第一話 解脱、ならず
……ここは?
袈裟の裾を抑え立ち上がる。
ははあ、死後の世界、という訳ですか。
私は死の直前に思いを馳せる。
確か、トラックの前に子どもが……。
「……。」
まあ、いい。
この老体、いつ手放しても悔いはなかった。
未来ある小さな命に道を譲っただけなのだ。
「……?」
やけに、待たされるものなのだな。
遠くから青く清い光が近づいてくる。
近づいてくる。
近づいて……。
「ハーイ!サムライボーイ!
この度はゴシューショーサマでしたぁ♡」
青く光る彼女は、妙に露出の多い装い。
「僧侶なのですが……。」
来迎……とは違うような。
視線が、揺れる胸元に落ちる。……いけませんね。
阿弥陀如来ではなさそうだし、なんなのだろうか。
「ヘイ、ニンジャボーイ?聞いてマス?」
「失敬。何でしたかな。」
「ヘイヘイ!キミのこれからの話デース!
キミ、とてつもなくいいことタクサンしてたから
楽しい楽しい異世界に転生すること手に入れマシタ!
オメデトゴザイマース!」
「普通に話して頂けませんか……?」
妙にアメリカナイズされた方である。
「ゴホン!つまり、この女神アミターナの統べる世界へごあんなーい♡と、いうことです!」
「アミターバ……?」
「アミターナ、です♡」
アミターナはどこからともなくゴロゴロとホワイトボードを引き出してきた。
「ここ注目♡」等と落書きが施されている。
「ハーイ、キミがこれから転生する世界は、剣と魔法の世界〜!
キミはチートを付与されて、お顔もキュートでハンサム!
お家柄も、ななんと!!王族、しかも第二王子!!
きゃーアミターナ様、大盤振る舞い〜!」
「……なるほど。
私は解脱に至らなかったというわけか。」
肩を落とす私にアミターナはギョッとする。
「えええ!?なんで!?これ嬉しいコトヨ!?チート!分かる!?チ・イ・ト!」
私は袈裟の袖で顔を抑える。
「……つまりは輪廻から外れることが出来ず、更に俗世の欲に晒されるということですよね。」
「ななななんで!?イイジャンイイジャン!!楽しく過ごしなさいヨ!!」
アミターナはアワアワとてんてこ舞いだ。
「イケメンよ!?魔力無尽蔵よ!?お金持ちよ!?モテモテよ!?」
「……そうですか。」
「……まあ、それが仏の御心ならば、従うまでです。」
裾をサッと払い立ち上がる。
「さあ、アミターナ様。どうぞ御心のままに。」
「まあ納得してくれたならいいや……。
ヘイ、魔法の呪文、『ステータスオープン!』
唱えてみて!」
「すてーたす、おーぷん……?」
目の前に謎の画面が広がる。
「なんだこれは……!
名前、スキル、体力、知力、魔力……?私の、情報……?
これ、この世界だとみんな見れるのですか?」
「チッチッチッ!
ノーノー、これあなたダケ!これぞチート!」
すっと画面に指で触れる。
本のページがめくれるように画面が切り替わる。
「……この『釈迦パワー』と言うのは……?」
アミターナはピシッと手を胸の前で合わせる。
「コレね!キミが喜ぶと思って付けといたヨ!
『ハーッ!!』って唱えたら敵が消し炭になるヨ!!
いわゆるスキルってやつネ!」
「なんて恐ろしい……。」
アミターナに促され、手を合わせる。
「……『ハー』。」
凄まじい閃光が、合わせた手の間から噴き出し、
真っ白い世界に、激しい断裂を生む。
「……なんて、恐ろしい……。」
アミターナはキャッキャと喜んでいる。
「ハイ!説明以上!質問は?受け付けまセーン!
ほら、行った行った!キミのこと、上から見守ってるからネ!」
アミターナがグイグイと背中を押す。
「じゃあ、『第二の人生』スタート!頑張って〜!バーイ♡」
アミターナの投げキッスを一身に受けながら、私は手を合わせ頭を下げる。
「……では、精進致します。」
そのまま、私の体は、強い光に包まれた。
──異世界転生、スタート。
「……ん?」
アミターナは、見送った後ステータスを見直していた。
「……あれ?徳ポイント……?」
見覚えのない項目に冷や汗がダラダラのアミターナ。
上に表示されているヘルプボタンを押して見ると、
「徳ポイント:前世の善行によって生まれるポイント。いつでもどのステータスに振り分け可能。(隠しステータス)」
「……こんなの2000年前に作ったような……。」
アミターナは徳ポイントの桁を数え切れずにそっとステータスを閉じた。
「……ぴゅー、しーらないっと!」
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