59.『名探偵のままでいて』
『名探偵のままでいて』
小西マサテル(著)
出版:宝島社
名探偵のままでいては、“認知症”と“ミステリー”を組み合わせた、とても珍しくて切ない作品でした。
こんな人に合うかも。
・派手なトリックより、“人の感情”を重視したミステリーが好きな人
・家族の関係性や介護、老いをテーマにした物語に惹かれる人
・認知症について、小説を通して知ってみたい人
・切ない話や、読後にじんわり余韻が残る作品が好きな人
・日常の中で起こる小さな謎を解いていくタイプのミステリーが好きな人
・「知性とは何か」「その人らしさとは何か」を考えさせられる作品を読みたい人
逆に、本格ミステリーのような大どんでん返しや、テンポの速いサスペンスを期待すると少し違うかもしれません。
この作品は、“事件を解く爽快感”よりも、“人が失っていくものと、それでも残るもの”を丁寧に描いた物語だと感じました。
感想:
主人公の楓は、救急隊からの電話をきっかけに、知性にあふれていた祖父がレビー小体型認知症を患っていることを知ります。
その瞬間の楓の気持ちを想像すると、本当に胸が締め付けられるようでした。
大好きだった祖父が少しずつ変わっていく現実を、突然突きつけられる恐怖と悲しさ。読んでいるこちらまで、心臓を握られるような感覚になります。
この作品では、レビー小体型認知症についてかなり丁寧に描かれています。
特に印象的だったのが、“幻視”の描写。
本人にははっきり見えているのに、周囲には見えない。もし自分がそんなものを見続けたら、きっと怖いだろうなと思いました。
ただ、この小説が苦しいのは、幻視が見えるからといって、その人の知性や人格まで消えてしまったわけではないという点です。
祖父は今まで通り鋭い推理力を持っていて、会話もできる。だからこそ、病気とのギャップが余計に切ない。
祖父が真剣に話していた相手が、実は幻だったと分かった場面は特に胸に刺さりました。
本人にとっては“存在している”のに、周囲から見れば誰もいない。
その孤独や不安を想像すると、本当に苦しくなります。
そしてこの作品は、単なる介護小説ではなく、“日常の中のミステリー”としても面白い。
祖父はまるで名探偵のように事件を解き明かしていくのですが、その推理の場面がまるで幻視のように描かれるんです。
もしかすると、この作品は“推理そのものを幻視として見せている”のかもしれません。
名探偵が事件を解く姿は、現実なのか、想像なのか。
その曖昧さが、この小説独特の美しさと切なさにつながっていたように感じました。
ミステリーとしても楽しめる一方で、認知症という病気への理解や、人の尊厳についても考えさせられる作品。
優しくて、苦しくて、それでも温かい物語でした。




