確にある。
「セリア、どんな状況かな」
「観測できませんね。この場所は前にも来たことが有るようですが人為的にデータが破損している感じが見受けられます。外部から人為的に加入するのは不可能と思っていましたが、破損データと今の場所の測定可能な数値が同一である確率が非常に高いです。」
「前にも来たことが、、、。そう言えばトカゲの世界にくるきっかけを思いだそうとすると頭痛がした気がします。」
「それについては、同じように意識の同調にて観測してましたが記憶への特殊な暗号化を確認しました。限りなく、こちらのデータ破損と記憶の暗号化の時期が一致しております。またこの部屋で観測できるデータと破損した時期も一致していることから、この部屋が何らかのきっかけであったことを推察できます。」
何もない白い部屋。
移動や範囲の概念が明確でないのか、とても狭いようにも、永遠の奥行きがあるようにも不思議な感覚である。
「これ、特異点だから結局。消滅しきれずに変な場所に飛ばされた?」
「当たらずしも、むしろ隔離や拘束に近いかしら。私も一緒って所は、優しい計らいなんじゃないの?。アル、折角だからこの部屋でしちゃう?。久しぶりでしょ」
「うん、この緊張感の無さ。確かに、精神的な老いや閉塞感がなくなってる。まるで生まれ変わったような軽さ。若い頃を思い出す。」
「アル、気づいてないかしら。実際に肉体はないけど若返ってるみたい。精神体と肉体は一種の相互関係にあるから。私が観測する限り20代まで若返っているわ」
「どうりで、久しぶりにセリアの体をみて昔を思い出した。チャンスは物にせねば。」
「どうぞ、召し上がれ」
△▽△
剣の打ち合う音が聴こえる。
帝都にあるこの騎士学校は、貴族、平民を問わず、移民にまですそのを広げ優秀な若者を集めていた。
世界に変革を与えたトランスゲートと呼ばれる転移装置。世界で最も有名な企業がその設備を管理していた。その装置により流通、人の流れが国と国の明確な境を無くし多くの種族が行き交っていた。
大陸では比較的、珍しかったエルフやコボルトの姿も見受けられる。
大通りには、今日も賑わう。
そして、帝国騎士の入学試験がまさに行われていた。
「始め」
順番に2対2で戦闘試験が始まっていた。
組になる相方は、その日の受験者中からランダムに2人選らばれ同じように選ばれた対戦相手と実戦形式で対戦する。
協調性や個人の戦闘力など複数の試験官が点数表に記録していた。
複数の会場で同時に採点される。
実技試験の後は学科試験と続く。学科試験の範囲は帝国に関するものだけでなく、王国や諸国に関する様々な問題が均等に出され帝国出身者だから有利というわけではない。
そんな中にニアの息子であるジルの姿があった。
母親の苦労している姿を物心ついたときから見ているジルは、この試験にかける想いは人並み以上のものがあった。
稼げるようになれば母を楽にさせられる。ニアは、いつもニコニコしながら手作りの料理を出してくれた。いつも食べるのはジルでニアは、その様子を見ているだけだった。母は、いつも残り物か切れ端を少し食べるだけだった。獣人の母は、いつも優しくそして美しかった。
ジルは、そんな母親の姿を見て育った。一度だけ、本当に一度だけ。父について訊ねた時があった。だが母は、困った様子で笑っていた。幼心に聞いてはいけないことだと悟ってからは自分には父などいないと思うようにした。
「受験番号 1ー234番 ジル 前に!」
「受験番号 2ー221番 アスカ 前に!」
「これより、1次試験を開始する。作戦及び戦略時間を10分もうける。パートナーと相談し15分後に試験を開始する。では、初め!」
ジルは、始めて見る相手だった。だが何故か親近感が沸く。アスカと呼ばれた少女は、とても裕福な家の育ちなのだろう身に付ける武具が状況を逸していた。魔道防具と呼ばれる超が付くほどの鎧を着ており。剣は竜のウロコから作り出した特級品だ。それに比べ、ジルは貧相な皮と自分で狩った硬質カメの甲羅を盾にしていた。そして武器は、母が渡してくれた銀色の狼が刻まれた短剣だった。
アスカは、ジルを見つめていた。
「あなた、何処かで会った事はないかしら?」
唐突に彼女は言う。自分も同じ事を思っていた。
「わからない。でも初めてではない気がします。改めてジルと言います。今日は宜しくお願いします。」
アスカは、笑みを浮かべる。とても綺麗な髪だった。
「どうします? 個々に撃破だと協調性を問われる以上、愚策ですし。何ができますか?私は中級マナ操作とこの魔道防具を使った火属性の放射が使えます。」
ジルは、安堵する。全部、持ってかれる位の実力者だと自分の見せ場もなくおわるのではないかと思っていたからだ。
「母が獣人なので獣族の武術と剣スキルが得意です。マナ操作は、出来ません。」
マナ操作が出来ないと言うのは、試験の合否で相当なマイナスになる。そもそもこの試験自体、マナ操作の適正を見ているといっても過言ではないからだ。
「それは、全くマナが使えないと捉えてもいいのかしら?」
アスカは、ジルに再確認する。
「はい・・・・・。でも、マナ無しでも戦えます。」
アスカは、メインで動かなくては勝てないと感じた。マナ操作が出来ない時点で子供と大人以上の戦力差がある。事実上、この試験でマナ操作が出来ない者がいる時点で1対2で戦えと言っているに等しかった。
そして、試験会場へは、トランスゲートで移動する。
転送先は森林あった。対戦相手の様子は伺えない。隣には、ジルがいる。
「200m先に相手がいます。」
‼️
「え、何で判るの?」
「マナの挙動が不自然なので。相手は土と水属性が得意のようです。すでに準備を始めているようです。」
「ジル、マナ操作出来ないって言ってなかった?」
「操作は出来ませんが、感じとることはできます。」
アスカは、ジルの実力を再評価し直す。これが事実なら相当な戦力になる。
「相手の動きを逐一報告をお願い。今からマナ操作で遠距離から言われた方向にぶっ放つから誘導をお願い。」
「了解、相手はトラップを仕込んでいるみたいだから、その場から移動してない。こちらには、まだ気づいてないみたい。マッキングするから、その方向にお願い」
そう言って、アルは10m先と20m先にマッキングをした。
「2点が重なるように直線、傾斜2度。宜しく。」
言われた通りにアスカは、マナ操作で極大の炎属性による火炎球を放つ。
木々があるのにジルの印したラインは多少の枝や葉を巻き込むだけで、大木にはあたらず減衰しないまま目的の方向で進んでいく。
森林には、静寂しか聞こえない。
「うん、当たったみたい。マナの脈動が無くなった。」
ほどなくして、自動転送で元いた試験会場に戻される。試験官が対戦相手が戦闘不可と判断した時点で戻れる仕組みだった。
あまりに呆気ない。
「ねえ、週末は学科でしょ。うちに来ない?。学科の試験対策用の資料があるんだけど付け焼き刃でも一見の価値はあるわ。」
「え、いいの?。正直、うちお金なくて勉強は教会でしか教えてもらってないから。本当に助かる。アスカさん。ありがとう。」
アスカは、嬉しかった。同じ年頃の男の子で付き合いのある子は、いなかった。とくにうちは、敷居が高いから男の子も気軽に来ないからだ。
「ジル。さんはいらない。アスカでいいわ。歳はいくつなの?」
「今年で11才だよ。アスカは?」
「私のほうが、年下みたい。今年で10才ですわ。」
「それにしても、アスカは豪華な装備だね。どこかの貴族様かと思ったよ」
アスカは、内心ドキドキしていた。自分を知らないで付き合ってくれる人間を見たのがほぼ初めてだったからだ。
そして、ジルを連れて試験会場をあとにする。
「この先は、中央区だから僕は、はいれないや。」
「大丈夫、ちょっと待ってて。」
そう言うと、アスカは中央区の入口の門番兵と少し会話をすると呆気なく通ることができた。生まれて初めて中央区に入ったが綺麗に舗装された道と、家というより豪華な屋敷に広い庭園が道と門柱で区切られている。
本当にすむ世界が違う。アルは、場違いを感じながらキョロキョロと周りを見渡しアスカの後ろをついていった。
途中から何処までも門柱が続く。巨大な公園でも中にあるのだろう。そうこうしている内にこれまた立派な門がそびえ立つ。
「デカ!。これ入口だけでも家の部屋より大きいかも。一体、誰か住んでるのかな」
アスカは、焦りながら言う。
「ごめん。これ私の家」
・・・・・・・・・・・。
「まじですか」
「はい、本当です。でも引かないで、私とは関係ないの。私を見て。」
アスカは、泣きそうな顔をしていた。
幼心にジルも金持ちにも金持ちなりの苦労でもあるのだろう。
「うん、アスカはアスカだから」
アスカは、笑みを浮かべて巨大な門をくぐっていった。アルはついていく。木々が生い茂り。見たこともない植物や小動物がいた。途中、小川や池があり綺麗な魚も泳いでいた。
「あ、めずらしい。お母様がお帰りになってる。ジルを紹介するわ。ついてきて。」
言われるがまま手入れの行き届いた庭というか森林公園を抜けると、これまたとんでもない大きな屋敷が佇んでいた。
「まさか、あれ家?」
「はい、家です。」
何となく予想はしていたが信じられないほどの大きさである。
「ところで、この風景には似つかわしい。あのお洒落なボロ小屋はなんですか?」
大きな屋敷の前に広い池があり、その対岸にボロい小屋があった。
とても懐かしいような佇まいだった。
「あれね。私もよく、知らないのだけど。お母様がとても、とても大切にしているの。いつも疲れて帰ってくるとあそこで休憩なされるみたい。なんだか家よりも落ち着くらしいわ。先ほど、お母様の馬車があったの。多分、いまあそこにいらっしゃる筈だわ。」
アスカは、心なしか足早に小屋に扉をノックする。
「お母様、ただいま戻りました」
アスカは、扉を開けて中にはいる。少しするとアスカが手招きをする。
「ジル、入っていいわ。来て」
中は、ようやく自分でも落ち着く作りだった。ボロいけど、ボロく見えるだけで綺麗に掃除され埃もない。
「初めまして、アスカの母です。アスカが男の子を連れて来るなんて初めてで、お母さん緊張しちゃうわ」
アスカは、赤面していた。
「お母様。ジルは、試験の戦友なの。決してそう言った関係ではないわ。」
「そうなの、残念だわ。てっきり婚約のお願いかと思ったわ。だってアスカが女の顔をするのだもの」
「お母様!」
「はいはい。ご免なさい。ちょっとからかっただけよ。トロア、客人にお茶を出してあげて」
そう言うと、奥から品のある女性がメイド姿で出てきた。
すでに準備していたかのように手際よく、カップにお茶を注ぐ。とても甘い香りがする。そして小皿に焼き菓子が一つだされた。
呆気にとられ自己紹介がまだだった。
「ジルと言います。」
「アスカが気にるわけだわ。私も、もう少し若ければ惹かれちゃうかも。」
「お母様!」
「え、これは本心よ。
ジルさん。アスカと仲良くしてあげてね。この子、ちょっと世間知らずで抜けてるところもあるから。常識や少し位の苦労も教えてあげられる友達が出来たのは嬉しいわ。」
「いえ、私は貧しいですが苦労していたのはもっぱら母のほうです。私は十分、幸せです。」
「ジルさんのお母様も息子さんにそこまで言ってもらえて、嬉しいはずだわ。そうだ、これを帰りにお土産にもっていきなさい。」
今、食べている焼き菓子だった。生まれて初めて食べる味のお菓子である。
「これは、チアの実をシロップ漬けにして生地に練り込んで焼いた菓子なのよ。貴方が目指している。帝国騎士の隊長もこのお菓子が大好きかしら。」
あの方がこんな甘いお菓子を頬張る姿を想像することも出来ない。何しろ帝国騎士隊長といえば、帝国でも知らない者はいない。皇帝と同じぐらい圧倒的な知名度がある。女性とは思えない威厳と洗練された雰囲気をはなつ。一度だけ母に手をひかれて大通りのパレードで見たった。
「ありがとうございます。母も喜びます。」
お茶をすませると、アスカの母がいう。
「あなた達、何か別のようがあっていらっしゃたんでは?」
「そうだったは、お母様。すこし書庫をお借りいたします。」
「そう、少しくつろげるように『畑部屋』も使っていいわよ」
アスカの目が輝く。
「本当に!。今日は良いことだらけだわ。お母様大好き。」




